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自然電力株式会社・磯野謙氏(全2記事)

「エネルギーから世界を変える」自然電力が60代のシニア・外国人を積極採用する理由

アマテラス代表・藤岡清高氏が、社会的課題を解決する志高い起業家へインタビューをする「起業家対談」。今回は、自然電力株式会社・磯野謙氏のインタビューを紹介します。※このログはアマテラスの起業家対談を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

自然電力株式会社の現在

藤岡清高氏(以下、藤岡):前回のインタビュー(2013年秋)から2年半程度経ちました。現在の自然電力の事業概況を教えていただけますか?

磯野謙氏(以下、磯野):2013年1月にドイツの再生エネルギー会社juwiとジョイントベンチャー、再生エネルギープラントの建設会社を始めています。その後の変化としては、当時九州中心だった事業が日本全国に展開しています。

同時に、今は海外でも事業が始まっておりまして、フィリピン等東南アジアを中心に取り組んでいます。

一方、ビジネスモデルの変化という意味では、プロジェクトディベロッパーからEPC(Engineering, Procurement and Constructionの略で、プラント建設の設計・調達・建設)、メンテナンス事業、発電事業、ファンド事業等も始まっており、事業が多様化しています。以前は弊社の与信の問題でお付き合いいただけなかった有名企業さまと取引きをいただいています。

それができるようになったのは実績だと思います。やはり信頼は積み上げていくしかないです。ひとっ飛びではどうしても信頼は築けないので、実績とともに会社のレベルが変わってきたと捉えています。

小さい実績を積み上げていくと規模も大きくなって、その取り扱い金額も大きくなってきます。そうなって初めて経済的にもより大きな基盤を持つ会社さんとお付き合いできるという地道な努力です。

自然エネルギー市場の変化

藤岡:以前、インタビューしたときの記憶だと御社の強みとしては、juwiさんとの技術的提携を活かして、他社の発電プラントよりも発電効率が高いということがありましたが、その強みは今も効いていますか?

磯野:そこはもう均衡してきています。もう発電効率の部分は大きな差別化にはなりません。あのときは差別化要因になりましたが、起業から5年経ち、市場や環境が変わってきました。

ここ3年で太陽光だけで6兆円ぐらいの市場ができて、つまり6兆円の資産が発電所に投入されました。

一気に6兆円に伸びたので、多くの会社が参入してきました。発電効率など、技術的なノウハウは競争が激しくなってくると真似されるので、技術的ノウハウの表面的な強みはなくなりつつあります。

一方で、新たなものにスピーディにチャレンジしていく社風は強みになっています。最近では、大手企業とパートナーを組んで事業展開をしています。例えば、某大手不動産アセットマネジメント会社と組んで、400億円程のファンドを作りました。今必要だと思うものを素早く展開していくところは変わっておらず、それが今の自然電力の大きな強みですね。

風力発電事業も素早く展開しました。今、社員は全部で100余名いるのですが、そのうちの約10名が風力を担当しています。当初は未経験者が多かったのですが、どんどんプロジェクトを作っているので、やはり挑戦する力、やりきる力というのは私たちの強みだと思います。

再生可能エネルギーの世界ではスピードが命

藤岡:社員が2年前から3倍以上に増えていて、これは経営スピード上、プラス・マイナスのどちらに作用していますか?

磯野:絶対にプラスですね。この再生可能エネルギーの世界で生き残るにはスピードしかないんです。スピードとコストがやはり大事で、とくにスピードというところに関しては、人もメンバーも増えたのに加え、実績ができて信用もされるようになったので、速くなりました。

藤岡:お客さんから見たときに、「自然電力さんはスピーディだよね」と思われるのは、具体的にはどういうシーンなのでしょうか?

磯野:例えば、今手掛けている風力のプロジェクトは通常だと3〜5年かかるのですが、僕らは1年で開発、許認可を全部取り終えて、2年目の来年に着工です。圧倒的なスピードだと思います。

藤岡:そのスピードの差はどこから生まれるのでしょうか?

磯野:とくに産業ノウハウの部分です。これは競合が出てきても簡単には真似できない部分です。太陽光は結果として多くの企業が参入してきましたが、風力やそれ以外の再生可能エネルギーへの参入はかなり難しいです。

というのも許認可や合意、技術等、プロジェクト開発が難しく、そのレベル感が太陽光とぜんぜん違うからです。

我々は自然エネルギー、再生可能エネルギーに対して本気だっていうことがそこにつながっていると思います。

多くの会社が副業で太陽光に参入している一方、我々は本業として太陽光に取り組み、その分野で成長してきました。そういう意味で自然エネルギー分野での我々の産業ノウハウは有利に働いていると思います。

藤岡:産業ノウハウというのは政府、自治体のやりとりやドキュメンテーション能力や技術的ノウハウなどのことでしょうか?

磯野:はい、その全部です。ドキュメンテーションも技術も地域との合意も全部必要になってきます。メンバーが経験すればするほどノウハウとして貯まっていき、それが差別化になっていくイメージです。シンプルですが、太陽光に集中しているからころ、このスピードを出せるのです。

拡大する組織のマネジメント

藤岡:社員が急速に増加し、磯野さんの社員へのマネジメントの部分で変わったことは何でしょうか?

磯野:僕が直接話せる人数が決まっているので、社員数が増えると直接会話をするメンバーの割合は減ってしまいます。

そういう意味で、間接的なマネジメントになってしまうケースも多いですが、組織が大きくなるとそうなるものだと思っています。

社員数が急激に増えた時はビジョンが浸透していない等の問題が出てきて、その頃は僕の中にも迷いがありました。

例えば、社内の方針についていろいろな意見が出てきたとします。その頃は、多様な意見が出てくることはすごく大事だし、できるだけ尊重したいと思っていました。そういったスタンスは今も変わらないのですが、一意見の捉え方は僕の中で少し変わってきたと思っています。

これは例えば、お母さんの子育てに似ていると思います。最初に子供ができたとき、お母さんは赤ちゃんと自分がイコールだと思っているようですが成長して子供は1つの個になっていく。

例えば僕だったら、最初は僕=自然電力でした。ですが今はもう「自然電力君」という独立した存在になっている。

僕たちが価値ある再生可能エネルギーの事業を展開していくためには、「こういうことが大事だよね」とか、「これは、確かに意見としてあるかもしれないけど、今これはできないよね」とか、丁度お母さんがお子さんを躾けるようにはっきり言い切ることにしました。

それによって、ビジョンが浸透してきました。山の頂上は見えていますが、登り方がいろいろあると思います。

いろんなやり方を尊重しなくてはいけないと思ったのですが今の僕らにはたぶん1つしか登り方がないんです。それで、この登り方しかないよね、ということを、言い切れるようになったのは僕のマネジメント上の大きな変化ですね。

藤岡:100パーセント確信があるかどうかはわからないけど、トップが決めないと組織が迷うことがある。

磯野:そう、そういうことです。僕が決めきれなかったことが、チームに迷惑をかけて、不満が生まれ、ビジョンが見えない、ということになってしまっていた。それは言い切らなかったことが原因だったと思っています。

藤岡: 社員数が数名から30人のときでしたら、別にあうんの呼吸でお互い理解できますけど、50人、100人になってくると、そうもいきませんからね。 

シニア・外国籍の社員を積極登用

藤岡:自然電力の特徴としては、外国籍の社員や60代社員、シニアの方が多いということがありますが、このような組織にした理由は?

磯野:2013年からこのような人員構成にしてきています。我々の大事にしているポイントは「エネルギーから世界を変える」というビジョンを掲げ、自然エネルギーで社会の課題を解決するということです。

もちろんエネルギーの問題に取り組むのは一番大事ですが、ほかに取り組もうとしていることの1つが多様性です。

日本の弱さ、国際競争力をどんどん失っていることに対する1つの理由は、多様性がないことだと思っています。また多様性と言ってもいろいろありますが、例えば国籍を例にとると、現状10〜11カ国の方が自然電力で働いています。

藤岡:社員数は100余名ですよね。日本のベンチャーでこの社員数でこれだけ多国籍なのは、なかなか無いと思います。

磯野:そうですね。もともとそういう組織を作りたいと思っており、最近それができ始めています。ただ言葉の問題とか難しさは正直あります。

あと日本を作ってきた世代の知恵をちゃんと若手にも引き継いでいきたいと思っていて、60代の方々をメンバーに入れて、技術やいろんなノウハウが伝承されるような仕組みを作ろうとしています。社員の20パーセント強ぐらいは、60代の方ですね。

インフラ企業が担う社会への責任

藤岡:そういった60代の方が御社で活躍するために工夫していることはありますか? 

磯野:実務レベルではいろいろ難しいことはあります。パソコンが使えない、英語ができないということはありますし、またジェネレーションギャップで言葉の理解が若い年代と少し違うというのも感じます。

例えばそもそも上の世代だと「多様性」という言葉自体が正確に伝わらないこともあります。マスターズ(私たちは、いわゆる“シニア”の方々を尊敬を込めてこう呼んでいます)世代になかった言葉は、想像以上にいろいろあって衝撃です。

グローバル化を広げていくにあたり、「日本では」と言ってしまうこともあります。それは年配者だけではなく、日本しか知らない人は「日本ではこうなんだ」という表現をしがちです。たとえイタリアで同じこと起きていても「日本ではこうなんだ」と日本人は言います。

マスターズや外国人などさまざまなバックグラウンドの人を取り込むことで、マネジメントには他企業よりコストと時間がかかっていると思います。例えば、ペラ紙一枚の資料1つとっても、日本語と英語を併記しなくてはなりません。あとは字を大きくしなくてはいけない等細かいところまで配慮は必要です。

しかし、中長期的なアウトプットを見た時に、最終的にはいろんな人がいたほうが良いものが生まれると信じてやっています。ですから多様性を受けいれる、ということには時間とコストをかけています。

またマスターズや外国人を積極的に取り込む別の理由としては、我々の事業の特徴や事業へ責任感があります。

エネルギー事業はインフラ企業ですから、短期的に儲けて利益を取る、ではない経営をしています。僕たちはプロジェクトが1つ終わったら、その発電所を20年間稼働させなければいけません。

そういった見えない責任が非常に大きく、押しつぶされそうになる時もあります。ですが我々は本当にエネルギー企業になりたいと思ってやっているので、20年間稼働させるためには妥協できません。

そのために地域や社会全体を巻き込んで賛同してもらえる事業を作らなければいけません。当然地域には年齢が高い人もいるし、社会を巻き込むためには多様な人々の賛同が必要です。

そこに対しての責任感というのは、すごく大きくなったと思うし、それは我々しかできないことです。2013年、アマテラスさんからインタビュー受けた頃はそれが思いだけでしたが今、少し形になってきて本当に責任を負ってきました。それが我々のプライドでもあるし、若い世代だけでは達成できない事業になってきました。

仕事を通じて対応する人たちの中には社会の長(おさ)的な人も出てきますし、そういう人を説得して、共生していかなければいけません。

その人たちと向き合うためにシニアの力は不可欠で、多様性を尊重する組織をまとめきれなかったら、もっと多様な人々がいる社会に対してインパクトを出せないと思っています。

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