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受賞企業パネルディスカッション(全2記事)

福利厚生を充実させたのに、それでも辞めていく保育士たち 離職率を大幅に下げた、給与・休日以外の“ある要素”への着目

コロナ禍でのテレワーク浸透により埋もれた「組織の素晴らしい貢献」を見える化するため、2021年4月よりUniposが開始した「すごい仕事の舞台裏大賞―Unipos Award―」。本記事ではその中から、「最優秀賞」を受賞した伊勢丹新宿店の中井達也氏、「組織風土賞」を受賞したサントリーパブリシティサービスの大角晴美氏、「理念浸透賞」を受賞した日阪製作所の蓮井恵一氏、「マネジメント賞」を受賞したハイフライヤーズの日向美奈子氏が登壇した、パネルディスカッションの模様を公開します。 中竹竜二氏による基調講演「組織文化は戦略に勝る―ウィニングカルチャーをつくる組織の本質―」はこちら

「すごい仕事の舞台裏大賞2021」受賞4社のディスカッション

斉藤知明氏(以下、斉藤):ではこれから、ディスカッションに移っていきます。さきほど「すごい仕事の舞台裏大賞2021」として、4社のみなさんを表彰させていただきました。伊勢丹新宿店のみなさん、サントリーパブリシティサービスのみなさん、日阪製作所のみなさん、ハイフライヤーズのみなさん。

僕らは今回「すごい仕事の舞台裏大賞」と、このように賞を定義しています。さきほど中竹(竜二)さんの基調講演もありましたが、どのように組織文化を知り、なぜそれを変えないといけないと感じられたのか?

また、それを変えるためにどう取り組んでいかれたのか? その結果、どんなことが生まれたのか? どうやって周りに広げていったのか? さらに今後、どんなことに取り組んでいくのか? について、「最優秀賞」を受賞された伊勢丹新宿店の中井さん。「組織風土賞」を受賞されたサントリーパブリシティサービスの大角さん。「理念浸透賞」を受賞された日阪製作所の蓮井さん。「マネジメント賞」を受賞されたハイフライヤーズさんの日向さんにおうかがいしていきます。

(※資料の都合上、伊勢丹新宿店様はスライドには登場されません。あらかじめご了承ください)

ではさっそくですが、今回のパネルディスカッションのテーマは「組織風土」。コロナという、さまざまな変化があったタイミングでした。中竹さんも「組織文化を変えるには、まずは知ることから。その後に進化させていく」とおっしゃっていました。

そこで大きく2つのクエスチョンを用意しております。今回の「すごい仕事の舞台裏」に応募いただいたエピソードを元に、組織作り・風土変化させるきっかけとなった事象には、どんなことがあったのでしょうか? また、それを受けてどんな取り組みを実施されたのか? 取り組みの成果、どんな成果が出たのか? について、順番におうかがいしていきます。

大きく2つに分かれている、伊勢丹新宿店の営業部門

斉藤:ではさっそくですが、中井さんからお願いします。

中井達也氏(以下、中井):よろしくお願いします。簡単に自己紹介させていただきます。1997年に三越に入社しまして、以来、紳士部門を担当していました。バイヤーや、メンズ館のリモデル(改装)を担当しておりました。2018年からCS・ESを推進する部署に携わっており、Uniposの運用をはじめ、いろんな業務改革を主導しています。

今日、ご紹介する事例。伊勢丹新宿店は、コロナ禍前の規模ですが「年間の来店客数」が約2,500万人(コロナ禍以前)。東京ディズニーランド、ディズニーリゾートの年間入園者数と同じくらいの方にご来店いただいていた、日本を代表する百貨店でございます。

お取組先の従業員も含めて1万人以上が働いている、売上も日本で最大の百貨店で、(伊勢丹新宿店は)㈱三越伊勢丹の百貨店売上高3割くらいを占めるような店舗です。

組織作りをするきっかけとなった事象についてお話しします。伊勢丹新宿店の営業部門は、大きく2つに分かれておりまして、1つは「外商」という部門。もう1つは「店頭の営業部門」でございます。

外商部門は“場”を持ちません。富裕層のお客さまが多く、基本は「one to one」の商売をしており、外商ではそのお客さますべての要望にお応えしています。

一方で店頭の営業部門というのは、当然“場”があって。その場には「紳士」とか「婦人」とか「食品」といった領域があり、先ほど申し上げた「2,500万人」の不特定多数のお客さまのご対応をします。中にはカードを持っている方(識別顧客)もいれば、持っていない方(非識別顧客)もいらっしゃいます。

外商部門について。私たちは外商部門の担当者を「セールス」と呼ぶのですが、この外商のお客さま達に「もっとたくさん伊勢丹新宿店を利用してもらいたい。もっといっぱい買っていただきたい」ということで営業活動をしています。

一方、店頭の営業部門について。先ほど申し上げた「非識別顧客」や不特定多数のお客さまの中でも、非常に(購入の)ポテンシャルのあるお客さまがいらっしゃるので、そういったお客さまを固定化して、有力客としてゆくゆくは外商顧客にしたい。そのために店頭のお買い物をサポートする、各領域のスペシャリスト「ストアアテンド」というチームが組織されました。

(スライドを指して)「課題」とあるんですけれども。セールスに関していうと「one to one」の商売をしておりますので、どうしても(対応能力に)限界があります。1人で何人ものお客さまを担当していますので「この日はご案内できない」といったこともあり、売り逃しがあったり、あとはやはりどうしても“個人商店化”しやすいという特性があります。ノウハウが個人に蓄積されてしまい、担当者間で引き継がれず組織知化しない。

また、売るものが偏る。呉服、美術、宝飾というのは、非常に単価の高いものばかりで、中にはそこばっかり売ってしまう人もいたりなど。そんなこともあるので「果たして本当にお客さまのニーズをすくえていますか?」と感じることも少なからずありました。

コロナ禍でも「売上106パーセント」の成果を出せた、バディ制度

中井:次に、ストアアテンドという領域のスペシャリストについてです。紳士や食品、婦人とか、特定部門の商品知識があるので、その分野の中では非常に満足いく接客ができるんです。一方で、お客さまから「ちょっと今日は○○を見たいのよ」「今日は××を見たいのよ」と言われた時に、部門の壁を超えてご提案するのが非常に苦手。

「狭く深い接客」は得意なんですけど、そこを“横に広げる力(連携)”がなかなか上手くいかない。なので、(スライドを指して)この両者の矢印のズレを合致させたい。そういったことで生まれたのが「バディ制度」でございます。

これまで、外商「顧客」と外商「セールス」の関係があったんですけれども、この関係に先ほど申し上げた「ストアアテンド」を加えたわけですね。

例えば、外商のお客さまから「今日は食品が見たいのよ」というニーズがあった時に、今までは外商担当がすべて担当していたんですけれども、各領域のスペシャリストであるストアアテンドと組むことによって「わかりました。では担当を連れてきます」と。そうなると、ストアアテンドの力を使う事でそれまでの外商セールス1人ではできないような、深い提案ができる。

お客さまから「今日は紳士服と婦人服と子ども服が見たいのよ」「わかりました」ということであれば、その時には紳士服と婦人服と子ども服のストアアテンドたちと外商セールスがチームを組んで、多くの領域のもので深い提案をする。いわゆるCS向上のための仕組みを構築したということでございます。

バディを組むことによって、先ほどご説明したとおり「領域」に壁があってそこに閉じこもりがちだったストアアテンドたちも、外商セールスとともに行動することでおもてなし技術が向上したり。あとは他領域のメンバーとチームを組んだことによって、ストアアテンド間との連携も生まれるわけですね。

そしてまた、お客さまに満足いく提案をするための商品情報収集力。「今日はこれを提案しよう」というように、事前にもっと情報を集める力がアップしました。

このストアアテンドと呼ばれた人たちは、各領域ごとに「いいお客さま・有力客」を抱えていたのですが、そういったお客さまを外商セールスとつながることで外商化したり、あとはそういった有力顧客に、(他領域のアテンドとの関係が出来たことで)別の領域の商品を提案できるようになったり。内部の人間関係にも線が引けたというのが、このバディ制でございます。

結果といたしまして、2020年度。昨年度はコロナ禍で、非常に苦戦したんですけれども、外商のお客さまに限って言えば、客単価は125パーセント。そして売上は106パーセントという成果を出せたのが、弊社の「バディ制度」でございます。

斉藤:ありがとうございます。まさに「組織作り」をするきっかけとして、今までは(社員間の)コミュニケーションがなかなかなかった。だけどそれを生まないと、法人である以上は「売上を向上させる」「利益を向上させる」ということが目的である。そこから逆算した時に「お客さまに価値を提供するためには、ここのつながりが重要だ」と。だからコラボレーションを生んでいったというところがポイントかなと、お聞きしていて思いました。

よく「コミュニケーション促進・コラボレーション促進」というのが、すごくバクっと(大枠で)語られてしまう中で、伊勢丹さんの中だと「こことここをちゃんとつないだら、顧客への提供価値が上がるんだ」というところを、まず知って。そして逆算したところから、コラボレーションを仕込んでいく。そういう流れだったんですね。

中井:おっしゃるとおりです。

斉藤:ありがとうございます。

現場で感じる「一人ぼっちで仕事をしている」ような孤独感

斉藤:では続きまして、大角さん。サントリーパブリシティサービスさんの事例をお願いします。

大角晴美氏(以下、大角):よろしくお願いいたします。サントリーパブリシティサービスの大角でございます。私たちの仕事には「現場」が、全国で80箇所ほどございます。施設の“顔”として、いらっしゃったお客さまをおもてなしして、その施設が紹介している製品やサービスをお客さまに伝えるという仕事をしております。

朝、いったんスタッフが集まるんですけれども、その時に「今日、自分はどこの仕事をするのか」という予定を確認した後はそれぞれのポジションに行って、そこで1日の仕事をきっちりと遂行しております。

お客さまの前では、スタッフ同士が話しをしていますとパッと見では雑談しているように見えてしまうこともあります。そのため、基本的に業務の引き継ぎぐらいの話ししかしません。また、出社時間や休憩時間も違いますので、同僚同士のコミュニケーション機会も、非常に限定的になっています。

非常に真面目で優秀なスタッフが多いのですが、やはり覚える仕事も多いので、一定の仕事を覚えるまでに時間を要してしまう部分もあります。ベテランスタッフと入社したばかりのスタッフにはちょっと差がある、という現状もございます。

そういった中で現場にいますと、「一人ぼっちで仕事をしている」ような孤独感を感じたり、なかなか仕事が覚えられていない・成長していないような気持ちになってしまったり。結果、それが離職につながって、また採用を繰り返すというような、そんなサイクルになってしまっていました。

「原因の1つはコミュニケーション不足ではないか?」という仮説は持っていたんですが、あらためて「自分たちはどんな組織を目指していて、どんなチームにしたいのか? 本当に安定した組織というのは、どういうものなのか?」という問いを、自分たちで立てるところから始めました。

「従業員満足が、お客さま満足の向上にもつながっている」

大角:「安定した組織・安定したチームというのは何か?」を考えた上で、今度は(スライドを指して)左側にあります「安定運営のための要素とは、どういうものがあるのか?」というところを、自分たちで考えました。

そして「安定運営のための4要素」と呼んでいる、こちらを作り出しまして、この中でも自分たちですぐにできる、赤囲みしております「コミュニケーション機会を充実させる」からスタートいたしました。

ひと言で「コミュニケーション機会」と言いましても、左下にありますように、面談や相談、対話、議論など、いろんなコミュニケーションの機会があります。なので、この「コミュニケーションの機会を整理する」ところから始めた結果、やはり相談や面談の時間を充実したものにするためには「日常的な会話・雑談が非常に有効で、これがないと面談や相談もいい場にならないのではないか」という結論に至りました。

そこで会話を補うために、Uniposさんを導入してご協力いただいています。もちろん日常的な会話で称賛するとか、褒め合うということもやっています。中でもハッシュタグ機能をうまく使って、当社の掲げる価値観であるバリューをハッシュタグ設定し、日常的にUniposを利用しながらバリューを涵養させる(会社のバリューに親しむ)ような工夫もしております。

その結果として「従業員満足が、お客さま満足の向上にもつながっている」ということを、手応えとして少しずつ感じ始めています。(スライドを指して)左側にありますように「従業員満足」でいいますと、1年に1回「社員意識調査」を実施しているのですが、前年度と比べまして、複数の項目でポイントが少しずつアップしております。

中には「心理的安全」といった項目も含まれていて、こういった項目がアップしているということは、活動の成果ではないかな? と感じております。また、その結果として、右側にありますが「お客さま満足」も向上しているといえるような事例は見えてきました。

(スライドを指して)右上の事例ですが私たちのお客さまは「クライアント」という、私たちに仕事をくださっているお客さまと、それから私たちが直接接点を持っている「一般消費者の方」と、2通りあります。仕事をくださっているクライアントさまから、最近はいくつか表彰を受ける機会がございました。

右下にあります「ハッピーレスポンス」というのは、例えば商業施設のインフォメーションなどで、対応が終わるとお客さまはいったん立ち去るんですけれども、そのあとわざわざインフォメーションまで戻ってきて「さっきはありがとう」と、お礼を伝えてくださることがあります。これをハッピーレスポンスと呼び、カウントしています。

このハッピーレスポンスの獲得率なども、最近少しずつ上がってきております。Uniposで承認・感謝を伝える、スタッフの会話が増える、会社のバリューに親しむといったハッピーサイクルの結果として、従業員満足が上がり、お客さまの満足の向上にもつながっているのではないかと感じております。

斉藤:なるほど。ありがとうございます。

時代とともに低下してきた、会社の求心力

斉藤:続いて「理念浸透部門」の日阪製作所さんより、蓮井さん。お話しをおうかがいできればと思います。

蓮井恵一氏(以下、蓮井):日阪製作所の蓮井です。弊社は大阪に本社を構えております、従業員が670人くらいの中堅の機械メーカーでございます。今回は「理念の再構築」ということを行いまして、その背景から説明させていただきます。

会社の状況は、中途採用者がけっこう増えてきました。450人ぐらいだったのが、ここ7~8年で670人くらいになって、1.5倍に社員が増えております。また、グループ企業が増えたことで、習慣とか価値観の違いを感じることが多くなってきました。また、時代とともに「個人主義」といいますか、ひと言でいうと「会社の求心力が低下してきたな」というところもありました。

このようなことから「会社の意思決定の判断軸を経営理念に置く」ということを、社長が宣言しました。その時の社員の状況はどうだったのか? ということで、2019年12月に全社員に「理念の浸透度調査」を行いました。

結果は、社訓の「誠心(まごころ)」はシンプルなので、ほぼ全員が理解しておりましたけれども、その他はイマイチという状況。業務に落とし込んでの行動というところは、社訓ですら15パーセントと低い状態でした。

この要因の1つとしては、理念の種類が7つも8つもあって、つながりもわかりにくいというところから「理念を再構築していこう」という決断に至りました。

「社員参画型での理念再構築」をいかに自分ごと化してもらうか?

蓮井:取り組みの内容は「社員参画型での理念再構築」。上から下ろすだけでなくて「いかに社員に自分ごと化してもらうか?」ということを、大事に考えて実施してきました。

ステップとしましては、理念が7つも8つもあるところからシンプルに、ということなんですけれども、まずは本社部門の部長クラスで構成されたプロジェクトで、素案を作成しました。そして去年の9月に、その素案を社員に説明する場を設けました。

その際に、素案に対するアンケートへの協力の依頼と、全社的な横断プロジェクト・理念体系の構築プロジェクトを作るので、そのメンバーを公募しました。

プロジェクトでその素案をプラッシュアップして、(スライドを指して)右にも記載させてもらっていますが、新理念体系「HISAKA MIND」が今年の3月に完成しました。この4月からは「HISAKA MIND浸透プロジェクト」ということで名称も新たにして、浸透施策を検討・実施をしております。

成果としましては、1つ目は「短期間での新理念体系完成」。素案段階でアンケートを実施しましたので、検討すべきポイントが明確となりまして、約5ヶ月というスピードで新理念体系を完成することができました。

2つ目は、率直な意見交換で素案をブラッシュアップできたことです。先ほど(の授賞式)ビデオメッセージでもいただきました「心理的安全性を高める5つのグランドルール」ですね。これをリーダーが設定するとともに、毎回スタートでグランドルールを確認したことで、本当に率直な意見交換ができまして。素案の内容が大幅変更になりました。

3つ目が「社員に伝わりやすい新理念体系」。2回の社員アンケートを実施したことで、社員の受け止め方もだいたい把握ができました。そのために、シンプルでわかりやすい理念にすることができたということ。加えて文章だけでなく、先ほどのページでご覧いただいたように、体系図として集約することで、社員に伝わりやすい理念を作成できたのではないかと思っております。

斉藤:ありがとうございます。チャットで「グランドルール、素晴らしいですね」といった声がみなさんから届いています。まさに、今回のお話に上がっていた「知り、変え、進化させた」という過程の中の「知ること」って、正直けっこう耳が痛いじゃないですか。

「理念浸透やるぞ。理念中心でやるぞ」と言って、15パーセントしか行動していないって、ちょっとドキッとしますよね。というところで、知って、その課題観を共有して。あらためてネガティブなこともあるから、そこをちゃんと「聞く姿勢、褒める姿勢、受け止める姿勢」を保って。かつ、否定し合うとかではなくて、楽しみ合う。そういう姿勢を大事にされて、取り組んでいらっしゃった事例なのかなと思います。

福利厚生を充実させたのに、それでも辞めていく保育士たち

斉藤:では最後に、ハイフライヤーズさんから、日向さん。お願いします。

日向美奈子氏(以下、日向):株式会社ハイフライヤーズの日向美奈子でございます。よろしくお願いいたします。弊社は千葉県で13園の認可保育園を運営している会社です。園名がキートスチャイルドケア、キートスベビーケア。キートスとはフィンランド語で「ありがとう」という意味を持っており、創設当時から「ありがとう」のあふれる保育園をめざしております。

今回、私たちが組織作りをするきっかけになった事象は「離職率が高い」。このひと言に尽きます。全国的に保育士不足が騒がれていますので、弊社だけが突出しているわけではないのですが……保育園というのは、保育士の数で預かれる子どもの数が法律で明確に決められているので、

保育士が1名退職すると、その分、預かるお子さまの数を減らさなければいけません。そのため、当園に「入園させたい」と希望してくださっても、保育士が足りなくて利用希望者をお断りしなければならないという事態になりました。これは大変困ったことです。

そこで、いろいろな対策を考えました。一般の企業さんでは当たり前のことなのですが、「福利厚生を充実させる」ために保育園ではなかなか難しい「完全週休2日制」を導入しました。また、遠方から来た社員に対して、自己負担ゼロで会社が家賃を補助する仕組み。そして「有給休暇を100パーセント消化」。

私たちからすると「これだけ福利厚生を充実させれば、辞めないでいてくれるだろう」と思っていたのですが、それでも保育士が辞めていく。「離職率が大幅に減る」ということはありませんでした。

自然発生的な感謝が生む、どんな福利厚生より価値のあるエンゲージメント

日向:ここまでほぼ毎年、新規開園をしてきましたので、新卒採用がかなり多かったんです。ということは、入社する保育士は20代前半がすごく多いので「若い世代がいったい今、何を必要としているのか?」というところを考えました。

給与や休日といった部分だけではなく、いわゆる「SNS世代」なので、仲間からの「いいね!」がほしいのではないか? 「ありがとう」と言って認められ感謝されることが必要なのではないか? ということで、Uniposさんを導入しました。

仲間同士だけではなくて、私たちはお子様を預かる上で、保護者の方とのコミュニケーションもすごく重要だと考えています。保護者の方からいただいた声を、受け取った保育士だけが受け取るのではなく、保護者からの感謝をUniposのメッセージに載せて、他の保育士にも伝えることを始めました。

Unipos(メッセージ)を受け取った保育士には、保護者が感謝してくださっていることを知ることができることで「うれしい」という面と、保護者からの声を受け取った保育士が自分に伝えてくれたという、二重の喜びがありました。

また新入社員は、学校で保育の勉強をしてから入社してきますが、現場に出て「いったい自分は、まず何をしたらいいんだろう? 自分には何ができるんだろう?」というところで、最初に躓くんです。

そこで新入社員に対して「まず1日1通以上『ありがとう』という感謝を、一緒に働く仲間・先輩に送ること」を仕事にしました。そうしたことによって、問題となっていた離職率が、34.7パーセントから10.4パーセントまで大幅に低下しました。離職率が低下したことによって、当園にお子様を預けたいと言ってくださる方の希望を、100パーセント受け入れることができるようになりました。園児の数が増えましたので当然、売り上げも増えました。

このように、それまでは辞めない組織には「上司からの評価」であったり「処遇・待遇」が必要だと思っていたのですが、Uniposを導入したことによって、自然発生的に「ありがとう」が溢れ、どんな福利厚生よりも価値のある、強いエンゲージメントを生んでいるなと実感しております。

斉藤:ありがとうございます。「たどり着いたプロセスがすごい。みなさん素敵だな」というチャットもいただいています。

「合意のステップ」の難しさ

斉藤:今回は「知って、変えて、成果につなげていくというステップだ」と、基調講演で中竹さんがおっしゃっていました。ハイフライヤーズさんは「離職率が高い」「利用希望者を断らざるを得ない」「困った」。それは福利厚生だけではいかんともしがたい、というのが見えてきた。

また日阪さんですと、会社の意思決定。グループ企業が増えてきて、意思決定の事項を「数値」とか「事業」とかではなくて「理念」という一番抽象化したものに置かないと、まとまりが取れないんじゃないか? という課題設定を行われた。

そしてサントリーパブリシティサービスさんでも「おもてなし&ファン作りのプロ」と言っている我々が、孤独感を感じているってどういう状況なんだろう? これを改善していかないといけない、と。

伊勢丹新宿店さんでも、ものすごい現状の整理をしていただいていますよね。売上から逆算した時に「ここが僕らの売上を伸ばするためのボトルネックになっている」と、特定されたというステップがあったと思います。

これってみなさん、パッと合意できましたか? というのがすごく気になっていまして。「課題を見つけたぞ」というステップ。「こういう課題があったんですよね」からの取り組みのステップとしてお話しいただいたんですが、この合意のステップってものすごく難しいなと感じたんです。

中井さん。「伊勢丹新宿店における課題って、まさにこれとこれだよね」という合意って、どうして社内でやってらっしゃったんですか?

中井:そうですね。このあとのスライドでそこを説明しようと思っていたんですけど(笑)。 

斉藤:(笑)。

中井:先に話すと、やはり「組織の“箱自体”のかたちを変えなきゃダメだよな」と。そういったハード的なものもそうなのと、あとはやはり人と人。コミュニケーション。そこを改善する。やはりその2軸がないと、この仕組みってうまくいかなかったなというのは、あとから振り返るとありましたね。

斉藤:なるほど。「売上を伸ばす」という最上の目的があった中で、事業的なコラボレーションもそうだし、そのためには「個人と個人の関係性」を作っていかないといけないという両方があるし。というところかなと。

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