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第2部 柳澤氏(全2記事)

まちづくりは「おもしろコンテンツ」 町全体を巻き込む面白法人カヤックの地域経営論

2019年9月5日、株式会社machimori主催で「熱海を通して地方を考える vol.3 『地域で仕事をつくる〜ローカルビジネスが個人のキャリアにどう繋がるか〜』」が開催されました。地域で仕事をつくりたい方のために、仕事を通してサードプレイス的に地方(熱海)を使うことについて語られた本イベント。第二部では、面白法人カヤック 代表取締役CEO 柳澤大輔氏が登壇。本パートでは、同社が取り組む地域経営についてのトーク内容をお届けします。

面白法人カヤックCEOの柳澤氏が登壇

柳澤大輔氏(以下、柳澤):こんばんは。

会場:こんばんは。

柳澤:鎌倉資本主義の話は壮大なので、鎌倉で起きていることを紹介したいと思います。実際、鎌倉資本主義について去年の11月に本を出しました。読まれた方はいらっしゃいますか?

鎌倉資本主義

(会場挙手)

最初にちょっと簡単な紹介です。僕自身は今年45歳で、鎌倉に移住したのは16~17年前です。面白法人カヤックという会社を創業したのが21年前ですね。2014年に上場しました。

今、300人ぐらいが面白法人カヤックにいて、グループ会社の8社を合わせて、400人ほどの会社です。僕は生まれは香港なのですが、一貫して日本の強みって何かなと考えていて、カヤックの事業は日本的おもしろコンテンツということでやってきました。

民間と行政に垣根のない「まちづくり」

それで、なぜ今まちづくりに関わっているのかというと、まちづくりが“おもしろコンテンツ”だなと思ったんです。町自体がおもしろくないと、移住にもつながらないし、観光にも来ない。そういう意味で全部つながって、会社そのものまで面白法人という。会社もおもしろくしようというのもおもしろコンテンツだし、全部コンテンツ化してやってるというのはあります。

最近の仕事でいうと、この3月に大ヒットした「うんこミュージアム」は、アカツキライブエンターテイメントと共同で企画しました。もともとカヤックでは、『うんこ漢字ドリル』が2015年にヒットする前の2011年に、「うんこ演算」というのやっていました。その後も、「うんこカレンダー」とかうんこを使ったコンテンツを出していましたが、漢字ドリルがヒットして非常に悔しい思いをしていました。そしてようやく今年、「うんこミュージアム」を立ち上げて大ヒットしました。そういうようなことをやっています。

その他、ゲーム事業ですね。あと本社を鎌倉に置き、地域に根付いた経営を目指しているので、鎌倉のR不動産や鎌倉の自宅で行う葬儀社などが、子会社にあります。カヤックグループ会社が鎌倉の町に広がって、まち全体がオフィスみたいな感じになっています。先ほどの市来さんもそうですし、民間と行政が一緒に仕事するようになったというか、だいぶ垣根がなくなってきた時代だなと思っています。

観光地に構えた、会員制の社員食堂

昔Googleに行ったときに、非常にユートピアのようなオフィスを作っていたんですね。そこにジムもあって、レストランもあって、運動場もあって。非常に素晴らしいなと思いましたけど、そういった広い土地にオフィスを構えるって、日本ではなかなかできないですよね。

鎌倉もそんなに広いところがなかったんですけど、逆手にとって町全体をオフィスにしちゃおうと。小町通りの反対に御成通りというのがあって、こっち側にオフィスを集中させています。会議室棟があって、会議のときには御成通りを通って行くので、町中を社員が廊下のように常に歩いています。本当に町全体がオフィスになるという感覚です。

今の思想の延長の1つで、「まちの社員食堂」というものを作りました。鎌倉は観光地化しているので、ランチが1,000円以下で食べられるところって、たぶんほとんどないんです。なので、社員食堂を作りました。

これも社員だけで閉じていたらおもしろくないなと思って、あらゆる鎌倉の企業や行政がお金を出し合い、会員というかたちで運営する社員食堂です。カヤックみたいな企業もありますし、鎌倉のパタゴニアとか、鳩サブレーをやっている豊島屋さんとか、いくつか代表的な企業に賛同いただき、参加してもらっています。

もうひと工夫したのが、鎌倉にあるレストランが毎週週替わりで食堂に来てくれる、というかたちです。だからミシュランを取ったところのレストランも出てきてくれています。「まちの社員食堂」で出会う社外の人同士が仲良くなって、ある種のコミュニティスペースにもなっています。これも、なるべく閉じないでいこうという発想でやった良い結果だと思います。これで会社の紹介は終わりです。

面白法人カヤックが「まちづくり」を始めた理由

ここからが今日の本題になります。なぜ面白法人と名付けた我々が、まちづくりに行き着いたかという話です。もともと面白法人という言葉は、先ほどのコンテンツという言葉の前に生まれたものです。会社をつくるときに「法人」と調べたら、会社も1人の人間というわけではないけれど、“人工的な法人”という、生き物のような書き方をされていたんですね。

ああ、これはおもしろいなと思いました。みんなが集まって大きな人をつくるというか、合体ロボみたいなイメージですよね。いろんな人たちが集まって、集合体ででかい法人をつくるということは、人工的な生き物ですけど、キャラクターがあるなということで、面白法人とつけたのが最初です。

「面白」とつけたので、なんとなくつくるものもおもしろいということで、おもしろコンテンツとして出してきました。面白法人と(名前を)つけた結果、やっぱり仕事の内容はおもしろいコンテンツ色になっていったんです。(スライドを指して)もうちょっと最初の思いとしては、フェーズ1の思いがありました。フェーズ3は、どっちかというと志的な話ですね。これはそういう意識でやろうということです。こういうものがないと、そもそも上場企業はまずいと思います。これ自体はそういう社会に貢献しようという思いです。

フェーズ1は、やっぱりこだわってきたんですね。「サイコロ給」もなんで生まれたかというと、友だち同士で会社を作ると将来お金で揉めると言われたから、「じゃあおもしろがって働くためにサイコロにしよう」というかたちです。

先ほどの「まちの社員食堂」がどうして生まれたかというと、食べに行く人、働く人全員がおもしろがるためにはどうしたらいいかというときに、食べに行く人が社員同士だけだとつまらないなと思って、開かれた社員食堂にしました。

社員食堂で毎週メニューが同じだとつまんないなと思って、レストランを入れ替え制にしました。かつ、働くシェフ側も、一企業のために自分の腕を振るおうとは、とても思わないのではないかなと。おもしろがれないなと。

なので、いろいろな企業のために、週替わりでいろんなレストランが出てくるのが、ちょうどいいんじゃないかなということでした。基本的には、どうやったらおもしろがって働けるかというところから、ものを作っていくというかたちでやりました。

「つくる人」になれば、おもしろく働ける

その結果、どうやったら自分たちもおもしろく働けるか、わかったことがあります。まずどういう心の持ち方をしたらいいかですね。さっきの「境界をなくす」という話はどちらかというと物理的な話ですけど、おもしろがって働くためにどうしたらいいのかわかりました。

それを経営理念にしました。「つくる人を増やす」というものです。僕は経営理念オタクで、「経営理念」で検索するとカヤックのサイトが上位に上がるんです。厳密にいうと世の中には、企業理念と経営理念という言葉があって、企業理念の方が上位概念です。

企業理念は我々でいうと、さっきの3つの意味を込められた存在理由としての面白法人です。経営理念は企業理念の下位概念で、日々の営みを表しています。企業理念を実行するために日々どんなことに気をつけたらいいかという、どちらかというとHow toが入っているものです。そこで「つくる人を増やす」ことでおもしろがる人を増やすわけです。

つまり「おもしろがれ、おもしろがれ」と言っても、なかなかどうやっておもしろがればいいか、わからないんです。立場をつくる人になれば、おもしろがれるということがわかりました。単純につくる人が増えれば、おもしろがる人が増えてくる。そこは自分の原体験でもあります。

今日のテーマは「起業」という話でした。僕自体は企業勤めを2年やっていましたが、そのときは朝会社に行きたいと思ったことはいっぺんもなかった。ところが、(自分で)会社を作ったら、毎日行きたくなった。

つまり、つくる人になればおもしろがれることがわかったのです。でも今思えば、実は僕が自分ごと化するというか、つくる人になる意識が低かったとも言えます。この考え方がわかったので、今は逆に会社勤めしても、おもしろがれるという自信はつきました。

ここまでをまとめると、おもしろがるための行動の在り方としては、つくる人側になるというんですかね。自分ごと化すると、けっこうおもしろがれる。ここまでは経営理念にしました。

新しいアイディアが生まれるのは、「人のアイディアに乗っかる」とき

でも、本当につくる人になれるのかという話です。最初に創業メンバーとして入ってきた人は、自分がこの会社をつくっているという意識になりやすいですけれども、できて何年か経った状態で入社しても、なかなかつくる人にはなれない。

それをトレーニングできないかなというのが、実はブレインストーミング、ブレストです。みなさんもブレストという言葉は聞いたことがあると思います。

我々自身は最初、おもしろコンテンツという事業なので、広告的な請負業からスタートしました。おもしろいものを作ってくれというときに、みんなでブレストをして、おもしろいアイディアを出していました。このブレストをやるとつくる人になれるということに、いつの日か気づいたんですね。

ブレストは、わずか数十年前にオズボーンさんという方が作った、会議手法の1つです。複数の人間でアイディアを出し合います。日本では“否定しない会議”という言い方をされます。アイディアをフォローしながら出し合うことで、イノベーションを起こします。

厳密には5つくらいルールがあるんです。カヤックでは5つ覚えられないので、2つにしました。1つは「人のアイデアに乗っかる」です。これは意外に難しいんですよ。「ブレストやったことあります!」という人でも、実はやってないんですよね。よくポストイットを出す会議がありますけど、あれはブレストにならないんです。ブレストのようなブレストじゃないものですね。

どういうことかというと、ポストイットであれをやらせると、自分は書くのに集中しちゃうので、まず人のアイディアは聞いていないですね。聞いていないから、乗っからないことになる。でも実際は、乗らないとイノベーションが起きないんです。

自分1人で出すアイディアって、変わらないんですよ。僕も、アイディアでおもしろいものを思いついたなと思うと、5年前にまったく同じ企画書があったりするんですよ。自分が考えて、ほとんど変わりないですね。だからなるべく、丸腰で来た方がむしろいいアイディアが出ます。

そういう意味でいくと、しっかり人のアイディアに乗っかった結果、自分では考えが及ばないアイディアが出てくる、というのがよいところなんです。ただそれ以上に、そもそも、チームワークも良くなるんですよ。やっぱりしっかり相手の声を聞くことそのものが、チームワークを良くする。

浮かんだアイディアを口から出すことで、思考方法も変わっていく

2つ目のルールは、「とにかくアイディアの数を出す」ですね。このルールで注意しないといけないのは、基本的には頭の中の批判的な要素とかロジカルなものだとか、検証論みたいなことが出てきちゃうのですが、そういうものをすっ飛ばして、とにかくたくさん数を出すことに集中することです。これがけっこう重要です。

なんとなく普通に考えると、思いついたアイディアを「これはちょっと意味ないや」と引っ込めちゃうんですけど、引っ込めていると数が出ないから、とにかく口からどんどん出していく。その結果、性格がつくる人になっちゃうんですよ。これが僕らの最大の気づきでした。ブレストをやると、自然と……つまり社長の課題をみんなでブレストすると、社長と同じ思考方法ができるようになる。

会社に問題が起きたらどうやって解決しようかと(いうときに)、放っておいてもアイディアが出てくるって、もう社長そのものなんですね。ブレスト脳をやってきて(いれば)、そっちが自然と働き出すんだなと。ほぼトレーニングです。

感覚的には、入社した(ばかりの)社員が、半年ぐらいブレストに出てもアイディアは出ないんですけれど、1~2年ぐらいするとだいたい出るようになる。最初はピアノが弾けないけれど、2年ぐらいやると弾けるようになるのと同じような感覚で、アイディアが出せるようになります。ブレストをやっていれば、自然につくる人になるんだなと思いました。

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