2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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松浦道生氏(以下、松浦):お時間になりましたので、オンライン経営者会、勉強会を開催させていただきます。簡単に蛍茶屋のご説明をさせてください。週に1回、平日のお時間を使って、12時から13時までゲストの方、ナビゲーターの方のご協力のもと、勉強会を開催させていただくというものです。
本日はマザーハウスの山崎さんをお迎えしております。山崎さん、よろしくお願いします。
山崎大祐氏(以下、山崎):はい、よろしくお願いします。
松浦:エフアイシーシーの森さんをナビゲーターとしてお願いしております。森さん、よろしくお願いします。
森啓子氏(以下、森):はい、よろしくお願いします。
松浦:せっかくですので、山崎さん、自己紹介をよろしくお願いいたします。
山崎:みなさん、こんにちは。マザーハウスの代表取締役副社長の山崎と申します。15年間、ゼロからベンチャーと言うか、資本金250万円で始めた会社です。今日はリアルな立ち上げの話も含めて、会社のお話ができたらいいなと思っています。
それ以外にもいろんなことをさせていただいていて、先日もパラリンピックがありましたけれども、ブラインドサッカー協会の理事をやらせてもらったり、10何社かの株主をさせてもらったり。あとは思いをかたちにする経営を志向している経営者向けにゼミをやっていたりもしますので、ぜひお願いします。
松浦:はい、よろしくお願いします。では、エフアイシーシーの森さん、よろしくお願いします。
森:みなさんよろしくお願いします。ブランド・マーケティングを専門としております、エフアイシーシー代表取締役の森啓子と申します。よろしくお願いします。
これからの時代に求められるのは経済価値だけではなくて、社会価値との両立で、ブランディングとマーケティングを分けて考えるのではなくて、それらを融合することをいろんな企業さまやブランドさまに伝えていきながら、ビジネスを行っております。
教養というところで申し上げると、山崎さんもすごく大切にされているリベラルアーツという、人の想いをどう価値に変えていくかを大切に経営しておりまして、今日は山崎さんと一緒にマザーハウスさんの取り組みを通じて、背景にある「なぜ?」といった思いについても、一緒に触れていけたらいいなと思っています。よろしくお願いいたします。
松浦:そうですね。マザーハウスさんはいろんなかたちでご紹介されることが多いんですけれども、今回は経営という部分でブランドやコミュニティなど、ぜひ森さんを通じていろいろ私も勉強できたらと思っております。よろしくお願いします。
では山崎さん、簡単に視聴者さま向けにマザーハウスさんのご紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
山崎:はい。マザーハウスは2006年に資本金250万円で始まった会社ですけれども、今は11ヶ国で800人くらいのスタッフが働いています。
まずみなさんに問いかけたいのは、「途上国と聞いて、どういうイメージを持ちますか?」という話なんですね。途上国って、かわいそう、貧しい、遅れているというイメージがあると思うんですけど、途上国にも素晴らしい素材があるし、そこにしかない手仕事の技術もあるし、何よりも途上国でがんばっている人たちはたくさんいるわけです。
そういった可能性に光を当てて、途上国のイメージを変えていきましょうと。何で変えますかと言った時に、私たちはファッションのものづくりを通したブランドづくりをやっているんですね。それが「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念になっています。
私たちが実際に何をやっているかと言ったら、バッグやジュエリーやアパレルを自社工場で作って、自分たちで販売しています。15年間少しずつ会社を大きくしてきて、今こういう規模になりました。
お店は日本、香港、台湾、シンガポール、そしてフランスのパリと、5ヶ国に展開しております。日本では、東京だと銀座に2店舗と丸ビルの中と渋谷のヒカリエ、関西だとNU茶屋町とか。京都の三条寺町にも路面店が2店舗あったり。いわゆるファッションの中心地、商業の中心地に、マザーハウスという名前でお店をやらせていただいています。
山崎:1つの大きな特徴は、海外も含めて全部自社で展開をしていることです。卸をまったくやっていない会社で、マザーハウスのプロダクトを自分たちで作って売る。いわゆるラストワンマイル、お客さまの手に届くところまで全部自社でやっています。
作ることに関して言うと、今6ヶ国で生産しているんですけれども、バングラデシュでバッグを作り、ネパールでストールを作り、そしてスリランカ、インドネシア、ミャンマーでジュエリーを作っていて、インドで洋服を作っています。
それぞれの国に工房を持っているのも大きな特徴です。全部基本的には自社工場で、一部提携工場もありますけれども、基本的には自社でやっていると。自分たちの売るものを自分たちで作りましょうと。
大体世の中のものづくりの会社は委託して作るケースがほとんどだと思うんですけれども、自分たちで工場の運営もして、自分たちの工場から届いた商品を売っているのが特徴です。これもちゃんと理由があるので次に説明します。
この写真は、基本的に工場のみんなで、右上に写っているのは採掘場です。僕らはジュエリーだったら、例えばルビーの採掘場とかまで実際に足を運んで、そこで直接掘ってくれている人と話をして調達をします。左上の写真はバングラデシュの工場ですけれども、みんな笑顔に溢れていると思うんですね。
バングラデシュの工場は300人くらいスタッフがいるんですけど、例えばランチを無償提供するとか、残業ご飯がついてきますとか。あと彼らは水準で言ったら預貯金がほとんどないので、子どもが病気しちゃったとか家族に何かあった時にお金がないわけです。
だから、私たちマザーハウスがみんなに無利子でお金を貸し付けて、少しずつ給与から返してもらう仕組みも導入して、7割から8割のスタッフが使っていたりします。
山崎:これが例えばネパールに行くと、ほとんど女性しか働いていないんですよ。男性の人たちはドバイとかに出稼ぎに行っちゃってるので、女性しか国に残されていない。みんな子育てしながら仕事しているので、工場に来られないわけです。
だから各家庭で機織りをしてもらったり、糸を紡いでもらったりするので、現地のNGOと組んで品質の管理をしながら、各家庭で作ってもらう仕組みを導入しています。
本当に世界の国々って国が変わるとものづくりの仕方も変わるし、持っている素材も、経済状況も変わるわけです。そういうものに合わせて工場を作っていきながら、長く働いてもらうイコール、品質の向上とか、僕らの販売情報を共有して品質を変えていくような一連の仕組みでものづくりをやっています。
今販売の話もしましたし、生産の話もしましたけれども、一番伝えたいのは、基本的に僕らマザーハウスは、関わる人みんながハッピーになるような仕組みでものを作る、売ることを大事にしているということです。
山崎:そういう中でいろんなことをやっていて、お店もどんどん増えています。最近だと左下、これはチョコレートなんですね。ファッションアイテム、バッグ、ジュエリー、アパレル、ストールみたいなものを作っていたんですけど、このコロナ禍で実はチョコレートを始めました。やっぱりファッションアイテムを持って外に出ることが限られていたじゃないですか。
なので家の中でマザーハウスを感じてもらおうということで、リトルマザーハウスという食のブランドを立ち上げました。マザーハウスとしてチョコレートを作る時に何をやったかと言ったら、インドネシアのスラベシ島のカカオ農家さんとZoomとかでつなぎながら生産地のものを全部見せてもらって。
そこからカカオを入れて、そのカカオを全部オリジナルでホワイトチョコレートに変えてから、こういうグラデーションのチョコレート(にする)。箱だけでなく、実は中身もグラデーションなんですよ。
人工着色料とかまったく使わずに色を作っているんです。味も色も全部グラデーションになっているチョコレートを全部オリジナル開発して作りまして、今大ヒットしているんです。
ちなみに、僕が日本の工場で3日間作り続けて、開発した商品です。こういうことをやったりもしますし、右上にあるリンネと言われるような商品ですね。
山崎:マザーハウスは年間数十万個はバッグを売る会社なので、いらなくなったバッグが出てきます。それをお客さまから回収させてもらって、解体したレザーで作ったバッグなんですね。
RINNEという名前がついています。このバッグも今大ヒットしていて、『VOGUE』とか『カンブリア宮殿』で取り上げられていますけれども。こういったバッグも作っています。
途上国だったら加工農家がまさにそうですし、今だとサーキュラーエコノミーみたいな話もありますけれども、こういった社会問題にもフォーカスしてものづくりをやっていくところも大事にしている会社です。
最後に見ていただいている写真は、生産地の職人さんです。いろんな国々のみなさんと真ん中に写っているのは、僕と一緒に代表をやっている創業者の山口絵理子なんですけど。並んでいる人たちはみんな、宗教も国も違うんですよ。
僕が一番最初にグローバルを意識したのって、世代がバレちゃうんですけど、ベルリンの壁の崩壊だったんですよ。ベルリンの壁の崩壊を小学校4年生の時に見て、「すごい、こんなパワーのある映像を撮れる人がいるんだ」と思ったと同時に、大衆が社会を変える、壁が壊れるみたいなことをすごく意識したわけです。
あの時世界は一つになって、平和になっていくとみんな思ったわけです。翻ってそこから30年後の今、どうなっているかと言ったら、対立構造がどんどん深まっているわけじゃないですか。宗教とか文化、米中対立とかも深まっているわけです。
そういった時に僕らの役割は国や宗教や文化を超えて、こういった1枚の写真のようにみんなが笑顔で収まるような世界を作っていくことです。ものづくりを通して、もしくはそこでつながるお客さまと生産者とみんなの壁を壊していきたいと思っています。以上になります。
松浦:ありがとうございます。では森さん、お返しします。よろしくお願いします。
森:山崎さん、素敵なイントロダクションをありがとうございました。
森:ネパールやインドネシアとか、いろいろな産地で作られているという話だったんですけど、途上国の素材とか伝統工芸っていろいろあると思うんですよね。その中でマザーハウスさんの理念をちゃんと捉えた上で、素材だったり、どの伝統工芸を採用していくかを決める基準はあるんですか。
山崎:正直ないです、というのがお答えです。ないですという言い方をしたのは、森さんがおっしゃったとおりで、僕らは素材探しからやるんですね。基本的に今だと会社もけっこう大きくなったので、それこそJICAさん、大使館とか、いろんなところから情報をいただくことはあるんですよ。
ただ、僕らが一番大事にしているのは、とにかく現場に行くことです。現場に行くとぜんぜん違います。今は情報が簡単にネットで取れる社会ですけど、現場をいろいろ回ってみると、置かれている環境は非常に複雑なんです。
例えば、女性の働く環境がないとか。伝統工芸1つとっても古くなってしまっていて、お客さまの価値を満たせていないものがあったりします。
逆に伝統工芸としてものすごく価値があるけれども、バイヤーに買い叩かれていて、その価値が表立って出ていないケースもあるし。現場にいかないとやっぱりわからないんですよ。だから現場に行くことを大事にしています。
代表の山口がデザイナーなので、全部のプロダクトを作っているんですね。僕が基本的に商品戦略を全部担当しているので、この2人が行くと基本的にはほぼ全部判断できます。というのが実はめっちゃ強みです。
山崎:それで、行ってみると、おもしろいです。例えば最初、インドネシアで、伝統的な染めの方法のバティックプリントをやろうと思ったんですよ。
でも行ってみたら、バティックよりもポテンシャルがあったのは、フィリグリーというポルトガル生まれの伝統技術なんです。その伝統技術が脈々と続いていて。線細工、線で作るジュエリーなんですよね。
ただ、それが現地のお土産品として買い叩かれていて。職人さんもすごく技術があるのに、安く売っていかないといけない状況だったので、僕らが何をやったかと言うと、銀で作られていた線細工を全部金に変えたんです。
18金だと融点が違うので、9ヶ月くらいかけて研究開発をして(金の線細工を)作れるようになった。それが今ものすごく大ヒットしていますけど。
結局は複合判断なんです。現場で試行錯誤してみて、お客さまの価値になるかどうか。本当にその人たちが一生懸命やっているけれども、満たされないものがあるのかどうかを、自分の目で判断することになります。
ここはもしかしたら森さんとの話の中でも出てくるかもしれませんけど、実は一定の価値基準も大事だけれども、ある意味で「美しいものに対する判断」とか、「社会にとって良い(かどうかの)判断」って属人的な部分が非常にあるんですね。そこは創業者とか経営者が判断している部分が大きくあるかなと思います。
森:ありがとうございます。そこに幸せにしたい人がいるかどうか、それが報われていない状況があるか。そういったところがすごく基準になっているということですよね。
森:先ほどの18金の話で興味深かったのが、現地だけでは完結しないものづくりをされているなと思いまして。知識や技術を提供して、コラボレーションされているのがすごくユニークだなと思ったんですけど。そういったことって、ネパールとかインドネシアとか、いろんなところで起きているんですか?
山崎:森さん、おもしろいですね。視点が新しいですね。僕はいろんなところで対談とかするんですけど、さすがだなと思っていて。
まさにおっしゃるとおりで、そもそも、僕らは途上国の素材や技術をできる限りかたちにしたいと思っていますけれども、今の時代、そこだけで完結させるのは非常に難しいし、その必要もないというか、絶えず議論はしています。
例えば、バッグで正直日本製のパーツを使っている部分もあるんですよ。途上国でものづくりをやろうとすると、ないものがいっぱいあるんです。逆に言うと、ちょっとだけ変えてあげれば、ものすごく発展するものもあって。そのままのレアな状態で残すべきか、僕らがどこまで入るべきかという議論はけっこうしています。
2つの視点があると思っていて、1つは日本が持っている品質基準、機能基準を提供するだけで、ものすごく商品価値が上がるケースはあるので、日本のお客さまの厳しい目線に合わせた技術の提供をやるかたち。
もう1つは僕らが日本人として持っている四季、いわゆる色の感覚と現地のバングラデシュとかアジアの人たちが持つ色の感覚をすり合わせていくこと。そこに新しい価値が生まれる(と思います)。
森:素敵ですね。美学と美学のクロスみたいな感じですね。
山崎:すごくそうだと思います。あるエピソードがあって、バングラデシュでリキシャ(三輪自転車タクシー)に乗っているとムンナという僕らのお手伝いをしてくれる人が「シュンドルバターシュ」と言ったんですね。
「シュンドルバターシュ」ってどういう意味かというと、「そよ風が気持ちいいね」みたいな意味なんです。それを聞いた瞬間に、僕ら日本人が四季で感じる風みたいなものと、すごくオーバーラップするなと思って。
そういう共通項を見つけてものづくりをやることと、一方で異色なものを組み合わせることはすごく重要だと思っているので、まさに(森さんの)おっしゃるとおりだと思います。
森:日本も満月よりも、欠けている月のほうに満月を想起したりといった余白の感覚ってありますものね。素敵ですね。
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