2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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小金蔵人氏:ここからはヤフーの「1on1」の導入編です。これはヤフーの事例なので、このお話をもとに、これから導入を検討されている方や、導入し始めた方に、なにかお持ち帰りいただければと思います。1on1を導入しようとしたときに起こりそうな「あるある」から、ご説明させていただきます。
1つ目ですが、「ヤフーも導入しているから導入しよう」というのは、すごくうれしいんですが、あまりお勧めできません。1on1導入の最初のステップは、自社の目的をもって導入しましょうということです。今日はヤフーの僕が話すので、ネタ的なもっていき方をしていますが、当然ヤフーでも、流行っているからやっているわけではないです。ヤフーなりの目的があってやっていて、シリコンバレーで流行っているからではないです。
では、ヤフーの導入の目的はどういう内容だったのかを、これからお話しさせていただきます。お話は2011年までさかのぼりますが、サービス開始時は、15期連続で増益していたんです。ずっと増益していて優良企業だと言われていたのですが、見ていただくと分かるように、通期の営業利益でいうと少しずつ鈍化してきていたのです。
営業利益がすべてを表しているわけではないのですが、社内的にもどんどん社員数が増えていて、組織も増えていって、どんどん仕事も増えていくなかで、あまり余裕がなくなっていたんですね。風通しも少し悪くなっていました。
ヤフーのサービスはPCメインのものがすごく多かったんですが、この時期はちょうどiPhoneが出て、どんどんスマホにサービスを移管していくことが求められたなかで、受け入れ体制の刷新が必要だということになりました。
そして、この後の2012年の4月に「脱皮しない蛇は死ぬ」という、ちょっと刺激的なキーワードなのですが、第二の創業ということで、前社長・現会長の宮坂学を中心とした新しい体制になりました。そうなったときに、先ほどお話したミッション・ビジョン・バリューが徐々に作られていきました。
それに合わせて、経営戦略の1つとして、ヤフーは「人財開発企業になる」というコンセプトとして打ち出しました。社員の成長がヤフーの成長を支えるということで打ち出されました。そして、なにをもって人財開発をするのかという、人財開発コンセプトも決めました。
それが「社員の才能と情熱を解き放つ」というものです。私自身、好きなキーワードなのですが、要するに本人の持ち味ややる気を引き出して、それを十分発揮してもらって、人財開発をしていくことがメインのポイントだと決めました。
そして、ここまでの話で出てきたキーワードをつなげたものが、ヤフーの目的だったのですが、「脱皮しない蛇は死ぬ」ということで、脱皮をするために、経営理念のミッション・ビジョン・バリューを変えていこうということになりました。
ミッション・ビジョン・バリューというのは経営理念で、その次の経営戦略はいくつかあるのですが、そのなかの1つが人財開発企業です。人財開発をどうやるのかというと、才能と情熱を解き放ってやっていく。才能と情熱をなにで解き放つのかというと、経験学習で解き放つ。経験学習を回すためになにが必要かというと、1on1が必要です。
これは上から下にかけて、どんどん小さい話にブレイクダウンする形になっています。このストーリー化した目的を、経営陣たちはもちろん握れていた状態です。そして、マネージャーの上位レイヤーからちゃんと伝播していくかたちで、社内にきっちり浸透していきました。
例えば、新しい体制になったあとは、社内でいろいろなコミュニケーションが走るのですが、社長も副社長も人事責任者も◯◯本部の本部長も、みんな基本的にはこの言語で次の戦略を話すことができます。「目的はこういうことだ」と話されていたので、なんのためにやるのかがおさえられていたということです。
これがヤフーの自社の目的です。もしみなさんの会社や、提案先企業の1on1導入の目的がなにかということを考えるときは、こういうことを決めておくと、1on1が成立しやすいと思います。
導入の2点目は、「興味を持った人から始めればいいかな」とお考えの方がいるとしたら、あまりお勧めはできません。しっかり組織に導入するとしたら、組織のトップから始めることが重要ということです。
1on1自体は、1対1で相手の才能と情熱、経験学習を促進していくということで、人財開発の施策です。しかし、1on1という施策をある企業やある組織に一気に入れるというのは、組織開発的な働きかけになります。そのときには、組織開発のセオリーに則る必要があります。
組織開発を成功させるためには、トップが「その組織を本気で変えよう」と思っていることが絶対条件です。これがないと、組織開発は絶対にうまくいきません。定石なんですよね。1on1も同じです。
(スライドを指しながら)組織を絵で表すと、こんな絵になりますよね。大きな組織があったり、小さな組織があったり、プロジェクトがあったりして、それぞれに組織の長がいるとすると、1on1はこの上の人から始めるということです。
この○○統括本部のようなところで導入するのであれば統括本部長ですし、全社に導入しているんだったら社長です。とにかく、今から導入しようとしている組織のトップが、まずは1on1というものにコミットメントしていることが大事です。ちゃんと本気でやり抜こうと思っていることと、自らが実践しているということ。この2つが重要です。
トップが始めるというのは、意識と本人が実践することのどちらも大事です。ヤフーの場合も、2012年の(第二の創業が)始まったタイミングで、社長や副社長も直下の部下との1on1をしました。
2018年の春からの新体制で川邊が社長になっていますが、今も率先して1on1をやっています。直下の部下だけではなく、ヤフー○○の責任者とも1on1をするなど、いろいろな1on1をしています。このように、トップが姿勢を見せることが非常に重要です。
導入の3つ目、1on1だけを実施するというのはあまりお勧めしていません。ヤフーも取り組んだのは、他の施策と連動して実施するということです。1on1以外の施策と連動することがポイントになります。
1on1との連動パターンの1つ目は、1on1の質そのものを改善していく施策を組み合わせることです。「1on1質向上サイクル」といいます。1on1をやります。週に1回30分程度の対話を全社員でやってもらいます。そして、その1on1がちゃんと行われているか、質の高い状態で行われているかを、この「1on1チェック」を走らせてアセスメントします。
アセスメントと書いてありますが、評価ではなく、部下から上司に対してフィードバックをするチェックです。「あなたの上司は、あなたにちゃんと1on1してくれていますか?」とか「あなたの上司は内省を支援してくれていますか?」ということを聞いています。
チェックをしているので、当然スコアも出ます。そのスコアを上司に見てもらって、「自分はできていると思っていたけど、できていないんだ」といったことを知るというものです。そういうフィードバックからの気づきがあったり、あとはその上司の上司、リーダーであれば部長なども見るので、「あなた、できてないじゃない」といったことを言われたりします。
そういうときに、学ばないといけないという渇望感が本人に芽生えます。「渇く」という表現をしているのですが、この渇望感をもとに、研修に来てもらうのです。「1on1をサポートするコーチングができていない人は、コーチングを学びましょう」「フィードバックができていない人は、フィードバックを学びましょう」という研修を導入して、これをグルグル回すことで、1on1の質が良くなっていくというのが1つです。
もう1つは、もう少し大きいグルグルの図の話です。人財開発そのものもいろいろな施策が走っていたので、それと1on1をちゃんと接続するようにしました。
1on1自体は、週に1回行われます。(スライドを指しながら)点線からこっちは、ぐるっと半期のイメージです。期初に目標設定をして、人財開発カルテというキャリアシートを記入するときに、まずは1on1を通してちゃんと合意します。合意したなかで実際に仕事に入っていきます。職場経験と内省を日々の1on1を通して行い、内省を通して経験学習をしながら、本人や上司の成長実感を持ちます。
そういうやりとりができている上司が、上司と隣の部署など関係しているマネージャーたちが集まって、部下の今後のキャリアについて話し合う会議に持ちこみます。これは人財開発会議と言って、ここでどんな話がされたかをフィードバックするのも1on1でやります。
期の終わりが近づいてくると、当然目標評価や評価フィードバックが行われるので、そこのすり合わせも1on1でやります。そして、今期の活動がどうだったかについての1on1が終わったら、来期の新しい仕事をどうするかとか、目標をどう持つかといったことを1on1で話して、次の期が始まります。
このグルグルの中心に、常に1on1があるように設定されていると、1on1があるからいろいろなものが機能しやすいし、いろいろなものがあるから1on1をいいものにしていかないといけないというように、相互にシステム的につながっていきます。
3点目は、施策というよりオフィスの話です。オフィスも1on1をしやすいように設計されています。「1on1部屋」というのがあって、これだけ見るとなんか嫌だなと思う人もいると思うんですけど(笑)。実際は、2人きりでお互い話にも集中できて、すごく使い勝手がいい部屋が用意されています。全館フリーアドレスなので、いつも使っているフロアの部屋が埋まっていたら、上の階に行くこともできます。
1on1は、いろいろなところで自由にやっていいことになっています。芝エリアにクッションがあるのでゴロゴロしながらやったり、真面目にカフェみたいなところでやったり……。マッサージチェアが2個並んでいるのがちょうどいいようで、「この前やったら面白かったよ」と言っている人がいて、少しネタ的ではありますが。いろいろできますということですね。
オフィス環境も、1on1をやる前提で設計されているのがポイントです。1on1が機能しやすいように他の施策が組み合わさっていって、1on1をやり続ける理由が増えていくと、自走し始めるんです。
導入時のポイントの最後ですけれども、打ち上げ花火的にやってみるのはあまりよくないです。「始めたらやり続ける」という気合と根性の話です。やり続けるだけでは苦しいですが、ここまでのいろいろなことをちゃんと組み立てていればそんなに苦しくないです。1つ目、2つ目、3つ目があっての4つ目なので。始めたらやり続けることが大事です。
ヤフーも当然うまくいったことばかりではないです。いくつかお話しできるエピソードがあります。1つ目は「1on1祭り」という(笑)。呼んでいるのは僕だけだと思いますが、僕にはそう見えているんです。1on1が始まったばかりの時に、ある特定の時間帯に、一気に1on1指数が上がるんです。
フリースペースが埋まるくらいにみんな1on1をしていて、みなさんが座っているくらいの距離感でぎゅうぎゅうで1on1をやっています。隣で内省の話もしてるし、すごくお互いやりづらい。席の間隔がすごくせまいとか、場所がないというようなことで大騒ぎになるとか、いろいろな騒ぎがあって、一種のお祭り状態だなと思いました(笑)。
なぜ集中するのかと思ったら、月曜日や火曜日は定例のミーティングが多いんです。週の初めに情報を伝播するので、水曜日の午後くらいから1on1指数がどんどん上がっていって、木曜・金曜は真っ盛りになって、このあたりは文句を言う人が多かったです。オフィスも、今のオフィスに来る前だったのでなおさらでした。
もう1つのエピソードは、1on1への反発です。これは当然ありました。週1回30分だと、「部下が何人いると思ってるんだ」とか、「すごく時間がかかる、どうしてくれるんだ」とかですね。あとは分析思考が強い人や、ロジカルに物事をとらえる人に多かったのは、「これをやったところで、我々のサービスのKPIのなにが上がるのでしょうか」という声でした。
こうしたことも当然あって、正直言うと、今もゼロではないです。1on1はやり続けないと分からないこともあるので、これは乗り越える必要があります。なので、ヤフーは反発があったのでやめるということはしませんでした。
3つ目は、1on1が大好きで人財育成、人財開発が大好きなんですけど、いまいち成果につながっていないマネージャーが一部で出始めたということがありました。
反発の逆で、「1on1はいいよな、ヤフーの管理職は1on1をすることが仕事だ」という人で、それ自体は間違いではないんですけど、成果にちゃんとつなげてもらわないといけないので、ここにご執心されても困る。そういうことがありました。
繰り返しの話になりますが、それでもやり続けることが大事です。ヤフーの導入に起こったことや、ヤフーが工夫してきたことはこんな感じです。
ここまでは、「ヤフーの1on1とはなにか」ということをお話ししてきて、いくつか出てきたキーワードがありました。ここからは、1on1というものにそもそもどんなものを込めていくか、なにを実現したくてやっているのかということをお話していきたいと思います。
ここからは、ヤフーはこうだということよりは、みなさん自身がどう思うかというターンでやっていきたいと思います。1つ目は「コミュニケーションは頻度」というキーワードがヤフーで語られています。1on1を導入した人事の責任者もよく言う言葉です。コミュニケーションは、人間関係を構築するための対話を中心とした(もので)、ノンバーバルも含めます。
質より量ということです。すごくいいコミュニケーションをときどきやるよりは、いまいちなコミュニケーションでも、毎日やった方がいいということです。わかりやすくいうと、「僕らの部署は、半年に1回飲み会をしているので大丈夫です」というのは、あまり大丈夫ではないです。それよりも月に1回ランチに行った方が関係性は築かれるし、それよりも週に1回30分話した方が関係性が作られるということです。
よく最初に1on1の新人マネージャーが立ち向かう問題として、関係性が良くない部下に1on1を拒否されてしまうことがあるんです。「おい、1on1させろよ」と迫るものではないので、なんとなくリスケ(日程の再調整)が続いて、全然1on1をさせてくれないということが起こります。お恥ずかしながら、私もかつてそのようなことがありました。
そういうときの解決方法は、コミュニケーションの頻度を挙げるしかないんです。なので、そういうマネージャーに対しては、「1on1しなくていいので、日々のコミュニケーションをしてください」「毎日挨拶してください」と言っています。毎日しても仲が良くならない場合には、朝夕話しかけるように伝えます。そうすることでしか、解決の糸口はないんです。それを愚直にやり続けることが大事です。コミュニケーションは頻度だよ、という話です。
2点目が「観察」と「フィードバック」です。これも何回か出てきたキーワードですけど、これが1on1のなかに込めている重要なキーワードです。観察はちゃんと見るということです。フィードバックは率直に伝えるということです。
みなさんにぜひ考えてほしいのですが、今部下がいる方は、今日、部下全員の顔を見ましたか? 今日、どんな表情で仕事していましたか? そう考えたときに、観察することはけっこう難しいと気づくと思います。
もしちゃんと見ることができていたら、次に大事なのはフィードバックです。今見えていることを率直に伝えることです。「今日元気そうだったね」「今のこの仕事順調そうだね」ということを伝えてあげる。
観察やフィードバックがきちんとできてくると、「内省」と「自己理解」につながっていきます。内省は振り返りです。自己理解は、自分のことを知るということです。これもみなさんにお聞きしたいです。みなさんは、内省、振り返りはどのくらいできていますか?
「今日はがんばったなー」とか「今日は疲れたなー」というのは振り返りではなくて、「今日はうまくいったなー」「今日はうまくいかなかったなー」くらいから、少し振り返りっぽくなってきます。でも、まだ惜しい、という感じです(笑)。
「あれはうまくいったけど、なんでうまくいったのかな」までいくと、それが内省です。そこまでいくと学びになりますし、自分を理解することにつながります。自分はどんなことができてどんなことができないか(の理解)につながります。
これはジョハリの窓という有名な絵ですが、「自分の知っている自分」、「自分の知らない自分」、「他人が知っている自分」、「他人が知らない自分」というのを把握して、自己理解をしていくと、自分も知っていて他人も知っている自分がどんどん広がっていきます。
「自分が知っていて他人が知らない自分」は自己開示するしかないですし、「他人が知っていて自分が知らない自分」はフィードバックを受けるしかなくて、どちらの知らない自分もチャレンジすることでしか見えてこないです。
「解放された自己」という難しい言葉で書いてありますけれども、こうして、自分がどんな人間かの自己理解と他者理解をどんどん深めて、相互理解を進めていくということが起こっていきます。ここまでのコミュニケーションの頻度と、観察フィードバックと内省、自己理解を通して、自己理解が進んでくるということです。
関係性ができてきて、自分の振り返りのスキルが上がってくると、日常業務以外の仕事の話もできるようになります。それがキャリアの話です。
キャリアの話のなかでよく使われるのが、Will-Can-Mustというものですが、Willは「やりたい」で「夢」・「志」、Canは「できる」で「スキル」・「経験」、Mustは「やるべき」で「ミッション」・「使命」・「周囲から求められていること」などです。この3つが重なる場所が増えれば増えるほど、その人のキャリアは充実すると言われています。
一つひとつのなかに書けることが増えていくことと、この3つが重なる領域が増えることで、本人のキャリアが充実していきます。自分がなにをやりたいか、なにができるかというのは意外と気がついていない人が多いので、内省をもって自己理解をしていくということです。
このやるべきことというのが、仕事ということもあります。ヤフーでは業務をアサインするというよりは「経験資源を配分する」という言い方をしています。この人ができる「Can」を増やすためにどんなことをしたら、この人はもっとキャリアが発達するかということを考えて仕事を配分していきます。そうやってキャリアの支援をしていくことが、理想の1on1のなかに入っているテーマです。
これがきっちりできるようになってくると、最近、「イコールパートナー」とヤフーでもよく言うんですけど、社員と会社が対等なパートナーシップを結べるということです。会社が一方的に社員を利用するわけではなくて、社員が会社に寄りかかるわけでもなくて、ちゃんと自立した社員と、社員を成長させられる会社が握手して、イコールパートナーな関係になっているという状態です。このあたりは1on1に込めているテーマでもあります。
だいぶ駆け足でしたけれども、ここまでヤフーの1on1の基本編と導入編、1on1に込めている本質的なキーワードということでお話をしてきました。情報量をだいぶ増やしてしまいましたね。
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