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常識を超えた取り組みが効率に繋がる。パプアニューギニア海産、未来食堂が語る、これからの新しい働き方(全10記事)

良いことには慣れて、嫌なことには不寛容になる 定食屋の店主がお客さんから学んだ「不公平感」との向き合い方

2017年11月5日、柏の葉 蔦屋書店にてトークイベント「パプアニューギニア海産、未来食堂が語る、これからの新しい働き方」が開催されました。登壇したのは、未来食堂店主の小林せかい氏と、パプアニューニギア海産にて工場長を務める武藤北斗氏。50分働くと1食無料となる「まかない」をはじめとしたユニークな仕組みで話題を集める未来食堂と、「好きな日に働ける」など、新しい働き方を実践するパプアニューギニア海産の、常識を超えた取り組みに込められた思いや、その仕組みについて語ります。

毎日「ただめし」の人がいるのは不公平か

小林せかい氏(以下、小林):でも、「ただめし」券を毎日使うと言ってますけど、例えば毎日使うAさんがいましたと。Aさん、Bさん、Cさんがいますと。券を剥がして持ってきて、会計のときにそれを出してもらうっていうシステムになってるんですけど。

使ったときに、その裏側に使った日付と、なにかあればコメントを直筆で書いてもらうことをルールにしてるんですよ。そこで、いつも使ってるAさんが来て、わかりました、お使いですか、と。ペンを渡して、「今日の日付と、なにかありましたらメッセージを書いてください」っていつものように言うんです。

すると、そのAさんが、「いつもありがとうございます」って書いてくれたんですよ。私は、そのメッセージがすごく重いなって思いました。

1人が何枚も使ってるって不公平じゃないかなって思いがあるから、みんな「毎日使ってる人はどうするんですか?」「毎回使ってる人に対して何か言ってるんですか?」。そういう質問になると思うんですよ。 

たぶんみんな同じこと考えてるから、そういう質問をよく受けるんですけど。その人が「いつもありがとうございます」って書いたそのひと言は……ぐっときませんかね。嘘かもしれないですけど。

武藤北斗氏(以下、武藤):その人はずっと書いてなかったのにそこで、わざわざ書いたわけですよね。

小林:うん。

武藤:重いだろうなとは思います。でも正直、僕は人間が弱いのか、毎日使われてることに対するストレスのほうが強くなりそうな気が、ちょっとしました。そういう人には向いてないのかもしれないですよね。

マイナス面だけに注目してしまう

小林:これは、いつもメディアには載らないんですが、テレビやいろんなところで質問される内容ではあって。「毎回『ただめし』券を使う人がいますよね?」と。

その答えがわかりづらいから載らないのかもしれないですが、いつも話してることがあるんです。毎日使う人がいますと。AさんとかBさんとか。毎日使われることのダメージがあるわけじゃないですか。売上が減ったり。

一方で、先ほどから話してるように「まかない」の人は、毎日だったり、毎週水曜日だったり、毎朝だったり。繰り返し来てくれる人がいるんですよ。つまり、こっちにプラスの人たちがいる。

毎回「まかない」に来てくれてる人っていうのは、たぶん1か月に20人ぐらいいるんです。いろんなスパンで。毎月来る人かもしれないし、毎日来る人かもしれないし。20人もプラスのものをもらってるのに、なんだかそっちは当たり前に見えちゃって。誰もそれについては聞かないんです。「毎日来る人がいたらどうするんですか?」とか。「毎日来る人っているんだ」「ああいるかもね」で、なんとなく脳みそって終わっちゃうじゃないですか。

毎日「ただめし」券を使うっていう、そのマイナス面に対して人間は許しがたい心を持ってるんだなって思うんです。プラスのほうは、みんな慣れちゃうんですよ。先ほど差し入れをいっぱいもらうって言ったじゃないですか。いつしかそこに慣れちゃう。人が手伝ってくれることに慣れちゃう。でもチクチクと、小さなマイナスは「やだな、やだな」ってずっと思ってる。

人間の、プラスに慣れてマイナスに不寛容になるところって、すごくいびつだなって思ってます。という話をいつもするんですけど、載ったことがないですね。

武藤:ぜったい載らないです。

小林:(笑)。

武藤:確かに、ぐっと噛み砕いて自分のなかで考えていかないと難しいですね。

大事なのは会社を残していくこと

小林:次の質問は、アキさんから。「エビなどの天然資源は減少してると思いますが、養殖なども使っていくのでしょうか?」これ本に書いてますよね。

武藤:そうですね……でも僕、優しいからちょっとだけ答えますね(笑)。

(会場笑)

武藤:僕らは基本的にはパプアニューギニアのエビしか取り扱わないと思っています。そのパプアニューギニアでは養殖をしてないんですね。なので僕らも、船凍品と言われる天然エビをとにかくやっていく。

ただ、1回ぜんぜんエビが入ってこなくて、つぶれそうになったときがありました。結局は使わなかったんですが、そのときはさすがに、パプアニューギニア以外の国のものを探した時期がありました。やっぱり大事に思ってるのは、なんだかんだ言いながら、ちゃんと会社を残していこうと。

今だけのことを考えるんじゃなくて、本当にパプアニューギニアの人たちとずっとやっていくのであれば、そういう決断をするときもあるんじゃないかな、と今は思ってます。

小林:なぜそんなにパプアニューギニアにこだわるのかっていうのも本に書いてますね。

武藤:そうですね。

小林:そこは、本を読んでいただいて。

武藤:はい。そこは本でゆっくりと。

小林:これで質問はぜんぶですね。今のところ、出たものはぜんぶ。

「まいばすけっと」のレジのすごさ

小林:せっかくなので、みなさんから追加の質問というかたちで手をあげていただこうかなと。

武藤:そうですね、もうあと20分ぐらいしかないですからね。

小林:あっという間ですね。

武藤:はい。

小林:私ね、どうしても武藤さんにしたい質問があるので、まず私が1番に手をあげるっていうのでよろしいでしょうか? ぜったいにこれだけは今日聞きたかったんです。「まいばすけっと」って知ってますか?

武藤:知らないです。

小林:まいばすを知ってる人います? イオン系列のコンビニです。意外とここら辺にはないのかな? いわゆるコンビニみたいな、ちょっと小さめのスーパーで。イオン系列のまいばすっていうのが、都心の方にあるんです。コンビニぐらいの大きさなんだけど生鮮も扱ってるっていう。

値段もイオンっぽい値段というか、そんなに高くない。その、まいばすのパートの人の動きがすごいんですよ。きびきびしてるとかじゃないんです。利用された方はわかるかもしれないんですけど。レジに人が並んでると、必ずほかのレジの人を呼びませんか? あれすごくないですか!? 

レジ待ちの人が3、4人になると、必ずピンポーンっていうのを押して、Aさんがレジにいたら、Bさんもレジに来るように。誰かがレジに来るようにすぐに呼ぶんです。本当にすぐ呼ぶんですよ。徹底してるんです。

何がすごいかっていうと、私、未来食堂をやる前にいろんなところで飲食店のパートをやってたんですよ。大戸屋だったりオリジン弁当だったり。本当にパートの雰囲気って、悪くなりがちじゃないですか。武藤さんの本に書かれていて、そこをすごく共感したんです。

あいさつはどっちから声をかけるのか、最初の3分の休みに誰がシャワーを使うのか。人間関係が悪くなる本当に無数の溝が張り巡らされてる、と私は思ってるんですけど。

だから、ピンポーンって呼ぶのも、陳列してる人がバイトリーダーだからちょっと呼びづらい。「頼むんだったら、お前がなんとかしろよ」とか。ぜったいなると思うんですよ。ピンポン押せないと思うんです。

レジに人が並んでるから、お客様が待ってるから来てくださいっていうのは、どこのコンビニも、いろんな店舗でもできなかったことなのに、まいばすはできてるんです。ぜったいに呼んで、レジ待ちがないようにするんですよ。そこがすごいなあと思って。

マニュアルとパートの人間関係

小林:私はそれだけのために、まいばすで働きたいんです。だって、いくらトップが人を呼ぶように言っても、1回パートの人間関係が悪くなって、1番最下位の人がレジをやっていたら……。「田中さん、あそこで陳列してるけど、私が呼んだら、またあとでお昼ご飯中に田中さんと佐藤さんに嫌味を言われちゃう」って思うと、押せないじゃないですか。

どうやってるんだろうな? って。すごいと思いませんか?

武藤:その……パートの?

小林:どうやってパートの人たちをマニュアル化してるのかっていうのが、すごく気になるんです。

武藤:実際のやり方は知らないですけど、僕が目指していることと似てるかなと思います。フラットにするっていうことですかね。

小林:でも、意外とほかの動きはそうでもないので(笑)。たぶんレジまわりだけ、なにか完璧なマニュアルがあるんでしょうね。たぶんみんながそのマニュアルを欲しいと思います。コンビニの人とか。だってずっとレジでお客さんが待ってるじゃないですか、ほかの人は陳列していて。

武藤:僕の工場は、自由だ、自由だって言われるんですけど。逆に、そういうルールをきちんと作るからうまくまわったり、争いが起きないっていうこともあるんだと思います。そのまいばすの人が何をやってるかはわからないけど、たぶんその人はちゃんと現場に入って考えたんじゃないかな、と。

ごめんなさい、自分も現場に入っていって働いたんじゃないかな? っていうことぐらいしか、今はわかりません。

いさかいがでないルール化

小林:ちなみにまいばすで働いてる方はいらっしゃいますか?(笑)。

武藤:これでいたらすごいですね。やらせかと思います。

小林:どうやってるのかなって……すごく不思議です。

武藤:それが僕に対する、どうしてもしたかった質問ですか?(笑)。

(会場笑)

小林:いやあ、どうしてもしたかったですね。というのも、やっぱり本を読んでいて思ったんですが。パートの人からどうやって不満の声を集めるか、すごく研究してる。研究というか、日々試行錯誤してるところが、本にたくさん出てくるんですよ。

例えば先ほどの話の、嫌いな仕事は各自申告して、みんなで嫌いな仕事をなるべくしないようにしましょう、っていうのも、それだけ言うのは簡単なんですけど。各々の好きな仕事と嫌いな仕事のアンケートをとっていくんですよね。

好きな仕事だけにつけるようにしたら、嫌いな仕事につけづらいんじゃないか、嫌いな仕事にもつけてもらおう、とか。そうやって細かくルール化して、休み時間の最初の3分をどうしよう、最後の3分をどうしよう。そこまで本に書ききってるので、まいばすの話はぜったいおもしろがってくれると思ったんですけどね。

武藤:ごめんなさい、そのすごさのイメージがまったくわかんなかったので。

小林:いや、すごいですよ!

武藤:ピンポン押してすぐ来るっていうことのすごさが。

小林:違うんです、ピンポンを押せることがすごいんですよ!

武藤:ああ、押せることが。

小林:そう思いませんか?

武藤:それはありますね。上下関係を気にしないで。確かに「呼ぶ」っていうのは1番、きついことではあると思います。

小林:ぜったい1番、いさかいがでるところじゃないですか。

武藤:サポートしてもらうことをお願いするっていうのは、確かにハードルは高いですよね。僕らのなかでも、それはすごく気にしてるところです。レジとどう繋げていいか、がちょっとわかんないですけど。

小林:わかったらお知らせします。

武藤:お願いします(笑)。僕もわかったら聞いてみます。

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