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なぜ従業員のココロは会社から離れるのか? 「マイナス感情最小化」のすすめ(全8記事)

“離職率が低い会社”の落とし穴 産業医が説く「ぶらさがり社員」が生まれる背景

社員の離職・心身の不調・モチベーションの低下・ぶら下がり社員の増加・ハラスメントなどは、多くが個々の社員の「マイナス感情の蓄積」によってもたらされています。なぜ「マイナス感情」が発生し、蓄積していってしまうのか。そのプロセスから具体的な対策までを、株式会社エリクシア代表取締役で産業医の上村紀夫氏が語りました。本パートでは、「やりがい搾取系組織」「ぬるま湯系組織」などのタイプ別に、どんな問題が起こりやすいかを解説します。

働きやすさを無視して、働きがいを追求する「やりがい搾取系組織」

上村紀夫氏(以下、上村):2つめの事例は「働きやすさ」を無視して「働きがい」を追求する会社(注:ピラミッドの一番上、「働きがい」が大きい状態)。なんか、けっこうありそうな会社ですね。

働きがい、雰囲気的には最初はいいんです。全体的には面積も上がります。ポジティブ効果もあるんですけれども、だんだんこの重さに耐えられないというか、疲れてきて「心身コンディション」が落ちはじめます。

例えばガリガリ系営業の会社さんとか、あとは「新しいものを作って世界を変えよう、社会を変えよう」というIT会社さんとかでもけっこうありがちな話です。

こういうふうに(ピラミッドの上部が大きく)なってきますが、それが悪いわけではないんです。「働きがい」が大きいから。なんですけれども、「働きやすさ」「心身のコンディション」を担保しないと、この重さで縮んでしまいます。

大抵はまず「心身コンディション」が潰れて、その後「働きやすさ」が潰れてくるというパターンですね。そこから「働きがい」もしぼむ。そうすると全体的に下がってしまうという現象がけっこうあります。これから増えてくるんじゃないかと思いますね。

ちょっと後で時間があったら取り扱うんですけれども、アジャイル環境、ITの方がいらっしゃったらわかりやすいんですけれども、アジャイル環境。迅速性というか俊敏性、敏捷性ですね。

速く開発してどんどんお客様のところにローンチして、そしてお客さまのところで揉んでもらって、エラーがあったらそれを直していきましょうと。そういう変化がすごく大きいスピード感があるビジネスが今後どんどん進んでくると思います。

そういった時に変化は全部ストレスになります。だいたい働きがいのある会社さんは必ずと言っていいほどアジャイル開発をしていますが、そうすると変化の多さに「心身のコンディション」がやられるというパターンが起こります。

それをどうやって乗り切るかが、たぶんこれから伸びる会社さんと落ちていく会社さんの分岐点になります。これは「やりがい搾取系組織」ですね。

ぶら下がりが起きやすい「ぬるま湯系組織」

3つめは逆にゆるい感じです。もう「働きがい」はないけど、めちゃくちゃ働きやすいというやつですね。給料もある程度あるし、みたいな会社さん。

こういう会社さんは「働きやすさ」全開なので、組織活性は一時的に上がります。ですが、やりがいが少ないので二極化します。やりがいを持っている方とやりがいを持っていない方で二極化しますので、そこから不公平感などが出て優秀人材がどんどん抜けていくという現象がありますね。

そうなると、最終的にだんだんぺっちゃんこになっていくんですけど、「心身コンディション」はバッチリと。ぶら下がり化が起こりやすい組織ですね。これは「ぬるま湯系組織」なんて言われています。

それぞれケースは違うんですけれども、他の方への影響がかなり大きくなってきます。活性を考える時には1つだけ上げればいいというものではなくて、3つのバランスを取らないといびつなかたちになって組織活性が落ちてくる。そこから離職などが起こりやすくなります。

ということで、ようやく本題に入ります。たぶん離職にけっこう困っていらっしゃる方が多いと思うんですけれども、みなさんが取り扱われている離職はすべて同じか。「いや、同じじゃないよね」というのは、たぶんみなさん思っていらっしゃると思います。

じゃあ、みなさんそれをちゃんと分けていらっしゃるか。一身上の都合と会社都合で分けているとか、そんなレベルじゃぜんぜんだめです。

あと、離職時にアンケートを採られている会社さんもあると思うんですけど、正直、離職時のアンケートほど怪しいものはないです。なぜかというと、その会社さんになにかいいものを落とそうと考えられる方のほうが少ないし、本心を言わない。あとは立つ鳥跡を濁さずの状態になる。ということは、なかなかそのへんの情報が出づらいというのがあります。

離職する人の5つのタイプ

ではなにが重要かというと、所属している間にその方がなぜそういう働き方をしていて、なにが満たされなかったかについてちゃんとモニターができていないと、たぶん難しくなってきます。それと関連して、実際に離職のタイプは弊社ではだいたい5つに分けています。

1つめは「積極的離職」です。これは自分の希望をかなえるため、キャリアアップなどを含めた積極的離職です。

2つめは「消極的離職」です。今の環境から逃げたいから離職するという消極的離職。

3つめは「離脱」です。心身のコンディションが悪化して、もう辞めざるを得なくなった。これは自然退職のケースもあるかと思いますし、自分から辞めるケースも当然あると思います。いろんなパターンがあるわけですね。

その他は「自己都合」。本当に家族の転勤や出産育児などで辞められる方もいらっしゃいますし、あとは会社のほうから辞めさせた(「会社要因」)というケースもありますね。そういった5つのタイプがある。

(スライドを指して)多くの場合は左側の3つの要素、3つのタイプの離職が多いんじゃないかと思いますね。「積極的離職」「消極的離職」「離脱」。離職の取り組みの段階でいうと、離職者が出た時にこれをちゃんと分析できていますか? ということが第1段階ですね。

そもそも離職はすべて悪か。経営者の方々から依頼を受けた人事の方はよく「定着戦略しろ」とか定着率を基準、KPIに敷かれる方がおられます。みなさんもなんとなくわかったと思うんですけど、離職がすべて悪かという理論については、これは正直なところ悪ではないです。

流す水を流して、ちゃんと止めるべき水を止める。これができれば最高です。「そんな理想論を言って」というのもあるんですけど、それをちゃんとやらないときつくなってくる。

働きがいと働きやすさはリンクして悪化する

でも、そういった意味でいうと水車と水の関係なんですけど、水がないと企業さんは回らないですし、淀むのである程度の流れが必要です。人材の流動性がないと企業はどうしても停滞します。組織活性が落ちて、そこにぶら下がりという現象が起こりますね。やる気が低い。それを我々は「消極的定着」と呼んでいます。

実は離職対策の時に一番ターゲットに置いていただきたいものはここです。消極的定着が多く起きすぎていないか。これがもし起きているとするならば、中長期的に会社がけっこうきついです。終身雇用が難しくなっているというのも、この辺に原因があります。消極的定着です。

先ほどから言っている「心身のコンディション」「働きやすさ」「働きがい」。この3つから、「だいたいこれが痛んだらこの離職が出る」というパターンが見えます。

まず「働きがい」が痛んだら、当然積極的離職が起こりますね。これはだいたいみなさんもわかると思います。「ここで働きがいがなかったら次のところで働きがいを求めよう」というかたちになります。これは当然の流れです。

あと、先ほど少し出ましたけれども、消極的定着がここでも出ます。「働きがいがなくなったけど、なんとなく給与も高いからここに居ようかな」というケース。

大手の会社さんでぶら下がりが発生しやすい理由は、実を言うと「働きがいがあるから」という話ではなくて、下の部分の「働きやすさ」と「心身のコンディション」が結果的に満たされているので、消極的定着が起こりやすいんです。

ピラミッドの下の2つが安定しすぎて、上がへこんでも居ようという気になってしまう。そうするとぶら下がり、いわゆる消極的定着が起こりやすい。

一方で「働きやすさ」が痛んでくると消極的離職が起こります。これもわかりますよね。この流れで言うと当然「心身のコンディション」が痛んだら、もちろん離脱が起こります。そこでメンタルダウンが起こる。

つまり、メンタルダウンとは先ほど言ったように離職をバラバラに考えるとおかしくなってしまうので、ここでしか捉えていないんです。上の2つ、「働きがい」「働きやすさ」はリンクして悪化します。

新卒が早期離職する2つの原因

なので、ちゃんと離職の話とメンタルダウンは一緒に考えて対応を練っていただくことを強くおすすめします。離職とメンタル不調の関係性です。これはなにが似ているか。

(スライドを指して)例えば新卒の早期離職が発生しやすい理由ということで、ちょっと作りました。もちろん全部の要素は入れていません。ですからだいたいこんな感じです。

まず、これは2つの原因があると思っています。1つは学生から新卒ですね。学生から社会人に変わったということで、変化が起きる。この変化が1つだと思います。

もう1つは理不尽経験の減少。この2つが大きな要因だと考えています。学生から社会人になるとなにが起こるかというと、「実際に働いてみるとちょっとイメージが違ったな」とか、社会人になることの現実を知ります。そこで労働価値のミクロシフトが起こります。

入った後に「理想論を追っていたけど、理想論じゃだめだ」となってくると、労働価値は大幅に変わります。そこでミクロシフトが起こります。もう1つは先ほどからちょっとお話ししていますけど、変化は全部ストレスですので、その変化のストレスでやられてしまって働きやすさが下がったり、心身のコンディションが下がります。

離職を防ぐために企業側がすべきこと

上のほうのミクロシフトに関しては、積極的離職を起こしたり消極的離職を起こします。ですが、変化の重なりはそれだけではないです。先ほどから言っているように、理不尽経験の減少によってストレス耐性がこの頃低くなっています。その低いところに変化が入ると、心身のコンディションが悪化して離脱すると。

ましてやホリエモンの『多動力』みたいな本がめちゃめちゃ売れ出すとどうなるかというと、ここの部分(離職)のスピードがものすごく上がる。

「あ、だめだ」と思うと、すごく早く辞めちゃうんですね。これがいいか悪いかに関しては、たぶんこれから見ていかないとわからないと思います。「もうちょっとがんばればよかったのにな」という方も増えてくるとは思うんですけど、「動いてよかったな」という方も出てくるかと思います。

ですので、善し悪しはあるんですが、会社としてはここ(離職)の部分のスピードを上げられるとけっこう困ると思うので、それをちゃんとつなぎ合わせる、つないでおけるようなコミュニケーションが日常的にとれるかどうかがけっこう重要になりますね。

ということで、なぜメンタルと離職が同じかというと、単純に個人活性の出方の違いです。なので、これは一緒に取り扱っていただくことをおすすめしますよ、ということを日常的に言っていますね。

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