2024.10.10
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秋山真氏(以下、秋山):情報収集の話は、いったんこの辺りにさせていただいて、次のテーマに移らせていただきます。
価値観と言うと、これは学生だけではないですね。世の中的に働くという価値観とか、職場環境に求めるものが多様化してきていると思うんです。学生さんの傾向でいうと、欧米思考やベンチャー思考でもないという話を田中教授もおっしゃっていたんですけど、その辺りは実際どうですか?
田中研之輔氏(以下、田中):学生自体が二極化しているのはあるとして。二極化のうちの一極というのは、かなり情報感度が高くて、先ほど杉山さんがおっしゃっていたように、早い時期になりたい自分をイメージングしているような層も生まれてきています。
今までに比べると、働くとはどういうことか、これから生活していくこととはどういうことかということのリアルな情報が、とんでもないぐらい増えています。それにアクセスできるので、「こういうふうに働いている、この人のようになりたいな」というものを思い描く学生は増えているなという感覚があって。
もう一極で言うと、「意識が高いよね」と揶揄はしないけど、「やらないといけないんだけど、できないよね」という層もいる。両極がある中での多様化という感じなんですけれど。NewsPicksさんも、感度の高い学生さんが利用しているというか、コミュニティ化していくので、何が起きるかというと、一極のこちら側の感度の高い学生の発信能力が高いんですよ。
だから、冒頭の話でいうと、その情報が広がっていくんですよ。その情報が「これから何かやろうかな」、という子たちへのジャブになってくる。そういう価値観の多様化と、伝播の仕方が変わってきているような気がします。
秋山:「伝播の仕方」ってキーワードかなと思ったんですけど。NewsPicksさんでいうと、ピッカーさんってかなり影響力があるようなステークホルダーになってくるかなと思って。実際の学生だけじゃなくて、ピッカーによって採用情報にどう影響するのかという視点でいかがですか?
西村脩平氏(以下、西村):先ほどもコメント欄という話がありました。僕ら、ビジネスコミュニティというか、200名を超えるプロピッカーさんにご協力いただいているんですけど。「そういった方々がお墨付きをしている企業だったら信頼できるな」とか、そういうのは圧倒的にあるなと思っていますね。
秋山:誰の人気を得るかとか、誰からレコメンドされるかは、情報の信頼度が上がる。メディアというところでも傾向として表れるということですよね。
西村:そうですね。企業名とか、待遇がいいというよりも、自分の長いキャリアの中で、何を実現していきたいかを探られている。うちの中でもキャリア系の記事とか、キャリアハックというよりは、自分の見つけ方がピックも伸びるんですよね。
学生だけじゃなくて、20代・30代の人でも悩んでいる人はいるので。僕らは“キャリアもやもや層”と呼んでいるんですけど、キャリアに対してもやもやしているのか、自信を持って語れない方は、大人でも多い。
さっき半径5メートルという話があったと思うんですけど、その世界で自分の選択肢が増えないというか。周りの大人って、学校の先生かお父さんがビジネスマンなので、そこがもしイケていない人たちばっかりだとしたら、そもそも社会ってポジティブじゃないというか、ビジネスマンなんかなりたくないというモチベーションになっていく。それこそ二極化で、何の情報を貰えるかという点がポイントになる気がしますね。
秋山:杉山さん、実際に採用していくにあたって、学生のインサイトにはどんな傾向があると思われますか?
杉山秀樹氏(以下、杉山):2つあります。1つは“何者かにならなければいけない”。「病」と言ってもいいんじゃないかな。
秋山:ありますよね。
杉山:あとは正解探しのキャリア選択。当然答えがないので、振り回されて終わっちゃう。疲弊しちゃうんです。でもそこには、前提に多いなる不安があって、前者のほうはソーシャルの発達の功罪だと思うんです。すごい人をすごく身近に感じられてしまう。
10年前、20年前だったら、そんなことはあり得なかったんですよね。ですけど、そんな風に近づいちゃったので、「こういう人になれるかもしれない」という思い込みと、社会人と会ってみたりとか、就活を始めてみたときに、圧倒的な差を感じるというか。自分は何年後に何をしたいのかみたいなところで、何者かにならなきゃいけない自分と、何者にもなれなそうな自分の間。これを、どう埋めてあげるか。
結論、その何者かにならなきゃというのは幻想です。その幻想を潰してあげるということなんです。そこは、インサイトの1つ目ですよね。
2つ目の不安でいくと、これは完全に社会的な変化なので、どうしようもないと思っているんですが、世代論でもなくて、あくまで経済環境が変わってくる中で、働き方の多様化とセットで理解しておかないといけない話です。まずそれを理解した上で、何を提示してあげられるかというところでいくと、結局、正解を外に持たないこと。自分の中に正解を持つことが解です。
外発的な動機か、内発的な動機でいうと、内発的な動機です。今で言うと「意味」とか、我々で言うと「ミッション」という言葉を使っているんですけど、そういうところに近づけるヒントだったり、気付きを届けられるような情報発信が求められているんじゃないかなと理解していますね。
秋山:今、不安というキーワードがありましたけど、田中教授も学生の就職に対する不安って感じますか?
田中:風潮としてみんなが煽ってしまっていますからね。「別に就活なんて点でしかないから、人生100年あるし、誤差ですよ」と言っているんだけど。とはいえ友達が先に就職した、というところに関していうと、やっぱり不安を感じちゃいますね。うちのゼミでも(就職先が)運悪く決まらないと、その期間、大学に来られなくなる学生もいます。ショックなのだと思います。
これまでのキャリアのことをこれだけ考えてきてと思うけど、本人にとっては大きなショックというか、挫折になる。内定をもらえないのは失敗経験じゃないと思うんですけどね。だけど、今までの人生を否定されたと感じてしまう。そういうのはぶっ壊していきたいと思うんです。
どういう壊し方があるかというと、早い段階で「選ばれるのということは、社会ではごく当たり前のことなんだよ」と教える。例えば、「プロジェクトを動かしたら、3社競合でそのうちの1社なんだ。そういうことがビジネスを動かしているんだよ」と、ちゃんと伝えないと。
「『自分だけ選ばれなかった』『自分の人生が否定された』ということでは、社会人は生きてないよ」という言葉を伝えてあげたいな。社会でのリアルなやりとりを、オブラートに包まずにそのまま伝えていくのです。
秋山:僕らも普段、学生さんと接するお仕事、採用コミュニケーションをやっていると、どんなに優秀な人でも、不安ってすごいあるなと感じるんですね。世の中に先が見えない状況で、チャレンジャーな子たちでも、すごく不安を感じると思うんですよ。でもそういう子たちも、共感だったり、惹きつけていかないといけない。
秋山:優秀層でも不安などを持っている中で、NewsPicksを読まれている学生さんとか若者って、今どんなコミュニケーションが響くんでしょうか。どんな軸を持った企業さんに魅力を感じているんですか?
西村:さっき「共感」というキーワードを言わせていただいたんですけど、自分らしく生きたいというのはあると思います。僕は「パーパスドリブン」という言葉をよく口にすることがあるんですけど。
大義を掲げるというところで、採用コミュニケーションにおいても、企業から学生へ一方的に発信しがちだと思うんですけど、この「世界を一緒に作ろうよ」というパーパス、目的の心を、ちゃんと描いてあげる。そういう情報発信をすることで、「だったら乗っかりたい」「5大商社の掲げるビジョンに共感できない。だったらこっちなんだ」みたいな。
自分の生き方と照らし合わせるという発信では、大義をちゃんと掲げさせるミッションという言葉とか、会社独自のカルチャー、バリュー(が重要です)。最近よく言われると思うんですけど、そのバリューやどういう基準が自社らしいのかを発信されている企業さんは、応募しやすいですし、ファンにもなりやすい。
そのファンになるところは、すごく大事かなと思っています。そのためには具体的な待遇だったり、社内のキャリアパスがこうで(と丁寧に説明する)ような。見るものじゃないところのコミュニケーションが大事なのかなという。しかも刺さるかどうかを実際にピック数などから見るので。
秋山:一番分かりやすいところですもんね。田中さん、いかがですか?
田中:なぜこれを話しているかって、けっこう大事で。今までの人事の仕方では、新卒採用はもうダメな時代を迎えたというのを分かってほしい。
私は去年頃から、「採用はマーケティングだよね」とずっと言っていました。このマーケティングの手法、感度を分かっていない人が、今までの人事経験から、急に転換させてやるのは、難しいと思っています。そこは連携してプロジェクトを組んで回したほうがいいぐらい、大きな転換を迎えている。
なぜなら、情報が本当に届かないからです。こんなに情報があるからこそ、届かないんですよ。だからこそ、情報を半径5メートル以内にまで的確に届けていく。ファン作りにしても何にしても、戦略性ってものすごく大事なんですよね。だから、「ホームページを作りました」「説明会しました」「こんなことをやっています」といった情報を「置いて」おくだけではダメなのです。どうしたらこの玄関をノックして叩いて入ってくれるか、この導線が極めて重要なんですよ。
秋山:まさに採用マーケティング。
田中:そこが難しい。
西村:気付いてもらって、好きになってもらって、みたいな大きな流れがあると思うんですけど、今までは最後に応募してもらうという行動ばっかり。でも世の中、マーケティングの人たちというのは、気付いてもらってもっと好きになってもらうみたいな映像、CMとか、普段の生活の接点でやっています。今までHRではそこは欠落して、外にアウトソースするということだと思うんです。
採用マーケティングという言葉もありますけど、結局、企業活動においてのマーケティングって、別にものを売るだけじゃなくて、人を採用することも含めてマーケティングだと思います。仕事でいろんな採用、ブランディングイベントみたいなのも作らせてもらったりするんですけど、マーケッターの方たちほどHRのところで活躍されていると感じますね。
秋山:お二人の話を受けて、杉山さんにご意見をいただきたいことが2つあって。1つは、マーケティングが必要であるという点ここはかなり重要視されているとはいえ、組織的にそうなっていないとか、ミッションはそうなっていないとか、いろいろ問題がある企業もあるかと思います。どうやって始めたらいいんですかね?
杉山:けっこう難しい話。危機感を持った人がやるしかないというところで、最初はプラスアルファでやるしかないと思うんですよね。なので2年半前に当社で始めたときも、ここまで拡大している想定がなかった。
たまたま私のバックグラウンドがPRをやっていたり、マーケティングもやっていたので、そういう観点で見たときに、先生がおっしゃられた課題感をすごい感じていました。そこから勝手に進めていったというのはあって、自分の決裁を取りに行ける範囲内で、小さくスタートするのは1つかなと。
あとマーケティングが大事と言っているんですけど、HRの世界でマーケティングが大事と立証するのは、けっこう難しいなと思っています。人気のあるマーケティングの書籍って大体消費財じゃないですか。消費財は確実に数字で取れるというのがあって。そこも最近いろいろな会社さんとやり取りしている中で、1社だけそういうことを一緒にやれる会社さんがあって、実数で見てみたんですよ。
ファネルで捉えると、トップファネルを認知、ミッドファネルは関心層。ロウワーファネルが採用の意思決定としたときに、今までの採用活動って、ほとんどロウワーファネルの視点でしか話をしていないんですよ。なんですけど、Panasonicの場合で見ると、どこのコンバージョンレートに問題があったかというと、トップからミッドへの数値なんですよ。今まで全くやっていなかった。
杉山:具体的にどういうことかと言うと、数字を丸めますけども、事務系、ビジネス系の職種で採りたい人数がいたときに、ミッドパネルに入っている実数が倍なんです。倍しかいない。分かりやすく言うと、400人ですよね。200人採るのに、400人しかいないという。400人の中で、Panasonicに200人来てくれるわけがなくて。だって、まだ始まってないタイミングなのでね。じゃあそこから「1対1で口説くぞ」とかやったって、絶対落ちちゃうんですよ。
人気の会社で見ると、数が多いのがいいかどうかは一旦置いておいて、20倍ぐらいあるんですよ。そこから自分たちの会社に来ていただく活動って、そういう会社は後半頑張ればいいんですね。なので、ファネルのトップ、ミッド、ローを見たときに、学生数と自分たちが採りたい人数を実数で見たときに、どれぐらい危機感を持たなきゃいけないかというのは、すごい大事ですね。これ、事務系、技術系の両方で見たんですけど、圧倒的に足りてない。
田中:ちょっと補足いいですか。採用マーケティングって仮に新卒でいえば、この学生に対して内定を出すか、出さないかじゃないと思うんですよ。10年後にもう1回杉山さん(Panasonic)の門を叩くかもしれないメンバーに合っているというビジョンを持てるかどうか。
杉山:まさにそうですね。
田中:1回好きになってもらって、好きになってくれた人を変な切り方をしたら、絶対来ないと思う。だけど社会変化で言うならば、人生100年時代に転職3回しますよねと。この前、NewsPicksさんの特集では、30歳以下の50パーセントは、もう転職経験があるんですよ。これがリアルで動いている中で、なぜ新卒採用だけ、1回きりの話をしているんですかみたいな。
いろいろやり方はあると思うんですけど、新卒採用のときから、アルムナイ(卒業)みたいな感覚を持ってファンだと思って、「うちに来てくれても、もちろんいいし、来なくても仲間だよね」というビジョンを作っていく。それが大事かなと思います。
秋山:これからますます通年採用化だったり、さっきおっしゃったように、1、2年生からアプローチしていくといったことが、当たり前の話になってくると思います。まさに今、田中教授が言ったことはかなりあるなと感じました。
秋山:ちょうどその方向性で、最後に杉山さんにお伺いしたいんですけど。採用には具体の手法や、始め方があるというお話だったんですけど、人事に直結するミッションの中で、どれぐらい採用できるのかは、僕や西村さんも悩むことで、よくクライアントさんからも聞かれます。社外説明だったり、指標の出し方って、どうされていますか?
杉山:一番最初は戦うしかないと思っています。だってブランディングをやって、「この人採れました」という直接な相関は測りようがない。ブランディングに関わっている方なら分かると思うんですけど、そこって説明がめちゃくちゃ難しいというか、誰もできていないんじゃないかなと思う部分です。「そういうものです」と言い切るか、それを分かってくれる人が広報とか、マーケティングの部隊の偉い人にいるはずなので、そういう人たちの理解を得て、仲間に引き入れるっていうのがとにかく大事かなと思っています。
我々の場合は、意思決定者がそこに理解をしてくれたので、そういう意味での第一歩は踏み出しやすかった。その上で、「じゃあ、何をすればいいか」に関して言うと、エンゲージメントを取りました。PVって、ぶっちゃけ他社比較もできないし、よく分からないしという中で、少なくともエンゲージメントが取れているというのは、何らかのリアクションするだけの要素を提供できたということなんですよね。
かつ、他社比較ができる。経年の変化も取れる。この変化と相対の比較で、我々の活動が、イケてるか、イケてないかというのを判断できる。このエンゲージメントで2年踏ん張れたおかげで、さっき言った実数のところまでたどり着けたので、すごく良かったなと思いました。
秋山:先ほど注目企業ランキングが出ましたけど、2年前は1,500ぐらいのエンゲージだったものが、今回はかなり数値が上がり、上位のほうに(食い込めました)。日系企業だけだと、トヨタさんとPanasonicさんぐらいなんですけど。IT系のベンチャー企業さんが並ぶ中でPanasonicさんが入ってきた、というところが指標の1つとして、取り組み続けてきた実態ですね。
西村:質問いいですか?
秋山:はい。もちろん。
西村:けっこう前なんですけど、あるコンサルタントさんに行って、記事を作らせていただいて。そのときに編集者と一緒に企画提案をしたんですが、僕らの提案した企画は、あまり納得いただけなかったんですね。そこの企業さんが普段メッセージングしている「このメッセージでいい記事を作ってほしい」という発信があって、それをやったんですよ。
そしたらコメント欄が「そんなこと言うけど」「上から目線だな」みたいな話になって。結果的に、それが実体なんだということを真摯に受け止めていただけたのが、すごく良かったんです。
その翌年か数ヶ月後に、読者さんのフィードバックをもとに「この打ち出しでいきましょう」という話をさせていただいたら、劇的に変わりました。「こういう人にはこう受け取られるんだ」という、やってみないと分からないやつがけっこうあるな、と僕も思っていて。
それで誤った自己認識で発信し続けるのは、けっこう怖い、そして機会損失があるんだな、という。どの企業も正解は多分ないと思うんですけど、それをクライアントにやっていくというのが、すごく大事なんじゃないかなと思っています。
秋山:冒頭に西村さんがおっしゃった共感の取り方で、企業よがりにしないみたいなことが、今お話ししていただいたところですよね。
西村:直近、ベンチャーさんとかだったら、自社紹介のスライドみたいのを作って。
秋山:日本ハムファイターズみたいな。
西村:ファイターズさんの先月ぐらいバズっていましたけど。あれ、めちゃくちゃおもしろいストーリーで。たぶんポイントは公募者視点というか、受ける人視点で、何を伝えてあげるかはすごく大事なんだなと思いますね。
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