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小売のマーケティング、小売とマーケティング (全3記事)

全国チェーン相手に、ご当地企業が“武器”にしたもの 北海道発・ドラッグストアのブランディングが「すごい」理由

マーケターはトレンドを意識することが求められますが、コロナの影響により人々の生活スタイルが大きく変化し、従来のマーケティング戦略が通用しない状況が生まれています。 そこで、あらゆる販促製品・マーケティングサービスを持つ企業が一堂に会し、サービスを比較・検討できる場として開催された、DMM[SHOWBOOTH]主催の「マーケティング・販促サミット2021 Spring」。本記事では「小売のマーケティング、小売とマーケティング」をテーマに、北海道のドラッグストア・サツドラのCEOである富山浩樹氏が、全国チェーンを相手にサツドラが行ったブランディング戦略について語りました。

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小売のマーケティング、小売とマーケティング

富山浩樹氏(以下、富山):マーケティング・販促サミット2021 Springにご来場のみなさま、こんにちは。サツドラホールディングスの富山といいます。よろしくお願いします。

富永朋信氏(以下、富永):私はPreferred Networksの富永と申します。本日は「小売のマーケティング、小売とマーケティング」と題しまして、この2人で小売のマーケティング周りを深掘ってまいりたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。

「小売のマーケティング、小売とマーケティング」という題に込めた思いなんですが、小売の会社って、マーケティングでダイナミックにいろいろとおもしろいことをやっているのは、あまり見ない気がしていて。

自分自身が昔、西友やイトーヨーカ堂にいたので、「なんで小売の中で本格的なマーケティングが生まれにくいのか」ということや、いろいろ苦労してきた思い出もあったり。

あるいはメーカーさんが、小売を相手にして仕事をする時に「いかに組んでいったら、マーケティングドリブンな仕事ができるか」といったことを解き明かしていく40分になるといいなぁと思っています。

“北海道発”を売りにする、サツドラの地域密着型マーケ

富永:富山さんは、もう押しも押されぬサツドラの大社長とお見受けしているわけですけれども。

富山:いいえ~(笑)。

富永:サツドラが繰り出している施策って、けっこうおもしろいものがあって。マイクロブルワリーのビールを独占販売なさったと思うんですが、なにか自慢話を1つ2つ聞かせてもらってもいいですか? 

富山:そうですね。サツドラのマーケティングの施策的なところでいうと、僕らは地域に特化している企業で、北海道を中心にやっています。いかに北海道と絡めて、我々にしかできないこと、そしてエンゲージメントを高くお客さまを巻き込めることをやるかをテーマにしています。

ちょっと少し古い事例になりますと、『赤玉超パンチ』という企画をやったことがあったんですけれども。

富永:『赤玉超パンチ』。

富山:はい。サントリーさんの「赤玉ポートワイン」(赤玉スイートワイン)というのがあって。これは戦後ぐらいからあるような、本当に古い商品で。ID-POSでデータを見ると、ほとんど70代の男性が買っているような商品なんですよね。

【100年の時を超えて、今も愛され続けるワイン】サントリー 赤玉 スイートワイン(赤) キング [ 赤ワイン ライトボディ 日本 1800ml ]

もう1つ、プライベートブランドで、炭酸がすごく強いのが売りの「サツドラ超炭酸水」というものを、1本58円で売っています。これは当社の数量でいうと、一番売れている商品なんですよね。

「これと赤玉ワインを割って『赤玉超パンチ』という飲み方をしましょう」というプロモーションをかけたんですが、そこにけっこう“ノリ”を入れて。昭和でレトロな雰囲気を出して、歌まで作ったんです。地元のローカルタレントを歌手につけて、ちょっとレトロな曲を作って、グラスもプレゼントするプロモーションをかけて。

メーカーさんとのコラボの最初の事例で、けっこうおもしろがってやっていたんです。それで見事、赤玉ポートワインが、今まで買ってなかった30代~40代の女性でPOSが動いたという事例があります。

富永:メーカーも大ハッピー。

富山:大ハッピーですね。それで気をよくして、ずっとそういうコラボをやっているんです。それと最近でいうと、「超炭酸水」を買えば買うほど、堀江(貴文)さんがやっているロケットにファンディングされる仕組みをやっているんですね。

これも北海道の大樹町でやっているので、超炭酸水を買って、最終的には超炭酸水のロケットが打ち上がるという企画になっているんですよ。一回一回、地元の企業や人と商品を絡めてやっていくのが多いですね。

小売はペルソナが決めにくく、ブランドが曖昧になりがち

富永:まず「赤玉超パンチ」の企画なんですが、サントリーとがっつり組まないと絶対にできない話で。それから、赤玉ポートワインを超炭酸水と一緒に飲むというオケージョンの提案をしていて。

単にオケージョンを出すだけじゃなくて、曲を作ったり地元の歌手を起用したりとか。ちゃんとアイデアと共に組み立てられた、プロダクトと絡むコミュニケーションが展開されているという点で、相当本格的なマーケティングだと思うんですよ。

それって小売の中の部署でいうと、まずはサントリーを動かすところで商品部の人がしっかり動かなきゃいけないし、コミュニケーションを作るところでマーケの人がしっかり動かなきゃいけない。普通、商品部とマーケって仲が悪かったりするところもあるけど、ちゃんとアラインメント(調整)しなきゃいけないという難しさがあると思うんですよね。

ロケットの話もすごいなと思うんですが、たぶんその話を販促部門が起案すると、けっこう反対意見が出ると思うんですね。

富山:そうですね(笑)。

富永:「マージンが厳しい中で、なんでホリエモンなんかにファンドしなきゃいけないんだ! 説明してみろ!」「この1円は、俺の命のリベートだ!」みたいな感じになるわけですよね。でも、それがうまくいっているということを見て取ったんですよね。

小売のブランディングってけっこう難しくて。なんで難しいかと言うと、「これが小売のプロダクトだ」というものがないじゃないですか。お店全体をブランディングしていかなきゃいけないので、ベネフィットが言いにくいわけですよね。

それから、私はこれをいつも言ってるんですが、ペルソナが決めにくいんです。無理やり決めちゃうと、すごく曖昧なブランドになっちゃうんですよね。

なので、ブランディングをしにくいということがある中で、(サツドラは)すごくうまく北海道という属性を生かしていらっしゃって、「北海道×カスタマーエンゲージメント」という軸で、うまくブランディングできているなと思ったんですよね。

今、私が申し上げたことは、本来やりにくい小売のブランディングが(サツドラは)うまくできているというすごさ。それから、ともすると部門最適的になっちゃうマーケティング施策が、部門横断型でうまくできているすごさも感じて。富山さんは押しも押されぬ大社長ですけど……。

富山:いえいえ(笑)。

富永:それだけじゃなくて、マーケティングに明るいので、CEOでありながらCMOも兼ねていらっしゃるのかなと思ったんですね。そういうかたちのリーダーシップが、サツドラの中で展開されている。それが、サツドラがすごく元気に、しかもサプライズを伴ったニュース・コミュニケーション・マーケティングメッセージを発信し続けられる秘密だと思ったんですよ。

“地元発ブランド”を武器に、全国チェーンに挑んだ理由

富永:でもリテールって、全部が全部そういう(社長がマーケティングに明るい)わけじゃないじゃないですか。そうじゃない会社のほうがむしろ多いので、みんな困っちゃうわけですよね。今の話ってどう思いました? 

富山:そうですね、ちょっとまぁ……(笑)。

富永:めっちゃ褒めちゃったので(笑)。

富山:ありがとうございます。自分で言うのもなんですけど、確かに私のCMO的な動きが大きいかなと思うんですが、やっぱり我々の場合は軸を決めたのがすごく大きくて。

まず、サツドラを最初にリブランディングした時に、相手が全国チェーンや他のチェーンなので「北海道発というのを、あえて言おう」ということで、「北海道の『いつも』を楽しく」というキャッチコピーを作ったんですよね。

すべてそれに基づいて、コミュニケーションをしていこうと決めました。もう1つ戦略のところでいうと、おっしゃるように、そうは言っても我々の総合フォーマットといわれるものだとナショナルブランドがほとんどなので、本来であれば差別化が非常に難しい。

フォーマットだと「何がどれぐらいの割合で、いくらで売られているか」ということのほうが、お客さんの選択肢としてはすごく大きいんです。だから、「自分たちは、どのカテゴリーでお客さんに最初に想起してもらうか」という狙いが最初にあって。それの順に、CRMデータや核カテゴリーとかのマーチャンダイジング(商品政策)を先に決めています。

小売とマーケティングで、よく「マーチャンダイジングとマーケティング」と言われますけが、単純に“にぎやかし”ということではなくて。整理をして、中長期でカテゴリーを育てていく時に、どういう施策が必要なのか。この“揃え”を中でどんどんやっていっているのは、大きいかなと思うんですよね。

富永:今のはおいしい話ですね。

フォーマットに制約がある中で、いかに自社らしさを出すか

富永:ゴリゴリにリテールな感じになってきたので、ちょっと解説をします。まずフォーマットって何かというと、「ドラッグストアは、こういうカテゴリーの商品をこれくらい扱っているもんだ」という決めごとみたいなものがあります。

なので、どのカテゴリーにどれくらいの面積・什器を割り当てて、何種類ぐらいの商品を詰め込んでいくかという、大まかな決めごとがあるわけですよね。それがフォーマットです。

「コンビニはこういう品揃えだから、こういう期待の買い物に答えられるんだよ」とか、それはコンビニのフォーマットがあるから成立するわけです。ドラッグストアのフォーマットがあるから、ドラッグストアに対する期待値が醸成されていって、「こういう時はコンビニに行こう」「こういう時にはドラッグストアに行こう」ということが、自然と消費者の中で棲み分けがされていくわけですね。

なので、基本的にすべてのドラッグストアは、ドラッグストアのフォーマットから出発しているので、似ているわけです。でも、完全にフォーマットどおりにして似せちゃうと、今度は他のフォーマットのドラッグと差別化できないから、いかにサツドラらしさを出していくか、ということになるわけですね。

そこでサツドラは、ドラッグストアという(フォーマットの)制約がある中で、ディスティネーションカテゴリーというか「このカテゴリーを目的にして、お客さまが買い物に来てくれるようにしよう」という設計をなさった。

設計した上で、基本的な品揃えが戦略としてあって、毎週毎週「じゃあ今週、このカテゴリーはこれを推していこう」みたいな計画を、緻密に作られるということですよね。

他部門間で起こりがちな「対立」を防ぐには?

富永:まず、ブランドの真ん中に「北海道推しでいこう」というバリューがあって。それをベースにして、バリューの下では「ドラッグストアフォーマットのカテゴリー構成は、こういうふうにファインチューンされるはずだ」と考えられて、サツドラらしさを作っていかれた。それを愚直にやっておられるという話なんですが。

富山:そうです。

富永:これは、さらっと聞くと当たり前に聞こえるけど、非常に難しいんですね。富山さんはCMOにしてCEOなので「そんなの、俺の思ったとおりにやっているだけだ」と思うかもしれないけど。

富山:いえいえ(笑)。

富永:普通は、またここにも部門間の“醜いサイロ(注:業務プロセスや業務アプリケーション、各種システムが孤立し、情報が連携されていない様子を表す)”みたいなことが発生します。マーケティング部門が書いた「こんなのただの文言じゃねえかよ」みたいな美辞麗句から始まって。商品の仕入れや棚割を作っていく商品部のセクションは、一人ひとりのバイヤーの集まりなので、そもそもバイヤー対バイヤーの間で、棚や面積の取り合いみたいなことが起きますし。

それから、バイヤーを束ねた商品部全体とマーケティングで、「こんなマーケティングスローガンに乗れるかよ」というような、つまらない争いがあったりするわけですよね。

富山:はい(笑)。

富永:富山さん。今おっしゃったように、1つのコンセプトに則ってお店の品揃えをずっと回していくって、すごく大変なことなわけですよね。

富山:そうですね。でも「このカテゴリーをこれぐらい売っていくんだ」という合意があれば、商品部と営業企画はけっこう一体になれるんですよね。

富永:割を食うカテゴリーのバイヤーっているわけじゃないですか。

富山:そうですね。でも、マーケティングの施策の前に、商品部とか営業企画でカテゴリーの割り振りはあるので、そこは「やっていこう!」というミッションがあれば(対立しない)ですね。

富永:なるほど。

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