2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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浜田敬子氏(以下、浜田):働き方改革というときに、まずは女性が働きやすくなるように、と捉えられてきました。それがなにを生んだのかといえば、「女性が働きやすくするために」と言った結果、「家事も育児も女性の役割」と、家庭内の役割分担が固定化してしまったなと思います。
今では「男性も女性も含めた働き方改革をしないといけないよね」と、議論が段階を追って進んできたなと思っています。
一番改革が進んでいないのが、この「男性の家庭進出」というところです。会社の中だけで一生懸命働き方を改革をしても、結局は家に帰った時にちゃんと家事育児の分担ができていないと、女性だけがこの制度を使って早く帰って家事も育児もやらなければいけないということが今起きていると思います。
多くの企業で、とくに両立制度が進んでいる企業では、復職率100パーセントってみなさんおっしゃいます。その100パーセントの女性たちの生活を垣間見ますと、疲れ切ってますよね。復職率100パーセントになってきたんですけど、同時に「復職後2~3年後退職」というのが増えてきてます。
復職して2~3年はがんばるんですよ、みんな。だけどそこで疲れ果てちゃって、「とても両立無理」「いったん休みたい」と退職をしてしまう。もしくは「やっぱり2人目はどうしても無理」と言って、子どもは1人で我慢してしまう。2人目がどうしてもほしいから退職をする。
このギリギリの精神状態とかギリギリの時間で回しているということが、男性も含めて平準化しないと、なかなか真の働き方改革にはつながっていかないのかなと思っています。さらに今、なかなか女性が管理職になり手がいないという悩みを多くの企業さんから聞きます。
30代後半から40代になるポスト管理職世代の女性というのは、ちょうど出産期と重なったり出産後だったりするので、管理職のような、負担が大きい、責任が大きい仕事はとても無理ですと言われます。
ここが本当に均等法世代の私たちと、氷河期世代・氷河期世代以下の女性たちでも意識がかなり違うなと思っていて。その意識のギャップというものに企業が非常に悩まれているなと感じます。
私のような均等法世代ですと、子育てを親やベビーシッターに丸投げで続けてきたんです。私自身も山口県の実家を親に売ってもらって東京に出てきてもらって、子どもを育てるのをまる掛かりで手伝ってもらってます。2つ下の『AERA』の副編集長の女性も、北海道から両親を呼び寄せて同じマンションに住んでもらってやってます。
なぜこうしてるかというと、上の先輩たちがそうしてたんですね。私たちの会社はどうしても長時間労働なので、自分のお給料を全部ベビーシッターに突っ込むか、こうやって両親と2世帯住宅を作るか。いずれかしかやり方のモデルがなかったので、「こうやらないと働き続けられないんだな」と思い、その道を選択しました。
厚生労働事務次官の村木厚子さんにインタビューした時、村木さんも「自分のお給料は全部ベビーシッターに消えた」と。今の女性官僚の50代の方などはそういう働き方をして来られたんだなと思います。
ただ、明らかに女性自身の意識が変わってきています。今の40代前半以下の人たちからは、「浜田さんたちみたいな働き方はもうできません」「そんなにまでして働きたくないし、そんなことまでして管理職をやる勇気はありません」と言われます。
親御さんも若いですし、まだ働いてたり、その上の世代を介護しているというケースも多いです。なので、自分は自分ができる範囲で働きながら子育てもしたい。しかも、子どももちゃんと自分で育てたいというようなことを多くの女性たちから聞きます。どこの企業さんも女性管理職、なり手がいないんだという話を聞くたびに、そういう現象になってるのかなと思います。
ですが、その一方で一度この悩みを「ミスター・ダイバーシティ」と言われるカルビーの会長の松本(晃)さんに相談した時にこう言われました。「それは浜田さんがまだ本気で管理職にしようと思ってないからや」と。
私も後輩の女性たちに「副編集長をやってみない?」と打診した時に、1回はみんな必ず断るんです。それを相談したら、本気で彼女を登用したいと思ったら、もうちょっと本気で口説け、と言われました。
本気で口説くということは、なった後にどういうフォローをするんだということまでセットで話さないと絶対にダメだとも言われました。
ちなみにカルビーでは、4時に帰る執行役員の方や女性の本部長がいます。4時に帰れと松本さんに言われていて。4時までにきちんと役員としての仕事をやるようにということを言われていると聞いています。
私も優秀な女性記者に副編集長になってもらう時に、松本さんからアドバイスを受けて、彼女に対して全面的にバックアップをするからやってほしいと言いました。保育園のお迎えの時間には帰っていいからと。
あと編集部全員に、「彼女はこういうふうな働き方をしている」と伝えていました。子どもの保育園は何時までだから必ず何時までに出ないといけないので、その時間帯に用事を言わないようにとか、「何時から何時までは保育園に迎えに行って、ご飯を食べさせて寝かしつけて、電話やメールしていいのは10時以降」とか。
そういうワーキングマザーのライフスタイルをこと細かに伝えないと、男性や子どもがいない人にはなかなか伝わらないので、そういう情報をオープンするようにしました。いろいろな企業の先進的な事例を見て、こうしたらいいかなと、試行錯誤しながらやってきました。
では働き方改革と言っても一体なにを変えるのか。3つぐらい大きなポイントがあるのかなと思っています。去年私がプロジェクトを立ち上げました「チェンジワーキングスタイル」という朝日新聞シンポジウムの分科会もこの3つのテーマにしました。
1つは長時間労働改革です。みなさんここが一番、お聞きになりたいポイントかなと思っています。後のパネルディスカッションでもここを中心に話されると思いますけども、やっぱり長時間労働がある限り、いくら両立支援制度が整っていても、若手の女性社員や、若手の男性社員の不満はなくなりません。
男性社員の中にも、自分も子育てに関わりたいという人たちが増えてきていますので、そういった人たちが自分のプライベートとちゃんと両立できないような会社ではなかなか厳しいということを、企業側も感じているとは思います。
今起きてるのが、改革がどんどん進んでる企業と、まったく変わってない企業の二極化です。
後で事例も出しますけど、改革が進んでるところはどんどん進んでるなという印象があります。本質は時間あたりの生産性を上げるということなんですけども、まだまだ多くの企業が「ノー残業デーを作りました」「はい、この日は絶対帰りなさい」といわれるだけ。でも、なに1つ業務は減っていないし仕事のやり方が変わってないので、「じゃあどうすればいいの?」という段階です。
時間あたりの生産性をどう高めるかとか、仕事の方法をどう見直すか、業務をどう減らすかみたいなところが非常に大事だと思うのですが、試行錯誤をしてらっしゃる企業は多いかなと思っております。
あともう1つ改革のポイントは評価制度の見直し。長時間いることがよく働く社員だというような価値観が日本企業は強いので、そのあたりをどういうふうに時間あたりの生産性で評価するかという、評価制度まで手をつけてる企業は、実はあまりないんですね。
大和ハウスなんかはここに手をつけられてますけども。評価制度まで手をつけてらっしゃるところは少ないかなと思っています。
実はこの長時間労働改革は、去年の12月のシンポジウムの時の分科会で、企業を集めるのに苦労したんです。
けっこう進んでる企業だなと思ってお声がけをしても、「いやいや、実はうちは実体はまだまだです。制度はあるんですけどぜんぜんです」という企業が多くて。この長時間労働改革にいかに企業が苦労していらっしゃるかというのは感じました。
定時帰社というのを徹底しているSCSK。取材した時に印象的だったのは、前の社長が、取引先にまで手紙を書いて、「うちの社員は必ず定時に帰らせます」ということを徹底されました。
最近聞いたトップのお話では、アクセンチュアの社長の話がダントツでおもしろかったです。その社長は、「僕の仕事のうち3分の1は働き方改革をやってます」と。アクセンチュアのモチベーションは、ある時リクルートエージェントの方に、「アクセンチュアさん、評判悪いですよ。採用で」と言われたそうです。「ブラック企業だって言われてます」「人が来ません」と。今の社長が副社長時代に言われて、非常に危機感を持ちました、と。
とにかくコンサル=不夜城というイメージをなくしたいということで、改革をされてます。一番おもしろいなと思ったのは、私自身も経験があるんですけど、一般社員の業務改革とか長時間労働改革をすると、マネージメント層に負荷がかかるんです。「いいよいいよ、帰っていいから」と。私もけっこう仕事を受け持っちゃって、自分がすごい長時間環境だったので。
社長に「マネージメント層はどうしてますか?」と聞いたら、「よく聞いてくれました」と。マネージメント層の仕事に一番システムを入れて、かなりお金を投下した。3分の1の業務を、省力化して業務を減らしましたということをおっしゃっていました。
かんぽ生命はやっぱりこれもシステムを入れて改革されています。保険というのは審査業務が非常に大変なんですけども、それをかなり効率化されています。
最近聞いた話でおもしろかったのは、パシフィックコンサルタントという建設業界のコンサルティング会社。発注元は霞が関なんです。公共事業の受注が多いです。結局、霞が関の働き方が変わらないとこういう業界の働き方って変わらないから、業界全体の慣習を変えるということをやってらっしゃるそうです。
こういう企業に共通しているのは、とにかくトップが強い改革意識を持ってらっしゃるということです。トップがまず音頭を取って、人事やダイバーシティの方たちがきちんとした仕組みを作り上げて、隅々まで徹底をさせています。
たぶんその3段階が長時間労働改革には必要だと思うんですけども、それがうまく機能しいてる会社は、部分部分でかもしれないけども、少しずつうまくいってるのかなと思います。
あとの2つ……。もう1つは女性のキャリア支援。おそらく長時間労働改革だけをやっても、女性のキャリアへの意識というのはそんなに簡単には変わらないので、ここは別の支援が必要だなと思っています。
なぜ昇進を躊躇するのかという背景には長時間労働もありますけれども、やっぱり自信がない。みなさん非常に自己肯定感が低いので、20代から男性と同じような経験を踏ませるとか、男性がやれるようなことをどうして女性が躊躇するのかを分析することが必要かと思います。
経験している部署の数とか、そういうものを調べていただくと、おそらく男性に比べて女性は1つの部署にとどまる期間が長いのではないかと思っております。
あと、多様性の本質というのを理解している企業とそうでない企業があるなと感じます。ダイバーシティという時に、「女性の数を増やします」と、そういう数の目標をあげられることがあるんですけども。私自身が女性で、やっぱり会社の中でダイバーシティの象徴みたいに言われた時に、非常に苦しかったんです。
女性がポンと入れられて、今までの会社の慣例と違うことに対して、「これってもうちょっとこうやったら効率化できませんか?」「そのやり方おかしくないですか?」というのを、たった1人か2人の女性が言うのって、すごく勇気がいるんです。
なので、多様性を進めるためには、まず女性の数を一気にある程度は増やしてくださいということと、中途入社と外国人の方も同時に入れてくださいと言っています。要はエイリアンが女性だけだと、女性はエイリアンのままなんです。でも、異文化の人をもう少し同時に入れることで、「もしかしたら自分たちのほうが間違ってたのかもしれない」と、女性だけに負荷をかけないで気づく仕組みを作ってくださいね、ということは言っています。
あと女性自身には、「自信がないのは男性型のリーダーを目指そうとしてるからじゃないんですか?」ということを言います。やっぱり男性型の強いリーダーシップで「オレオレ」みたいな感じで、「俺についてこい」みたいなリーダーシップを目指そうとすると、こういうふうになれないなと、私自身も感じたことがありました。
なので女性の共感力を活かしたリーダーシップ、これのお手本をもう少し見せていかなきゃいけないし、作っていかなきゃいけないのかなと思っています。
もう1つ。最後ですけども、男性管理職の意識改革。これは長時間労働改革においても、女性のキャリア支援においても非常に重要。結局はここに尽きるのかなと思います。やっぱり男性上司の意識改革、ここが進むと一気に改革が進みやすいかなと思っています。
制度よりも風土。風土よりも上司ということが大きいかなと思っています。そのためには男性上司自身の働き方を変える。それは一時期は、自己否定につながるんですよね。やっぱり自分がやってきたやり方が間違っていたということを認めなきゃいけないので。そこをうまくやれてるかどうかというのが企業としては大きな変化の突破口になるかなと思っています。
私が『AERA』部員に言っていたのは、「あなたが全部やらないで」と。私たち編集部で働き方改革を進めていたのですが、みんな意外と夫に対して無理を言えないんですよ。「あなたが家庭で夫を変えることが日本の働き方改革の一歩だ」と、いつも言っていました。
夫たちを変えなければ、男性が多い企業がなかなか変わらないわけです。
家の中で夫を変えることが、男性が多い企業の改革にもなるから、夫には週に2日でも3日でもちゃんとやってもらってと。夫にいかに両立生活をしてもらうかということが、遠いけれどもまず一歩だよということを言っておりました。
この後、みなさんのいろいろな実践例が聞けることと思います。早口になってしまいましたが、どうもご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
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