2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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石井遼介氏(以下、石井):本当に英治出版さんはおもしろい制度がいろいろありますよね。僕が特におもしろいなと思ったのは、採用のところです。経歴とか学歴とかをいったんマスクをして、エッセイを書いてきてもらって、みんなでそれだけを読むと。
原田英治氏:今回の採用でもやっているんですよ。履歴書を送ると不合格です。エッセイで一次審査をするわけですね。それに社員全員で「会ってみたいかどうか」を基準にして、マルかバツかを付け、マルの多い人を面接に呼ぶというステップでやっています。だから、僕がマルをつけたとしても、必ず一次審査を通るわけではないんですね。
みんなの1票だから、僕も1票でしかないので。最終的な責任者としての最終面接での拒否権はわずかに僕に残されているけれども、おもしろいなと思うのは、社長である僕とか取締役編集長である高野がマルを付けたとしても、他の人がバツだったら面接さえ呼ばれないという状況。「これでいいのか?」と思いつつも、自分のことながらおもしろいなと思っています。
石井:なるほど、おもしろいですね。なかなか普通の会社では起きそうにない、おもしろい仕組みですね。
原田:履歴書も見ていないからね。性別もわからないし、どういうプロフィールかもわからないから、面接で会えなくてもあまり残念さはないんだけど、これを事前に自分で見ちゃったらすごく残念に思うだろうなと思ってね。
石井:確かに。
原田:見ないことが大事かなと。そういうものを見ると、色眼鏡が付いちゃうもんね。
石井:正直、僕たちからするとあまりプロフィールは関係なかったりもしますもんね。
原田:そうそう。エッセイには人格みたいなものが出るのか、見なかったわりに結果的には学歴もしっかりした人が入っているんですけどね。でもそれは結果であって、感性の合う人と一緒に働いてみようかなと。
原田:ただ一方で、そうすると感性の多様性が失われるのかという議論も出てきたりするんだけどね。
石井:その辺は確かにありそうですね。
原田:ただ僕が思うのは、結局学習する組織になっていくためには、共有されているビジョンという「シェアード・ビジョン(shared vision)」って大切じゃないですか。
石井:「みんなでこっちに行こうぜ」というところですね。
原田:そこを共有していないと、その領域における学習も促進されないから成果も見えづらいし、学習しているかどうかの認識もしづらいですよね。
石井:なんなら同じ組織、同じチームでやる意味がなかったりしますよね。
原田:そうですよね。そういう意味では、人が集まる目的・理由としての「シェアード・ビジョン」があるからこそ、みんながそこに向けて創造力を発揮したり、リーダーシップをシェアできたりするので。どこに行っていいかわからないというか、ビジョンがシェアされていなければ、どんなにそれぞれの多様性があっても、ただバラバラなだけですよね。
石井:そうですね。多様性があるという「多様なだけ組織」になっちゃいますよね。
原田:さっき質問したかったんですけど、シェアード・ビジョンがあると、それから外れたことが起きて、そこにセレンディピティ(偶然の発見)が生まれて新しいクリエイティビティが出現するようなことをけっこう妨げているのかなというのが今の悩みなんです。悩みというか、そこらへんのバランスが難しいなと思っています。
石井:ビジョンのレベル感とか抽象度の置き方とかもあると思いますけれども、逆に言うと、この「ビジョン」が社会で達成されて役割を失ったら、本来会社は解散するべきじゃないのかなと思ったりもしますけどね。
原田:なるほどね。自分も55歳になってくると後継者とか、自分の起業家としての信念とか理念をどうやって残して伝えていくかと思うけど、これも100パーセントピュアに伝えられるとか残せると思うほうがおかしくて。自分の子どもだってだいたい50パーセントだもんね。
本当に50パーセントかはよくわかっていないけど、お父さんとお母さんで半分半分で、遺伝子だってそのぐらいのものなんだから、会社に対して100パーセントピュアに自分のDNAを残せると思うほうがおかしな話なのかもしれないね。
石井:組織もそうですけどプロジェクト単位でも、誰か1人は情熱がある人がいないと、魂の抜けた「かたちだけ整いましたけど」みたいなものになっちゃいます。今回のテーマにもマッチするのかなと思いますけれども、組織も乗り物といえば乗り物じゃないですか。我々が遺伝子の乗り物であるのと同じように、そこの流れが変にせき止められないことが大事なのかもしれないですよね。
原田:なるほど。
石井:それぞれの思いがこの会社で育って、次の会社にいくかもしれないし、この人が起業するかもしれないし、組織の中で種火を大きく燃え広がらせるかもしれないし。経営者としてやれることは、自分自身が燃え上がり続けるだけという。
原田:組織はすごく動的なもので、常に動いているという感覚はもっともっと持たなきゃいけなくて。気がつくと固定的に物事を捉えちゃいますよね。『チームが機能するとはどういうことか』という本は、原題が「TEAMING」なんだよね。ing形が付いている。
石井:これですね。
(本を掲げる)
原田:そうそう。俺が宣伝しなきゃいけないのに、ありがとうございます(笑)。「TEAM」じゃなくて「TEAMING」というing形で、動的に捉えるところが非常におもしろいタイトルだなと思って。
石井:名詞ではなく「活動である」という感じですかね。
金亨哲氏(以下、金):石井さん、その「TEAMING」の件に関して少しだけ補足をいれていただけたりすると(ありがたいのですが)。
石井:そうですね。(著者の)エドモンドソン先生がおっしゃっているのは、例えばこういう場に来られるようなみなさんであれば、コロナ前はリアルの会場でやられるイベントに行ってらっしゃった方々もいると思います。リアルな場に行くと、講師の方が「前後左右の3人でチームを作ってください」とかおっしゃるわけですよね。
3人で「はいチームです」とかと言っても、そこにはまだまだチーム感が無いじゃないですか。でもイベント終えて「いろんなアクティビティをこの3人でやったね」ということがあると、その中に最初とは違った「チーム感」が生まれていたりするんですよね。
こんな風に、ともに問題に取り組むとか、ともにゴールに向かうとか、活動を通してチームになり、活動に名付けるとするとTEAMではなく動名詞形TEAMINGだと。エドモンドソン先生の心理的安全性を日本に最初に広めた本がこの「TEAMING」だと思っていますが、これがその本の中で書かれていることですね。英治さんも補足があればお願いします。
原田:いやいや、そういうことは専門家に任せるよ。
金:いや、英治出版さんから出版される書籍ですからね(笑)。
原田:そうなんですよ。買っていたければ幸いです。
石井:「(先ほどの話の)『経営者は寂しい』は本当にそうだと思います」というコメントをいただいておりますけども、英治出版から出版されたと言えば、2007年に……。
原田:このコメント、駒崎(弘樹)さんじゃん。『「社会を変える」を仕事にする』の著者ですね。
駒崎弘樹氏(以下、駒崎):宣伝いただきありがとうございます(笑)。『「社会を変える」を仕事にする』という処女作を、英治出版さんから出させていただきました。
石井:ありがとうございます。
原田:寂しいですよね、経営者。
駒崎:寂しいですね。いつもそうですね。
金:ありがとうございます。
石井:ちなみに僕も司会の金も、駒崎さんの『「社会を変える」を仕事にする』に感銘を受け、学生時代はソーシャルベンチャー界隈にいました。
金:実は英治さんとは10年以上お付き合いさせていただいていて、社会起業家の発掘・支援をするアショカ・ジャパンの立ち上げの時にお手伝いさせていただいていたことがあって、英治さんにお世話になりました。実はその2011年のアショカ・ジャパン立ち上げ時に石井さんにお会いして、僕の今があったりします。
石井:その流れで言うと、僕も(貧困や生活困窮の状態にある人々に低利・無担保で少額の融資を行う、バングラデシュの)グラミン銀行に3週間インターンしていました。
金:ありがとうございます。今の話にあわせて、「英治出版さんは必要なフィードバックがもらえる環境を作られているという話だったんですけれども、具体的にどういったことをやられているのかを聞いてみたいです」という質問がきております。
原田:基本的に、公式では企画会議がフィードバックの場だと思っているんですよね。企画会議は、著者の情熱に共鳴したプロデューサーが「企画として出版しよう」とか「この企画どうかな」ということをメンバーに共有する場なんですけど。
その時に「それはどういう企画なの」とか「どういう著者なのか」という質問からだいたい始まって、「この本を出すとしたらどうやってプロデュースするの」とか、そういうかたちでみんながいろんなアイデアやリスクをフィードバックしていくんです。最終的に全員から拍手が起こると、企画がゴーになるんですよね。
でもそれはいわゆるティール組織でいうグリーン組織(多次元組織)の「全員合意」という意味ではなくて、僕は感覚的に相撲の立会いに似ているなと思っていて。行司はだいたい鈴木(美穂)さんあたりがやっているんじゃないかなと思うんですけど。「そろそろ場が整いましたかね」とか「時間です」みたいになると、みんなが立ち会って拍手が起こるという感じだと思います。
結局そのプロデューサーに対して、「自分は十分なフィードバックを行ったかな」とか、「この企画をやるにあたって十分な準備ができたかな」ということを、なんとなくみんなで体感していて、「じゃあそろそろこの企画をゴーにしても大丈夫だよね」というような場になっているんです。だから「ボツ企画」というものが、英治出版には基本的にないと言っているんですよね。
続けても続けなくてもいいんですけど、そのプロデューサーが諦めずに何週でも出し続ける限りフィードバックを受けて、だんだんとその企画の精度を上げていくことができる。どうしてもこの本は出版しないでほしいというものがあれば、僕には拒否権があるよとは言っているんですけど、基本的にそれを行使したことはほぼないので。これがフィードバックシステムになっているかなと思いますね。
金:先ほど石井さんがおっしゃっていた、誰か1人がプロジェクトには強い思いを持っているべきであるという話とけっこう近しいですよね。
原田:やっぱり誰かの「情熱」がすごく大事だね。ただ、情熱があればうまくいくわけじゃないので、そういう意味ではみんなの目が入って、「こういうプロデュースの可能性もあるんじゃないか」、「本当にその人がプロデューサーとして準備が整っているかな」、「自分たちも理解ができて応援できるかな」ということをフィードバックする場が企画会議だなと思っています。
それが毎週水曜日にあります。その延長線上で、プロデューサー同士とかプロデューサーと僕とで、個別のフィードバックも率直にしあえる文化ができていくのかなと思っていますね。
石井:ちなみに原田さんからご覧になって「この人のフィードバック上手だな」とか、あるいは英治出版の出版会議ってこういうフィードバックの仕方をするから、お互い変に心が折れたりせずに、「また次の週も修正して持ってこよう」と思えるのかなとか、そんな特徴があったらぜひ教えて頂きたいんですけど
原田:やたら沈黙が長いかな。やたら沈黙が長くて、プロデューサーとかすごいドキドキしてんだろうなと思うんだけど。「なんでみんな黙っているんだろう、ピンと来ていないのかな」とか。
でもけっこうお互い様で。プロデューサーは自分が提案することもあれば自分がフィードバックする側にもなるから、なぜプレゼンが終わった後にすぐフィードバックの言葉が出てこなかったのかを、自分の感覚である程度理解していくようになるし。みんなが場に集中して、「ここにフィードバックするには何が足りないか」とか考えるようになるんですよね。
原田:効率的にすると言うよりは 、けっこう感情的に進めることもあって。「なんかわかんないけどモヤっとしている」というのもありなんですよね。
石井:「モヤっとしている」のようなフィードバックは、ふつうはフィードバックの場ではなかなか言えないことだと思いますけれど、大事ですよね。
原田:「なんかしっくりこないんだよね」「なんなんだろう」って。「お前もわかんないのかよ」っていうのも、フィードバックの一部で(笑)。プレゼンしてるほうからすると大変迷惑かもしれないけれども。でも同じようにモヤっとしている人がいると、誰かが少しずつその場を動かしながら、そのモヤっとの中身を確かめていくプロセスに移行することもあるので。
石井:我々はつい、相手の話を急いで「ということは」とか「要約すると」とか言いそうになりますけど、沈黙の間が取れているのは、それはそれでいい特徴なんでしょうね。
原田:「沈黙だからだめ」ではなくて、沈黙をブレイクするのにも、準備を整えてブレイクしていますよね。「誰か話さなきゃ」という強迫観念は少ないかな。まったくないわけじゃないけどね。
石井:いいですね、ありがとうございます。
(質疑応答・相談会を挟む)
金:ではラストメッセージということで、まずは石井さんからお願いしてもよろしいでしょうか?
石井:みなさん今日はご参加いただきましてありがとうございました。最後にお伝えしたいな、と思っているのは、みなさんおひとりおひとりが、いまの立場に関わらず、リーダーシップを発揮して、組織・チームを変えていって頂きたい、ということです。
なぜかというと、組織やチームは祈っていても勝手に変わっていくということはないからですね。
今みなさんはメンバーだったり、リーダーだったり、社長だったり、代表だったり、いろんなお立場があると思うんですけれども。その中でまずは「自分が心理的安全性を作るリーダーだ」というつもりで、なにか周りの人々からアプローチしてみていただけるといいのかなと思います。
それこそ、自分がやっちゃっていた心理的「非」安全に繋がりそうなことをやめてみるとか、あるいは、まずは笑顔で話を聞くぐらいの、すぐできるアクションがいくらでもあると思うんですよね。
ぜひみなさんから心理的安全な組織・チーム、そして創造的でワクワクできるようなプロジェクトを立ち上げる、そんな一歩を踏み出していただけるといいのかなと思います。本日はご参加いただきまして本当にありがとうございました。
金:石井さんありがとうございます。では英治さん、よろしくお願いします。
原田:ありがとうございます。昨日ワクチンを接種して今日は調子悪いかなと思っていたんだけど、でも石井さんとか駒崎さんとか、みんなが入ってきてくれて、やっぱり仲間と作る現実は自分の理想を越えるよね。
本当に今日も、自分が想像していた理想よりも遥かに楽しい、いいイベントになったんじゃないかなと。自己認識とみなさんの認識が違うのかもしれないけど、少なくとも僕自身は楽しい場でした。本当にありがとうございました。また石井さんや金くんや駒崎さんたちと、うなぎを食べに行きましょう。ありがとうございます。
金:(笑)。ありがとうございます。本日はみなさまどうもありがとうございました。
石井・原田:ありがとうございました。
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