2024.10.10
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浜田敬子氏(以下、浜田):質問欄がすごいことになっていて、ものすごくたくさん質問が来てるので、ちょっと質問タイムを多めに取りますね。福地さん、私が4月にIBMの研修に呼ばれた時に、福地さんの講演を聞いて、「すごい、これはいいな」と思ったことがありまして。
「男性の経営層が、女性のリーダー・ネクストリーダー層に対してスポンサーになる」とおっしゃっていましたよね。福地さんがそれを最もやってらっしゃると話していただきましたが、このあたりをちょっとお話ししていただいていいですか。
福地敏行氏(以下、福地):わかりました。いわゆるジェンダーダイバーシティ、「女性の上位職登用」を考えた場合に壁になっていることが2つあります。1つは男性のアンコンシャスバイアス(無意識な偏見)ですね。
あるチャレンジングな仕事があった場合に、「これを任したら大変だろう」「週末もやらないといけないし、お子さんがいるから大変だな」という、余計なお世話ですよね。男性の勝手なアンコンシャスバイアスで、女性の活躍するせっかくのチャンスが失われているんじゃないかなというのが1つ。
もう1つは女性のレディネス(心身の準備)ですね。「私にはまだ早い」とか、「私はあんなロールモデルみたいな人にはまだなれない」とか、そういった準備不足があります。これは男性のサポートが絶対に不足しています。このために、メンターではなく「スポンサー制度」をやっています。
リーダー候補は早くからスポンサーがついて、準備を進めていくというか、(男性が)背中を押してあげる。そういう機会を作ります。場合によっては、管理職になるポジションまで考えて、「このポジション、どうだ。やってみるか?」というところまでやっていきます。
なぜなら、そうやって「できると思ってやってみろ」と言われた女性は、管理職になったらものすごく力を発揮します。その壁を乗り越えるかどうかは、やはり準備を進めて最後背中を押す人がいるかどうかなんです。
男性は今までそれが当たり前にされてきたんですよね。「お前やってみるか」と言われたら、男性は「はい、やります」と言って、失敗もたくさんしたと思うんだけれども、成功もして壁を乗り越えてきた。そういうトリガーを男女問わず与えていくのは、トップとか管理職のミッションかなと思っています。
浜田:福地さん、それってやはり女性のマインドセットを変えるだけではなかなか解決しない。むしろ仕組みとか構造的に背中を押すものがないと、なかなか難しいということですね。
福地:そう思います。そのスポンサー制度以外にも、女性の管理職候補を「50」と呼ぶ、50人の候補を推薦あるいは実践で選んで、そのコミュニティの中で部門を越えて「痛み」を共有して、レディネスを高めていくプログラムもやっておりまして、我々も参画してやっています。実際にそのうちの半分以上は管理職になっていますね。
浜田:ありがとうございます。ちょっと違う時点での質問を魚谷さんにうかがいたいんですが、先ほど数値目標を思い切って出して、経営をコミットメントさせることが大事だとおっしゃいました。
この「数値目標」についてはやはり賛否があって、数値がありきで能力のない人をあげるのかとか、男性からは逆差別じゃないかというようなことが言われます。この意見に対して、魚谷さんどうお考えですか。
魚谷雅彦氏(以下、魚谷):みなさんが危機感を持って(いるからこそ)今日の議論のポイントになっているわけですけれども、今の日本の多くの企業の状況からいうと、それまでと違う、かなり大きな負の流れがあるわけですよね。
魚谷:私は今、30% Club Japan(取締役会を含む企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を目的とした世界的キャンペーン)の会長をしています。キリンの磯崎さんも含め、30社以上のトップに入っていただいてみんなで取り組んでいるんですけどね。
女性の方(のキャリア)には3回のターニングポイントがあるんですね。女性の方はまず会社に入って、その現場がだいたいボーイズクラブで出来上がっていて、中になかなか入れない。それから結婚とか出産とかの時期になって、続けられるのかどうかというポイントが来ます。
がんばって育児休暇を取った後も復帰してがんばります。それから先ほど出ていたような、「あなたに今度はリーダーになってほしい」、あるいは「もっと会社経営に携わっていてほしい」と。
こういう3回(の壁が)おありになるとよく聞くんです。別に男性にはそれはないので、当たり前のようにみんなやってきたわけですよね。しかし(女性にはいまだに)3回の壁があるという現実があるので、それを変革しなきゃいけないですよね。
変革するためには、先ほど出たようないろんな仕組みとかを作り、男性の意識とかを変えていかなければいけない。
例えば、僕は2030年よりもっと早く(実現させよう)と言っているんですが、男女の機会均等について「50・50って目標じゃなくて『当たり前』にしましょう」と言ってるんですね。結果的にそれが何パーセントとかに変わるかもしれないけど、男性も女性もあるポジションに対して均等になるのが当たり前だと思っています。
そういった意味で、まず1つは(目標を)掲げて、それに対してのいろんな動きをしていかないと何も変わらない。
日本は121位というジェンダーギャップインデックスが現実としてあるわけですから、やはりなんらかのかたちでトップダウン的にビジョンを示すことが非常に重要だと思うんですよね。もちろんそれはなぜ必要なのかとか、どうすればいいのかということを抜きに、単純に目標値だけと言っているわけではまったくないですからね。
浜田:ありがとうございます。福地さん、IBMにも数値目標ってあるんですか。海外も含めて、このあたりはいかがなんでしょうか。
福地:実質数値目標があります。目標自体は国によって違うんですよね。同じIBMの中でも、日本はまだまだ低いんですよ。目標値自体は違いますし、数値目標自身がゴールだとは思わないんですけど、私はやはりある一定量に達するまでは設定するべきだと思います。
優秀な人材を経営判断の場にまで引き上げていくという意味では、女性をその場に持っていくことが必要だと思いますから、やはり意識的なレベルに達するまでは、数値目標を設けて作っていくべきです。
日本IBMの場合、部下を持つ管理職の女性割合は現在17パーセントですが、役員の割合も20パーセント超えたぐらいなんです。役員の比率のほうが高いんだけれども、それでもまだ20パーセント前半なんですよね。今はこれを25年までに25パーセントに持っていこうという目標で進めております。それでもまだまだ低いんですけどね。
浜田:IBMも世界各国にありますが、やはり世界的には役員の中に女性をあげていくことがコンセンサスになっているわけですか。
福地:世界のほうがはるかに進んでいまして、キーポジションはむしろ女性のほうが多いんじゃないかなと思うぐらいですね。
浜田:ありがとうございます。岡島さん、先ほど三位一体をおっしゃっていました。いろんな企業を取材していて、経営トップや経営層はわりとやる気があって、女性たちも研修などでマインドセットが変わりつつあると感じています。
やはりハードルは、男性の上司層とか同世代の男性ですね。自分たちが置き去りにされてしまうとか、自分たちの席が奪われてしまうと感じてしまって、すごく抵抗勢力になりやすいと聞くんです。そのあたり、どうやって男性を巻き込んでいるんですか。
岡島悦子氏(以下、岡島):ありがとうございます。今お二人が言ってくださったとおり、数値目標は手段であってゴールではないと私も思っています。私は今、上場企業6社で社外取をやってます。多すぎるというお叱りもいろいろ受けるんですけれども……。
魚谷:(笑)。
岡島:そういう意味では機関投資家さんから、意思決定の中に一定のマイノリティが入っているかどうかのネガティブチェックにかかってしまうこともあるんです。特に「女性」と「人種」ですね。もちろん属性の話ではないというものではありながら、経営層が一番、「コミットメントをあげなければいけないな」と思っておられると思うんです。
一方で、役員比率は14.7パーセントです。World Economic Forumのジェンダーギャップでも156ヶ国中139位。「いや、そんなに国ありましたっけ?」っていうぐらい、本当に低いなと思っていて。これ自体が課題なんだろうなと私も思っています。
マネジメント層、管理職の方々とワークショップをやらせていただく機会がとても多いんですけれども、(そこで思うことが)2つありまして。やはりトップが本気だと、マネージャー層の方々のご本人たちの評価とも関係があるので、その目標は達成していかなければいけないなんですね。そのように外枠からはめていくのは、1つあるだろうなと思います。
もう一方では、今日聞いていただいているみなさんもそうだと思うんですけれども、10年で会社を潰していいやと思っていらっしゃるミドルマネージャーの方は、ほとんどいらっしゃらないので。そういう意味では、この会社がサスティナブルにやっていく時には、「異能」を入れていかなくちゃいけないということについては、誰もノーとは言わないんです。
ただ、抽象度を高くするとイエスと言うんですけど、具体的に「じゃああなたの部署で女性を登用してください」とを言った時に、「うーん、わからん」という話になっちゃうんですね。なので、そこについてはたくさんの武器を差し上げるようにするのが大事かなと思います。
浜田:魚谷さんどうぞ。
魚谷:これから世界は変化をし、お客さんも変化をするので、グローバル化を進めて事業を鋭意に確実に成長させていこうという意味で、多様性は必須であると。ただし多様な考え方がいろいろとぶつけられる場がなきゃだめなので。数だけ合わせても意味がないんです。
インクルージョンの部分ですよね。みんなが意見を言える場とか、発表できたりする場。あるいは下にいろんなことを任せること。僕は企業文化も大事だと思うんですね。資生堂の今の企業文化をグローバルに表すのに、共感による「トラストアンドエンパワーメント」という言葉をすごく使っています。
人と人が信頼し合う。上司と部下でも社員同士もそうだし、経営層と社員もそう。これは日本も海外もそうですね。特に日本の企業がグローバルに発展していこうとした時に、日本から駐在員だけを派遣して、コントロール型・中央集権型にするのではなくて、いろんな優秀な人財が加わってくれるような(組織にすることが大切です)。
当社は今、日本の方が2万人強、海外の方が2万人強です。従業員の国籍も約100カ国の国と地域になっています。海外では約6割強が、女性がリーダーのポジションにいます。そういう本当のカルチャーがあって初めて活躍できるし、効果が出るんだと思うんですね。
あと30% Club Japanで、ものすごくやる気のある社長がいっぱい出てきてくれているわけです。岡島さんが言われたように、今日聞いていらっしゃるみなさんの会社の社長さんやCEOの方もそうだと思います。今(参加企業は)30社以上になりました。すごいことです。
ただ、実際は低い数値にとどまっています。管理職は少しずつ増えてはいますが、部長などの一般管理職がなかなか増えない。ですから、「次のリーダー層になる人たちがいない」という危機感があります。
魚谷:経営者も人間なんですよ。社長会を年2回やっていて、そこでいろんな発表をしてもらったり、いろんな企業の事例を共有するんですが、翌日、各社で会社に戻られた経営トップから檄が飛ぶそうなんですね。
浜田:めちゃめちゃ効果がある(笑)。
岡島:わかります(笑)。その後、いろんな会社から連絡がきます(笑)。
魚谷:私たちがお互いに共有しあうことで、日本社会全体をよくしようという意識の経営者の人が増えています。そういう環境作りを、1つの会社だけではなくて協調しあってやっていくというのも、僕はすごく大事かなと思います。
あとは政府ですよね。僕は今年、内閣府の男女共同参画の会議議員にもなったんですけど、政治の世界(の女性比率は)ものすごく低いでしょう。
浜田:そうですね。今日はちょうど選挙日ですが、女性の立候補者が少ないですからね。
魚谷:だから逆に、企業は僕らががんばりますから、そちらもやってくださいよという話をしてるんです。特に行政も、女性の大臣は非常に少ない。そういったことを我々は声高に(言っています)。「今こそ変化しなかったらだめだ」という危機感を持っていますね。
浜田:ありがとうございます。質問が20問以上来ているので、質問タイムにいきます。みなさんひと言ずつお願いします。
岡島:ご質問の中ですごく重要だなと思っているのが、今魚谷さんがおっしゃったように1社では進められないことがたくさんあるということですね。そのときに何を一番気にしているかということなんですが。
リーダー候補になる女性の人たちと話をすると、「私は仕事もめちゃめちゃがんばって、家事も育児もやって、人の3倍がんばらなきゃいけないってことですか」ということを言われるんですよね。
私自身も今3歳の娘を育てているので、そういう意味ではものすごくわかる気持ちもありまして。ちょっとだけご紹介したいと思っているのは、丸井グループで「女性イキイキ指数」という、とてもダサい名前のKPIをおいておりまして(笑)。
浜田:(笑)。
岡島:というのも、クォーターの話にしてもそうなんですけれども、「管理職比率」は結果なので、なかなか遅効性があって、やっているプロセスの経過が見えにくい。そこで2015年ぐらいから、「イキイキ指数」をいっぱいおいてきたんですね。
ただし「女性の中での意向」という意味で、上位職思考が40パーセント程度だったところから70パーセントに上がってきているのに、丸井グループ女性の管理職比率は、部長以上ということもあるんですけれども、14パーセントにとどまってしまっていたんです。
岡島:この意向と実際のギャップはなんなんだという話になった時に、性別役割分担のところに手をつけないと難しいし、パートナーの方がいらっしゃる会社の仕組みも整っていないとできないんです。あるいは、丸井グループに働いている男性のパートナーの方が働いていらっしゃるところも整ってないと男性側のサポートもできないということになりまして。
なので名前はまだ「女性イキイキ指数」なんですけど(笑)、新しく「性別役割分担に反対表明をします」という人の割合をとっていくというKPIに変わってきています。これを横展していこうという動きが起こっているんですけれども、この人数割合を、2016年までに50パーセントに上げていくことやっています。これは新しい取り組みですし、越境的にやっていかないとできないなと思っています。
浜田:そうですね。LinkedInが採った女性の管理職のアンケートで、「あなたのキャリアを妨げているものはなんですか」という質問の答えの上の3つが、家庭内の事情だったんです。「パートナーの理解がない」「自分が家事育児を全部やっている」とか。意外と職場にもまさに性別役割分担のところがありますよね。
私が朝日新聞にいる時に、資生堂さんと一緒に「『女性にやさしい』その先へ!」というシンポジウムをやらせていただいたことがありまして、その時にも言ったことなんですが、両立支援制度を充実させればさせるほど、「女性が使う制度」として、性別役割分担を固定化してしまった時期がありまして。
そこはやはり男性も家事育児をやらないといけないんです。「両立支援制度は分担するためのものだ」と全部の企業がやらない限り性別役割分担は解決に至らないと思います。むしろ、制度が整っている企業にフリーライドしてくる企業もありますよね。
岡島:そうですよね。
浜田:ありがとうございます。福地さん、遅くなってしまってすみません。最後にどうぞ。
福地:いやぁ、ダイバーシティの文化、風土もそのとおりだと思います。今制度の話がありましたけれども、例えば去年私どもは、男性の育児休暇について、短くてもいいから、3日でも1週間でも育児休暇を取ろうってキャンペーンをやって、70パーセントぐらいの方が休暇を取ったんです。
それで私はある女性に、「あのプログラムはどうだった?」と聞いたんです。そしたらその女性は、「福地さん、出産してすぐの大変な時に旦那まで家に居て、余計大変でした」と。
岡島:わかります(笑)。
福地:制度はいいけれども、使うタイミングはそれぞれの家庭にあってしかるべきだと。私にとって一番いいのは、私が復職する時に、その男性が家に来てくれるのが一番助かると言われたんですね。
ついつい我々の目線だと、制度があるなら100パーセントやろうと押し付けで、数値目標に走るところもありますけれども。やはりそこは現場を見ながら進めていく必要があるのかなと思ったところです。
ただ、その文化風土を進めるために一番大事なのは、いくらトップがダイバーシティ、ダイバーシティと言っても、それだけでは進まない。
やはり現場のファーストラインも含めて、ふだんからビジネスの話ばかりするのではなくって、例えば3月の国際女性デーだったらジェンダーダイバーシティの話をしたりだとか、あるいは6月のLGBTのプライドマンスだったら自分の考えを紹介したりだとか。ふだんからみんながダイバーシティ&インクルージョンに触れる機会を作っていくことが、文化風土を高めていく上ではとっても大事なんじゃないかなと思います。
浜田:ありがとうございます。
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