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出口治明さん トーク&サイン会(全4記事)

ライフネット出口会長「モーレツ社員はもういらない」今、日本がすべき“生産性を上げる働き方”

60歳で起業したビジネス界の異端児、ライフネット出口治明氏が著書『「働き方」の教科書』の文庫化記念イベントに登壇。これからの時代、人生をどう生きるべきか。楽しむべきか。「働き方」をテーマに、出口氏の経験を交えて語られました。本パートでは、働き手が減っていく中、どう生産性をあげていくべきか。出口氏自身の考えを展開しました。

自分で餌を取り始める20歳までは子ども、50歳が人間のド真ん中

出口治明氏(以下、出口):みなさん、こんばんは。よろしくお願いします。(今日は)座って話をさせていただきます。

いつも申し上げていることですが、講演中は、自由にスマホで写真を撮っていただいてけっこうです。Twitterやfacebookをやりながら聞いていただいても、なんの問題もありません。

こういうことを申し上げると、「被写体として自信があるんですか?」と聞かれますが。

(会場笑)

自信はまったくありませんが、僕はスマホで商売をやっている人間ですから。スマホで商売をやっている人間が「スマホを使ったらあかん」と言うのは、絶対に矛盾しているような気がしますので、気楽に聞いていただいてけっこうです。

みなさんは、『「働き方」の教科書』を読んでいただいたのだと思いますが、今日のテーマは「働き方」なので、本とある程度は重なることはお許しいただきたいと思います。

少し前、東大の池谷(裕二)先生と、脳についてはたぶん日本で一番の権威のある先生と「動物の原点とは、なんだろう」という話をしていました。「自分で餌をとって食べることだよね」と。

そうですよね。動物は全部、自分で餌をとって食べています。それが動物の大人の定義なので。そのように考えると、人間は自分で餌をとり始めてから初めて大人になるんだということですよね。

日本の大学進学率は50パーセントくらいなので、平均すれば日本人は20歳くらいから働き始めるわけですよね。そう考えると、20歳までは人間ではないんです。子どもですよね。お父さん、お母さんに食べさせてもらっているわけですから。

ですから、20歳から人間になって、平均寿命が今85歳くらいですから、人間である期間は65年くらいあるわけです。そうすると、50歳をちょっと超えたくらいが、人生の真ん中ですよね。

そうすると、50歳はやっぱりなんでもできる一番いい時期かなと思っています。今は一直線のマラソンコースが記録が出るから多いのですが、昔はマラソンといえば、必ず折り返し地点があって、同じ道を帰るわけですから。50歳というのは、ちょうど半分走ってきて、社会の風景もわかり、半分働いてきたわけですから、自分の能力もわかります。

50歳になって社長になるかどうかわからない人は、いませんよね。だいたいわかってますよね。ちょっと社長はもう無理かな、とか(笑)。

(会場笑)

ということは、いろんなことが見えているわけですから。なにをやっても怖くない。そのように考えればいいと思うんですよね。

「定年」と「年功」をやめたらええやん

でも、一般には50歳を超えた人は扱いが難しいらしくて、企業の研修会にたまに呼ばれると、「50歳を超えたおじさんやおばさんは、ぜんぜんやる気がないのですよ。どうやったら、やる気が出るんでしょうか?」「彼らががんばるような話を聞かせてください」などと頼まれるのですが、僕はいつも「定年をやめればいいです」と話しています。

だって、普通の日本の大企業や役所は、だいたい50歳から55歳の間に役付き定年があって、60歳の定年まではなんとかお金は貰えるシステムになっているわけですが、そんなシステムを前提にして、意欲がわく人なんかいるはずがないですよね。

だから定年をやめて、年功はもう一切関係ない。同一労働・同一賃金で、「成果をあげたらいくらでもお金あげるで」と言ったら、みんながんばりますよね。

だから、人事の方に基本的な仕組みを変えないで、今までの仕組みを維持した上で、「どうやったら、がんばって働くようになるやろか?」「そんなもん無理やで」ということを申し上げたら、頭を抱えておられました。「よく考えたらその通りだなと思いますが、でもこれは社長に話したらどうなるやろな」とか、そんな話をされていました(笑)。

みんなで貧しくなるか、知恵を絞って生産性を上げるか

それは置いといて、今日はみなさん全員がですね、いろんな方がいらっしゃると思うのですが。先ほど宮崎から来られた方がいらっしゃると聞いて、うれしくてびっくりしたのですが。

みなさんが全員、東京都で個人事業をやっていると考えてください。豆腐屋さんとか、パン屋さんとか、パン屋さんは和菓子屋さんと言い換えておきましょうか(笑)。

(会場笑)

クリニーング屋さんとか、いろんなことをやっていると考えてください。

それで、小池知事が考えを変えた。やっぱりオリンピックは、東京じゃもうできないから、ド派手にやる。森(喜朗)さんが考えている10倍くらいド派手にやると、突然言い出したとします。「東京都で事業をやっているみなさんから、来年から500万円ほど、オリンピックまで特別事業税をとるよ」と言われたとします。リコールとかなしですよ。2択です。

黙って500万円払うか、500万もとられたら、かなりやばいから、売上を上げたり、経費節減したり、工夫しないと来年以降しんどいなと思うか。という単純な2択です。手を上げてください。

黙って払う人?

ゼロですか。みなさん、工夫する方ですね。このことがわかれば、日本はGDPが大きく豊かになったから、成長なんかどうでもええでと。国民幸福度指数を考えたほうがええでという人が、いかに愚かかということが、すぐにわかるでしょう?

日本は、世界で一番高齢化が進んでいるので、なにもしなくても1年経てば1歳老いるので、介護や医療などで、予算ベースでも5,000億円以上のお金が出ていくのです。黙って500万円取られることと一緒ですね。

だから日本の選択は、2つしかないんです。

なんにもしないで、黙って500万円を出す。つまり、みんなで貧しくなる。これは、上野千鶴子先生がおっしゃっていることで、構造改革ができないというのなら、それなりに正しいんですよね。

もう1つの選択肢は、この5,000億円、予算ベースですが、社会保険料を入れたら、ゆうに1兆円を超えると思います。少なくとも、高齢化でお金が出ていく分だけは、GDPを成長させて取り戻すしかないんですよね。

だから今、日本が選択すべきは2択です。みんなで貧しくなることを我慢するか、知恵を絞って、GDPを上げるか。GDPを因数分解したら、人口×生産性ですよね。人口は簡単に増えない。ということは、貧しくなるか、生産性を上げるかしか、解はないのです。

とある編集者AとBの働き方

ほかの選択肢を、僕らは持っていないのです。みなさんは、500万円払うのは、嫌だと言われたわけですから、生産性を上げたいと思っているんですよね。生産性を上げると言ったら、日本のメディアが悪いんだと思いますが、なんか、上司にこき使われそうじゃないですか(笑)。きついこと言われて。

(会場笑)

このイメージは100パーセント間違いで、生産性を上げるというのは、みなさんが成長するということです。

初めて働いたときのことを思い出してください。仕事を先輩から教えてもらうでしょう? 「こうするんやで」と。でも、5時間くらいかかる。慣れてきたら、4時間くらいで、手もスムーズに動くようになります。そのとき、なんと言って褒められましたか? 

「ようがんばったな」「成長したね」でしょう? だから、成長するというのは、自分がいろんなものに慣れて、いい仕事ができるようになることです。だから、同じ仕事でも、慣れたら5時間が4時間くらいになる。だけど、3時間は無理でしょう? 

3時間にしようと思ったら、考えなきゃいけない。先輩はA、Bという順で教えてくれたけれど、ちょっと待てよと。B、Aにひっくり返したほうが早くできる。そうしたら、3時間になるかもしれない。

つまり、生産性を上げるというのは、みなさんがよく考えて、いい仕事をする。成長するということですから、いいことですよね。成長して、早く仕事が済めば、その分遊べますからね。そのように考えればいいと思うのです。

編集者、出版社の話をしますね。ある出版社にA、B、2人の編集者がいる。Aは、朝8時から22時まで働く。働き者ですよね。でも、パソコンの前にしがみついているだけなので、Aが作った本は、返品の山で、1冊も増刷できない。

Bは、10時くらいに寝ぼけたまなこで会社へ来る。来たらすぐにスタバで誰かとダベっている。そのままお昼を食べに行って帰ってこない。昼過ぎに帰ってきて、18時になったら飲みに行って、2度と戻って来ない。

(会場笑)

でも、いろんな人にアドバイスをもらっているので、年内にベストセラーを3冊くらい出して、八重洲ブックセンターの1階に山積みになっている。

「工場・製造業」と「サービス産業」では生産性の上げ方が違う

みなさんがこの出版社の社長だったら、どちらを評価して、給与を上げますか?

A? B?

Bですよね? 売れなきゃ給与を上げられませんからね。

これがカラーテレビを作る工場だったらどうでしょうか? Aの前のベルトコンベアは、8時~22時まで動きます。カラーテレビがいっぱいできます。Bの前のコンベアは、10時に動き出したら、スタバストップ。

(会場笑)

18時には止まってしまって、テレビがぜんぜんできない。言いたいこと、わかりますよね?

工場・製造業モデルの働き方と、サービス産業モデルとでは働き方がまったく違うということです。今の日本のGDPは、7割以上がサービス産業です。製造業がダメだと言っているのではありませんよ。

日本に残っている製造業は、生産性も高く、社会の宝なので、大事にしなければいけませんが、これ以上、日本に工場がいっぱいできると思っている人は、皆無でしょう?

これからはサービス産業で食べていくしかないんだから、Aのように長時間労働ではダメ。8時から22時まで働いたら、「飯・風呂・寝る」の生活になってしまいますが、こんな働き方では、絶対、経済成長しないと。

生産性を上げるのは「人・本・旅」の生活

だからBのように、早く帰社して「飯・風呂・寝る」ではなく「人・本・旅」の生活に変える。たくさんの人に会って、ヒントをもらったり、本を読んでいろいろアイデアを得たり、あるいは、旅というのは現場に行くことです。

旅が本当に役に立つと思ったのは、僕が32歳のときに、今はもうありませんが、日本興業銀行で1年間銀行員として働きました。そのときの上司がめちゃいい人で、「いくらPLやBSを分析してもわからへんで、工場見学へ行こう」と言って、毎週のように現場に連れて行ってくださったんですよ。

見たらすぐわかりますよね。「あぁ、なるほど、鉄はこういうふうに作るんや」と。頭でわかってても、見ると迫力が違いますよね。「ときどき従業員が消えるんや」「骨もなんにも残らないんやで」「みんな溶けてしもたんや」などと。

(会場笑)

そう教えてもらうと、なるほどと思いますよね(笑)。それは冗談ですが。

だから、生産性を上げようと思ったら、「人・本・旅」の生活に切り替えないといけない。今、政府がやろうとしている働き方の改革というのは、「飯・風呂・寝る」の長時間労働をやめて、「人・本・旅」の生活に変えない限り、成長はしないということです。わかりますよね?

工場モデルの時代、つまり、長時間働いたら必ず伸びるいうのは、野球の話です。これに対してサービス産業は、サッカー。もう舞台はサッカーになっているのに、夜遅くまで素振りしている。それでは、あかんでしょう? 勝てないでしょう?

モーレツ社員はもういらない

「飯・風呂・寝る」はやめて「人・本・旅」の生活に切り替えなきゃダメですよと言ったら、必ず、偉そうなおじいさんから手が上がります。

(会場笑)

「言われていることはよくわかりますが、でも、若いときはやっぱり徹夜をしたり、長時間働いて仕事を覚えないと、使い物にならないんじゃないですか?」と、いう質問が必ず出ます。あまりたくさん出るんで、ワンパターンの答えを用意しました。

(会場笑)

次のように答えています。

「きっとそうだと思います。僕が不勉強で、長時間労働が仕事に役に立つというデータを読んでいないだけだと思います。あとで名刺交換しますから、若いときの長時間労働が生産性を上げたり、イノベーションを起こしたり、あるいは、その労働者のマーケットでの価値が上がったという本でも文献でもデータでもなんでもいいので送ってください。勉強して意見を変えますから」と。

もう5年くらい言い続けているのですが、1回も送られてきたことがない。

(会場笑)

ないからですよね(笑)。わかりますよね?

政府が言っていることは、そんなに間違ってはいない。でもまぁ、今の政府はなにもやらないので、いやなことをやらないから人気がある政府だと思っているのですが、認識自体は間違っていない。

モーレツ社員はもういらないと、総理がちゃんと言っている、つまり、長時間労働はあかんということはわかっているのです。

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