2024.10.10
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鈴木泰平氏:今回は「自己組織化」をテーマにして、有機的に動いている組織って何なんだろうとか、「生きている組織」って何なのかという考え方をみなさんにご提供したいと思います。
ということで、次にいきましょう。「生命性の科学」についてです。今までがっつり生命科学で解決してきたんですが、今回はどちらかというと少し物理的な話も入ってきます。なので単語としては今までのテイストとぜんぜん違うんですが、それ自体は別に重要ではないので、単語を覚えるというよりも、なんとなく感覚をつかんでいただければよいかなと思います。
さっそく内容に入っていきますね。こういう問いを投げたいと思います。先ほど、「生きている状態って何?」と書かせていただいたんですが、逆に「死んでいる状態って何?」と聞かれると、これもまた難しいんじゃないかなと思います。
こういう問いが来た時に、みなさんはどういうことを想起されますかね。いわゆる人間が死んでいる状態とは、誰しも一度は目にしたことがあるというか、そういう場面に出くわしたことがあると思います。組織も、物理的に“死んでいる状態”と言われていたりするんですね。
またカタカナが出てきて恐縮なんですが、死んでいる状態とは、物理学的には「エントロピー」という考え方で表現することができると言われています。
エントロピーって聞いたことありますかね。去年公開された『テネット』という映画でエントロピーという言葉が出てきて、一時期みんな使っていた時期があったかなと思います。エントロピーというのは物理学や熱力学の用語で、ここではカオス度と書かせていただいています。乱雑さを表す指標なんですね。
例えば(スライドの)左の写真の状態ですね。これはエントロピーが増大して、要は散らかった状態。部屋がきっちりなっているんじゃなくて、ものがいろんなところに散らかっているような状態が、いわゆるエントロピーが高いということです。
(スライドの)右側のこの瓦礫の状態にも、エントロピーが増大している傾向にある状態と言えると思います。これはもともと建物があって、きっちりしていたものが、いろんな事情があって壊れてしまったりバラバラになってしまう状態にちょっとずつ移行していく。これがエントロピーが上がっている状態ですね。
熱力学第二法則という法則によると、エントロピーとは、基本的には増大していく方向に移行すると言われています。逆に減少していく方向にはいかないと言われているんですね。
何かものがあった時に、それが自然と崩壊していく方向にいくようなイメージです。この宇宙も私たちの体も、いろいろな物理的な構造は、基本的にはエントロピーが増大していって最後に崩壊すると言われています。
「エントロピーが高いってこういうカオスの状態なのね」ということを、なんとなくつかんでいただければよいかなと思います。
こんな言葉があるんですが、熱的死という考え方があるんですね。熱的死って何かというと、エントロピーが増大して広がりきった状態です。これは「平衡状態」とも呼ばれています。
あるシステムの中に、エネルギーの分布の揺らぎがない、まったくフラットな状態になってしまっていることがエントロピーが増大しきった状態で、それが熱的死と言われています。そういった状態だと何が起きるかと言うと、システムが変化しようがなくなってしまうんですね。変化能力がなくなってしまう、これが熱的死となっています。
一方で、反対の非平衡状態というのがあるんですね。非平衡状態とは、システムの中にエネルギーの揺らぎがある状態ですね。(スライドに)四角形があって、このバブルが揺らいでいる状態を表現しているんですが、そういう状態が非平衡状態と言われています。
非平衡状態のシステムは、何か外的な刺激に対して柔軟的に対応できたり、変化することができる。変化能力があると言われているんですね。
なのでエントロピーが増大しきった組織は、物理学的には死んでいる状態という感じなんですね。この非平衡状態が、いわゆる熱的生というイメージかなと思っています。
もうちょっとだけ解説していきたいと思います。先ほどあらゆる物質はエントロピーが増大しきっていき、最後は熱的死を迎えると説明したんですが、これに抗う1つの法則が自己組織化だと言われています。いろんなものが崩壊していく中で、私たち生物の体は今、維持されていますよね。これがエントロピーが増大していない状態なんです。
これはエントロピーが減少していっているから、この形が維持されているんです。それを実現するのが自己組織化なんですね。もうちょっと詳しく見ていくと、自己組織化は3つの条件で成り立つと言われています。
システムが開放系であること、先ほどご紹介した非平衡系であること、あともう1個は自己加速系であること。ちなみにこれ、1977年にイリヤ・プリゴジンという方がこの理論をまとめてノーベル賞を取っているんですが、これらが自己組織化が成り立つための3つの条件だと言われています。
1個ずつ簡単に解説すると、開放系とはシステムが閉じられていなくて、エネルギーや物質が流動する、入ってきたり出たりするようなことだと言われています。
世の中には完全な閉鎖系というのはないんですが、例えばまったくエネルギーが入ってこない・出ていかない四角い箱があるとすると、その中にある閉鎖系のエネルギーはだんだんフラットになっていって、熱的死になっていくということです。
(スライドを示して)もう1個、非平衡はこんな感じですね。システムの中がカオスになると、エネルギーが揺らいでいる状態であると言えます。エントロピーが増大しきって、フラットな状態ではなくて、あちこち分布があって濃度に勾配があるような状態が非平衡系と言われていますね。
もう1個、自己加速系というのは、エネルギーの揺らぎの中で何かの刺激があってどこかのエネルギーが大きく増大するという現象。それが自己加速系と言われてます。どういうことかと言うと、システムの中に循環があって、エネルギーのやり取りもあって、ある部分で大きくエネルギーが増幅されている状態が自己加速系と言われているんですね。
この自己組織化の3つの条件が成り立っていると、エントロピー増大則に抗って、生き物は自分の体を維持したり、物体はその形を維持することができると言われます。
例えば、先ほどの渦潮がありましたよね。渦潮も、この3つの条件で成り立っていないと渦ができた後にすぐにふわっと消えてしまう。けれどあの渦潮は開放系であり、渦の中に揺らぎがあって、どこかのエネルギーが加速して大きくなっているから、渦を維持できる。これが自己組織化です。
一般的に、生命は自己組織化によって自身の状態を維持していると言われているんですね。ここから、生きている状態と死んでいる状態がどんな状態かをまとめてみました。(スライドを示して)こんな状態ですよね。死んでいる状態は、自己組織化の反対のシステムの状態を表現しています。
生きている状態は、(スライドの)上の自己組織化されている状態です。システムの開放系であって、非平衡系になっていて、自己加速系の様態を取っている。一方で死んでいる状態はどういう状態かというと、閉鎖系で平衡系で、自己減速系になっている。
閉鎖系とは、このシステムの中になんのエネルギーも入ってこないし出てもいかない、エネルギーの流動がない状態です。平衡系は先ほどから解説しているとおり、エントロピーが増大しきっていて、エネルギーが一定で揺らぎがない状態です。自己減速系は、システムの中の1個1個のエネルギー源がつながっていなくて、それぞれ独立している、分散しているような状態です。
熱力学的にいう自己組織化の状態が生きている状態で、反対の状態が死んでいる状態ということかなと思っています。けっこう概念的なんですけれども、自分の組織に当てはめると、意外と死んでる状態になってるかもなぁというのは想像できる気がします。
例えば、自分の組織のメンバーがずっと一定で外部から誰も入ってこないし退職もない。みんな同じことをやってる平衡系みたいな状態で、独立してエネルギーの奪い合いをしている。イメージしてもらうと“死んでる”というか、すごく無機質な状態に見えるんじゃないかと思います。
一方で、生きている状態ですね。いろんなメンバーがジョインして・出ていくアクティブな開放系の状態で、中のメンバーもいろんなことをやっている。
あの人はこういうことをやっていて、この人はこういうことを感じているというふうに、多様な非平衡系である。そして自己加速系。「いいね」とか共感の中で、何かエネルギーが立ち上がっていく状態を想像してもらうと、それは生きている状態と言えると思います。
もう少し具体的に、どういう状態なのか見ていきましょう。先ほどのシステムというものは、組織の箱というイメージなんですが、これをビジネスのシステムに置き換えると、組織構造や風土的な部分に例えられると思います。
エネルギーは、いわゆる人・物・金・情報です。これらの動きがエネルギーであるということを、それぞれ3つの要素に当てはめて、生きている状態を見ていきましょう。
1個目、開放系は開かれた組織であるということですね。(スライドの)右側を見てください。システムの構造としては、いろんなステークホルダーが関われる組織であり、排他的ではなくて新しいメンバーが加わってくるなどの新陳代謝がある。副業も含めて、多くのステークホルダーが関われる、アクセスされやすい状態になっているということですね。
風土に関しても、いろんなメンバーが共創して流動する中で、いろんな場面でシナジーが生み出されることが奨励されているのが、開かれた組織であると言えると思います。エネルギーに関してはこんな感じですね。
今回は人と物は1つの要素にまとめましたが、さまざまなステークホルダーが関わっていて、人の新陳代謝があって、売上が上がっているというのは、とても大事だと思います。
さらに、外部からエネルギー(お金)が入ってきて、それを何か投資することが、インプットとアウトプットがある状態になっている。何も稼げないし、何も投資ができない組織は、どんどんシュリンクしていってしまいます。
次に情報ですね。情報収集が盛んになって、外から情報が入ってくる。さらに情報が発信されていくというのが、開かれた組織のイメージだと思います。
もう1個ですね。非平衡系の状態を一言で言うと「多様性のある組織」と言ってもいいと思います。システムの構造としては、いろんなメンバーがある程度自由な働き方の中で、揺らぎのある動きができるということです。
非平衡系の風土としては、挑戦が奨励されていたり、「創造することが価値だ」と言えるような風土。同じ定型的な仕事をするのではなくて、ちょっとイノベーティブなことを立ち上げてみようとか、一歩踏み出した挑戦をしてみよう、みたいなことが奨励されている組織は、非平衡系ですね。
エネルギーとしての人の動きが固定されておらず、ある程度柔軟に必要だと思ったことができる権限がある。「あなたはこの役職でこの仕事だけをやりなさい」ではなくて、役割が柔軟で、権力が分散しているような組織ですね。
指示命令系統がないティール組織が、まさしく非平衡系を表現しています。誰かがトップダウンで命令して同じようなことをやらせるのではなくて、ある程度中のメンバーが自由に働けたり、自由に考えて行動できるのが、より非平衡系な状態と言えます。
お金に関しては、年の最初にきっちり計画を立てて、そのとおりに使っていくのではなくて、ちょっとここに必要だから少し比重を動かそうか、というような自由な使い方ができる状態が、非平衡系な状態だと思います。個人個人に予算がついていて、ある程度個人の判断で使用できるというのも、非平衡系のイメージです。
あとは情報ですね。1つの情報がトップダウンでおりてきて、その情報をみんなで見るだけではなくて、ボトムから情報が発信されたり、組織をまたいだ情報交換がある。情報の発信が固定された組織ではなくて、組織の中にさまざまな情報発信の形態があり、いろんな情報が行き交っているのが、非平衡系の状態です。
感情や内面の共有があるのもとても大事です。同じ行動をさせるとなると、ジョブ型のようなタスクベースで人を見るんですけれども、人っていろんな感情があって心の動きがあると思うんです。それを共有できる場があるとエネルギーの揺らぎを生んで、新しいアイデアの種になっていく。これが非平衡系な状態かなと思っています。
もう1つ、自己加速系ですね。これは軸と共感がある組織という表現をしています。組織構造としては、エネルギーが巡りやすい状態ですね。中で循環していって、どこかで大きく膨れ上がっていく。そして、それを支えるようなコミュニケーションのチャンネルが多い。一方通行ではなくて、いろんなコミュニケーションのやり取りができるような仕組みになっている。
風土としては、共感や応援の風土があって、軸となるパーパス的なものが存在しているということ。なんでもかんでも「あれいいね、これいいね」ではなくて、大きな軸の中で「こういうことをやっていこう」というアイデアや動きが増幅されていくのが、自己加速型の状態です。
(次に)エネルギーですね。人と物に関して、大きな軸のもと、自律分散の取り組みが現場にあったり、共感的な態度を持って各々のメンバーが関わるようになっている。
何かを言ったら「それは成功しないよ」「それはやっても意味がないよ」という反応ではなくて、ある程度共感的な態度を持って「それいいね。ただ、こういうところはもうちょっとチューンナップしたほうがいいかもね」というやり取りが起きている。
お金に関しては、本当に大事なところに投資できるということ。各部署に同じ額を分配するとか、計画どおりに分配するのではなくて、ある程度勾配を持って大事だというところに投資できるほうが、自己加速系を生み出しやすいと思っています。
最後に、情報ですね。情報は発信とリアクションの数が多いということかと思っています。あるメンバーが発信する。それに対してリアクションが起きないと、「これもいいかもね」「あれもいいかもね」と意見が膨らんでいかない。ですから発信のリアクションが多いというのも、自己加速系を生み出しやすい状態なのかなぁと思います。
ここまでが自己組織化の3条件と、それを今のビジネスの組織に当てはめたまとめです。もう少しだけ、最後のまとめになります。これまで自己組織化の話をしてきたんですけれども、自己組織化って無機物でも起きる現象なんですよね。
先ほどご紹介した雪の結晶や渦も自己組織化によって生まれているものです。あれってあきらかに生きている状態ではないけれども、生きているような挙動をします。
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