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第7回ホワイト企業への道を共に学ぶ 「谷川クリーニングに学ぶ“抜群の自律型組織”の作り方」(全4記事)

問題の発生を予兆してもあえて口を挟まない 谷川クリーニング社長が語る、トラブル発生後に従業員間に生まれる良い効果

ホワイト企業を目指す人たちと共に学び交流する場として、2021年5月から12回にわたる講座を開催中のホワイト企業大賞アカデミー。第7回目の講座では、茨城県の企業として、またクリーニング業界として初のホワイト企業大賞を受賞した「谷川クリーニング」の代表取締役 谷川祐一氏と専務取締役 谷川麻美氏が登壇。お客さんに好かれる店員の特徴や、トラブルが発生した時の良い側面などを語っています。

従業員に対する社内のルールを減らすほど、社内の状況が良くなる

小森谷浩志氏(以下、小森谷):以前、お子さまが急に病気になって「休めますか?」みたいなご質問をした方がいたというお話を聞いたことがあるんですけれども、そのお話をしていただいてもいいですか?

谷川祐一氏(以下、祐一):はい。たぶんどこの会社でもよくあると思うんですが、小さいお子さんがいる方だと「子どもが熱を出した時に休めますか?」と必ず聞かれるんですね。

それに対して「こういうルールがあります」とか「こういう仕組みがあります」って昔はやっていたんですけど、今は「いや、僕もあなたが休めるかどうかはわからない」と言います。その上で、「ただ、あなた自身が良き人で、周りの人から大切だと思われていたら、たぶん周りの人はあなたのことを助けてくれる。あなたのためにいろんな手を尽くしてくれると思います」と。

「でも、あなた自身が人に迷惑をかけるような人だったり、自分勝手だったりしたら、もしかしたら周りの人は助けないかもしれない。それは、やってみないとわからないことですよね」と、いつも言っています。管理職みたいな人が、あなたのために何かを用意することは、うちの会社ではできないと言います。

でも、今いる人たちは、そのへんはみんなでいい関係にしていこうと思っているから、すごく働きやすい状況になっていると思いますよと伝えて、その上で、入るか入らないかを選んでいただくようにしています。

小森谷:良き人で、大切だと思われているかどうか。だからこそ、ルールがどんどん減っていくという状況になっているわけですね。

祐一:そうですね。今はルールを作れば作るほど、何かおかしくなる気がするので、どんどんなくなっているというか、何も作らない状況にしていますね。

小森谷:必要がなくなるという感じですよね。確かに、「体温が38.5度以上だった場合は」とかルールで細かくやられたら、ちょっともうね。

谷川夫妻:(笑)。

どの業種であっても、誰かに必要とされる仕事をする

小森谷:史郎さん、何か聞いてみたいことはありますか?

吉原史郎氏(以下、吉原):そうですね。別の観点で、祐一さんや麻美さんがお父さんから継がれて、事業としてクリーニングをされている中で、社員さんが、例えばクリーニングという仕事をどう捉えるかも変わってこられていると想像していまして。そのあたりで感じられることがあれば、ぜひお聞きしたいです。

祐一:正直、クリーニングだからとか、そういうこだわりは、今はあんまりなくなってしまっていると言ったほうがいいかもしれないです。

父親にとっては、「谷川クリーニング」という名前と、自分のクリーニング人生みたいなものがあるので、思い入れが強いのも知っていますし、僕自身も会社がなくなってもいいとか、そういうことはまったく考えないんですが。

自分がしたことで人に喜ばれるとか、誰かの役に立って、結果的に、自分をまた選んでもらうとか、自分に頼みたいと思ってもらうことが起きない・起きるというだけの話です。どの仕事でも、それをやるだけなので。

だから高校生の新卒の子たちの面接をさせてもらう時には、人の喜ぶことをやるとか人の役に立つことをやる。それで結果的に相手が自分のことを選んでくれないと「あなたの場所は用意されないですよ」と。「なんとしてそれをやる」ということを選ぶのが就職活動なんじゃないのと。

その中でうちはたまたま今クリーニングをやっているだけで、もしかしたらこの先飲食店に変わるかもしれないし、他の何かに変わるかもしれない。もしかしたらクリーニングの科学技術が上がって、あなたが必要なくなるかもしれない。だからその時は変わってもいいんだみたいな話をして。そういう考え方なんだけどよかったらどうぞ、という話をしているので、あまり「これ(クリーニング)じゃなきゃ」みたいなのがなくなってきているというのが実際ですね。

吉原:麻美さんももしよかったら、どんなことを感じられていますか?

谷川麻美氏(以下、麻美):私も一時社内に入って、会社で大量退職が起きた時期があるので、その時にアイロンを握って一緒に仕上げとかをやって、とても楽しい仕事だなと思ったんですけど、自分もそうですし、社員さんにも「この仕事しかできない」と簡単に決めないでほしいなと思っています。

どんな場所でも必要とされるというか、豊かに生きていけることがすごく大事かなと思っているので、そういう意味では社長と一緒でそんなにこだわりはないかもしれないです。

社内ルールを守らないのに、お客さんからはノークレームで、むしろ好かれる店員

吉原:仕事は誰かに喜ばれて選ばれ続けることだというのは本当にそう思いますし、そのあたりのお二人の感覚が会社の中、そして地域の中、お客さんにどんどん伝わっているんだろうなと感じながらお聞きしておりました。

小森谷:周りの人とか、地域との関わりは何かあったりするんですか?

祐一:さっきの仕事のことも僕は自社の店員さんから教わった感じなんですね。僕は「クリーニングはきれいになるとか便利になるとか、機能的に優れていることが価値だ」みたいな感じで思っていました。あとは「安いことが価値だ」と考えていたんですけど、お店に行った時にクレームがまったく起きない人がいたんですね。

その方はルールを守るかというと、ぜんぜん守らない人だったんです。ただすごく人柄がよくて、すごく好かれる人で、何が起きているんだろうとそのお店を見に行ったら、(会社の)言ったことはぜんぜんやってくれていないんです。だけど、そのまま何日も何日もずっと見ていたんですね。

そうしたら毎日毎日とんでもない量の差し入れをもらうんです。ジュースとか野菜とか釣ってきた魚とか、畑で採れたものとか。あとすごいなと思ったのは、誕生日にこんな大きい花が届いて。「お誕生日おめでとうございます」と来た時に「キャバクラの人気な人か」みたいに思ったんです。

それで、これはクリーニングどうこうの話じゃないなと思いました。単純にこの人が何かをお客さんにしているかというと、そういうことでもないんですね。ただ顔と名前を覚えて、相手が話すことをたくさん聞いてちゃんと覚えているんですよね。

それで次に会った時に「そういえばお子さん、この間熱出していると言っていたけど、お加減どうですか」と言ったりする。それをお客さんがうれしく思って、何か買ってきてくれたりとか。このお店の人に何かをしたいとお客さんが思うんだなと思ったんです。

そういうふうに、お客さんと店員さんの関係がただ「良い」ということが今うちの会社の中で起こっています。その結果、お客さんなのかお客さんじゃないのかよくわからないような状態になって、お店の飾り付けをお客さんが作ってくれていたり。

あとはあまり言うとどうかなと思うんですけど、例えば店舗で品物を破ってしまったなどの失敗が起こった時に、手芸の得意なお客さんが直してくれるようなことがたまに起こったりしします。それがぜんぜん僕らの知らないところで勝手に起こっていて。

それはルールや仕組みじゃなくて、単純にお店の人とお客さまの関係性を超えたものなんだろうなと思っています。それが育まれていろいろなことが起きる自由さがあったほうが、仕事はおもしろいかなと思っているんですね。

家計の収支によって、社員が給与を相談できる関係性

小森谷:そういう意味ではお客さんと店舗の境界線が溶けてきているというか。

祐一:そうですね。節度を守りましょうみたいなのが、極端にない感じかもしれません。だから、これがいいかどうかはわからないです。ただお客さまもスタッフさんも楽しくやっているので、それでいいかなと今は思っています。

小森谷:いろいろ興味深い話ばかりで、ありがとうございます。今日ご参加の方から、よろしければ「こんな話を聞いてみたいな」とか、ご質問や感想やコメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか? 「給与とか異動とかはどうやって決めていますか」というご質問をいただきました。ありがとうございます。

祐一:他の会社さんで給料を自分たちで決めていらっしゃる会社さんもあると聞いていたので、スタッフさんたちに「給料は自分たちで決めたいですか」と聞いたことがあるんです。そうしたら、その時は「決めたくないです」というのがみんなの答えでした。「僕も給料をどうしていいかわからない時があるから困るんだよね」みたいな感じで言ったら「それは社長がやってほしい」と言っているので、今のところ僕らで決めています。

あとは入ってくる時のお給料は求人情報とかに出して決まっているのですが、そこから先の勤務体系や時間は、ライフイベントとかいろんなもので変わっていきますよね。だから例えば「結婚して子どもが生まれたから短時間で働きたい」と言われたら、「短時間で働けばいいんじゃないの」と。変えられる時に変えようと。

また「お子さんが大きくなってお金が必要だから、お給料がもっとほしい」と言われたら、「じゃあそのお給料が取れるようにどんな仕事をやったらいいか一緒に考えよう」という感じで、けっこう変えられるようにはなっています。

麻美:給料の制度があるかないかが問題というよりは、自分の生活におけるお金は大事なものなので、それが今いい状態で回っているかどうかを相談できる関係性かどうかのほうがよっぽど大事かなと思います。その関係性が作れない時に制度とかが必要になるのかもしれないなと思ったので。

うちの社員さんにとっては、自分たちでお互いのお給料を公表して話し合っていくのがわりとストレスフルなので、「じゃあ、わざわざやらなくてもいいよね」という話をして。ただ「何か困った時にきちんと相談できるような関係性でありたいね」みたいな感じで進んでいるだけで、「決めるぞ」ということはないかもしれないですね。

相談が来て「どうしたい」という話をして、家庭の事情とかもきちんと聞いて「じゃあこういうふうにしてみるのはどう?」とか、「周りの人がオッケーだったらオッケーだよ」という感じです。

急な病欠者の出た店舗には、周辺の従業員が自発的に出勤

祐一:そうですね。給与に関してはそんな感じです。あと店舗の移動に関しては、人数がどうこうというオペレーション的な問題で起こると思うのですが、それに関しては僕らは完全にノータッチです。お店の人同士でみんなで協力してやりましょうという感じになっています。ある店舗で誰か病気の人が出た瞬間に、その店舗の周りの人とかがバッとみんなにわかるように連絡するんです。

そうしたら「なんとかしないといけないね」と、みんなでちょっとずつずれて穴を埋めるようなことが起きるんですね。だから「何々店勤務の誰々さん」というように所属を明確にしていないんです。店舗の接客のためのスタッフさんが30人くらいいて、「店舗スタッフさん」という括りしか作っていないので。

「出勤は家から近いところのほうがいいよね」「だいたい30分で行ける範囲のこのへんの店舗があなたの持ち場ね」という感じでやっているだけで。あとはその地域の人たちが、みなさんで相談してシフトを決めています。

私はこの店舗だという固定はしないようにするというものだけがある。今のところそういうやり方で、みなさんうまくやっています。

麻美:今まで創業してからお店が開けられなかったことは一度もないので、なんとかうまくやってくれているんだと思うんですけど。

祐一:そうですね。これだけはうちの父親がやっていたやり方なんですよ。

小森谷:なるほど、微調整をしながらですね。そういう意味では給与のことも店舗の移動に関しても「いい関係性」というところが、すべての土台になっている感じがしました。

祐一:会社を休んだ人の対応を制度でやるとすごくコストがかかる。お金も時間も労力もかかるので、「みんなでちょっとずつ協力してやろう」とするとぜんぜん何もなかったように解決してしまうんだなと感じています。

トラブルの後は、「足りないものを自分たちで補おう」という意識が働く

小森谷:ありがとうございます。昔は不正をする人がいて不信が生じ、対立して詰めてやめさせるみたいな空気感があったと思うんですけれども。今は、いい関係性の「いい」を別の言葉でで表すとするとどうでしょう? 信頼というキーワードも出ていたと思いますが。

麻美:そこをあえて決めていないんですね。感じ方は人それぞれで、私が思って言った言葉を別の方が聞くと私の思いと違うように感じたりするので、あえて決めないでうやむやな状態がいいと感じています。

小森谷:「こんな感じ」という感じですね。

麻美:「そういう捉え方をする人もいるんだ」と楽しんでいるところもあったり。特に悪い関係だったわけじゃないんですよ。「私は関係ない」とか「私は知らないんで」ということが多いだけで、無関心なんですね。

あとは「いろんな部署の人とコミュニケーションを取れるようにこういう会に参加してください」と呼びかけるよりは「あなたに関係ないことは何もないですね」と関係性を感じる、気づく場面を少しずつみんなで共有していく。

私も社長もそうですけど、「私たちと関係ないことは何も起きないね」ということを一緒にやっていくと、大事になるんですかね。みなさんがそれぞれのやり方で行動をする。そのやり方に関してはおまかせしますね。

祐一:その「関係を感じられない」ところから「感じられる」ようになるのは、何かトラブルが起こった後だったりするんですね。普通はトラブルが起きるのを未然に防ごうとするじゃないですか。優秀な管理者であれば全部未然に防いで、何も起きないようにやれてしまうんですけど、うちだと管理職がいないので、起きそうだなと思っていても僕らはそのまま見ていることが多いです。

実際に誰かが落ち込んで辞めてしまったら、その後に「辞めちゃったから補充しないといけない。募集を出すから、その間はどうしたらいいかな」とみんなで相談して、「きつい状態だけど、なんとかやりくりしてがんばろう」となるんです。その後で、なんで辞めちゃったんだろうねと考えるところが多いんですね。

「あの子はこうだったから」というのもあるけど、でも「私たちにできることはなかったかな」みたいなことを考える。そうすると「入ったばかりの研修の時に、こういうことをちゃんと教えてあげられたらよかったのかな」みたいなことをパートさんとかが言ったりするんですね。

そういう感じで「足りないものを自分たちで補おう」という力がちゃんと働くので、自分たちが何かを強制して正常化させなくても、自然治癒みたいな感じで「ちょっと痛みは伴うんだけど、その分強くなったよね」ということがたくさん起きています。

だから悪いことが起きるのは悪いことではなくて。そのおかげで何かいいことが起きるから、どっちに転んでもいいことしか起きないんだなというのが僕らの世界観と言うか……。

麻美:それを楽しんでいると言うか。

祐一:そうですね。「今度どうなるんだろう」みたいな感じで見ていたりはしますね。

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