2024.10.10
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ティール組織では、リスクとリターンの等分がカギとなる(コルク・佐渡島庸平さんインタビュー)(全1記事)
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―― 佐渡島さんは「ティール組織」について、どのような感想をお持ちでしょうか?
佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):僕はコルクという会社をどのように大きくしていくべきか考える中で、新しい組織論である「ティール組織」や「ホラクラシー型組織」を綿密に調べてきました。そこでいくつかの強い疑問を抱いたのです。
1つは、どんなビジネスモデルであっても、ティール的な形で果たして意思決定できるのか。もう1つは、漫画や小説のようなクリエイティブなコンテンツをつくる時、全員が同じように意見が言えるのは正しいことなのかどうか。
例えば、多くの出版社だと、営業部ではなく編集長が最終的な意思決定をする仕組みになっています。そのことによってコンテンツのクリエイティビティが担保されるのです。営業部や編集長以外の社員が、このコンテンツを出したいと言っても、編集長が同意しなければその作品が世に出ることはありません。それくらい絶対的な権限があるのです。
昔は本を出せばかなりの確率で収益を回収できるビジネスモデルだったため、自由度はありました。ただ、今は限りなく回収確率が低く、売れない本が増えています。その中で、編集経験の浅い社員にコンテンツを出すべきかどうかの権限を渡して本当に大丈夫なのかと思います。
ティール組織の本には、つくった商品に対してみんなでフィードバックする事例が出てきます。目に見える商品であれば改善しやすいわけです。ECサイトなどもそれに当てはまるでしょう。
一方、コンテンツに関して、これは本当にクリエイティブなのか、おもしろいのかどうかというのは、ものすごく主観が入ります。
本ではティール組織ならばクリエイティブになり得ると言っていますが、コンテンツづくりには当てはまらないと個人的には思います。僕は常におもしろい漫画を描ける人間を探しています。手塚治虫のような50年に1人しか現れないような才能を求めていて、世の中を変えるコンテンツを作りたいのです。みんなに権限を与えて、フィードバックをもらってできあがったものが、そのような強烈な作品になるのでしょうか。
つまり、ティール組織は、ビジネスモデルができあがっている中でのクリエイティブな改善には向いているけれども、イノベーティブなクリエイティブには向いてないのでは、と思うのです。
―― なるほど、コルクのようにクリエイティビティが求められるビジネスにおいては、ティール組織は難しいと?
佐渡島:例えば、コルクはコンテンツから派生したグッズを展開しています。今僕が着ている服も、漫画『宇宙兄弟』のパーカーです。この服をより良くする方法はティール組織でできるでしょう。けれども、世間がびっくりするような商品はティール組織で生み出せるのか、疑問です。
すでにお伝えしたように、僕はティールやホラクラシーに強い関心をもっています。『ティール組織』や『HOLACRACY(ホラクラシー)』、日本人著者の本など関連書籍を徹底的に読み込むことで多くを学びました。うちの社員に(ホラクラシーの代表格である)米Zapposの現地プログラムを体験しに行ってもらったこともあります。それでも、コルクをそうした組織にすべきかどうかは悩ましいんです。
―― 実際、コルクではどのような組織づくりに取り組んでいるのでしょうか?
佐渡島:組織づくりに関しては、ヒューマンロジック研究所の「FFS理論」という自己診断テストを、社員や「コルクラボ」のコミュニティメンバーに受けてもらっています。
これは人間が恣意的、無意識的に考え、行動するパターンを5因子として、それを分析することで、その人が保有する潜在的な強みが客観的に分かるというものです。具体的には、「A:凝縮性」「B:受容性」「C:弁別性」「D:拡散性」「E:保全性」の5つです。
僕について調べた結果、「A:凝縮性」という意思決定の因子が強いことが明らかになりました。この因子が強いと、情報が不十分で成功するという確信がはっきり持てなくても、意思決定して前に進むことができるとされています。
「B:受容性」は、周りのみんなのためになりたい、みんながどう考えるかを優先させたい因子です。「C:弁別性」は、すぐには意思決定をせず、情報を集めて白黒はっきり判断したい因子です。「D:拡散性」が強い人は自分にとって新しいと思うかどうか、「E:保全性」が強い人は自分にとって安全かどうかが意思決定の基準になりやすくなります。
佐渡島:欧米人は基本的に凝縮性が高い一方で、日本人は凝縮性を持っている人がほとんどおらず、受容性と保全性ばかりと言われています。ティール組織を実践するとなると、8人くらいの小集団に分けてプロジェクトを進めていくと思いますが、米国だと8人いればほぼ確実に凝縮性の人間がいることになるでしょう。だから意思決定して前進できるのです。
ところが日本だと、受容性や保全性の因子が強い人だけしかいないチームもあり得るので、「あなたはどう思う?」というような他者の意見をまとめようとする作業を延々と繰り返すことになるかもしれません。当然、前には進めませんが、居心地は良いのです。
凝縮性と弁別性の高い人は、意思決定や判断をどんどん下すので、日本では冷たい人だと思われて、チームから排除される可能性もあります。こうした点から、ティール組織は米国流のものだとヒューマンロジック研究所の社長も話しています。
―― では、日本においてティール組織は実現困難なのでしょうか?
佐渡島:正直言って、ビジネスの世界では、ティール組織で語られているようなリスクを完全に分散化することが難しいのではないかと思っています。
特にコルクは上場していないので、会社が負債を背負った時に、僕の個人保証になります。例えば、1億円の負債が出た時に、メンバーが20人いるから1人当たり500万円を返そうとは絶対になりません。権限は全員に与えるほうが利益が出るとティール組織の本には書いているけど、現実にはリスクは経営者1人に降りかかってきます。
だから、全員から賛同を得るのではなく、リスクをある程度負った特定の人が意思決定する。今のコルクがまさにそういう組織です。
ティール組織についての本を読んでいると、意思決定するという役割を与えれば、全員賛成を得て進まなくても良い、というふうに書いてあるものも多く見られるので、今のコルクの決め方もティール組織と反しているものではないかもしれません。
でも、そうだとするとティール組織とヒエラルキーの具体的な違いが急にわかりにくくなったりするので、もしかしたら僕がまだティール組織というものを十分に理解していないだけなのかもしれませんね。
佐渡島:ただ、ティール組織というものは、やることがまだ明確でないフェーズの時は難しいのではないかなという気がしています。
例えば、全員が意思決定に関与できるとなると、経験値のレベル80の社員が、レベル20の社員の意見を聞かなくてはいけません。これでは意思決定が遅くなります。それは危機的状況ですよね。そう考えるとヒエラルキーは必要なのです。つまりティール組織とは、ヒエラルキーとホラクラシーの合体した組織ではないかなと自分なりに解釈しています。
『ティール組織』では、新しい組織は従来のピラミッド構造から脱却した「進化した組織」と表現していますが、書籍に出てくる事例を見ると、CEOも役員もいて、ヒエラルキーが残っている組織がけっこうあるじゃないかと指摘したくなります。僕自身のティール組織の定義は「役割の交代が起きやすいピラミッド組織」ではないかと考えています。
―― ティールのモデルを応用しやすい組織というのはあるのでしょうか?
佐渡島:利益を出さなくてもいいような地域コミュニティなどでは、ティール組織を実現できると思います。そうした中で、コルクラボはティール組織を体現してると言えるかもしれません。
世の中の多くのコミュニティにおいて見られるのが「古参問題」です。なぜ問題になるのか。古参は新しい人が入って来ると、自分の立場や、安全、安心が脅かされるのではと思うからです。会社は研修プログラムがあって、新しく入ってくる人の安全、安心の確保ができています。コルクラボで取り組んでいるのは、「新しい人の安全の確保」と、「昔からいる古参の安全の確保」の両方なんです。
古参たちは、基本的には自分たちのグループに新しく入る人を望んでいて、向こうから話しかけてきてもらいたいのです。つまり、待ちの姿勢になるのです。そうならないために、コルクラボでは古参が中心となって説明会を運営して、新しい人たちと触れ合う機会をつくります。
加えて、古参が新人と1対1で向き合い、コミュニティに馴染んでもらうようにサポートする「バディ制度」という仕組みもつくりました。そうすると古参は新しい人に知り合いができるので、彼らのグループに入って行きやすくなります。逆も然りです。
―― 古参と新人の間の溝が埋まって、コミュニケーションが取りやすくなるわけですね。
佐渡島:これによってコミュニティの中で「新人+古参」というひとつの強いつながりができます。さらに、コルクラボでは誰もが6〜8人規模のグループに入ることになります。それによって、別の強いつながりができます。そして、オンラインでの他のメンバーとの薄いつながりもある。「バディ」「グループ」「オンライン」と、3つの絆ができるようにしています。
コルクラボは約2年前に立ち上がり、常に組織体が変化しています。バディ制度は最近できたのですが、効果を実感しています。僕もコルクラボができてから、遊ぶ相手はほとんどコルクラボのメンバーだけになりました。居心地がいいんですよ。
コルクラボができたばかりの頃は、参加者の心理的、つまり緊張を解くことを重視していたので、弱いものを許容するだけの弱い場所になるのではという不安もありました。けれども結局、みんな活躍したい、自分で自分を認めたいという気持ちを持っているので、転職して活躍している人、起業した人など、逆にコミュニティに参加することで強くなる人間がコルクラボからどんどん出てきています。
安全、安心の確保は、一般的な会社組織では難しいでしょう。多くの組織では、社員は生活のためにお金を稼ぐには、会社で評価されなければという心理から、失敗を恐れ、自分の弱さを見せようとはしないからです。
一方で、コルクラボは参加者自身が毎月1万円を払い続けているという時点で、大きな意思決定をしています。だから早く自らの安全、安心を確保したいという気持ちがあります。そうでなければやめるでしょう。
―― 確かに、1万円という金額は決して安くないです。
佐渡島:月額1万円はちょうど良いハードルになっているなと感じています。1,000円だと有象無象に人が入って来るので、安全と安心の確保には至りません。10万円だと入ってくる人が少なすぎる。コルクラボは全員が1万円を払ってきていて、上下関係がなくフラットで、楽しむか楽しまないかはそれぞれのやりたいこと次第です。まさにティール組織ですよね。
1年前、今のコルクラボは200人の「村」なので、これを「町」にする方法を考えよう、と僕が提案して、みんなで話し合いました。結果、人を増やすことにみんながコミットするように意識が変わりました。今の居心地を保つためには、誰も入ってこない方がいいはずです。でも、「そうした(古参ばかりになる)コミュニティは居心地が良いんだっけ?」と全員が自問自答して、違うよねと意思決定したのです。
佐渡島:次に考えたのは、どうやって人を増やすかです。今までは毎月入りたい人が自由に入っていたけれど、誰が入ってきたのか分からなくなっていました。それだと今までいたメンバーの安心が脅かされるから、入会は3ヶ月に1回にしようとなりました。
基本的に、半分はリファラル(推薦・紹介)での入会で、半分は自分たちが知らない人を入れるようにしました。そうすることで、コミュニティ内外で説明するのも楽になり、入会に関する仕組みがどんどんできていきました。ティール組織を運営する時に重要なのが、リスクとリターンを全員で等分することだと実感しています。
―― 安全、安心の確保がコミュニティの活性化にもつながるわけですね。
佐渡島:安全や安心という言葉は日常的に使われるので、多くの人たちはとても早めに確保できるものだと思っているはずです。けれども、実はそう簡単なものではありません。
例えば、社会人になってから他人とタメ語でしゃべる機会ってありますか? ほとんどの人は自宅か同窓会のような場所しかないのでは。タメ語で話していないのは、社会に対して薄い膜を張っていることの表れです。
コルクラボにおいて、僕は上の立場だから、誰に対してもタメ語で話しやすいと思うでしょうが、そうではないのです。僕も相手が土足で踏み込んでくるのが怖いから、関係性の距離を保つために、最初の頃はタメ語で話せませんでした。
けれども、それを乗り越えて、タメ語で話せるようになると、次第にコミュニティ以外のさまざまな人にもタメ語が出せるようになったのです。これによって社会に対する安心感が増しています。
きっとほとんどの人は丁寧語で話す時に、これは恐れのせいだと思ったことはないでしょう。でも、儀礼的なものというのは基本的に安全、安心の確保のためなんです。相手と自分の間に「壁」を置いて、これ以上お互いに自分の領域に入ってこないようにするのが儀礼だからです。
他者との関係性において早い段階で安全、安心の確保をしたいのであれば、丁寧語を使うのは1つの手段と言えるでしょう。けれども、そこで得た安全、安心というのは最低限のものでしかありません。
本当に心の底から安全だと思える場をつくりたければ、他者との距離をグッと縮めるような行動をとらなくてはなりません。ティール組織のような環境があるコルクラボで、僕はそれを実感しています。
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