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「オンライン採用」著者と考える、地方企業の採用のこれから(全5記事)

日本の企業に根強く残る「面接は対面じゃないと」という“幻想” 採用のオンライン化を進める2つのヒント

テレワークの普及に伴い、働く場所の選択肢が広がっている今。企業の採用活動も、オンライン化で新たな局面を迎えています。そこで今回は、伊達洋駆氏と沢渡あまね氏が「採用の本質」について議論を交わした、株式会社なないろのはな主催「『オンライン採用』著者と考える、地方企業の採用のこれから」のセミナーの模様をお届けします。本記事では、『オンライン採用』著者の伊達氏が、学生と地方企業それぞれの立場から見たオンライン採用の現状と、採用のオンライン化を進めていくための2つのヒントを語りました。

地方企業の採用の現状と今後のための考え方

西舘聖哉氏(以下、西舘):時間になりましたので、今日のオンラインイベントを始めたいと思います。みなさん、ご参加いただきありがとうございます。

今日は『オンライン採用』著者である伊達洋駆さんをお呼びしており、なないろのはな 取締役の沢渡あまねさんとの対談トークイベントとなります。司会・進行は同じくなないろのはな 取締役の西舘聖哉が担当させていただきます。あまねさん、伊達さん、よろしくお願いします!

沢渡あまね氏(以下、沢渡):よろしくお願いします。

伊達洋駆氏(以下、伊達):よろしくお願いします。

西舘:参加者の皆さんは、聞きたいことや「こう思いました」という感想があれば、どんどんコメントいただければと思います。

さっそく伊達さん、あまねさんから個別にご講演いただいて、いろいろインプットしてもらうパートに入りたいと思います。まず最初に、伊達さんからお願いしてもよろしいでしょうか。

伊達:はい。はじめましての方もたくさんいらっしゃると思うんですが、ビジネスリサーチラボの伊達と申します。私から20分ほど、「地方企業の採用の現状と今後のための考え方」についてお話しします。

最初に自己紹介をします。私はビジネスリサーチラボという会社を経営しているんですが、もともとは神戸大学大学院経営学研究科で、研究者としてのキャリアを歩んでいました。その途中で会社を立ち上げて、現在に至っています。アカデミックなキャリアから、ビジネスのキャリアにやってきたという、けっこう珍しいキャリアパスになっています。

ビジネスリサーチラボは、研究の知見を活かして、組織サーベイ(従業員意識調査)を行ったり、組織の中にあるさまざまなデータを分析するサービスを提供しています。

採用に関連するところですと、内定の承諾者や辞退者に対してアンケートやインタビューを行ったり、ハイパフォーマー(高業績者)の分析を行って、人材要件の設計をしたりしています。

採用の「募集のオンライン化」の実態

伊達:本日、私からのテーマなんですが、「地方企業のオンライン採用の現状とオンライン化を促すための方法」というものです。なぜ私が今日呼ばれたのかにも関係してくるんですが、今年の2月26日に、JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)から『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』という本を出しました。

オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方

これ以上ないくらいわかりやすいというか(笑)。ちょっと赤本の印象する表紙なんですが、まさに、オンライン採用について書いている本です。本日は、この本も関連する内容について情報提供します。私の話は3つのパートから構成されています。

最初に「募集のオンライン化」についてのパートです。「募集」というのは、自社の採用に受けてくれる人を集めることです。例えば、ナビサイトに広告を出したり、採用サイトを作ったり、説明会を行ったりすることで、自社の選考を受けてくれる人を募集します。

募集と言っても最近は、応募者が集まるのを待つだけではなく、企業側から「うちに来てくれませんか」とダイレクトに働きかけるサービスも増えています。こうした「募集」に関して、地方企業のオンライン化が現状どうなっているのかをお伝えします。

学生が地元企業の情報を得るのは、ほぼWebから

伊達:まず、Uターンや地元就職に関する調査を見ていきましょう。学生の希望としては「オンライン形式のセミナーに参加したいと思っている」という意見があります。例えば、「地元企業開催のWebセミナー」に対して参加を希望する、2022年卒の学生が多く見られます。Webだと現地に出向く必要がないため、便利なんでしょう。

地元企業の情報を得る方法を学生にたずねた調査もあるんですが、ほぼWebで情報を集めていることが分かります。就職サイトやWebセミナーなど、オンラインで地元企業に関する情報を得ています。

では、なぜオンラインで情報を収集するのでしょうか。私たちが内定者調査を行う中で、いくつか共通点が浮かび上がっているんです。

1つは、「移動しなくて楽」という話ですね。「なんで今まで移動していたのか」という意見もあるくらいです。例えば、往復4時間くらいかけて、30分の面接を受けるのは大変です。

もう1つが「交通費を気にしなくて済む」という点。そして、「授業の合間にも参加できる」という点です。とりわけ理系の学生にとって授業の合間に参加できる点は魅力的だということです。

交通費の問題については、他の調査でも裏付けられています。オンライン化が進んだ2022年卒では、交通費の問題が少し緩和されているという調査結果です。

オンライン説明会を行う企業は、学生の志望度が高まる

伊達:オンラインで説明会を行う企業に対して、学生はそれだけで「この会社いいな」と志望度が高まることもわかっているんですね。

こんな調査があります。マイナビの、これも2022年卒を対象とした調査ですが、「Webセミナーを実施していると志望度が上がる」という項目に対して、半分以上の学生が「イエス」と答えています。

オンラインでセミナーをしたらなぜ企業の印象が上がるのか。候補者は企業の様々な情報を元に企業のことを判断するんですね。ただし、学生でも中途採用でも、一般には企業に関する十分な情報が得られていません。

そのため、得られた少ない情報の中で、その企業のことを懸命に推論していくことになります。結果、採用をオンライン化していること自体が、企業の特徴を推論するためのシグナルになっているのだと思われます。こういう現象を「シグナル効果」と呼びます。

例えば、オンラインで採用の説明会を行っているという情報を見て、候補者は「この会社って先進的なんじゃないか」、あるいは「変化に対応する力があるんじゃないのか」などと推論するんですね。

今までのお話からすると、地方企業が候補者を募集するためにも、候補者の志望度を高めるためにもオンライン化が有効ということです。

少し企業事例を紹介しましょう。北海道の企業では、まず若者が見る求人サイトを使ったそうです。さらに、ターゲットに合わせてきちんと原稿を作っていく。これらは当たり前といえば当たり前なんですが、ただ、基本的なことを徹底すれば成果につながります。

説明会についても、学生はYouTubeたテレビを見慣れていますよね。そういった中で、テレビ番組のような画面構成にしてみたり、工場見学とか職場見学はリアルタイムで配信してライブ感を出してみたり、座談会を行う時にはきちんとアイスブレイクを行ったりしている山口県の企業もあります。これが1個目の「募集」のパートでした。

面接の前提にある「対面じゃないと」という“幻想”

伊達:2つ目なんですが、「選考」についてです。選考という言葉だけを聞くと、企業側が候補者を選ぶイメージが強いんですが、実は選ぶと同時に、企業って選ばれているんですよね。候補者側からも見定められています。企業から見ると、志望度を高めなければならない。見極めと同時に惹きつけを行うのが選考であると。お互いに見極め合っているというのが、選考のプロセスになります。

選考プロセスにおいてオンライン化というと、やはりオンライン面接が中心だと思うんですが、地方の中堅・中小企業を対象とした調査(※経済産業省「地域の中核企業による人材確保手法等の調査分析」)によると、約半数で「Web面接を導入する予定がない」という企業があります。

「なぜWeb面接を導入しないんだろうか」という質問も、調査の中では投げられていまして。みなさん、もっとも大きな理由はなんだと思いますか。「対面を重視しているから」という理由なんですね。それが図抜けて多い結果となっています。

「面接って対面だよね」っていう前提があって、「対面で面接は行わないと」「オンラインじゃだめだ」というような、これは「面接」の部分をいろんな言葉に当てはめても成り立つかなって思うんですが、そのように思っている方が多いわけです。

こうした「対面がいい」という現象は、なかば批判的な文脈で「コーヒーとビスケットの神話」なんて言われたりするんです。コーヒーとビスケットの神話というのは、テーブルで向かい合って、真ん中にコーヒーとビスケットを置いて2人で話せば、大抵のことはうまくいくっていう。対面を信じる幻想のようなものを指してそう呼ぶんですね。

対面で発生する「バイアス」で、採りたい人物像と実際の評価がずれる

伊達:もちろん、対面にもいい側面はあるんですよ。感情が伝わりやすいとか、そういった側面はあるんですが、他方で短所もあるんですよね。あらゆる方法がそうであるように、長所もあれば短所もあるわけです。対面のいいところはもうみなさんわかっていると思うので、対面の選考における短所をあえて紹介したいと思います。

一言でいうと、「バイアスが発生する」ことなんですね。面接で人が人を評価する時に、その評価は歪んでいるんですよね。どんなバイアスが発生するかというと、例えば、第一印象で評価が決まってしまったりする。数分で評価を決め、それが面接の最終的な評価につながっています。

怖いですよね。30分面接しても、最初の数分でほとんど決まっちゃっているということですね。あるいは、外向性の高い人が対面だと評価されやすいというバイアスもあります。外向性というのは、要するに明るいということです。明るい人って面接の評価が高まりやすいんです。

おもしろい研究が1つあるんですけど、面接官に調査を行うと、誠実性が高い人、計画ができたり几帳面でまじめな性格の人を採りたいと思っているんですね。ただ、実際に面接を実施してみると、外向性が高い人のほうが評価が高くなってしまうと。採りたい人と実際の評価が高い人がずれているんです。

対面では、言葉以外のいろんな非言語の情報が得られてしまうがゆえに、こうしたバイアスが発生してしまいます。このように、オンラインも対面も、それぞれ長所と短所がやはりあるんですね。それぞれの特徴をきちんと理解した上で組み合わせていくことが、特にこの「選考」のオンライン化においては大事になります。

選考の競争は、オンラインと対面の「組み合わせ」がポイントに

伊達:実際に地方企業は、オンラインと対面をいかに組み合わせているのか。やはり工夫していますね。例えば、宮城県の企業ですと、遠方の場合でも県内の人でも、オンラインで選考を行い、ただし、二次面接は対面でやりますと。対面の機会を設けるのは、職場や周辺の地域を案内したいからです。

京都府の企業もオンライン面接を活用しているんですけど、ただ最終面接は対面で行っています。京都の魅力や会社の雰囲気とかを伝えていく時に、やはり対面のほうが便利なんで、対面を使うことになる。オンライン化においては、「組み合わせ」のところが競争ポイントになってきている。これが「選考」におけるオンライン化の話です。

ここまで進めてきて、みなさん、こういうことを思ったかもしれません。「地方の企業って、そんなにオンライン化が進んでいるんだろうか」と。地方だけじゃないですよね。首都圏も中小企業とかですと、オンライン採用が進んでいない企業も多いんですね。

「自社がそうだ」という方もいらっしゃるかもしれませんし、「他社、クライアントがそうだ」という方もいらっしゃるかもしれません。「採用のオンライン化を進めたいんですけど、なかなか取り組んでくれない」といった声をよく耳にするんですね。では、どうすればいいんでしょうか。

採用のオンライン化を進める2つのヒント

伊達:本日は2つだけ、ヒントを提供できればと思います。1つ目のヒントが、「技術受容モデル」という考え方なんですが、人が新しいテクノロジーを使う時、心理的なメカニズムとしてはどういうことが起こっているんだろうかというのを検証したモデルになります。

「技術受容モデル」というと、一見難しげに聞こえますが、エッセンスはシンプルです。「有用性」を知覚したり「使いやすさ」を知覚したりすると、利用しようと思う。そして利用する。それだけです。

つまり、新しい技術は「それって役立ちそうだ」という有効性と、使いやすさ、つまり「使いやすいな」と思うと、使われるということなんですね。有用性の知覚と使いやすさの知覚を高めていくことができれば、オンライン採用は導入しやすくなるんです。

この2つをそれぞれ考えてみたいんですが。有用性の知覚をどうやって高めるのかというと、2つ方法があります。まず、利用した結果が見えることが大事です。やってみて効果が現れたとか、そうしたことを可視化する必要がありますね。

オンライン採用が「面接官にとって役に立つ」と感じてもらう

伊達:もう1つ、これも大事な点なんですけど、利用した人が得をするということも、有用性の知覚を高めます。例えば、面接官の方々に「オンライン面接をやってください」と採用担当者が言ったとしても、それをやったあとに「今までよりよかったな」いう部分がないと、役立ったなと思いにくいんですね。

人間って自分勝手といえば自分勝手かもしれないんですが、「面接官にとって役に立つ」という部分を、採用担当者はきちんと形作っていく必要があります。

使いやすさの知覚については、「簡単に利用できる」というところです。難しいツールを使うんじゃなくて、簡単に用いることのできるツールにする。

もう1つ、上司が利用を支援してくれることも大事になります。これはどちらかというと、上司が使い方を教えてくれるという意味ではなくて、それよりも利用するための時間を与えてくれるなど、資源を提供してくれる点が、使いやすさを促すんですね。例えば、めちゃくちゃ忙しい中で「オンライン採用やってくれ」って言われると、むしろ不便さを感じてしまうということです。

このように、使いやすさと有用性を高めていくのが、利用を促していく方法のヒントの1つ目です。

行動変容を起こすための「自己効力感」

伊達:2つ目のヒントが、「自己効力感」です。先ほども申し上げたとおり、例えば社長がなかなかオンライン採用に対して動いてくれないとか、従業員が動いてくれないとか、あるいはクライアントがなかなか変わろうとしないといったケースがあるかと思います。そういうケースには、自己効力感が有効です。

自己効力感とは何かというと、ある行動をとれるという自信、「こういう行動を自分はとれそうだ」という自信を持っている状態をそう呼びます。例えば、ダイエットをする時に「運動できそうだ」という自信を持っていると、運動するんですよね。

自信を持っているかどうかは、行動が変容するために重要です。いろんな分野で自己効力感の有効性が検証されています。

例えば、入社前に仕事に対して自己効力感を持っている、「この仕事が自分にはできそうだな」と思ってる人のほうが、入社後の業績がよい。さらに、創造性を発揮する人は「創造的自己効力感」と言って、自分は創造的に振る舞えるという自信を持っている傾向が強いんですよね。自信を持っていると何度も何度もトライしていくからでしょうね。

このように、オンライン採用に対する自己効力感を高めれば、オンライン採用を導入しやすくなると言えます。

自己効力感を高める3つの方法

伊達:自己効力感をどうやって高めるのかというのが、私の最後のお話なんですが、3つ方法があります。

1つが、小さくてもいいので「成功体験を得る」ことです。いきなり難しいことをするんではなくて、オンライン採用の本当にシンプルなこと、例えばオンラインでミーティングするとかでもいいかもしれないですね。そういうところから始めていって、「できるじゃないか」という気持ちを高めていく。

「代理的経験」は、他者のうまくいっている事例を提供してもらうこと。これも自己効力感を高める方法になります。そして「言語的説得」といって、「あなたにはできますよ」と励ましてもらうのも有効な方法になるんですね。

こういった3つの方法を使っていきながら自己効力感を高め、オンライン採用の導入を促進していきましょう。

ということで、私のお話は「オンライン採用の地方の現状と、オンライン化を促すための方法」について、『オンライン採用』を元にしながらお話しさせていただきました。私からの話題提供は以上となります。ありがとうございました。

西舘:伊達さん、ありがとうございました。結論のところは頷きしかなくて、本当にやばかったですね。

成功体験とか励ましとか、組織の理解って大事ですよね。やはり新しいことをやっていこうとなっているのに、とりあえず片手間でやっていると、新しいことは身についていかないということが、すごくわかりました。ありがとうございます。

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