2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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平澤直氏(以下、平澤):では、これをアニメスタジオ目線で見るとどうか、ということをご説明させてください。これ、アニメスタジオをマトリクスでマッピングしてみようと思って作った表です。
「指名で仕事がくるか/こないか」、「価格競争力があるか/ないか」が上下。そして「制作費のみの収入か/制作費以外の収入もあるか」を右左としますと、こんな感じにスタジオが分けられると思います。すいません、具体的なスタジオ名はいろいろと問題が発生しますのでお許しください(笑)。
だいたい週末のアサアニメを作っているスタジオが左下の象限に集まっています。右下・右上・左上のあたりには深夜アニメや劇場アニメを作っているスタジオがマッピングされていくと思います。
だいたい今、週末アサアニメを作るスタジオが新しくできることはほとんどなくて、深夜アニメや劇場アニメを作るスタジオが新しくできるんです。新しくできた時のスタジオはまずだいたい右下です。価格競争力がなくて、制作収入のみの状態で発生します。
そこからがんばってがんばって名前を上げていくと、価格競争力が出始めて右上にいきます。指名で仕事がくるからですね。そこでだんだん会社の体制を整えて、ライセンス部隊や自社商品化部隊をちゃんと自社で雇えるようになると、今度は制作費以外の収入が増えて左上に進んでいく。
というように、今のアニメスタジオの出世ルートというのは、右下からできて右上に移動して、左上にいけるかな、ということをずっとやっています。そうした手法の一環で大きく貢献してきたビデオグラムの売上が、今はだんだん変化してきました。
平澤:ちょっと古い資料で恐縮ですが、2018年までの国内のビデオの売上高の推移です。ちょうど自分がバンダイビジュアルでご厄介になっていた2000年代でガッと右肩上がりになり、2004〜2005年ぐらいからだんだん下がってきて、今の市場規模としては半分ぐらいになっている状態です。
これまでずっと深夜アニメの生態系を支えてくれたビデオメーカーさんの出せるお金の原資がちょっと絞られてきているのは、みなさんよくご存知のとおりかと思います。変革期突入後にアニメ産業がどう変わったかというのが、次のページからのお話になります。
一番最初にきた変革期は、4~5年前の2010年代後半です。外資のVODサービスさん、特に月額定額制のサブスクリプションVODさんのサービスが持っている、巨額の番組制作費やライセンスの獲得資金、番組購入資金を背景としたアニメが作られ始めています。さらにプラットフォームの新規参入で、競争が激化すると予想されているのが現状です。これは、現在までの変革で間違いなく1つ言えることです。
もう1つ、それこそ1つのサービスで年間数百億円のものすごい利益を出すゲームが、実際に何個か存在する恐ろしい世界なんですけれども、そういったオンラインゲームを中心としたIP(知的財産)。アプリゲームを中心としたIPが、莫大な収益をベースにプロモーションのための映像を作る。しかも巨額の予算で作る事例が現在増えてきていて、これからさらに増えることが想像されています。
これをさっきのマップに落とすと、このようになります。これまで緑色の象限に乗っていた週末のアサアニメの生態系と、深夜・劇場アニメの生態系のピンクのところに加えて、指名で仕事がくるスタジオを中心に、青色の生態系。「配信プラットフォームとゲームIPアニメ」の生態系が立ち上がっている、というところがまず大きく出てきたところです。
平澤:さて、まずはアニメの地殻変動が現段階までどのように起こっているかを、端的にご説明しました。ぜひ、数土さんの見地からご質問いただけたらと思っております。
数土直志氏(以下、数土):たぶんあんまり質問できないのですが、2つあって。1つは、二極化することによって、作品の内容って変わってくるものなんですか? 例えばそういった時に高予算アニメが出るとか。
平澤:例えばですけど、届けたい相手がもっと広くなっていくんですよね。ブルーレイを売るアニメって、すごく極端な話、「100万人に見てもらって1万人に買ってもらう」っていう、中毒性の世界だったんですよ。一方でサブスクリプションの世界って、もっともっと多くの人に、最後まで見てもらえればいい。でもそのあと高いものは買ってもらわなくてもいいっていう世界なので、拡散性というか。
多くの人に最後まで見せる、でも何回も見せる必要はないっていう、中毒性よりは拡散性。誰が見てもなんとなく感想があって、次(の作品)を見たくなることが求められているような、わかりやすさはけっこうあります。
数土:マス向けって考えると、この一番左下の週末のアサと一番上の配信・ゲーム系って、実はなにか似てるようでもあるんだけど、感覚としてはぜんぜん違うものじゃないですか。その差って何なんですか?
平澤:週末アサアニメは、やっぱり「買わせたい商品」がある。かつ、やっぱりまだまだターゲット(の年齢層)が少し低いですよね。
数土:あぁ。
平澤:ターゲットの年齢も含めてずいぶん違いますね。子ども向けだと、例えば「夜のシーンのキャラクターも肌色をそんなに暗くしちゃいけない」とかあるんですね。子どもが怖がるから。
あとはカットつなぎでも、ちゃんと子どもの認識のスピードに合わせて、カットが変わってから0.何秒はあんまり動かないほうがいい、とかあるんですよ。そういうふうに、編集のタイミングもちょっとずつ違ったり。
そういう技術的なこともあれば、「見てる人」と「見てる人が欲しい体験」がちょっとずつ違う気がしますかね。あと、週末アサアニメはイッキ見を前提としてないですね。
数土:あ、そっかそっか。継続的に長く長く、2年3年見てください、という。
平澤:はい。配信プラットフォームはイッキ見を許容することを前提にしているので、けっこう目まぐるしくキャラの配置や人物相関を変えてきますよね。
数土:この中で言うと、グラフィニカはやっぱり上のほうを目指している。あるいはアーチもそうですね?
平澤:おっしゃるとおりです。グラフィニカって、2つの顔があるんですね。1つはまさに元請けとして、この生態系の中の青いところを狙っていこうというパターン。
もう1つは、青いところにすでにいらっしゃるアニメスタジオさん、あるいはピンクと緑のところもそうですけど、それぞれのスタジオさんの二次請けとして、CGや撮影だけ請けるっていう、デジタル二次請けスタジオの側面もあるんですよね。
なのですごくいい質問をしてくださって、まさにこの図って元請けのスタジオの生態系の話をしてるんです。その向こう側には、膨大な量のインディペンデントのクリエイターと、特定の1つ2つの工程のみを担当するちっちゃなスタジオと、二次請けスタジオの生態系があるんですね。
その点に関して言えば、まさにこの青いところが、すごくインハウス化し始めていて。今、そういう二次請けの人たちを取り込み始めている側面もありますね。
(チャイムが鳴る)
数土:すいません、荷物が来てるみたいなんですけど無視してください(笑)。
平澤:(笑)。いいですね、今っぽい。ぜんぜんいいですよ(笑)。
数土:もう1つ聞きたかったのはスタジオの話です。二極化していることと、先ほど「スタジオが増えてる」って話が出てたと思うんですけれども。スタジオが今めちゃめちゃ増えてる中で、スタジオはこれからどういう方向性にいくのか。減るのか、統合されるのか。もう1つ重要なのは、これから起業しようというスタジオはどういう戦略をとるべきなのか。
平澤:大きく2つのルートが起こります。1つの大きな流れとしては、やはりインハウス化、そして統合の流れですね。アニメの中でもわりと属人性の高い作り方をするスタジオ、例えば手描きのスタジオさんは、これから統合しても管理コストが上がるのでけっこう大変なんですよね。なのであんまり統合のメリットがないんです。
だけど、デジタルに力を入れてるスタジオって、インフラ投資とかテクノロジーやファイナンスへのケアが必要になるので、統合のスケールメリットがわりと出やすいんですね。なのでデジタル化を進めているスタジオほど、統合のメリットを享受しやすい状態ではあります。
既存のスタジオの中で言えば、デジタルに強いスタジオほどスケールメリットを狙って、例えばゲーム会社からお金をもらうとか、あるいはスタジオ同士で統合をするという動きをし始めます。
平澤:一方で、ちっちゃいスタジオや個人のスタジオがこれから新しくできた時にどこへいくべきかで言うと、初っ端から価格競争力をつけて青い生態系にいくか。
数土:さっそくあそこに飛び込む。
平澤:ええ、配信プラットフォームとのご縁があれば、そういう方法は不可能じゃないです。実際にいくつか……詳しくは言えないな(笑)、あるように聞いています。配信プラットフォームのバックアップで独立してるというか、最初からわりと潤沢に良い仕事をもらっているスタジオは確かにあるようです。「ようです」と言いましょう(笑)。
そういった大規模資本を受けて大規模化を狙うパターンと、あるいはより個人的な作り方。自分は「ブティック的」って表現をしてますけど、特定の個人、むしろ属人性を前面に出して「この人と作れます」っていう方向性を強く出す。
「本体はちっちゃいけど、映像やカットをいっぱい作ってくれるアニメスタジオと信頼関係を築けている」みたいに、既存の生産能力のあるスタジオと組むことで、結果的に早い段階で青いところにいく。そういうちっちゃいスタジオも、どうもあるようですね。
数土:じゃあ競争は増して二極化は進んでいるけれども、チャンスはけっこうあるってことですね。
平澤:ありますね。青い生態系の人たちはやっぱり「これまでと異なるアニメを作ってほしい」というニーズがあるので。そのニーズに応えると、初っ端からかなりおもしろいルートに乗れるんじゃないかなと思いますかね。
数土:わかりました。じゃあ続いて、3番目いきましょう。
平澤:では今後のアニメ産業はどう変わるか、ご説明していきましょう。キーワードは「融合」だと思っています。
どのような融合がテーマかというと、1つ目は海外の映像産業との融合を果たすスタジオやIPがより出てくるだろうと思っています。そしてもう1つ、巨大プロジェクトを開発・運営する、国内外のインタラクティブ産業との融合を果たす国内のプレイヤー。これ、出版社も含みます。それとスタジオやIPが出てくるかなと思っております。
では2つ、ご説明させてください。まず、海外の映像産業との融合です。ちょっとデータが古くてごめんなさい。これは、2019年に国内外で見ることができたアニメ作品の数々なんですね。中国のもの、アメリカのもの、中にはフランスのものもあれば、アジア地域で作られたものもけっこうありますね。日本のは一番下の段です。
これが、ほんの片手で数えられる配信サービスで全部見られるようになっちゃったんですよ。20年前だとありえないことで、映画祭に行かないと見られなかったような作品がいっぱいあるんですよね。
我々がこれまで気づいてなかった新しい地域で、けっこうな量のアニメが、ある種日本ルックに近いようなアニメも含めてどんどん作られています。そしてそれが、配信サービスや劇場興行を通じて我々のところにどんどん届いてきている。
これは世界的に起こっている現象で、ほとんどの人が配信サービスのプラットフォームで見る。「サムネイル」、親指の爪ですよね。親指の爪ほどの画像で何を見るか判断するという時代になっています。世界中の映像と日本のアニメが同じ場所でずらっと並んで、「どれを見るか」の選択の対象になってきています。
そこで起こることが何かというと、やっぱり「ルック」。パッと見た目で何が違うか。「なんかこれおもしろそうだな」と思えることと、あとはなんせ世界中の映像が並んでますから、「なんでこれを日本人が作る意味があるの?」っていうテーマに対して、きちんと回答がなきゃいけないと思っています。
なので、カギは「ルック」を開発する開発環境への投資と、日本ならではのポリティカルなテーマ。こういったところが、今後とても重要になってくるだろうと思っております。
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