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なぜ1on1が機能しないのか ~企業成長を加速させる最強の組織づくり~(全3記事)

1on1で部下が発した「○○さんは会社側の人間でしょ?」の言葉 “敵”と見なされた管理職に必要なのは、迎合ではなく深い理解

テレワークの普及などでコミュニケーションの在り方が変化する中で、上司と部下の関係性が希薄となりつつある昨今。これまで以上に注目を集めているのが「1on1ミーティング」です。1on1は、既に多くの企業で導入されていますが、経営層や人事部が考える導入目的が各部署の上司や部下まで浸透せず「業務の進捗確認の場となっている」「形骸化している」など、運用・継続における課題感を感じている企業が少なくありません。そこで『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―』の著者であり、株式会社サーバントコーチ代表取締役 世古詞一氏が登壇したウェビナーの模様を公開。1on1が形骸化をしてしまう原因は何か? 1on1を起点として組織コミュニケーションを活性化させ企業成長を加速させるためのポイントは何か? など、組織づくりにおける1on1の活用について徹底解説します。

誰かを「承認」するために必要な、2つの能力

斉藤知明氏(以下、斉藤):ではQ&Aコーナーに移っていきますが、世古さん。これだけ質問しちゃって良いですか? 私どものUniposは、一人ひとりがお互いの良い面を見つけて伝え合う、思っていることを伝え合う組織に変えていくために重要だと思って提供させていただいています。勝手に、1on1との相性が良いなと思っているのですが、どう思われますか?

世古詞一氏(以下、世古):いや、もうめちゃめちゃ良いですよ。いろいろ話しやすいし。私、上司向けの研修でも、絶対「承認」の話はしていますから。そういうものがないと、いろんな話ができないし、絶対に必要なんですよね。

上司も、他の人が承認をしているのを見て、学んで欲しいんですよね。承認に関しては、2つの能力が必要なんです。まず「良いところを見つける能力」ですよね。観察力なのかもしれませんが、そこが見つけられるか。これ、目立つようなすごいことは見つけられるんですよ。

だけど、ちょっとしたこと。例えば、会議の人数が多くてイスが足りなくて、自発的にイスをすぐ持ってきてくれたとか。別に大したことないけど、ちょっと気が利くこと。そういうことをつかまえて「ありがとう」と言えるか。

ちょっとしたことを見出す力を養っていくこと。これはマネージャーがすごく評価されていく、昇進していく、結果を出していくっていう時に過小評価されてきたところなんですね。成果を出す上では些細なことなんだけど、人材育成の観点では、ここはすごく大事なんですよね。

その「見出す力」と、もう1つは、それを身につけた後に「表現する力」。それをどうやって伝えていくか。「すごいじゃん」「いいね」「〇〇君がこうやってくれて、超うれしい」って。おじさんになってくると「うれしい」みたいなことを、自分の言葉で言えないって人がけっこう多いんですよ(笑)。

「見出す力」と「表現する力」、やっぱり両方必要なんですよね。でも、テキストで伝えるほうがハードルは低かったりもするので、そういう意味でもUniposで伝える練習をやっていくと、絶対に信頼関係は築けていきますよね。

斉藤:そこまでお話しいただいてありがとうございます。実際、Uniposをやっているとおもしろいもので、1回当たりの投稿の文字数がどんどん増えていくんですよ。最初は30文字ぐらいだったのが、50文字、60文字ぐらいまで増えていって。ちょっと表現が上手になっていくんです。熱くなっていったりもして、おもしろいなと捉えてます。ありがとうございます。

1on1では「ぶっちゃけどう思った?」って、聞いて欲しい

斉藤:ではでは、Q&Aに入ります。たくさんいただいておりますが、最初の質問です。

「1on1で部下の責任者層から『だって○○さんは会社側の人間じゃないですか』と言われたことに衝撃を受けました。会社の考え方を浸透させようと、説得しにいった結果、失敗が起こりました。あらためて相互のすり合わせが重要であることを理解しましたが、“敵”に近いところまで思われてしまった時は、どういうところから始めると良いですかね?」

けっこうこれを感じてらっしゃる方多いのかなと思うんですが、いかがですかね?

世古:やっぱり(上司が部下から)教えてもらうことです。「これは超大事だから」「これこうだから」と伝えることは散々しているんですよ。メンバーも正論として、頭では理解している。だけど、自分が思っていることを言えていないんですよ。正論に比べちゃうと愚痴っぽくなるし、躊躇してしまうところもあって。

言ったとしても論破されちゃうから、言えないんですよね。それで、モヤモヤがたまっている。それを「実際どう思ってるの?」と聞いて、それ(答えてくれたこと)について理解を示すことですよね。別にそれに賛同するわけじゃないけど、その人の言っていることをちゃんと理解していく。

そして、できれば共感して欲しいんですね。「なるほどね。〇〇君はこういう価値観だし、こういうことを思っているんだね」「〇〇さんだとすると、そう思っちゃうのはしょうがないよね」っていうこと。相手のことを正確に、深く理解していけば結果として共感が生まれてくるはずなんですね。

必ずしも、メンバーの考えに迎合したり賛成したりする必要はないんですが、深く理解はしてください。だから「教えてください」の時間にあてていくことが、まずファーストだと思うんですね。

斉藤:すり合わせの場と定義していますが、マネージャーはふだん、なんらかのかたちで伝えたり、ミッションを決めたり、評価をしたりしている。だからこそ、むしろ聞く姿勢を最大化させたほうが、結果バランスがとれるよねってことなのかなと思いました。

世古:会議では「こういうふうにやるよ」と、目的や背景も含めて伝えていますよね。それについて「ぶっちゃけどう思った?」って、1on1では聞いて欲しいんですよ。「いやー、まあわかるんすけどね」って言える雰囲気を作ってあげる。いったんそれを受け止めるだけで、メンバーは「そうは言っても、やっぱやんなきゃしょうがないっすよね。ちょっとがんばりますわ」ってなってくれるわけです。

斉藤:「組織の言ってることもわかる」っていう状態を作っていきつつ、ですよね。

世古:正論として、みんな頭ではわかるんですよ。でも、やっぱり人間だからモヤモヤがあって、それを出す場がないんですよね。それもまた上司側が論破しようとしちゃうから、余計に。

斉藤:ですよね。

「成果軸から成長軸」へのチェンジで変わる、失敗に対する考え

斉藤:では続いての質問にもどんどんいかせてください。1on1の頻度に関する質問ですね。9ボックスに関して「すごくわかりやすくて良いと思います」とコメントも添えてくださっています。一方で「年次だったり、四半期、半期に1度1on1をやっていますが、なぜウィークリーといったように頻度を高くする必要があるんですか?」という質問です。

世古:話して欲しいんです。対話をして欲しい。対話する目的をお互いすり合わせることで、それによって頻度もいろいろ変わると思うんです。せめて「最低でも月1回以上」って私は言っています。

週次なら、いわゆる業務進捗みたいな話も多少入っていても良いと思います。業務の話も入れつつ、それだけにならないように、モヤモヤしていることを(メンバーに話してもらったり、)中長期の話や振り返りの時間も作っていく。こんなのは、ありだと思いますね。

ただ、業務進捗をやっちゃうと、いつもの話になってしまいがちです。そうならないように、マネージャーはモードを変える必要がありますね。

マネージャーのモード、つまり前提にある軸とは、シンプルに言うと「成果軸」なんですね。基本的に「どう短期的な成果を生むか」という成果軸でものごとを話している。そうすると、コミュニケーションのパターンは「教える」「伝える」「問題解決する」「指示する」「機能する」になっちゃうんです。

だから、1on1の時には「成果軸」から「成長軸」「理解軸」「相互理解重視」に移していく必要があって。そうすると「傾聴」「質問」「承認」などが生まれてくるんです。前提となるスタンスを変えていく。こうしたモードチェンジが必要です。

モードチェンジするとどう変わるか。具体的に言うと、失敗に対する考え方が変わる。成果軸だと、失敗はダメなことですよね。失敗した人は、ダメなことをしたダメなヤツだと思われる。

斉藤:成果軸で考えるとそうですね。

世古:それで、上司は指摘するし「こういうふうにやってね」とアドバイスして、成果を示してやるわけです。ちょっと“詰め”っぽいものにもなってしまう。そうすると部下は「わかりました」と言って、正解をどうやって(見つけて)いくか? だけになる。一方、成長軸で考えると、失敗の中にも成長要素がたくさんある。学びの宝庫なんですよね。

つまりその人にとっては、失敗はダメなことじゃなくて良いことなんです。だから「今回は良かったね。早めに失敗しといて、すげー学べたんじゃない?」って言う。「会社としては痛いけど、〇〇君としては何を学べた?」と、モードを変える。

そういうふうに言われると、メンバーも健全に頭が働き始めるんです。つまり、考えて、今回の失敗を俯瞰して内省するスタンスになる。

でも、業務の延長でその失敗の話をしていくと「どうやってそうならないようにしようか」と、ちょっと萎縮してしまうんですね。自分でしっかり考える前提がちょっと薄くなる。モードを変えるってけっこう大事なポイントで。だから、1on1の場で変えていくっていうのが、1つの方法としてありですね。

斉藤:どうしても、業務のことを週次で確認したいんだったら、例えばみんなが集まるチームウィークリーみたいなものを作って、そっちでやる。

世古:そうそう。それってみんな、絶対やっているじゃないですか。

斉藤:例えば隔週ぐらいで、そういう「成長軸」「共感軸」の1on1をする。その時に「あなたの成長を一緒に考えていくためにはどうしたら良いか」軸で(話をする)。この9個のテーマで「何を今話すべきだろう?」というすり合わせから入っていけば、今までうまくいかなかった対話も、うまくいくきっかけ作りになるのかなと想像できました。

世古:そう。その現場との分け方ですね。あるマネージャーさんの話ですごく良いなと思ったのは、月曜日の午前中は部の会議をやって、午後は全部1on1にあてているそうで。

そこで、午前中にやった会議の話を基に「今日の会議で曖昧なとこある?」とか確認したり、その週の業務で曖昧な点・不安な点を解消していくそうです。そうして1週間、しっかりクリアな状態でやっていくとおっしゃっている方がいました。すると生産性が本当に上がったとのことです。

会議の場、1on1の場で、実際どう思ったかを聞いておく。そうして両方を回していく。

「何かない?」の“場”があるから打てる、先手の対策

斉藤:それこそ、頻度の話にあらためて戻ると。何かを伝えた時に誤解や乖離が生じると考えた時、半年に1回しか目的・目標を伝達しない組織なら、半年に1回でもよくわかる。

一方で、1ヶ月に一度、例えば「今月の目標はこうだ」「今月こういう取り組みをしていく」と伝えるんだったら、そのタイミングでできるだけ早く、こういう本音を聞くポイントを入れておけば、その後の生産性がまるっと変わります。

頻度によって、納得していないまま進めるかそうでないかで、まるっと変わります。世古さんがおっしゃった「1ヶ月に1回は1on1をやったほうが良い」というのは、チームや課としての方針を伝えるタイミングはだいたい1ヶ月に1回だとして、それに合わせているのかなって気がしましたね。

世古:目標もそうですよね。1年に1回の目標だったとしても、途中途中でリマインドしていくと思いますし。目標など業務の話だけじゃなくて、さっきのボックスでいうと真ん中にある「ライフスタイル」のボックス。これは仕事以外のことなんですけど。

例えば健康面とか、仕事以外のいろいろな、家族のことなども含めてね。ちょっと悩んでいることなんかもあるかもしれない。本当は、聞かれたら話したいようなことがあるのかもしれないですよね。

特に健康についてはどんどん変わりますから。「大丈夫? 最近寝られてる?」とか、そういうことを定期的に確認していく。1on1ってある意味、そういうところにも機能するんです。「病んじゃって」とか発症してから後手の対応に回るんじゃなくて、「ちょっと最近は眠れてないんですよね」と聞き出せたなら先手の対策が打てる。そのためにも、そういう場を機能させていく。

なんとなく見ていて「大丈夫かな?」と思うんだけど、「ちょっといい?」って呼ぶほどでもない。でも場があることで、そこで確認してお互い言えるわけですよね。

これからどんどんリモートになっていくと特に、「ちょっといい?」っていうコミュニケーションが遅くなってくるんですよ。(出社が当たり前だと)周りにいて、隣にいて「ちょっといい?」と言いやすかったのが、どんどんできなくなってきているので。

だから、まず定期的に場を作ること。場があるから「何かない?」って言われた時に、「そういえば」ってモヤモヤが出てくる。だから先手の対策を打てる。こんなふうに、組織のコミュニケーションスタイルも再設計していく必要があると思っていますね。

斉藤:それをしていったほうが、変化があった時に、それぞれがさっきの「Why」の話のように理解した状態で進むことができる。上辺だけなぞるのではなく、みんなが考えながら・変化しながら・工夫しながら動ける組織の土台が整いますよっていうこと。

世古:そうですね。

斉藤:その力をつけることができるのは1on1なんだなと思いました。ありがとうございます。

「期待はしないけど諦めない」というスタンス

斉藤:では続いての質問にいきましょう。「『生活費稼ぐために働いてるだけなんで、そういうのいらないです』っていう人がいます。どうすれば良いですかね?」という質問です。

世古:そうですね。「生活費ってどれぐらいなの?」とか、まず具体化してことですね。いろんなアプローチがありますが、価値観を知ることです。そういう考えに至っているいろんな背景とか、その人がどういうふうに生きてきたかとか、そういうことを聞く。

その人の人となりとかね。これから先もそういう働き方で良いのか、とか。その人の人生を、ちょっと聞く機会にするのが1つの手だと思います。

それを全部聞けた上で、上司としては「会社はこういうことを期待しているんだよ」ということも伝える必要があります。そこに乖離が生まれているんだとすると、早晩そのズレは大きくなっていくと思うんですよね。

会社は会社として「〇〇さんにはこういうことを期待している」と言い続けていくこと。つまり「期待はしないけど諦めない」というスタンスで言い続けていくことは必要だと思います。

何かのきっかけで、いろいろ変わることってあるんですよね。その人のライフイベントが変わっていくとか。あるいは、その人の人となりを話していく中で、どこに動機がある、モチベーションがあるみたいなこともわかってくることがあると思うので。そういうところを意識しつつ、目先のことは、しっかりやってくれているんだったら、それはそれで一応良しとしつつ。

1on1みたいな場があるから「どう? あのスタンスって変わってない?」みたいなことを毎回聞けたりするわけですよ。定点的にやって把握した上で、スタンスが変わらないのであれば「しょうがないかな」としながら、対話は続けていく。

「何か情報ないかな」と問題意識を持ちつつやっていく。焦らずで良いかなと思います。「あなたがそうあるのはしょうがないけど、組織としてはこう思ってるよ」ってことをすり合わせていく。1回、2回、10回ではなかなかすり合わないかもしれないけど、すり合わせ続けてく。「なんか接点ないかな」を探していくってことですね。

1on1は、人と人との対話で成り立つ組織へと変換させるための武器

斉藤:ありがとうございます。では良い時間にもなって参りましたので、このあたりで締めをさせていただきます。

あらためて、今日のテーマについて振り返りをしてみます。今は変化が多くて、コミュニケーションがタスクベースになりがちな世の中です。コロナ禍のタイミングもあって、雑談などのコミュニケーションが少なくなっています。

ふと、自分でも気づかないうちに「(人を)成果を出すモノ」として扱ってしまったり、(自分が)扱われてしまったり、そういう関係性になってきている。その関係性において、本当にこの仕事はどんどん工夫されていくものになるのか、進化していけるものになるのか、また離職率などのパラメータも影響を与えるのではないだろうか。

こういった場所から、機械ではなくて人と人との対話・コミュニケーションで成り立っている組織へと変換させるための武器が、1on1ではないかというお話でした。

「9ボックス」といった手法もありつつ、マネージャー、個人が対等な立場ですり合わせができる。押しつけるでもなくて、聞き入れるだけでもなくて。お互いのことを知り、理解し合う。そういう場所としての1on1。

そのためには、マネージャー側は「承認する」「傾聴する」姿勢。また、個人としては「発露する姿勢」、つまり自分の意見を率直に言う姿勢が求められていく。これをお互いに「こういう場にしていきたいよね」と合意した上で、1on1に取り組んでいくのが良いのではないだろうか。これが、大きな筋だったかなと思っております。

あらためて世古さん、最後に一言いただけますでしょうか。

世古:はい、ありがとうございます。まず、みなさんのチャットがすばらしいですね。いろいろ書いていただけるのは本当にうれしいし、反応が来るってすばらしいなって思いました。本当にありがとうございます。

ますます対話が重要になってきたなと、本当に肌感としても感じています。いろいろ言っていますが、すぐにすごいことができるわけではないかもしれません。まず、1on1じゃなくても良いので、いろいろ対話をしていく時間を持って欲しいです。意図して対話していくことを意識しながら、上司と部下のどちら側でも進めていけると良いと思います。

というのも、本当に対話をしなくなっていく方向性にどんどんなっているので。もうちょっと、意識しても良いんじゃないかと。それは必ず組織力につながりますし、対話の機会があるということが、組織における差別化の源泉になっていくんじゃないかと思います。

なので、ぜひ楽しみながら取り組んでいただければなと思います。本日はありがとうございました。

斉藤:ありがとうございました。世古さんのお考えを、もっと組織やご自身の考えに取り入れていきたい場合は「世古 メルマガ」で検索でしてみてください。ぜひ、個人向け・企業向けのところ、気になる方は問い合わせしてみていただければと思います。

では世古さん、あらためて本日はありがとうございました。

世古:ありがとうございました。

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