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なぜ1on1が機能しないのか ~企業成長を加速させる最強の組織づくり~(全3記事)

1on1が「上司と部下のいつもの会話」で終わってしまうワケ 上司が「教えてもらう側」に立つことで成立する、相互理解の場

テレワークの普及などでコミュニケーションの在り方が変化する中で、上司と部下の関係性が希薄となりつつある昨今。これまで以上に注目を集めているのが「1on1ミーティング」です。1on1は、既に多くの企業で導入されていますが、経営層や人事部が考える導入目的が各部署の上司や部下まで浸透せず「業務の進捗確認の場となっている」「形骸化している」など、運用・継続における課題感を感じている企業が少なくありません。そこで『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―』の著者であり、株式会社サーバントコーチ代表取締役 世古詞一氏が登壇したウェビナーの模様を公開。1on1が形骸化をしてしまう原因は何か? 1on1を起点として組織コミュニケーションを活性化させ企業成長を加速させるためのポイントは何か? など、組織づくりにおける1on1の活用について徹底解説します。

信頼関係を作っていく上で、やはり鍵を握っているのは上司側

斉藤知明氏(以下、斉藤):ありがとうございました。では、ここからディスカッションに移っていきます。今、チャットでもたくさんの意見をいただきながらのご講演でしたが「1on1導入後の落とし穴」、さまざまありました。「そもそも対話の正解がわからない」「マネージャーが言いたいことを言う場になっている」「場当たり的で思いつきで進んでいる」「形式的なものに終始している」「業務進捗確認の場になっている」「雑談ばかりで意味を感じない」などですね。

今回、1on1とは「9ボックスに応じたすり合わせの場である」というお話がありましたが、それでもチャットの中で「やっぱり難しい」という意見・問いかけがありました。「信頼関係が構築できていないマネージャーとの1on1って、成立するんですか?」というものです。

今、1on1という手法が取り入れられてきていますが、(これはあくまで)チームを良くするためにお互いのことを理解して、力のベクトルを揃えるために重要。したがって、そもそも信頼関係が構築されていない前提で機能するものではないので、(1on1をその)ソリューションにするのは、まずいんじゃないかなと思いますね。

「そもそも信頼関係がない状態でこんな対話ができるの?」ということは、一番不安に感じていらっしゃる方が多いのかなと見受けられました。世古さん、これってどうなんですかね?

世古詞一氏(以下、世古):ありがとうございます。信頼関係を何と捉えるかですね。業務は成立しているんですよね。信頼関係がなくても業務はできていて、レポートラインの中に“ただいるだけ”という感じ。そうすると(業務を)取りまとめるマネジメントはしているけど、ピープルマネジメントはしていない状態だと思うんです。

少なくとも信頼関係を作ろうとする意思が、マネージャー側にあるかどうか? がポイントだと思います。その意思がちょっとでもあれば「お互いのことがわかっていないから、あなたのことが知りたいんだよね」「こういう時間にしていきたいんだよね」など話がいろいろできると思います。

あとは、能力面ですごく劣っていると(マネージャーに)思われている(のではないかという懸念)などもあると思います。薄々わかっていながら、(メンバーは)そういうことを自分から言う(のは難しい)。心理的安全性がないと「私、正直〇〇さんのほうが仕事できると思うんだよね」といったことは言えないですよね。

信頼関係を作っていく上では、やっぱり上司側のほうが鍵を握っていると思うんです。上司側が、少なくとも「あなたと対話をしていきたいんだ」という意思が持てるかどうか。そこはやっぱりポイントだと思いますね。

世界的に「組織にとって1on1が必要」と言われているのはなぜ?

斉藤:あらためて、マネージャーのみなさんの度量・態度が試されるポイントだなと思いました。マネージャー・従業員のみなさんにとっての1on1の意義として、僕は「ベクトルを揃えて力を発揮するために」みたいなことを勝手に話しちゃったんですけれども。世古さんの中で、日本の社会、あるいは世界的に「組織にとって1on1が必要だ」と言われているのはなぜだと思いますか?

世古:直近の話で言うと、日本だとやっぱりシンプルに、コミュニケーションがとにかく減っていますよね。コロナ禍でリモートになって、なおさら。飲みにも行かないし、目先の短期的な業務以外の話をする場が、自然にまかせていると本当にないわけです。

効率化・生産性を追っていった時に、どんどん機械的になってるんですよね。要するに、どんどん相手を人間として見なくなる。それで効率的にうまく回していれば良いんだけど、やっぱり「人間だもの」っていうところが、みんな出てくるわけです。いろいろ思いを持っているんだけど、それを言う場がない。

どうしてもこれからは、個人化(が進む)。時代として、副業したり、自分で何かやっていく方向に否が応にもなっていくので。少しでも会社や組織にベクトルを合わせていこうと思うのなら、やっぱり対話が必要です。いわゆるエンゲージメントみたいなものが、かなり醸成されにくくなってきています。

今後、組織力の向上、あるいは個人の持っている力・リソースを最大化しようと思う時、こういったもの(対話)が絶対に必要になってきます。

今はなんとなく、これまでの信頼関係の貯金を切り崩してやっているところがあると思うんです。でも今後は、どんどんドライな感じになっていく。それはそれで、これからのあり方なのかもしれません。要するに「あなたの組織はそれで良いの?」ということですね。

だからやっぱり、組織の哲学なり考え方ありきなんです。その上で、手段としての1on1の使い方をあらためて考えていく。でも、すごく使い勝手の良い場なんですよ。結局、最後には「話さなきゃダメだよね」に絶対なるんですよね。その場が仕組みとして、会社にあるかないか。持っているか持っていないかですね。

対話は重ねていくことで質が高まるので、一朝一夕にはできません。こうした場を作り、質を高めていく。これを積み重ねていく組織は、やっぱり3年後・5年後、すごく大きな違いになってくると思うんですね。

組織のコミュニケーションは「情報交換」と「人間の対話」

斉藤:今、チャットの中で「クロス(メンター)(他部署の先輩が若手の指導員となる)のほうが良いんじゃないか」とか「直属じゃないほうが良いんじゃないか」という意見も出てきていますが。僕は今の世古さんのお話を聞いていると、逆のイメージを持ってしまったんです。

一丸となって同じ方向に向かうことが目的であるとした時に、個人の内面を引き出すことは目的ではないのかなと思ったんです。個人の内面を引き出しつつ、チームとしての目標や方向性に接合していく。一緒に働く仲間だからこそお互いのことを理解し、同じ方向に向かえる状態を作ることが重要だと捉えたので。

あらためて個人と直接の上司間でこそ、うまく1on1というものをやっていくべきだと。僕はお話を聞いていてこう思いましたが、いかがですか?

世古:だから、すり合わせなんですよね。これは上司・部下のすり合わせであり、組織と従業員のすり合わせである。要するにお互いがベクトルを揃えていく・すり合わせていくことなんです。一方的にどちらか(の方向性に合わせること)ではないんですね。

そうした時に、すべて上司が行わなくても良いと思うんです。上司であり評価者だからこそ、これは知っておいて欲しいこともある一方で、上司だから・利害関係があるからこそ、言いづらいこともあると思います。その組織の中にリソースがあるのであれば、斜めの関係でやったり、キャリアについてはまた別の人とやったりもありだと思います。そして、組織に関してはもっと上の人で、熟知している人が補完していく。

この9ボックスの中をすべて上司がやる必要もなくて、あるいは(双方が)全部する必要もないんですね。これは単なるツールなので、これを埋めるために話をするわけじゃないんです。「人を見てください」という話で、「この人と話す中で何を話せば良いかな」っていう時に、ここを見てくださいということ。これを埋めるための話をするのは本末転倒ですので、そのことはお伝えしておきます。

斉藤:あらためて、(チャットを指して)先ほどの「人間として見られていないというのは実感します」っていうお声もいただいていて。

世古:本当そうなんですよね。つまり組織のコミュニケーションって2つあって、1つは情報交換のコミュニケーションなんですね。9割以上はこの情報交換のコミュニケーション、つまり情報のやり取りをしているんですよ。「今こういう案件をやってます」「こういうことをやってます」「こういう問題が発生してます」など。

もう1つは人間としての対話です。「情報交換」と「人間の対話」。違いとしては、人間の対話とは、その人が持っている「考え」や「感情」を聞くことなんですね。

「考え」といっても、ロジックで固めて会議で伝えるような考えではないんです。「ぶっちゃけどう思う?」「会議ではああ言ったけどさ、実際どう思った?」「本当のところどうなの?」という時の「考え」や「感情」。そういうことを話す機会がないんですよ。

以前は飲みに行ったりすることもありましたが、効率化・生産性を考えると、そういったことはどんどん排除されていきます。だから人間じゃなくなっていくんです。(考えや思いを)語る場もないし、語っていないからメンバー側もどんどん語りづらくなって、上司側もどう聞いて良いかわからなくなってきます。

部下は「考え、しゃべる」上司は「どう考え、どうしゃべってもらうか」

斉藤:チャットを眺めていておもしろいなと思っているのが、今日ご参加の方は「上司側の方」と「部下の立場であるメンバー側の方」と「経営側の方」が、ちょうど3分の1ずつぐらいなんですよ。だから、どっちの意見も散見されるんですね。たぶんここ(3者で意見が様々であること)が、今、1on1が難しくなっているポイントでもあるのかなって気がしていて。

「すり合わせ」とは、「個人と組織」だけじゃなく、「個人」と「マネージャー」と「組織」と、全部のすり合わせ。でもマネージャーとしての振る舞いはどうしても、「組織を代弁する」役割になります。そうなった時に、一個人としてあまり(組織に)寄りすぎてはいけないのかなって思う部分もあるんですよ。すり寄りすぎてはいけない。こういう時ってどう振る舞うのが良いんですかね。

世古:これは難しいところです。その姿勢はやっぱり上下(の関係)なんですよね。そうではなくて、極力フラットに話をするのがやっぱり良いと思います。何か問題があった時なども、説得したり、アドバイスして答えを言ったりするスタンスよりも、「こういうことだったんだけど、どう思う?」という。

「組織としてはこういうふうにやるってことを掲げているんだけどさ、これってどう思う?」と聞いて、部下が「こうこう、こうですよね」と答えたら、「なるほど、そういう考えもあるんだね」と。「でも組織としてはこういうことも言ってると思うんだけど、ここって何か落としどころはあるのかな?」みたいなものを一緒に考えて、すり合わせていくんです。

一発で決めたりするのではなく、やっぱり腹落ちしてもらうことですね。あるいはメンバーが語っている言葉自体に飛びついて、すぐに何かを解決するよりは、「本当は何が言いたいんだろう」「実際どういうことが言いたいんだろう」と、じっくり聞いていくこと。

言葉の奥にある、本当に気になっていることが引き出せれば、そういう話ができる。例えば「この制度に反対だと言っているけど、実はもうちょっと奥には違うものがある」とかあるじゃないですか。だから「傾聴」や「質問(力)」(が必要です)。また伝えるにしても、伝えてから「どう思う?」とメンバーの考えを引き出したり、あるいは考えを巡らせるような問いかけをする。それで、しゃべってもらうんです。

だからメンバーは「考える、しゃべる」。逆にマネージャーは「どう考えてもらうか、どうしゃべってもらうか」。そういうところをスキルとして磨いていくことが必要で、それですり合わせていくんですね。

わかり合えなきゃわかり合えないで、まずはそれで良いんですよ。そういうことを重ねていくことです。重ねていって、やっぱり違うのであれば、円満に退社すれば良いんですよ。「僕と考え方が違いますね」ということが、はっきりわかったと(笑)。

斉藤:(笑)。

世古:そこまで話して「わかりました」だったら、まぁ良いじゃないですか。

すぐ答えられなかったら「ちょっと待ってね」と宿題にしても良い

斉藤:あらためて、「組織を代弁する」という言葉を「組織のことを押し付ける」「説得する」と捉えると、完全にNGだと。つまり強固なものがあって、それに「従いなさい」「なぜ従えないんだ」という代弁だとNG。

一方で、組織としてそういう構造ができ上がっている理由があるはずなんですよね。背景に潜んでいる。それは個々人にはわからない理由、一法人格としてあるはずなんです。例えば評価制度であっても事業の制度であっても、そこが成り立ってる理由がある。これを語ることが、おそらくマネージャーには求められています。

個人も、そのでき上がっているものに対して「なんでそうなっているのかわからないし、私はこう思うんだけど」っていう「Why」のレイヤー(がある)。実際に起きている事象を「なんでそうなっているんだろうね?」(という問いに対して)組織は「実はこうだったんだよ」と。個人としては「でも、これを100パーセント正しいとは思ってなくて、進化してる最中だ」という意見がある。

じゃあその落としどころというか、一緒に考えていくとしたら、どうやれば良いんだろう。これがたぶん「良い深さ」と表現されるのかなと。ボックスには深さがあって、この奥にあるのはそういうことなのかなって思いましたね。

世古:上司も、特に中間層だと、それをうまく語れない・伝えられない人がやっぱり多いんですよね。だから「それ、メンバーの人たちに言おうと思ってた」と、準備するわけです。「これ話そうかなと思っていた」と。

あるいは、聞かれてすぐ答えられなかったら「ちょっと待ってね」と宿題にしてしまって良いと思います。そして、また上の人と1on1して確認するわけです。そうやって組織としてのラインがちゃんとつながっていく。テキストとかの情報で上の考えが下に降りて来ていたものが、ちゃんと解釈の齟齬なく伝わっていく。(1on1が機能すれば)これが組織で起こってくるんです。

そういう結節点での対話、アナログの対話の機会がないと、そういうことがやっぱりできないんですね。そういう良い機会にしていくことです。逆に上の人に1on1をお願いして、さらに上司の意見を聞いていく。課長は「部長はこういうふうに言ってたんだよね」と、メンバーにまた伝えていく。

上司もかっこつけずに、わからないことは「わからない」と言いながら1on1していくことがすごく大事。だから、心理的安全性がより重要になってくるんですね。

「こと」に意見も批判も集中する、1on1が機能してない組織

斉藤:今までの情報を基にして、1on1をしない組織とする組織の未来を想像してみたんですよ。

制度や事業の戦略、実施など何かがある時に「こういうプライシングでいくよ」とか「こういう事業やるよ」という「こと」のレイヤーだけでトントントンと伝達されていくのが、1on1が機能していない組織。「こと」だけで、そこ止まり。「こと」に対して批判も意見も集まる。

逆に1on1での対話がちゃんと機能している例では、なんでそういうことをやるのかっていう「理由」が連綿と受け継がれていって、すり合っていく組織になるのかなと。

この「Why」のところで共感され、共振されていれば、「What」に対する工夫がみんなからどんどん生まれていったり、変化を生み出すことができる。「Why」のところで齟齬があるなら、齟齬があっても仕方がないと割り切ることもできるし、逆に離れることもできるし、そういう人を採用することもできるし。

この「Why」のところまでちゃんと広がっていく組織が、1on1がうまく機能している組織なのかなと解釈してみたんですが、どうですかね?

世古:そうですね。やっぱり「Why」、すり合わせのボックスの深さです。深さなので、奥にあることは目先のことではなく「Why」の領域なんですね。1on1によってすり合っていくということは、「Why」の理解が進んでいくことだし。

おっしゃるように、組織の打ち出し方として、最近は「パーパスが大事だよ」とよく言いますが、組織としての「目的」を、採用の(段階でも)伝えていくことは大事になってきますね。

ただ組織の中で、「Why」より、自分の業務「What」が好きだし大事という割り切った人もいると思います。だから、必ずしもみんなが「Why」を知らなきゃいけないということでもないんですね。

また、これも基本に立ち戻ると「部下のための時間」「メンバーのための時間」なんですね。メンバーがすごく「Why」にこだわるのなら、「Why」の話をしていくだろうし。例えばメンバーが「これ、何のためにやってるんですか? ちょっと意味がわからないんですよね」と聞いてくる。あるいは、より上にいくために彼・彼女は「Why」を知らないといけない場合などですね。

また、そんなことは別にして「堅苦しいことを言わずにお互いを知ろう」でも良いと思います。「Why」のことを突き詰めてくと質としては高まるんですが、そのために1on1が取られてしまうと、またすごく固くなるしハードルも上がる。

斉藤:難しいですね。

「1対1の場」である1on1に、何を盛り込むかは自由

世古:「1on1」という言葉って、「1対1」と言っているだけなんですよ。何はともあれ、1対1だけの場なんです。ここに何を盛り込んでいくか。本当にクリエイティブなものなんです。だから何でも良いんですね。

その部下にとって良いこと(ならなんでも良い)んです。その視点で「こんな材料あるんじゃない?」と提示してあげる。だから場合によっては雑談でも良いんですが、そればかりだと、やっぱり質を高めるという話になっていくんですよね。「雑談して意味あるんスか?」ってなっちゃうから。

だとすると、やっぱりそういった深い話もできてくると良い。でも、またそればかりだと「なんかお腹いっぱいです」となっちゃう。だからそこはうまくバランスを取るために、考えて欲しいんですよね。

斉藤:なるほど。この前『人事の組み立て』という海老原(嗣生)さんの著書を拝読したんです。その中で、欧米諸国だと特にエリート層と非エリート層と本には書いていましたが……。

いわゆる、どんどん自己変革をしていく人と、そうでない人を完全に区別する。そうでない層に関しては、もう「What」のレイヤーだけで良いんだと。こんなことを「ちょっとピーキーに言うと」として書いていらっしゃいました。おそらく極端な意見だとは思いますが。

今おっしゃったことって、相手がどんなことを期待しているか、自分と相手の関係性がどうあるべきかによるんだと思うんですね。例えば、すごく「What」を忠実にこなして欲しい人がいて、本人もそれをすることが私の仕事という認識で「別に昇進云々は気にならないですよ」といった時。そこに無理やりこの「Why」のところまでをグーっと押し付けたら、1on1として失敗すると思うので。

その場合はいわゆる「業務改善だったり、業務振り返りに注力した1on1をやりましょう」「あなたとの関係性ではこうやりましょう」と決めても良いですよね。

逆に「次期幹部候補」「もっともっと昇進していきたい人」「自己変革や組織変革を期待している人」などには、組織の方針やカルチャーといった「Why」のところまで共感できる(場にしていく)。この区切り方は、個人との関係性によるんでしょうね。

部下のための時間だが、部下の「Want」に応えるわけじゃない

世古:おっしゃるとおりですね。部下のための時間といっても、部下の「Want」に応えるわけではないんですよ。つまり、部下の「こうしたいんです」「こういうことを話したいんです」にすべて応える、わがままに応えるわけではない。

「Want」じゃなくて「Needs」と言っています。「あなたにとってこういう必要があるよね」ということなんです。今おっしゃったように、上司側が「こういうことを知っておく必要があるよね」ということも伝える。次期幹部候補などには「これから幹部になっていくためには『Why』のことも知らなきゃだめだよね」ということを伝えながら、すり合わせてくことが必要になってきますね。

斉藤:すり合わせができていなくて、不幸な事例も想像できますよね。部下は「私は今、業務のことを大事にしたい。ワークライフチョイスで、どっちかというとライフをチョイスしている。業務のところはきちんとこなすので、給料が下がらないことだけをしっかりしておきたい」という状態だとする。その時に上司が「いや、それじゃだめだ」と無理矢理すり合わせようとすると、部下が期待する1on1にはならないので、それよりそもそもの将来のキャリアについて話したほうが良い。

(そうした時にこの9ボックスを使えば、)「だったらあなたの関係性だと、例えばこういうところに特化していきましょう」など、すごく言えるようになってくると思います。あらためてこの9ボックスは良いなと思いながら、聞かせていただき、問わせていただき、再解釈を進めている最中です。

やっぱりすごくマネージャーの力、特に姿勢が求められますよね。「マネージャー自身が鍛えられる場じゃないでしょうか」と、チャットでもご意見いただきましたが、(あらためてマネージャーの)姿勢が求められるものなんだなと思いました。

世古:上司が「俺のマネジメントスキルを上げていきたいから、そのために1on1を使わせてもらうよ」と言うのは、「あなたのための時間」(という前提があるので、)ちょっと変じゃないですか。部下としては「私のためを思うのなら仕事させて」となっちゃうので(笑)。

だから、上司の立場の方には「1on1は部下のための時間なんだけど、私としてもマネジメントスキルを上げていきたいから、こういうかたちでやらせて欲しい」という言い方をすると良いと言っています。

「教える前提」から「教えてもらう前提」に立たないといけない

斉藤:一番上の「How」のところでいうと、マネージャー自身もメンバーなんですね。マネージャー自身もメンバーとして振る舞うじゃないですけど、メンバーとしての要素もあるってことなんですかね?

世古:要するに、対等ってことなんですよ。フラットな、相互理解とすり合わせの場なので。私がよく言っているのは「機能する1on1」に向けて、「傾聴」や「質問」をピュアな状態でできるようにするためには、「教える」前提から「教えてもらう」前提に立たないといけないということです。

現場では9割以上、マネージャーは「教える」「問題解決する」「伝える」「指導する」などのコミュニケーションをしているんです。やっぱりベクトルは「こちらからあちらへ」なんです。それを「教えてもらう」にしなくてはいけない。「あなたがどういうこと考えているのか教えて、教えて」なんですね。

「何回かミスしているけど、あなたとしてはどんな感じでやっているんだろう。教えて、教えて」「あなたの考えていること、心の中にあることを教えて、教えて」っていうことを、やっていく姿勢になるんですね。

それがフラットさを生んでいくんです。「教える、伝える、説得する」が前提にあると、要するに「上司と部下の、いつもの話」になるんですよ。これはできているので、「そうじゃない引き出しを持ちましょうよ」なんですね。

そうすることでメンバーが考えて、自発的に行っていく。新しいものが出てくる。気づきから変わってくる可能性もあると思うんですね。

斉藤:マネージャーは、経営側が会社として実施していることの理由、「Why」を全部知っていて、語れる必要がある。(そして1on1によって、メンバー側)の得意なことを知る。それを一緒に突き合わせることで、自分のチームの方針や動き方が新しく生み出せるようになる。1on1はそういう場になるんだという姿勢が、マネージャーには欲しいですね。

また、そこをちゃんとメンバーにも伝える。そして、実際そこで対話して生まれたものが、新しい制度や仕組みになったり行動に移っていったりすれば、メンバーとしても「会社やチームにとって、自分の意見が重要なんだ」と内発的動機づけにもなる。そうすれば、冒頭おっしゃっていただいた「1on1をやらないなんて、あり得るの?」っていうところまで、ぐんぐんと進化するのかなと思いました。

世古:本当にそうです。メンバーにとって必要な時間になっていれば、機能しているっていうことなんですよね。業務を進めていく上で、この会社で働いていく上での欠かせない時間になる。

良いことを「良い」って、言葉にできる組織へ

斉藤:ありがとうございます。後ほどQ&Aにも入っていきたいんですが、ちょうど良いタイミングなので我々が行っているサービス、Uniposのことを少しご紹介をさせてください。

私どものサービスはピアボーナスというかたちで、個人が個人に「感謝」「称賛」「慰労」「応援」「労い」などのメッセージを伝えることで、組織を変えるような行動を増やしていく。Uniposとは、そういう組織文化を醸成していくためのサービスであると考えています。

Uniposの仕組みは、例えばAさんからBさんに対して「こういうことをしてくれてありがとうございました」「この挑戦、おもしろいと思うから応援しているよ」などのメッセージとポイントを送ることができます。しかし、オープンな場でしか送ることができません。

オープンな場で送られた感謝に対して、他のみなさんがパチパチパチと拍手を送ると、ポイントが追加されます。称賛を受けた人は、感謝のメッセージと拍手の合計ポイントがもらえます。称賛した側も「見えていなかった貢献を表に出してくれてありがとう」の意味でポイントを受け取ることができます。こういった仕組みを搭載しているんですね。

もちろん、感謝を伝え合う・送り合う習慣自体も大事ですが、(もっと良いこともあります)。オープンなタイムラインで伝えられて、みんなが見る場所でパチパチパチと拍手をする。この拍手の数のところにカーソルを合わせると、誰からメッセージ・拍手をもらったか、自分自身も見ることができるんですね。

そうすることによって、メンバー間で送り合っていた感謝・称賛を、上司の人に知ってもらえるんです。「なんだ、この人こんなことしてるんだ」と知りながら、上司もパチパチパチと拍手をすることができる。マネージャー・経営の方は、1日1分Uniposを見るだけで、メンバーの動きがわかって、さらに拍手をすることで「見てるよ」と意思表示ができる仕組みになっています。

そうすれば、こういう1on1や対話の場でも、メンバーは「(上司は)自分のことを機械として扱っている」と思ってしまっている状態から「知ってくれているんだ」に変わる。これは違うと思うんですよね。

さっき世古さんもおっしゃっていましたが、1on1という場も、1回では終わりませんよね。1on1をして、何かそこで貢献が生まれて、Uniposで称賛を送られて、それを見た人が拍手する。「あっ、なんか知ってくれてるんだ」で、次の1on1に臨みます。

Uniposがあって、ピアボーナスで感謝を送り合う場が前提にあることによって、お互いのことを「知っているよ」「応援しているよ」といった空間を作り出すことができる。それによって次に次にとつなげていくことができる。そんな場作りを、僕らはUniposを通してご支援させていただいてると捉えています。

「Uniposを入れれば、いきなりポジティブな組織になるんですか?」って言われると、もちろん、それだけではないです。こういう1on1だったり、目標設定をつなぎながらになると思います。ただ、お互いの良いところを見つけ合える、良いことを「良い」って言葉にできる組織に変わっていきますよというのが、Uniposのお役立ちできるポイントではないかと思っています。

さまざまな組織でも導入させていただいています。今回、Uniposに関して多くは話しませんが、Uniposを通したウェビナーの実践編もご提供しています。「理念浸透」「エンゲージメント向上」「マネジメント改善」みたいなところでUniposをお引き合いいただいておりますので、ご興味をお持ちの方はお申し込みいただければと思います。

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