2024.10.10
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デザインが担う企業文化(全1記事)
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青山文吾氏:みなさん、はじめまして。サイバーエージェントの青山と申します。よろしくお願いします。今日は僕だけデザイナーなので、クリエイティブを作る側からどう企業文化を作っていくかをご説明させていただければと思います。
こういう場で登壇するのは初めてなので、不手際があったら大変恐縮です。あたたかい目で見守っていただけるとありがたいなと思っております。
まず自己紹介ですが、青山文吾と申します。サイバーエージェントのゲーム事業部 SGE統括本部というところでデザイナーをやっております。経歴としてはコンシューマー系のゲーム会社のあとにデザイン事務所を経て、2009年にサイバーエージェントに入社しました。今ちょうど10年目くらいですね。
まずゲーム事業部について簡単にご説明させていただきます。サイバーエージェントは大きく3つの事業があります。
AbemaTVが今話題になっているメディア事業と、創立当初からずっと続いているインターネット広告事業、そしてゲーム事業という3つの柱があります。ゲーム事業の一部の子会社が所属する組織を、社内ではSGEという名称で呼んでおります。Smartphone Games & Entertainmentの略ですね。
ゲーム事業は子会社制をとっております。SGEだけでも10社以上あり、従業員も1600人くらいいる、比較的大所帯な組織です。この組織の中で子会社制をとっているのは、決断を早くしてスピード感のある事業を展開していくという部分。あとは子会社ごとに溜まったノウハウやナレッジを共有をすることで、いろいろな組織力、大会社力というのも活かしてゲームをヒットさせていこうという方針をとっております。
これを統括しているのが、副社長の日高です。日高からの組織全体の方針の共有や、各社を超えた横軸の施策を伝える時に、周知しなければいけない情報やいろんな制作物が出てきます。このデザインをしているのが我々PRデザイン室になります。
PRデザイン室はほぼ社内クリエイティブ専門の横軸組織で、現在デザイナー2名で内製しております。今回初めて数えたら、これまで3年間で約300点くらい作っていました。ということは年間100点くらいクリエイティブを作っているという感じですね。
SGEにおいてのPRデザイン室の役割についてご説明します。大きく2つあって、1つは制作物のクオリティを上げていく、底上げするということ。もう1つはカルチャーを組織に浸透させることです。
まず制作物のクオリティを上げるというところからご説明させていただきます。はじめに行ったのが、組織のロゴをリニューアルすることでした。先ほどから出ているこのロゴです。
制作する上で気をつけていたことは、新しいロゴになったことで「おしゃれになりました」「昔のロゴよりもおしゃれなロゴに作り直しました」というコミュニケーションを、組織のメンバーになるべくしないように、別のかたちできちんとクリエイティブに向き合うスタンスをなるべく伝えようと思って、いろいろメッセージづくりをしました。
これはなんでかというと、ゲームを主に作っている部署なので、各会社でいろんなチームがいろんな価値観で、自分たちが作っているものが「かっこいい」「おしゃれ」であると思って、いろんなタイトルが制作されているという現状があります。
ものづくり組織にはいろんな価値観があるので、そこを強要するというか、「これがおしゃれなので受け入れるべきだ」というようなコミュニケーションではなく、別のかたちで「これがなぜいいのか」といいますか、クリエイティブというものを今後どう捉えていくべきなのかを伝えていきました。
実際に作ったのが、このロゴのガイドラインです。
社内でしか使わないロゴですが、ことあるごとにいろんな部署でSGEのロゴが欲しいというときには、ロゴのデータと一緒に例えばこういうガイドランも一緒に渡していくんですね。
社内でしか使われないロゴですが、「ガイドラインがあって、きちんとした使い方をしてもらわないと困ります」みたいなことを記載していることで、邪険にできなくなるというか。ロゴ1つ取っても、きちんとした使われ方、クリエイティビティを感じていきながら使ってくださいねという思いで、我々は社内のものも作っています。そしてこのスタンスを明確にしました。
これは表彰のトロフィーです。
こういう既成のもの、成り合いで作っていたものなども、きちんと特注で仕様書を切って制作しました。
簡単にいうと、今まで作っていなかったものをきちんと作ることで、我々はビジュアルとしてのブランディングの底上げをこれから図っていくのだということを全体に訴求した、啓蒙していったという感じですね。
もう1つは、カルチャーを組織に浸透させるという方です。もともと私たちの組織は、「自分たちの組織は、自分たちで作る」というカルチャーがあります。これは「当事者意識をもって行動しましょう」という意味でもあります。当事者意識を持つというのは、わりとSGEの中では組織の成長や成果につながる1番の方法であるということになっています。
当事者意識を持つということを、我々PRデザイン室は組織にどんどん浸透させなければいけないので、それに関する1番簡単なアウトプットは当事者に出てもらうことなんですね。
このポスターは一体何かというと、ただの大掃除のポスターです。ただの掃除なんですけど、ただ掃除するだけだとおもしろくないので、各社でどれだけきれいになったかを競い合いましょうという施策にしました。それを、各社の掃除の代表というか責任者に出てきてもらってポスターの演者になってもらうと。
ここでのポイントは、常に人とセットでデザインしていくこと。社内で1番多い制作依頼の内容というのは、ロゴとポスターのセットがけっこう多いです。とにかくインパクトを出したいと。今まで貼られているものよりも、インパクトのあるものにしてほしいみたいに言われるケースが多い。本当にとにかくインパクトを出してほしいと言われます。
あと、おしゃれなだけのデザインだとあんまりウケないですね。要は、おしゃれかどうかの美的センスを知りたいわけではないということだと思うんです。どんな施策で、どんな気持ちでこれに取り組むべきなのかということが明確にわかっているデザインのほうが意外とおもしろく、注目されたり浸透しやすい傾向があります。
その結果、世の中に流通しているものよりも、けっこうアクの強いというか、クセの強いアウトプットが多い傾向にあります。だいぶ濃いめのダシが効いているアウトプットに、だんだんなってきてるんじゃないかなと思っています。
(スライドを指して)これは、新規タイトルを3社間で、3本の矢に例えてナレッジを共有しながら作っていきましょうという意味を込めたポスターですね。今出ている人たちは各社の新規タイトルのプロデューサーです。プロデューサーが自分たちで責任を持ってこのミッションをやり遂げようということで、出てもらっています。
ここに参加してもらっている、各メンバーはとくにモデルでもないし、俳優さんとかでもないので、たいていコスプレをさせたりすることで、ミッションがどういう役割なのかというのを視覚的に説明する傾向がけっこうあります。
このポスターは逆に、新規タイトルではなくて、運用タイトルを大晦日から正月までのお客様がよくログインされるタイミングで、どう安定的でお客様に満足してもらえるサービスをずっとやっていくかということを、これもまた競い合う。紅組、白組に担当する子会社が分かれて参加していくという施策のポスターです。このときは紅組の会社は紅組を上に、白組の会社は白組を上に、オフィスに貼ってくださいというかたちで制作しました。
これが次の年になると、もうタイトルもそうで、もはや社外の方にどう説明していいかわからないような世界観に突入してきてました(笑)。
(会場笑)
当事者が体を張ってこうやっていくことによるメリットというのは、まずそもそも参加する人の当事者意識がすごくアップする。あと誰が責任者かすぐわかるということですね。
先ほどの掃除のポスターに関しても、誰が各社の掃除の責任者なのかというのがすぐわかるので、実際に掃除のときにも運用しやすく、実際にやりやすかったりする面もあるんじゃないかと。
あとはビジュアル化することで、まじめな施策なのか、ノリノリで参加してもらうような楽しい施策なのかみたいなものだったり、責任者の人柄みたいなものをどう読み取っていくかみたいなことも伝わりやすいんじゃないかなと思います。
子会社の社長の経営層になると、より参加してもらうハードルがどんどん高くなってきます。(スライドを指して)これはスローガンポスターで、ライオンにさせられたりとか、トラにさせられたりとか、最近だと原始人になったりとかしてもらってます。
社長という職務も全体の中での役割の1つであって、その中ではこうやって「体を張ってやっていくことは普通である」というのが会社のカルチャーであるので、意外と積極的に参加してくれます。
次のポイントになります。一言でまとめづらいメッセージをうまくビジュアルで表現できたりするんじゃないかというところ。毎回、半期ごとにスローガンを掲げて、その目標で全体でがんばっていこうというカルチャーがあります。
あるときのスローガンに「地力」がありました。これは副社長が考えたのですが、要約するところは、各々が各々の持ち場で底力をつけてこの半期がんばっていきましょうみたいな、わりと概念的な話だと思います。
また別に、SGEのキーワードで出てくる個人・チーム・プロダクトという3つの単位と、地力という今回のキーワードを足してポスターで啓蒙していこうとしました。例えば体を鍛えている社員に参加してもらって、個人の地力のときに、個人、SGEのプレーヤーとしてどういうことが求められていくのかみたいなことをキーワードで書き出しています。
チームの地力に関しては、チームワークが取れていると全社で評判のチームでどんなことをやっているのかという、みんなが見習うべきキーワードをまたここで出してみたりします。
プロダクトに関しては、体を張るとかガテン系とか、力技と言うんですかね。
マッチョな地力の出し方ではなくて、勤勉さであるとか知識を吸収するとか、もうちょっと座学的な地力の出し方もあるんじゃないかみたいな話から、マーケティング担当になぜか二宮金次郎の格好をさせています。いろんな知識を得ながらも、歩きながら常にスマホをいじって新しいものに目を向けているみたいなポスターを作ったりしました。
このときの地力というキーワード自体が会話に織り交ぜやすいのもあり、比較的このキーワード、スローガンは社内で浸透して、ふだんの会話とかメールとかでも目にするようになったりしました。ちなみに作り方もけっこう地力が必要で、とくにスタジオとかで撮影してるわけではなくて、オフィスの椅子に立たせて、ちまちまと合成して作っています。
あと3つ目のポイントは、個人のキャラ性を活かすということです。
いろんな社員がいる中で人にフォーカスしていろんな制作物を作っていく場合において、例えば撮影をしたとき。この2人の社員を実際に撮影したとします。
1回目、2回目、3回目と撮り直しても、あんまり変わらない人がいるんですよね。
(会場笑)
ただ、やっぱり同じようにインパクトがあるポスターを作らなければいけません。こういう場合はあんまり本人が無理をしたポーズを取っても表情が固くなったりするので、デザインでなるべくインパクトのあるポスターにしたりとかしてます。
これはプログラミングコンテストのポスターです。撮影した人は弊社の全体のCTOをやっている、プログラマーとしては比較的偉いというか、立場がそれなりにある人です。一旦この人を真っ二つにしたりして、ここにプログラミング言語を詰め込んで、「体の中まで1日プログラミング漬けになるコンテストをやりましょう」というポスターにしてみました。
あと、プログラマーの代表なのでいろんなところで露出するんですけど、アンドロイドにしてみたり。
また、ビームを出させちゃったりとか(笑)。
そうやって、なるべくデザインのほうでいじり倒して、彼自身のパフォーマンスじゃない部分でなるべく本人が注目を寄せていくデザインの力……これをデザインの力と呼ぶのかわからないですけど、視覚的な企画力でなるべく本人が注目されるように努力するようにしています。
これは意外と、全社的にすごく評判がよかったです。評判がいいというか、話題になりました。別の施策のときに取締役がロボットになるみたいなことも実際にありました。
別のケースです。ポスターの制作依頼があって、とにかく自分の名前と役割をみんなに知ってほしいという、「それだけか!?」というパターンですね。名前と役割だけだとポスターもなかなか絵づくりができないので、これどうしたらいいかなぁと。重要なんだけど、言うことがあんまりないパターンです。
それで考えたのが、ちょっとウザいんだけど憎めない表情をするのがうまいので、マグネットとPOPと言われるものを作りました。これで至るところをジャックしたというか、社内をジャックしました。入館カードのリーダーに貼って、朝部屋に入ろうとすると、これが目に付く。出社すると、至るところにこのマグネットとPOPが垂れ下がっていて、内容も本当に役割と名前しか書いてない。
これが社内のSNSでけっこうバズりまして、最終的にはハロウィンパーティーでコスプレをする人まで出始めるくらい浸透しました。
(会場笑)
コスプレをするのはさすがに想定外だったんですけど、社内でそれだけ浸透したという結果だったなと思いました。
もちろん、こういうイロモノっぽいことばかりをしているわけではありません。もうちょっときちんとしたというか、ほかのアウトプットもご紹介させていただきます。
取り組みの仕方でいうと、同じもの一辺倒だとやはりみんな飽きてしまいます。おもしろいと思ってる人しか反応しないので、いろんな角度から訴求の仕方を変えて、同じメッセージを根気よく、手を替え品を替えやっていくことがけっこう重要かなと思ってます。
これは『漫画でわかるSGE』という企画で、その名のとおり漫画でSGEという組織が分かるとともに、組織全体でどう取り組んでいくべきかということを漫画にした企画ですね。社内に漫画を描くチームがありまして、そこに漫画を書いてもらいました。
新米のプランナーがいろんなことを学んでいきながら、最終的にリリース前のピンチを乗り越えて成長するみたいなストーリーです。ちょうど新卒の配属前に新卒に配りました。
ゲーム事業部ってけっこうマニアックな趣味がないといけないのかなとか思う新卒が多かったりするんですけど、ビジネスという観点からみると、ゲーム事業というものは非常に大きなお金が動くジャンルなので、やりがいのある事業でもあるわけで。こういうものを読んで事業部の理解が増えて、ゲーム部門に行きたいという新卒の率が増えたという効果もありました。
あとは社内報をずっと作ってます。『PEOPLE』というタイトルで運用していて、これも基本的には『PEOPLE』というタイトルどおり、人にフォーカスして編集しています。
話題はいろんなものを織り交ぜていて、アンケートも取って、次号に反映したりしています。
巻頭特集では、いろんな切り口で人の紹介をしてます。表彰文化がありますので、表彰に関する特集では、MVPを取った人が毎回ちょっと豪華なバックでプロのカメラマンに写真を撮ってもらえる。とはいえこれもやっぱりオフィスなので、この金色キラキラしたテープをオフィスのどこかに垂らして撮ったりしています。あとはインタビューがある感じですね。
これもまた、別のMVP受賞者のインタビューです。先ほどのマグネットのような、ふざけたというか、砕けた雰囲気の訴求と、こういったきちんとかっこいい、表彰してリスペクトすべき人たちはかっこよく扱うという表現の振れ幅というのも、組織に対して理解を求めていくことの手段の重要なポイントかなと思ったりしてます。
あとは職種で切り分けます。ゲームの現場というのは、クリエイターといってもデザイナー、イラストレーター、3D、シナリオ、アニメーションと、多岐にわたり在籍しています。
職種ごとにそれぞれ価値観も違ったりするので、それに対するいろんな知見をクリエイター以外の人にも知ってもらうためにこういう特集を組んだりしました。これはエンジニアさんなどいろんな職種に関して言えることで、なるべく相互理解が図れるような特集を組んでます。
サイバーエージェント自体が比較的新卒文化で、だからこそ中途採用の特集を組んでみたりとか。このときの編集長もキャリア採用だったりするので、中途採用の社員だけの特集です。
あとは「実はスニーカーを1000足持っています」とか。
「消しゴムを1万個持ってます」とか、調べると意外とおもしろいパーソナリティを持っている社員がいたりします。
事業とは関係ないんですけど、特徴的な話題になるような社員を見つけては、コーナーを織り交ぜて紹介したりしています。
これはオフィスの近くのグルメマップみたいな企画です。こういうものも、レコメンドしている人物と一緒に紹介していくことで、その人のおすすめという部分で、その人の価値観であるとか好みみたいなことをちょっとずつ紹介して、組織全体が仲良くなっていくような雰囲気を演出しております。
あとアンケートからのフィードバックで、「文字が多すぎるのでなかなか読みきれない」みたいな話がありました。そういう場合の対応策として、例えばこういうインフォグラフィックスを使って、文字数を極力減らして説明するページみたいなのも取り入れたりしています。
「おっさんが1人で酒を飲める、おすすめの居酒屋」みたいな特集が、ちっちゃいんですけどありまして。なぜか最近、アンケートではダントツの人気ページです。理由をちょっとこれから分析しないといけないなと思っております。
以上で、ちょっと散文的なんですけど、だいたいPRデザイン室がどんなことをしているかという紹介になったかなと思っています。
デザイナーが企業文化を作るときに、どういうことが大事か。SGEのPRデザイン室でいうと、制作物のクオリティを上げることと、カルチャーを組織に浸透させるというのが目的です。
言い換えると、制作物に対するスタンスをきちんと明確に提示していくことが大事かなと思っています。先ほど言ったとおり、ものに対する価値観というよりは、向き合い方みたいなものが見えてくるのが僕らは大事だと思ってます。
もう1つのカルチャーを組織に浸透させるということでいうと、サイバーエージェントのゲーム事業部に関しては「当事者意識」が当てはまります。
このキーワードを経営メッセージで言い換えますと、みなさんの会社の中でもどういう経営メッセージを伝えていくかという方法の1つとして、デザインがどうワークしていくかをイメージできたらいいんじゃないかなと思っております。先ほどちょっと説明したように、伝え方というのは、手を替え品を替え理解を促していくことなんじゃないかなと思います。
最後に、いろんなかたちのアウトプットの集積で「どうもこういう組織らしいぞ」ということが、過ごしている社員の大半がだんだん理解していくものだなというのを日々作っていて実感しています。
やらないとなにも変化がないことではあるんですけど、1点1点のアウトプットとか掲示物であるとか配布物というものが、なにかの目的に沿ってきちんと作られている、なにかの意図に合わせて作られていると、ちょっとずつでもどういう組織なのかという自覚がみんなの中に生まれてきているなという感じがします。
以上となります。ご清聴いただきありがとうございました。
(会場拍手)
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