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逆境を切り抜ける経営戦略~危機をチャンスに変える経営者の発想力~(全3記事)

コロナ禍で売上が95%減、15億円の資金調達が0円に…… 「絶対に社員を解雇しない」アソビューCEOが下した決断

コロナ禍で特に大きな打撃を受けた、観光産業・外食産業・物流産業。その裏側には、さまざまな逆境を乗り越えるために奔走する経営者の姿が。グロービスが主催したイベント「逆境を切り抜ける経営戦略~危機をチャンスに変える経営者の発想力~」に、各業界を代表する5名が登壇。大打撃を受けた観光・飲食業界の経営者2人がコロナ禍で下した決断には、ある共通点がありました。

コロナ禍での逆境を切り抜ける経営戦略

梅澤高明氏(以下、梅澤):それでは、「逆境を切り抜ける経営戦略」のセッションをスタートしたいと思います。コロナ禍のイベント開催ということで、運営スタッフのみなさんは逆境に直面して、いろいろ大変だったと思いますが、今日このセッションで聞ける話は、それのうん十倍ぐらいすごい逆境の話だと思うので、楽しみにしてください。

それから、「起業家に求められる資金調達力とは」というテーマもお届けできればと思います。今日は、逆境を切り抜けて来られた4人の経営者の方にお集まりいただきました。観光セクター、外食セクター、それから物流セクターということで、少なくとも観光と外食は、コロナ禍で最も激しい打撃を受けたセクターであることは間違いなくて。

そこをどういうふうに乗り越えて来られたのか、あるいは今も乗り越える最中なのか。そのへんをリアルに語っていただきたいなと思います。

実はモデレーターを務めている私自身も、昨年10月にCIC Tokyoという新しい事業を立ち上げました。国内最大規模のイノベーション拠点で、コミュニティを作っているんですが、ビジネスモデルとして言えば不動産事業です。

かなりバカでかいシェアオフィスを作って、そこからの賃料収入を得ている会社なので、オープンをして3分の2が緊急事態宣言下と、大逆境の最中を未だに走っている感じなんです。今日はパネリストのみなさんから、逆境の乗り越え方とか、その中でどういうふうに自分自身もステイブルに保っているかみたいな話も伺いながら、自分の糧にもしたいなと思います。

2020年4〜5月の売上は、前年比の95パーセントマイナス

梅澤:さっそくですが、お1人ずつパネリストの方から、どんな事業をやっていて、どんな逆境にぶつかって、どんなふうに乗り越えてきたのかをお話しいただきたいと思います。最初に山野さんからお願いできますか。

山野智久氏(以下、山野):みなさん、お久しぶりです。1年ぶりですね。アソビューの山野です。私、「ミスター逆境」「ミスター逆転」と勝手に言われていまして、逆境・逆転の劇がNHKで『逆転人生』というドキュメンタリーになったほど、逆境を味わった男でございますので、今日は赤裸々にお話しできればと思っております。

かいつまんで説明すると、我々アソビューという会社は、お出かけしていただいて週末のレジャー、あるいは旅行先での遊びを予約していただくサイトを運営していますので、昨年2020年3月の全国一斉休校、ならびに4月からの緊急事態宣言によるお出かけ自粛が、売上に大打撃を与えました。

具体的にいうと、昨年4〜5月の2019年対比の売上は、95パーセントマイナス。それ以外にサイトの運営以外や、ちょこちょこと自治体のコンサルティングだったり、企業さまのプロモーションのお手伝いの売上が若干あったので、0にはならなかったんですけれども。

少なからず、我々の屋台骨で一番収益を占める「アソビュー」というサービスからの売上は、0になるということを経験しました。流通額で言っても、月間で2桁億円の流通がある会社ですので、非常に大きな打撃を受けた状況になります。

加藤(史子)さんとも近しいと思うんですが、スタートアップのもう1つ重要な観点は、成長資金を獲得して、資金調達をして成長していくという側面もあるんですが。

我々、まさにラストファイナンス、シリーズDの真っ只中だったんですが、4月にはほぼ決まりかけていた案件が、「先行きが見通せない」という理由で全部白紙になって、当時計画していた15億円ほどの資金調達が0円になるということも経験しました。

売上がなくなり、資金調達の15億円が0円になり、車で言うとタイヤの両輪がいきなり吹っ飛んで、「さあ。車の両輪はないんだけど、今から走ってください」というふうに言われた状態に陥ったのが、昨年の4〜5月で我々が経験したことになります。

大幅に売上が落ちても「絶対に社員を解雇しない」

梅澤:どう乗り越えたかも、ちょっと触りだけお願いします。

山野:大きく2つ実行したんですが、1つは絶対に社員を解雇しないと決めました。そうは言っても、人件費を一定削減しないと乗り越えられなかったので、一休さんのようなアイデアを捻り出しまして。

在籍出向というかたちで、従業員を解雇せず契約継続しながら、人件費を払わずに他社で成長機会を得て働いてもらう。社会人留学制度のようなものを危機の状況の中で編み出しまして、それで多くの従業員の雇用をつなぎつつ、人件費を大幅に削減したということを実行したのが1つ。

もう1つは、緊急事態宣言が明けて6月以降、レジャー施設の営業再開に向けて準備をし出すわけですが、その時に施設内の感染症対策のコンセプトを我々が専門家とタッグを組んで作り上げました。

敷地面積当たりの入場人数を制限するために、スマートフォンでのチケット販売システムを活用して、人数管理をタイムリーに実施しましょう、という提案をして回りました。この仕組みを、コロナ前後だとかなり多くの施設さまにご導入いただいたことをきっかけとして、売り上げはV字回復するという切り抜け方。この2つを実施しました。

梅澤:ありがとうございます。本当に素晴らしい「ミスター逆境・逆転」のストーリーだと思うんですが、またあとでいろいろ深堀りをして伺いたいと思います。

山野:はい。ぜひお願いします。

創業20年、100店舗以上を構える飲食店にも向かい風が

梅澤:次に楠本さん、お願いします。

楠本修二郎氏(以下、楠本):みなさんこんにちは。楠本です。カフェ・カンパニーという会社をやっています。あとで話をしますが、この1月にグッドイートカンパニーという会社もNTTドコモさんと始動させて、今はその2つの会社の代表をやっております。

カフェ・カンパニーは2001年に創業した会社で、ちょうど先週、20歳の誕生日を迎えました。やっているうちにいつの間にか、創業から延べ100店舗以上になりました。

僕がやりたかったのは、とにかく地域に根ざしたコミュニティです。20年前ってSNSなんかぜんぜんなかったし、インターネットの初期だったから、ネットが発達すると共に「リアルな場所がメディアの役割になって、世界をコミュニティでつなぐんだ」みたいな妄想から始まり。創業から20年経ったら100店舗以上の企画や運営を手がけていた、というところです。

世界がコロナ禍に見舞われる前から、「時代ごとに求められるコミュニティの在り方って変わるから、この次の時代にどういうことをやっていくべきなのかな?」と考え続けていました。

僕らは「食を中心としたコミュニティ」を作ることが仕事で、外食の店舗はその表現の仕方の1つではあるのだけど、気が付くと、コミュニティの表現の仕方だった外食産業に僕ら自身が依存していて、1本足打法になってしまっていて。だから5年ぐらい前から、「そこからの転換を図らなきゃな」ということを思っていました。

でもいつの間にか、図体というか……100店舗という存在が大きかったことも事実で、なかなか自分たちはこっちに変えたいけど変えられないという、そんな最中でコロナ禍がやってきてしまったんですね。

山野さんと一緒で、「食」「エンターテイメント」「観光」の3分野がインバウンド戦略の要と言われてたのが、コロナ禍で一気に逆風になっちゃったわけなんですよね。

2020年の1年間で20店舗を閉店

楠本:2020年4月・5月は80数パーセント減。そこから一回、7月くらいまで50パーセントに回復したんですが、その後第2回目の緊急事態宣言になってまた落ちて、第3回・第4回を繰り返しています。

外食産業も、最初の数ヶ月間はみんな「この逆境を乗り越えるんだ」とがんばっていて、今もがんばっているわけなのですが、だんだん全体的に気持ちが萎えてくる感じもあって。「これはあかんな」と思って、まず2020年の4月に「どう動こうかな」と。

これまで僕は、新卒で入社した会社で「リクルート事件」に出くわし、東京地検特捜部とも渡り合ったりもして、まさに逆境人生を送ってきました。みんなが「自粛」を余儀なくされたこの地球規模の未曽有の事態、こういう「逆境」の時代になると、とにかく僕は動くんです。でも社員には、とにかく「ステイホーム」をお願いしていました。

僕が動いて、20代の2人の社員とチームを作って、共にやれることを全部やろうと。何がやれるかわかんないけど、とにかく動かないと情報が入ってこないから。こういうのは煙草のブラウン運動と一緒で、あっちゃこっちゃ行っているうちに自分のやるべきことが見えてくるよな、みたいな感じで2020年の4月は動いていたわけです。

その中でやったことは3つですね。1つは既存店の整理です。既存店の整理というのは、店舗数を増やすことありきで100店舗にまで展開したわけじゃないんだけれど、「コミュニティの在りようによっては変わるよね」という考えで企画をしてきたら、自ずと数は増えていく。

商業立地、ビジネス街、住宅街、郊外エリア。さまざまな地域に出店していたので、当たり前ですが、店舗ごとに多少売上にばらつきがありました。それを今やるべきことに集中し、見直して、という意味での「整理」です。コロナ禍を機に改めて考えると、僕らの強みを活かせる業態とそうでない業態があったんですね。

具体的に言うと、この1年で20店舗ほど閉めました。だけど一方でFC(フランチャイズ)も含めて6店舗出して、全体では15店舗ぐらい減らしました。

コロナ禍で浮き彫りになった、食産業の課題

楠本:2点目は、「社員を絶対に解雇しない」。本当に山野さんと一緒だなと思うのですが、これを決めました。そうすると店舗も閉めざるを得ないし、本部経費も減らさなきゃいけないと。「これ、どうしようかな」という感じで。結論から言うと、新規事業を立ち上げることにしました。とにかく「社員を絶対に解雇しない」というのが2点目ですね。

3点目は今、言いましたが、食産業ってそもそも変わらなきゃいけない課題があって。僕は「食産業」という言い方をしましたが、だいたい「外食産業」って言われるんですね。外食産業は30兆円弱の産業なのですが、農業や小売や流通まで含めた産業全体で考えると、なんと120兆円もあると。

だけれども外食だけではなく、農業・食品・流通などまでを含めて、食産業全体を俯瞰してどのようにやっていくか、ということを考えているセクターがないんです。日本の食って世界から称賛されているのに、もったいないんじゃないかと思って。

日本の食産業にはずっとその課題があったのですが、コロナ禍で「この状況を変えなきゃいけない」という状態が露呈してしまった。だから、産業全体を一気通貫してつなぐ目的で、1つの事業を作りました。

以前から思っていたことを、2020年4月7日の緊急事態宣言が発令されたその日に「動こう」と決めました。7月ぐらいからだんだん形になってきて、夏頃からNTTドコモさんと議論をし始め、12月に会社を設立することになりました。

梅澤:楠本さん。それがグッドイートカンパニーだと思うんですが、あと30分くらいでパネルクローズしないといけないので、ちょっと1回ここで切らせてもらって。続きはまたお願いします。

ちなみに楠本さんがさっき、「4〜5月に動いていた」と言った時に、僕、一緒に青山で食事させていただいたのをよく覚えていて。まさに全力疾走しながら考えている楠本さんを、その時にも拝見をしました。

楠本:ありがとうございます。

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