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佐宗さん×篠田さん×中竹さん「これからの個人のあり方を考える」(全6記事)

「腹落ちしなきゃわかりません文化」が危険な理由 チームづくりにおける“好き嫌い”のトリセツ

2019年9月14日、日本初のティールカンファレンスとして、ティール探求者が一堂に会する大規模カンファレンス「Teal Journey Campus」が開催されました。「これからの組織のあり方」を示して注目を集めた『ティール組織』発売から1年余り。「どんな形やあり方が、自分の組織に合っているだろう?」「だれもが本当に自分らしくあれる職場は、どうすれば実現できるだろう?」 。さまざまな問いに対して、学びを共有してインスピレーションを与え合い、仲間を見つけ、つながることで「次の一歩」を見い出すことを目指すイベントとなりました。本パートでは、「個人のあり方を考える」と題して、篠田真貴子氏、佐宗邦威氏、中竹竜二氏が登壇。個々の好き嫌いを共有する利点や、それをチーム作りに活かす方法について語りました。

内省をするときの方法論

佐宗邦威氏(以下、佐宗):僕はまさに経営者であるかないかにかかわらず、実はあんまり変わらずに共通しているのが、結局今ってすごくスピードも速いし、自分自身が1ヶ月前に言ってたことが本当に今もそう心から思えているかというと、正直わからない部分がすごくあります。

逆に言うとそうなったときに、過去の自分に縛られることがすごくあると思うんですね。それはけっこういろんな人に共通するかなと思います。さっき何をもって個人化するかという話をしたときに、完全に自由な個人は個人になりにくいのは、線が引かれるから結局個人になるんだと思うんですね。

そのときに、組織が役割を与える線を引くことによって、個人の役割がわかるというのもあるんですけど、例えばアーティストが個人を定義するときは、自分で制約を作る。自分でゲームのルールを作る。

「今回の作品はこの場所でこういうテーマでやってみよう」、もしくは「こういうフォーマットでやってみよう」というルールを自分で設定することが、自分自身を自由な環境で規定していく1つのやり方だと思っているんです。そうなったときに一番早いのは、キャンバスを用意する。理屈はないけど、目の前にそれがあって、人がなにかを描き始めるようなものなんじゃないかなと思っています。

自分だけのノートでもいいと思いますし、僕はスケッチブックに絵を描いたりすることがけっこう好きで、そういう場所で定期的に見たり、ただ描いたりする時間が、自分にとってはものすごく癒やしの時間というか。それによって、自分自身のなかのちょっと古いものがすごくアップデートされている感覚はあるなと思うんです。

2人ともすごく内省をされていると思うので、どういうスペースを持っていらっしゃるのかをおうかがいしてみたいです。

中竹氏にとって一番心地いい場所は、フライト中やラウンジ

中竹竜二氏(以下、中竹):自分の?

佐宗:ご自身の。

中竹:自身。それだと、僕は基本あんまり休みを入れず、夜中までずっと働いているんです。

佐宗:夜中まで(笑)。

中竹:そういう意味だと、仕事が好きなんです。ずっと考えることが好きなので、極端な話でいうと、僕、仕事で実はいろんなコンテンツを作っていく。人がどうやって変化したり幸せにするかというものをデリバリーしたり、デリバーさせる人のコンテンツを作るんです。それを考えていること自体がたぶん内省になっていると思っていて、切り分けはないんですね。

あと一番心地いいのはフライト中とかね。海外出張が多いので、飛行機に乗っているときとか、ラウンジとかですかね。お酒があると、なおいいですね。

篠田真貴子氏(以下、篠田):普通にお酒があって、ラウンジって気持ちいいんですけど、心地いいってそういうことじゃない? なにか発想の転換があったりする?

中竹:飛行機って、基本邪魔されないじゃないですか。今はやっぱり僕自身が組織をたくさん持っているので、普通の身でいくといつも質問攻めに遭ったりするんです。そういう意味では、フライトは守られた空間。

篠田:本当に1人になれる。

中竹:そうですね。最近はフライトの間もネットがつながるので、本当に迷惑だなと。

篠田:(笑)。

佐宗:本当にそうですね。

中竹:つながらない世の中になってほしい。

篠田氏の大切な時間は、読書と料理の段取りを考えているとき

佐宗:篠田さんはいかがですか?

篠田:私はたぶん2種類あるかな。1つは本を読んでいるとき。実は、本を読んでいるときは、読んでいる以上に考えている感じがあります。本で書かれていることと、自分の考えなり感情を照らし合わせて、「ああ、同じ」とか「違う」とか「なんだこれは」。それは、はじめは言語化できていないんですけど、しばらくしてちょっと時間を置くと、「あっ、なるほどね」という、わりと「あー、わかった。そういうことなんだ〜」とわかった瞬間がすごくうれしくて生きてる感じです。

佐宗:篠田さんのSNSの書評のおもしろさは半端ないですよね。

篠田:いや、本当に思っていることを書いているだけ(笑)。

佐宗:(篠田さんの書評が)noteにあるので、ぜひみなさん見ていただきたいです。

篠田:あともう1つは、料理を作っているときです。わりと料理が好きで、子どももいるので基本毎日、夕飯はなにか作っているんですよね。あれは逆に非常に作業的であって、かつ、段取りってわりと工夫の余地があるわけですよ。

先にお湯を沸かしておいて、その間にこれを刻みつつ、解凍しておこうとかあるので、普通に定職があったときは、職場を出て家に帰るまでの時間の中で、頭の中でどういう段取りでやるかというシミュレーションをしている間が家庭への切り替えタイムだったんですよね。

いつもうまくいくわけじゃないんですが、まず家に帰ってその脳内プランをアクションにパーンと移します。こうやって玉ねぎとかを刻んだりしながら「あ、そうだ!」とか言ってまた仕事のなにかを思いついて、「ああ、そうそう!」と慌ててカレンダーにいきなりチャートを書いたりして。子どもがあとでカレンダーを見て「ママ、これなに? なんとかの実行計画ってなに?」とか(笑)。

(一同笑)

そうやって、まったく違う頭の動きをいっぺんして、手も動かしたりする。やっぱり料理ってけっこう五感を使うと思うので、そういうモードが毎日自分の生活の中にあるというのが、振り返ってみてけっこう大事だったかなと。

その人が一番ワクワクしてしゃべっていることのなかに“個”が見える

中竹:たぶん今聞いていた方はわかりますよね。話していて一番、篠田さんがワクワクしてしゃべっていた瞬間じゃないですか。

佐宗:(笑)。

篠田:本気(笑)。

佐宗:料理。

篠田:料理、料理。

中竹:いや、僕が思ったのは、料理じゃなくて“料理を考える時間”が、たぶん一番好きだったんですよ。

篠田:あー! そうですね。

中竹:料理をしていることよりも、たぶんそこのほうが一番自分が心地よくいられるから。

篠田:すごい! そうかも。そうそう。

中竹:いや、僕自身はどんなことであろうと、そういう瞬間が出る個のところを常に探しているという感じなんですね。

篠田:なるほど。見つけていただいてありがとうございます。料理好きだと思ってたけど、料理を作る前工程、プランニングが好きだった。

中竹:プランニング。

篠田:そうそう。ありがとうございます。

中竹:たぶんみなさんもそうだと思う。そこをどれだけ自分の中で認識できるかがね。僕はいろんなところで、ほぼ毎日のように講演などをしていますけれども、実は人前でしゃべることが嫌いなんですよ。それは作るのも同じで、「どういうことが原理としてあるのか?」というコンテンツを考えている時間が一番好きなんです。できたら早くほかの人に「どうぞ」って感じですね。

篠田:「どうぞ」という(笑)。

中竹:だから、似てるなと思うんですね。

お互いの「好き嫌い」を共有することでチームを変革する

佐宗:中竹さんのこれが、昨日あったモンテッソーリのお話で。人のちょっとした輝く瞬間とか、頭で思っているかはわからないけど実は好きというものを自分に気づかせてあげる。そういうものが、こういうテーマではすごく大事だと思っています。

自分自身だけでは100パーセント気づけないこともけっこうあるので、それを誰がやるのか、もしくは相互にやりあえる文化を作るのかは、僕としてはすごく大事なテーマだなと思ったんです。中竹さんって、いつもご自身の会社などは(どうされていますか)?

中竹:もう好き嫌いは圧倒的に大事にしていますね。スポーツのチームはやらないんですけれども、僕はとくに代表チームを作るときは、僕自身が20歳以下の代表チームを持ったり、日本代表監督としてやったこともあります。明らかにチームが変革するときは好き嫌いを共有している。

僕の合宿の作り方としては、毎日夜に必ずチームビルディングでラグビーの話をしないミーティングを持つんですね。そのときに、選手たちに「自分の最も好きなプレーを話してください」と言うんです。これを聞くと、代表選手になった選手でもそんなことチームメイトに言ったことがないので、一発目に出ない選手もいるんですよ。だけど、「本当にそうなの?」というのがある。

これを繰り返していって共有できたときって、本当にチームがチームとして機能してくる。なぜかというと、「ああ、こいつ実は……」と。例えば、走るのが早くてトライゲッターの人間が「実は僕、足が速かったからやってたんだけど、本当に好きなのはすごく地味な、人が来たときのタックル」と、真逆のプレーが好きな選手がいるわけです。

これを聞いて、本当にそうだなと思ってよーく見ると、そのときにめちゃめちゃワクワクしている。もしかしたらそっちのほうがのちのち強みになるかもしれないので、それをお互い共有すると、「なんだ、こいつはこれが好きなんだ。だったら、このプレーをたくさんやらせよう」と。そこで有機的になるんですね。

だから、そういう意味では、何がうまくて何ができるかという能力の話じゃなく、僕のチームづくりではほぼ、何が好きか、何にワクワクするのかを根底的に探します。

個人の好き嫌いを聞くことと、組織の方向性は別問題

篠田:概念的にすごくわかるし、個としてもそういう環境はすごくうれしいなと思う一方で、例えば私だったら会社の管理部門を任されたときに、みんなの好きばっかり聞いていたらバランスが悪くなりはしないかとか。経理が好きな人ばっかり集まっちゃって、決算が好きな人がいないと困るなとか。

あるいは、会社の目標としてはすごく成長を志向してるのに「安定が好きです」という人ばっかりだったと露見するのが怖くて聞けなかったり。どうも自分はそうなりそうだなと思いながら、実はうかがっていたんです。葛藤とか恐怖というのは、どう……。

中竹:これはたぶん、篠田さんがシステムの中に組み込まれたので、上司は部下の意見を聞くと応えなきゃいけないという、バイアスがあると思います。

篠田:なるほど。

中竹:根底的にみんなが好き嫌いを聞くし、やりたいことを聞くけど、それに従うつもりはさらさらありません、という前提です。

篠田・佐宗:(笑)。

中竹:そこは誤解しないでねという話です。さっき言ったシステムが悪いかというと、僕も体験の中で「こんなの意味ないよ」と思ってイヤイヤやっていたのに、気づくとそれがめちゃくちゃ役に立ったことってたくさんあるわけです。無駄な走る練習をやらされて「こんなの嫌だな」と思ったんですけど、やっていると意外に体力がついて、自分じゃ絶対そこに到達できなかったなと思うことがあるんですね。

そう考えたときに、全部好き嫌いを聞いているかというと、好き嫌いを聞くのは、あなたがあなたであるためにどうしたらいいかという話と、組織としてどこを目指すかは別の話です。

篠田:なるほど。

流行りの「腹落ちしなきゃわかりません文化」が危険な理由

中竹:僕は今でもよく言うんです。「腹落ちしなきゃわかりません文化」が流行ってきてるじゃないですか。僕はあれはすごく危険だと思っています。腹落ちするという知識があって、その理屈がわかるから腹落ちするわけです。そんな知識も経験もない人間が、腹落ちしてからがんばるというのは、絶対無理に決まってますよ。

問答無用でやるべきことや、経験者が「いや、やる気がないとかわからないかもしれないけど、これは絶対やったほうがいいので、問答無用でやってください」ということ。それとは別に「好きなものは何ですか?」と聞くことは、明確に切り分けています。

篠田:なるほどですね。

佐宗:ちなみに、同じテーマを中竹さんとは違うアプローチでやっていると感じているのが、「好き」と「困っていること」の2つがちゃんと共有されると、人はある程度空気を読んで動くという原則はある気がしています。

会社の中で、基本的には売上・利益などをできるだけ公開していて、一方では毎週何が起こっているかという課題を壁新聞のような感じで毎回貼って共有しつつ、よく自分たちの「栄養源」というようなことを言うんです。自分にとって栄養源を奪われるものと、得られるものはなにかをそれぞれ定期的に共有します。

あとはToDoや戦略はあまり決めないで、臨機応変に任せるやり方をしているんです。ある程度の相互理解が進むと、空気を読み出すというか、全体を見たときに「ここをやっていないから」とやる人が自然に現れたりします。

そこって今日の午前中も、上田さんとか青野さんからも情報共有の話が出ていました。情報共有は何をするかという情報だけではなくて、もしかしたらその質的な背景みたいなもの。

篠田:「私はこういう人間です」という。

佐宗:それとか、「社長が困ってるんです」「俺はマネジメントしていくのが苦手なんですけど」というものも共有されたりすると、それはそれで、また違う動きが見えてくることもあるなと最近思ったりしますね。

篠田:おもしろいですね。

中竹:そこをデザインしていろんな仕掛けを作っているんですね、佐宗さん。

佐宗:作りつつ、でも、そういう意味ではコンフリクトは絶対起こります。コンフリクトが起こったときに、最後はけっこう1対1の、人間対人間の対面みたいなところになってくるんです。

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