2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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――飲食業界のみならず、多くの業界を苦しめた要因としてコロナ禍がありました。誰もが予想していなかった状況で、貴社はどんな影響を受けられたでしょうか。また、どのような経営指針に沿って乗り越えられたかを教えてください。
藤﨑忍氏(以下、藤崎):去年から緊急事態宣言が何度か起きている中で、時短営業や2店舗の休業もあり、去年(2020年)の4〜5月は店舗の売上高は前年比で約90パーセントまで落ちました。ただ、この1年半で導き出した経営指針に基づいて立ち上げたECサイトなどで持ち直して、結果は前年対比売上で109パーセントまでいきました。
(コロナ禍では)不確定な情報がたくさん拡散されましたが、何を見て、どう判断したかというと、そうした情報に惑わされずに、経営指針に則ったことによって、最終的にいい結果になったと考えています。
昨年、ドムドムハンバーガーは50周年だったんです。一時期は400店舗あったんだけれども、最終的に今は27店舗にまで少なくなっているんです。それを守ってくださったのは、お客さまとスタッフだと思っていますね。
その経営指針は何だったのかと言うと、お客さまとスタッフの人生に寄り添うこと。大げさなんだけれども、寄り添って並走して共感・共存していくことが、ドムドムハンバーガーというブランドを守っていくことになると考えました。
藤﨑:コロナ禍で何が一番怖かったかというと、やっぱりスタッフの安全確保だったんですね。時短営業はしましたが、休業は路面店と商業施設の2店舗だけ。そのほかは小さな町場のスーパーに多く出店しているので、休業することができなかったんですよ。
(社員を)守っていかないとならない中で、マスク、手袋、アルコールスプレーがなくなったり。従業員を「守らなくてはいけない」という時に考えたのが、このマスクでした。
――話題になって累計16万枚売り上げて、売り切れが相次いだマスクですね。
藤﨑:このマスクを店舗で販売したところ、SNSに写真を上げてくださった方がいたんです。そこで盛り上がって、店舗が密になっちゃった。「どうしよう」と思って、店舗での販売をすぐにやめたんですね。そうしたところ、「やっぱり欲しい」とおっしゃってくださるお客さまが多くて、ECサイトをすぐに立ち上げました。
そうしたところ、ECサイトでマスクがものすごく売れたことも功を奏して、前年対比売上で109パーセントの結果が出ました。
藤﨑:それから、コロナ禍でも出店しているんです。みなさんに「なぜ今なんですか?」と聞かれますが、浅草と市原ぞうの国という、観光地で2つの店舗を出しています。
観光地の人流がものすごく減っている中で、なぜ浅草か? ということなんですけれども。去年、もともとコラボで50周年を記念して期間店を出そうと思っていたんですが、そこから「常設店でやらないですか」と、お声がけいただいて。
当時、コロナ禍で「浅草はこんなに人がいません」と、浅草の映像がよくテレビに出ていたんですよ。それを見ていて、ここで浅草の元気を一緒に作ることができたら、社会的意義が高いのかなと。これがさっき言った「経営指針」に則っています。みなさんの生活に並走するようなかたちで一緒に元気になっていくことは、すごく重要だなと思っていたので、浅草で出店したんですね。
そういう取り組みがメディアに取り上げられる要因にもなりました。ただ社会的意義を考えて出店したんだけれども、いい結果につながったのかなと思います。
――マーケティング的に考えると、このタイミングで人が少ないところへの出店はなかなか考えにくいかと思うのですが、経営指針に沿って決定されたんですね。社会的意義に重きを置かれているところも、他のブランドとの違いですね。
藤﨑:そうだと思います。そういうブランドの作り方はちょっと違ったかなと思いますね。
――お客さんの求めているものをどのように認知して、どのように社内で施策を打っていらっしゃるのでしょうか?
藤﨑:どの企業も同じだと思うんですが、お客さまの求めていることを具現化することしかないです。例えばさっき言ったマスクは、ECサイトを立ち上げるまで10日なんですよ。でも、もともと物販部門もなければ、ECサイト部門もないわけですね。
マスクは社員やスタッフのために作ったものでした。ただ、去年の4月、5月はみなさんがマスク不足で本当に困られていたので、「少しあるんだからお分けしよう」と。洗えるマスクが出始めた頃で、まだそんなに(流通が)なかったんですよね。なので、求められているから作りましょう、増枚しましょう、だったらECサイトを立ち上げましょう、という感覚ですね。
それで(期間限定で)カレー屋ドムドム(2021年11月29日閉店)をやったんですが、みなさんから「食べたい」「終わらないで」という、大きなお声をいただくわけですね。新橋の店でテイクアウトだけをやっていこうとか、今度はどうすれば多くのお客さまに召し上がっていただけるかを考えて。「じゃあレトルトにしたらいいんじゃないか。レトルトを作りましょう」という考え方です。
やっぱり(ブランドを)お客さまに作っていっていただいているから、今までのやり方にこだわらないんですよね。
(ドムドムハンバーガーの服を作った時の)アパレルなんかもそうなんですが、その方々もドムドムやどむぞうくんに思いがあって、こういうのをやりたいと言ってくださるわけだから、「一緒にやろう」と言われた時には受け入れてやっていく。するとまた、みなさんがそれに反応してくださるんですよね。
藤﨑:さっきの経営指針ともダブるんですが、どうしてこんなふうにお客さまに拡散されるのかと言うと、もともとドムドムハンバーガーという歴史のあるハンバーガーショップに思い出を持っている方がいっぱいいて。愛着や期待を持っていてくださる方たちが、“絶滅危惧種”を救う活動に参加できる。
「O2OからOMOへ」ってよく言いますが、そこを担っているのが体験型・関係性。うちは店舗が少ないので、店舗で購入することによって参加するだけではなくて、SNSで声を上げること自体が活動になるというか。お客さまと親しい間柄なので、お客さまに(ブランドを)作っていただくイメージですね。リアルな声を反映していきたい、そのために努力しています。
――貴社のSNSを拝見していると、非公式のファンクラブがあったりして、愛されているブランドなんだなとすごく感じます。そういった愛されるブランドを作る上で、欠かせないポイントは何でしょうか?
藤﨑:どちらかと言うと、企業が「こういうブランドですよ」というふうに提示してブランドを作っていくことが多いと思うんですね。でもうちの場合はそうではなくて、お客さまにブランドを作っていただくイメージですね。
一般的なブランドは(フォロワーを)増やすことをまず念頭に置くと思うんですが、うちはSNSのフォロワーを増やす努力を特にしていないんですね。それよりも、親しくなることや関係性を強くすることのほうが重要だと思っています。なので、リーチの数が少なくても1個が濃い。数値的に他社と比較しても、10倍ぐらいは密度が濃いと思っています。
――「お客さまとの関係性を深くする」ための施策として、具体的にどんなことをされているんでしょうか?
藤﨑:例えばSNSで言うと、何かを差し上げるとか、「何パーセント引きになる」というのを多く謳ってお客さまを増やしたり、フォロワー数を稼ぐことはやらないんです。キャンペーンはやらないで、じかに起きていることやこちらが楽しんでいることを共有していくスタイルをとっているので、必然的に本当に好きな方だけが集まってくるんじゃないですかね。
会社のSNSですから、「新しい製品が出ました」ということもコンスタントには出させていただいてますが、それだけではないというかたちですね。
――お客さまの声を実現するスピードの速さもすごいなと思うのですが、どのように社内をまとめて実現されていらっしゃるんでしょうか。
藤﨑:まず1つ言えるのは、会社が小さいから。スモールな会社だから意思決定がしやすいことは大前提だと思います。
先行き不透明な時代は、従来の意思決定のように、プロセスでエビデンスを出してみんなで検討して……というよりも、むしろ役員・スタッフすべてへの情報の共有と、それに準ずる経営指針に則った意思決定をスピーディーにすることのほうが、今の時代にも合っていると思います。(ドムドムでは)それができてきているのかなと思いますね。
――コロナ禍の前からそういう経営方針でいらっしゃったんですか? それとも、コロナでさらに加速したんでしょうか?
藤﨑:加速したと思います。経営指針も私1人でやれることではなくて、1年半かけた信頼関係の構築や成功事例のおかげで、会社がまとまってくることはあると思います。
藤﨑:一番初めの頃は、大きなイベントに出ることには社内で反対意見も多かったです。「丸ごと!! カニバーガー」を売っていいのかどうか、反対意見もありました。アパレルとのコラボも当初は大きな反対がありましたが、それも結果が出てきているので。コロナ前には(新しい取り組みを)やりやすい状況にもなっていたので、急加速したんだと思います。
――中にはうまくいかなかったこともあったりするんですか?
藤﨑:あんまりないです。私、失敗を忘れちゃうタイプなんですよ。性格的に「失敗」という言葉はあまり必要がないと思っていますので、失敗はないんですよね。
「失敗」の考え方が違うんだと思うんです。例えば新商品を100個売ろうとしたけど、90個しか売れませんでした。ともすると、それを失敗と捉えるんだけれども、私はそう思ってなくて。「90個まで売れたじゃない。あと10個分は何をすればよかったんだろうね」「ここを変えておけば、あと10個、もしくは20個売れてたね」という考え方なので、失敗はあまりない。
(失敗は)成功への途上なので、コロナ禍でできなかったと思うようなことはなかったですね。マイナスなことは考えなかったです。
――経営者の方が「失敗はない」と考えてくださっていると、現場の方からもアイデアが出やすくなったりしますか?
藤﨑:そう思いますよ。これを失敗と捉えると、じゃあ失敗(するかもしれない企画)は上げないほうがいいとか、隠すようなことになってくる。そうすると、次の伸びしろが出づらくなる、負のループになると思うので。私はそんなふうに思うし、実際にうまくいっています。
ただ、やっぱりリアルな数字は大事だと思っています。発展途上にある事業があったとして、やり尽くした時に本当に数字が出ないのであれば、それは(撤退を)考えることもあるとは思います。
私がこの会社に入った時は(ドムドムバーガーは)36店舗あったんですが、今は27店舗です。母店がなくなる場合もありますし、もしくは何年もやっていて数字が出ないところは撤退しているのも事実ですね。
――コロナウイルスの新たな感染株の出現など先行きが見えない中で、予測不可能な時代だからこそ、大事にしていきたいと思われていることはなんでしょうか?
藤﨑:ブレないで、経営理念に準じて進めていきたいと思っています。外食(産業)の中で共通する課題はやっぱり、人材の育成や担保だと思うんですね。今、外食は厳しくなっていて、雇い先が雇用調整助成金を使って「仕事がない」という方はいっぱいいます。私どもの親会社はホテルをやっているので、そういう方たちは多いです。
それから、ホテルや外食の離職率もすごく高いので、経営者がしっかり考えていけなければいけないところかなと思っています。
「TREE&TREE's」というバーガーショップを開業したんですが、ここはオールキャッシュレスなんです。今の利便性で言えば、まだちょっと早い風潮だということは、すごくよくわかっているんですが、これからの労働人口のことも考えると必要です。
どうしてこう言えるかというと、ファーストフードは会話がものすごく多いんですよ。「ハンバーガーですね。ポテトはSとMですか? ドリンクは何になさいますか? おいくらお預かりします。おいくらお返しします」。これはやっぱり、労働のストレスが半端ないんです。そして間違いも起こる。
働く場所のストレスや間違いは削減するけれど、一方で「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」という、人としてのコミュニケーションはしっかりと残しつつ改善していかないと、心理的に安全でない状況になってしまいます。
TREE&TREE'sはモデルケースで、27店舗(のドムドムハンバーガー)で導入できるかというと、レジのことや物件との関係、導入費用やお客さまの利便性もあるので、そう簡単にできることではないですが、チャレンジしてブラッシュアップすることは必要な使命かなと思っています。
――藤﨑さまが就任されてから約3年数ヶ月、コロナ禍でも順調に黒字を出してこられましたが、来年の展望はありますか?
藤﨑:抽象的で申し訳ないんですが……大きいことはできないんですよ。お客さまとのさらなる関係性構築のためには、ご要望にお答えし続けられる企業でありたいと思っています。その1つとして、毎日のように全国から「店舗を増やしてください」「早く出してくれ」と、SNSでもお声がけいただきます。なので、店舗を出すことも予定はしています。
それから今は、お店だけじゃなくて(ドムドムハンバーガーの)アパレルの需要もけっこう高くて、完売してしまう商品もすごく多いです。なので、お客さまとの関係性を強くしていくうえで、ECサイトの強化もしていきたいと思っています。
カレー屋ドムドムに関しては、ハンバーガー屋で店舗展開がまだできていないのに、カレー屋の店舗展開は難しいので、来年早々にはECサイトでカレー屋ドムドムと同じものをレトルトで販売します。
私も何回か試食したんですが、本当に良くできていて。嘘じゃないかと思うぐらいにうまくできているんですが、ゴロゴロ和牛が入っていて、「これはいくらになっちゃうんだろう?」「これじゃ高くなっちゃうから売れないんじゃない?」というぐらいなんです。
レトルトの中では真ん中ぐらいの(販売価格の)500~600円で販売していきます。お客さまのご希望に沿う営業をしていきたいなと思っているところです。
――コロナが終わった後に飲食業界が完全に戻るかというと、中食需要が高まる中で、レトルト食品は本当に助かりますよね。
藤﨑:(コロナ前のようには)戻らないですね。今おっしゃったとおりで、一般的な企業は「今は中食が旬だから、中食のものを開発しよう」という考え方をすると思うんですよ。だけどうちは、フードロスを考えてお客さまにカレーを提供したら、みなさんの関心を集めて「食べたい」とおっしゃる方が多くなった。だから、考え方がちょっと違うと思うんです。
――なるほど。結果としては他企業の取り組みと同じように見えるけど、中の考え方やプロセスがまったく違うんですね。
藤﨑:そうですね。そこがうちのユニークさにつながっているというか、みなさんにおもしろがられるのはそういうところかな。
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