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武井浩三氏×麻生要一氏『自然経営』地元対談型読書会(全7記事)

多数決を繰り返していくと、組織からリーダーシップが失われる ティール型組織の意思決定のプロセス

「資本主義社会のその先」を追求する令和の革命家こと、武井浩三氏と、起業家・投資家・経営者としての顔を持ち、「資本主義社会のど真ん中」で大活躍するイノベーター、麻生要一氏によるオンラインイベントが開催されました。本パートでは、自然経営(自然のように変化し続ける経営)やティール組織に関する、武井氏と麻生氏のパネルディスカッションの模様をお届けします。

資本主義の観点から見た「自然経営」への疑問点

麻生要一氏(以下、麻生):事前の予想どおり、時間を大変オーバーしていただいて、25分押しで進行しています。本当にありがとうございます(笑)。

武井浩三氏(以下、武井):はい(笑)。

麻生:残り35分なので、10分~15分ぐらい僕とお話しをさせていただいて、あとはみなさんからのQ&Aを拾っていきたいなと思います。今の武井さんの講演で、いろいろな話があったんですけど、3部構成くらいだったかなと思っています。

最初は経営システムとしての自律分散型経営というか、自然(じねん)システムといったお話から、第2部くらいのところでは、街づくりや不動産から資本主義を読み解くというところ。

最後が、時間切れになって語り切れていないところもあると思いますけど、「社会全体の仕組みについて」というところだったかなと思います。

今日は武井さんに疑問をぶつけられる会があるということなので、僕が事前に用意していた質問をちょっと書き換えまして。このぐらい気になっていることがあるので、お話をうかがいたいなと思っているんです。

・採用は何で惹きつけるか?

・急激な環境変化への対応

・成長戦略・イノベーションとの共存は?

・明確な悪意への対処は?

・高い自律性と能力を前提としているのではないか?

僕はご存知のとおり、ふだんは資本主義にまみれて生きているので(笑)。この資本主義にまみれている僕が、経営システムとしての自然経営について、ちょっと疑問に思っていることを聞きたいと思います。

武井:はいはい、なるほど。

いざと言うときに一致団結できるのか?

麻生:というところで、いろいろ聞きたいことはあるんですが、一番聞きたいポイントは、自律分散型の自然経営にすると、やっぱり組織としてのパワーが落ちるんじゃないかと思っていて。

持続可能性ということで言うと、確かに利点があるというのはよくわかるんです。だけど例えば、経営ではパワーが必要な時もありますよねと。例えば、「急激な環境変化が訪れていて、それに対応しなきゃいけない時」とか。あと「競合がめっちゃやってきていて、応戦しなきゃいけない時」とか。

あと「世の中が変わっているから、イノベーションを起こしていかなきゃいけない時」とか。そういう、どうしても経営資源を集中させて投下して戦わなきゃいけないような時に、自然経営はどう機能するんだろうか、というのが気になっていることでして。

武井:まさに、まさに。自然経営って、ティールでいうここ(話しながら一番上を表す身振り)の階層のことじゃないですか。でも、ティール組織でも言われているのが、どこの階層が偉いとかじゃなくて、生物みたいにその時々で変化するという、すごくファジーなことを言っていて(笑)。

自然経営も、その時々で適切な状態を発露しやすい環境デザインなんですよ。透明性・流動性・開放性が高いと、今まさに要ちゃんが言ったような、競争環境が厳しくなると、やっぱりオレンジパラダイム的(注:ティール組織に至るまでの5段階のうちの3段階目にあたり、ヒエラルキーはあるが成果を挙げることによって昇進できる達成型組織)になるんですよね。

麻生:そこがね、「理論ではわかるものの、実際はそうはならなくないか?」と思っていて。自律分散型になっている人たちだと、権力も分散してしまっている。いろいろなところで、いろいろな意思決定がされる組織になってしまっていると、危機が訪れた時に「じゃあ、あそこに権力を集中しよう」とはならなくないかと。

危機を乗り切るために必要な号令はあり得る

武井:どうなんですかね。僕がダイヤモンドメディアを辞めた理由はそれなのでね。競合他社が10億円ぐらい調達してきて、めちゃくちゃパワーが出てきたわけですよ。数十人のベンチャーにとって、やっぱりフリーキャッシュの10億円って超強いので。

やっぱり「うちも資金調達をやらないといけないんじゃね?」という話になって、「いや、そりゃそうだね」となるので、「じゃあやっぱり、そういうふうにしよう」と。その上で人員配置を考えた時に、やっぱり俺はそういうタイプじゃないので。「じゃあ、そういう人がやった方がいいね」という意思決定だったわけで。

麻生:なるほど、なるほど。

武井:よく船が沈む時に例えられるんですけど、そういう時にみんなで「どうする? どうする?」と言ったってダメで。「みんな外に出ろ!」と言うことも必要だし、それは命令ではなくて号令なわけですよね。そういうのは別に否定しているわけではぜんぜんなくて。

麻生:ダイヤモンドメディアはできたよと。

武井:成功しているかどうかは別として、そういうふうに動いた。

ティール型組織は全員が自発的で優秀でなくても成立するか

麻生:なるほど。合わせて聞きたいポイントがあって。例えばティールに近い段階に行っていた組織が、危機が訪れた時にオレンジパラダイムのようなところに自らの組織を戻せると。

そういうふうに段階を移行できるような意思決定って、けっこうすごいと思っていて。それは、一人ひとりが自発的で優秀であるということかなと思っています。

最後の「高い自律性と高い能力を前提としていないか?」という質問。一人ひとりがちゃんと意思決定できる集団だったら、確かに自律的な組織が「いや、これはもう危機が訪れたから、あいつに権力を集中させようよ」というふうに、みんなで意思決定ができる。

だけど、そんなにみんながみんな、ちゃんと考えられる人じゃない場合においては、やっぱり自律分散型にしちゃっていると、意思決定を間違えて負けてしまうようなことが起きるんじゃないかと思っていまして。そことどう成立していくんだろうかと思っているんですよ。

問題と個人は切り離して扱い、必要なら補助輪を用意する

武井:いくつか俺なりの観点があって。もちろん、人が集まって何かを営むのは、何をやろうとどんな形態でやろうと、等しく難しいわけですけど(笑)。だけど、自立というところは、自分で立つというところの自立と、律するほうの自律もあるわけです。

例えば、朝起きるのが苦手な人がいた時に、オレンジ的なパラダイムだけで判断すると「起きられないその人が悪い」ということになってしまうわけです。でも、それも含めてその人という人間を考えた時に、じゃあ「そもそもその人が起きられる時間に会議を変えるか」とか。別に時間帯を変えるという選択肢も取れるわけだし。問題と個人を切り離して扱えるようになるんですね。

そうすると、その人を事前に電話で起こす役割の人ができたり。別に方法論はなんでもいいですけど(笑)。オンラインでやろうかとか、なんだったら「そもそもこの会議いらなくない?」という、そういう自律。

集団としてうまくいっていれば結果オーライというような扱い方(笑)。そういう側面は1つありますね。ただ、要ちゃんが言ったように、スキルセットがぜんぜん伴わないという場合は、やっぱり補助輪が必要ですし。それが別に悪いわけではなくて、必要だったら用意するという感覚です。

麻生:補助輪ね。

武井:そう。

情報は透明化すればするほど量が増えていく

麻生情報の透明性が重要だというくだりがあったじゃないですか。それは完全にそうだと思っていまして。情報を透明にすればするほど、自律分散型になり健康的になるというのはそうだなと思っています。ただその上で、すごく難しいんじゃないかなと思っているのが、透明にすればするほど情報量が増えるんですよね。

武井:増える。

麻生:すべての現場にいる一人ひとりの人が、公開されているすべての情報をきちんと取得して、理解して意思決定できるかというと、どこかで能力限界を超えていくんですよ。

武井:ぜんぜん無理です(笑)。

麻生:ぜんぜん無理じゃないですか。それで言うと、例えば今回のコロナショックみたいなことが起きた時の国民の反応もそうだと思っていて。ちゃんと読みにいったら、内閣府のページにも学者の論文にも全部書いてあって公開されているのに、誰一人それを読まない。

武井:あはは(笑)。

麻生:自分で読まないで横の人が言っていることだけを信じて、一人ひとりが正しいと思っている正義の行動をとると、間違った方向にいってしまったり。だから、情報が透明になっている前提で、それを適切に編集して情報が受け取れるようにならないと広まらない。だけど、そこに編集の力を加えてしまうと、やっぱり権力が生まれてしまう。その辺りはどう設計されるべきなのかと。

1つのチームが成立する規模は3人以上8人以下

武井:やっぱり編集というか、くくることは絶対に重要ですよね。例えば数字なども、わかりやすくグラフにするとか。人間ってそもそも、一人ひとりの処理能力が違いますけれども、同時に接触して働いている人の数はせいぜい20人くらいらしいんですね。

1つのチームとして成立する規模は3人以上8人以下というのが、ダンバー数(人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の認知的な上限)的に、決まっているんですよね。今の人類の脳が処理できる情報量は、やっぱりそのぐらいの規模感でくくっていて、その中でそれぞれが意思決定をする。

人によっては他のチームへ跨げる人はいっぱい跨ぐし、跨げない人は跨がないで、その中だけで「他のことはあまりわからないのでお任せします」ということでもよくて。できる人がやる。あまりできない人は無理するな、というスタンスかなと思いますけどね(笑)。

麻生:なるほどな。

武井:だから、そこは組織体もけっこうちゃんと設定しないと、霧散してしまうので。

ホラクラシーのマネジメント手法は、スピードを犠牲にせざるを得ない

麻生:そこで組織をちゃんと設計したり、くくったりすることによって、権力が生まれちゃったりはしないんですか?

武井:例えば、グランドデザインをする人に権力が寄ってしまうことが起こりうるという話ですけど。それを民主化した方法論が、ホラクラシーという組織デザインのマネジメント手法です。あれは、組織デザインをいじる場合には、それに影響される人たちを集めて会議体を開かなければいけないというルールがあるんですよ。

麻生:あ~、だから……そうか、めちゃくちゃ面倒くさい。

武井:超面倒くさい(笑)。あれは本当に理論はすごくよくできているんだけど……。

麻生:わかるんだけど、スピードを犠牲にするから。危機対応をしなきゃいけない時とかに、それによって遅れるみたいなね。

武井:そう。しかも会社って言ったって、事業部以外にいろいろなプロジェクトが細かくあって、1個1個が動いているわけです。それを全部をそういうふうにやっていくのはマジで無理(笑)。

麻生:無理よね。

武井:無理、無理(笑)。

多数決ばかりしていると、組織のリーダーシップが失われる

麻生:無理だけど、だからそうか、関係者を一度集めて議論するプロセスを1つ挟むだけで、ホラクラシーっぽくなると。

武井:そうそう。ホラクラシーやティールはコンセンサスを作らないの。だから、基本的に多数決をしない。多数決ってやっぱりマジョリティを取っていくから、マイノリティが失われるでしょ。

でもリーダーシップって、基本的にはマイノリティだと俺は思っていて。だって、他の人がわからない中で「いや俺はこう思うよ」という強いエネルギーや先見性があるから。多数決を繰り返していくと、組織からリーダーシップが失われるということが起こる。

麻生:ですね。

武井:これはダイヤモンドメディアの時に、実際に起きたの(笑)。

麻生:なるほど。

武井:一時期、多数決ばかりしていたら、みんなもう「ほかの人がなんて言うか」という、ケインズでいう美人投票みたいな状態になって。そうするとめんどくさすぎて、新しいこととか何もできなくなる。

多数決ではなく、プロセスを共有しながら決めていく方法

麻生:えっ、でもだから自律分散型の自然経営にしていくと、多数決っぽくなるんじゃなくて?

武井:いや、多数決がなくなるの。それがティールの本にも書いてある、アドバイス・プロセス(助言プロセス)というものなんだけど。コンセンサス・メイキング(合意形成)じゃなくてコンテクスト・メイキング(文脈形成)という、まさにプロセスを共有していく状態になっていく。

それで、その事案・事象に対して意思のある人たちが集まって、それぞれ正解という前提がない状態でダイアログみたいに意見を出し合うと、なんとなく方向性が見えてきたりするわけだよね。

麻生:例えば「この目の前の500万円をサービス開発に使うのか、マーケティングに使うのか」という議題があったとして、どうやって決めるんですか?

武井:それに対して意思がある人たちが「どうしよう」「どうしよう」と話し合うことが大事。

合意と文脈の違い

麻生:でもケンカするでしょう。だって「開発に使いたい」「マーケティングに使いたい」という人が6対4だったら、開発に使ってしまうのが多数決だとすると、どうやって決まるんですか?

武井:だから、対話ですよね(笑)。

麻生:対話ね。

武井:だから場合によっては、拮抗する場合には、そのお金を使わないという選択肢もあれば。

麻生:じゃあ基本は全員が納得するまで意思決定はされない?

武井:いや、それはコンセンサス(合意)であって。コンテクスト(文脈)というのは「どうしても俺はそれがやりたいんだ」という人がいたら、「もうやったらいいんじゃない?」という話。

麻生:負けるんだ。なるほど。

ヒエラルキー型の情報伝達は「伝言ゲーム」に近いもの

武井:その人の意志をほかの人が止めることは、基本的にできないという前提なんですよ。ただ、今言ったみたいにお金という限りあるリソースをどうするかといった時は、やっぱり議論はめちゃくちゃ難しくなると思うんだけど。とにかく話し合いだよね。

ただ、グリーン型組織は会議の時間などがめちゃくちゃ伸びるんだけど、ティール的になると会議の時間がすごく減るんですよね。ちなみに人間関係って、情報で繋がっているわけで、組織の形が先にあるんじゃなくて、情報流通が先にあるんですよ。

麻生:なるほど。

武井:流れに合わせて形ができる。ヒエラルキーって、俺らが小学校の頃にあった学校の連絡網みたいなもので、伝言ゲーム。「明日、運動会は雨が降ったら中止よ」という連絡が先生から来て、こうやって流れていく時に、誰かが「明日、じゃあ小雨だったらどうするの?」みたいな質問をする。「え……小雨だったら、まぁでもやるんじゃない」みたいなことを言っちゃうと「雨でもやるって!」というふうになる不具合が生じる(笑)。

麻生:(笑)。

ティール型組織では、誰もが参加できる状態で意思決定していく

武井:でも、これは組織の中で起きていることと一緒で。ただ、インターネットを使えば、ポンと投げておしまいじゃんという話です。LINEグループみたいなもので、俺はよく飲み会に例えるんだけど。ヒエラルキーの情報伝達の仕組みだと、最初に集合場所と予算と時間を決めておかないと、そもそも情報を流せない。

だけど、チャットグループなどを作っていて、「今日暇だから、夜に誰かオンライン飲み会しない?」というふうにポンとメッセージを投げて、「俺行く行く」「何時からだったら俺も行ける」というのが出てくる。

それで、「じゃあ何時集合ね」というふうに議論しながら、だんだん収斂していく。着地点が決まっていく。このプロセスこそがもうティールであって。だから、僕らはもうスマホやFacebookやZoomなどを使っている時点で、十分にティールの世界を体験している。

麻生:Slackみたいにチャットで意思決定されていくのって、確かにそうかも。

武井:あれはティールです。

麻生:誰でも参加できるけど、ほとんどの人はしていなくって。意志のある人だけで意思決定されていって、黙認していることが支持していることにもなって。

ティール型の組織運営に不可欠の「三種の神器」

武井:そう、オープンチャンネルで。だから会社組織をティールっぽくというか、もっとみんなが自律分散的に自由に動けるようにするために必要なのは、俺は「三種の神器」と呼んでいるんだけど(笑)、SlackとG Suiteとクラウド会計。

麻生:うんうん、なるほど。

武井:これが入っていないと絶対にできない。ITを使わないと、こういうティール型の組織運営は絶対にできない。

麻生:Slackは今の議論の話で、クラウド会計はたぶん会計などの情報の透明性の話かなと。

武井:そうそう。

麻生:G Suiteは?

武井:あとクラウド会計は働く場所もそうだよね。

麻生:あ~、そうだね。

武井:インストール型だと、会社に行かないと仕事できないとかね(笑)。G Suiteは、一応これをグループウェアとして捉えた時の話だけど、G Suiteって、Googleアカウントを持っていたら、「じゃあGoogleドライブのこのフォルダだけその人の閲覧権限付与」とか「俺のカレンダーを共有するね」とか。個人が組織を横断できるように開放性の高いデザインになっている。

麻生:Googleはシームレスなのがいいんだ。

武井:そう。その設計思想は、組織が上にあるんじゃなくて個人が上にあるんだよね。

麻生:なるほど、なるほど。

情報流通の仕組みは、組織の在り方を決めるもの

武井:だから、俺のところに「組織コンサルをしてくれ」という話がよく来るんだけど、まず最初に「Slackを導入してください」と言って絶対に入れる。他のチャットツールはあまりオススメしない。

麻生:えっ、そこの違いは?

武井:今言ったG Suiteの開放性と同じで……。

麻生:あっ、組織が上にあるからか。

武井:そう。他のチャットツールの多くはグループ単位で閉鎖性が強くて、招待されないと入れない。だけどSlackのオープンチャンネルは入ろうとすれば誰もが入れる。だから、入るか入らないかは「組織の問題」ではなくて「あなたの問題」となる。

麻生:なるほどね。

武井:だからまず「とにかくSlackを導入してください」とお願いします。その辺の観点から見ると、プロダクトの設計思想というものがけっこう見えてくるんだよね。

麻生:情報流通の形から入ったら、やり方を間違えないかもしれないですね。意思決定ではなくてね。

武井:そうそう。意思決定というふうになると、トピックとしてけっこう難しくなっちゃうんだけど。あくまで「どのツールを使えばいいのか」というのは、すごくシンプル。そういうツールを使うと、勝手にそういう組織になっちゃうんだよね。

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