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よなよなエールのヤッホーブルーイング・井手社長に聞く!愛されるヒット製品を生み出す秘訣とは?〜天狼院×よなよなビアフェスタ〜特別にビールもご用意しております!(全6記事)

クビ覚悟でカリスマ社長と大喧嘩 「よなよなエール」躍進の起爆剤“ローソン事件”の真相

「よなよなエール」「水曜日のネコ」などたくさんのヒット製品を生むヤッホーブルーイング。同社が愛される理由はどこにあるのか? 東京・池袋に店を構える本屋「天狼院書店」が、ヤッホーブルーイング井手直行社長をゲストにトークイベントを開催。「天狼院×よなよなビアフェスタ」と題し、これまでの歩みを聞きました。コンビニ大手・ローソンからスポット配荷の依頼が届き、井手氏はチャンスとこの話を受けることを決意。しかし、同社の当時の社長、星野氏はこれに大反対。のちに「ローソン事件」と呼ばれる言い争いに。その夜、どうしても譲れないと怒り続けていた井手氏のもとに、星野氏からメールが届きます。その内容は意外なものでした。

「1回やってみないか?」コンビニ販売のチャンス到来

井手直行氏(以下、井手):インターネットだけに特化してそこだけ一生懸命やっていたら、営業してないのにインターネットの評判を聞いて、そういう問屋さんとか酒屋さんが「くれ」と言い出す。不思議だなぁと思って。

ぷしゅ よなよなエールがお世話になります

だけどインターネットだと少しの労力で、見ようと思ったら全国どこからでもホームページが見られるわけじゃないですか。

「そういえば、インターネットがなかったら僕らのきっかけにはならなかったな」と。だんだん人気が出てきて、ちょうどローソンさんの目に留まって、「ローソンで扱いたいんだけど、ただ売れるかどうかわからないから」と。

業界では「スポット配荷」と言うんですけど、1回だけ仕入れて売り切れたら終わりというね。

三浦崇典氏(以下、三浦):スポットって言うんだ。

井手:そうなんです。ふつうは「定番」と言って、ずーっと置くんですけど。こういうものは1回だけ仕入れて、売り切れ御免みたいなね。

三浦:もしよかったらまたやるかもしれないと。

井手:そう。よかったらまたやるかもしれない。だけど基本的には、「1回だけちょっとやってみよう」。それで、「うわっ、これはチャンスだ!」と思ったんです。

大事な案件なので、東京の星野(佳路氏)に長野からテレビ会議でつないで、「ローソンからこういう話が来たんで、今度やりますから」と言ったら、「絶対ダメ!」って言うんですね。

三浦:え~っ!

「コンビニを信用するな」星野氏と大喧嘩

井手:「コンビニを信用しちゃダメだ」と。

(会場笑)

井手:昔、コンビニでひどい目に遭ったんですよ。「買います」と言われたと思ったら、ぜんぜん売れないし、返品の山だったり。彼らは欠品したくないからすごく多めに注文するんだけど、ガサーッと返品が来る。

三浦:(会場の)みなさんがすごくうなずいてる。

(会場笑)

井手:そういう苦い経験があったので、「あいつらはひどい」と。だからそのコンビニで、しかも、「よなよなエール」がせっかくインターネットで売れてきたのに、ここでコンビニで売れなくなってカットされたとかあると、悪いイメージがつくから。

「口車に乗せられたらダメだ」と言われて。なるほどと思いますけど、僕もそれで頭にきて「そんなことやってるからよなよなエールはダメなんだ!(机をたたく)」。

「あなたがそんなことやってるから、この体たらくなんだよ!」と言ったら、「なに言ってるんだ、この!」みたいなね(笑)。

当時はけっこうなカリスマ社長になってきてて、(星野リゾートが)全国規模になってきたんですよ。だけど僕にとってはたまにしか会わない非常勤の社長なわけです。「ビールのこともよくわかんないくせに!」とか思って。

「井手さん、コンビニと組む時は、コンビニにうちのビールを育てていく覚悟があるかどうかを確かめてほしい」とか。「そんなコンビニないよ!(机をたたく)」。

(会場笑)

語り継がれる“ローソン事件”

井手:昔と違って、今はインターネットでけっこう売れてきてて、すぐ検索で引っかかるようになってきてるから、もしコンビニで売られなくなっても、ファンはインターネットで「よなよなエール」って検索したら楽天市場が出てくるからフォローできます、と。

三浦:確かに。

井手:だけど「イメージが悪くなるからダメだ」と言われて。「いや、もうダメって言われてもやりますからね」とかって言って、「誰が許可するか!」なんて言われて。

「時間です」とアシスタントが止めに入ってきたんですけど、「会議は終わってない!」とかって言って。

「社長、次の会議です」って連れて行かれて。「井手くん、僕は許さないからね!(バンバン)」「お前の話なんか聞くか!」みたいな。

(会場笑)

井手:カリスマ社長にそう言われて。もう子供の喧嘩ですよ(笑)。

山本海鈴氏(以下、山本):え~っ(笑)。

井手:今は20個ぐらい会議室があるけど、当時は1個しかなかったんですよ。会議室の周りが全部オフィスで、事務所の人に聞かれてて。

日頃は社長が怒鳴って、感情的になってるのを見たことないから、「社長を怒らせてるのは誰だ?」「ヤッホーの井手さんらしいよ」「井手さんクビだ!」みたいな。

(会場笑)

井手:これが「ローソン事件」と言って……。今、思っても頭にきちゃうんですけど、もう語り草になってます。

その夜、届いた星野氏からのメールに衝撃

三浦:結果的に売れたということですよね?

井手:それで頭にきて、もう無視して売ろうと思って。基本的に社長の言うこと聞かないんです。自分がいいと思ったら、カリスマ社長がなんと言おうとも、テコとして動かないですね。

そしたら、その日の夜、星野からメールが来たんですよ。「このやろう、俺は絶対に曲げないぞ」と思って! 当時も頭カッカしてるので、夜まで。

どう言い訳しようと思って、パッとメールを開けたんですよ。そしたら、「いや〜、井手さん、今日はおもしろかったね〜」とか書いてあるんですよ。「はぁ!? おもしろかった!?」みたいな(笑)。

(会場笑)

僕はカンカンなわけですけど、彼は冷静になって、おもしろかったなぁなんて。久々に熱い議論をして、昔の所長は宮井さんていうんですけど、「宮井さんと熱い議論をしてた10年くらい前を思い出しちゃったよ」とか言ってて。

「あのときはああ言ったけど、井手さんの言うことも一理あるね。ちょっとその方向性も考えてみようか」みたいなことも言っていて。

「こいつすげぇな」と思ってね!(笑)。

この切り替えの早さ。一時は感情的になってたけど、パッと切り替えて。クビになってもおかしくないんですけど、「おもしろかったね、また考えてみよう」と。もうすごい人だなと思いました。

三浦:井手さんも商品のことを真剣に考えてるということが伝わったんですね。

井手:いや〜、どうでしょうね。

ローソンの定番商品として定着

ちょっと長くなっちゃったんですけど、それで、結局ローソンに入れていいということになって。そこから、たまにスポットが来るようになって、今では何年も定番で、ローソンの棚の1列くらいがうちのビールです。

ちなみにローソンさんのビールで4つだけ定番商品があるんですよ。絶対置きなさいと言われている商品。フランチャイズのお店は、置いても置かなくてもいいよと。

その4つの銘柄は、アサヒスーパードライ、キリン一番搾り、サントリープレミアムモルツと、「僕ビール、君ビール。」なんですよ!

(会場驚きの声)

井手:エビスとかサッポロ黒ビールは外れてるんですよ!

前は、よなよなエールだったんです。よなよなエールで1年くらいそうなって、4つしか選べないから、これ(僕ビール、君ビール。)が出たら、こっち(僕ビール、君ビール。)のほうがローソン専用で売れるようになって。

すごいですよねぇ! 星野の言うこと聞かなかったから!

(会場笑)

山本海鈴氏(以下、山本):井手さんの、そこは絶対いくぞっていう(お気持ちがあって)。

三浦:そこから今度は海外進出なんですか。

井手:海外進出は、5年くらい前からやり始めましたけど、本当に力を入れだしたのは、この1、2年くらい前からです。

今、アメリカはすごくいい感じで。アメリカのうちの提携のインポーターさんもすごくやる気になって、ブワーっとシェアが上がってます。

ヤッホーブルーイングの顧客対応の原点

三浦:結局、お客さんとのやり取りの、1時間かけてメールを返していくっていう。あれが効いたってことですよね。

井手:これはうちのスタッフにも言うんですけど、これが僕の顧客対応の原点なんですよ。みなさまのなかにも僕らのビールのファンの方が大勢いらっしゃると思うんですけど、そういう話をうちのスタッフにもことあるごとに言うんです。

やっぱり最後は人と人なので、効率も大事なんだけど、本当にお客さんのことを考えてやっていたら、お客さんもわかってくれるからと。クレームがあったときもちゃんと対応してたら、些細なクレームだったらお客さんも、「許してやるか」ってなってくださる。

ちゃんとお客さんのためを思って、1件1件手間だと思ってもやり続ければ、実はそれが効率化につながる。

信頼を勝ち取ってやるので、お客様が怒るようなことは当然しちゃいけないし、忙しいからといって流れ作業みたいにやっちゃ絶対ダメで。お客様だって僕らのことをちゃんと信頼して買っていただいてるんだったら、それが僕の原点でもあり、今のヤッホーブルーイング顧客対応の原点です。

最近、本の出版もそうなんですけど、記事でよく取り上げていただくときに、そういう内容の記事があると、僕も社内の人にメールして、「僕の顧客対応の原点が書かれているからこれ読んでください」と。

今こんなに大きくなって、1日何千件とか何万件とか注文があるときがあるんですけど、そうするとパーっと流れ作業でいきがちなんです。

だけど、お客様からなにか相談事があったり、クレームあったりすれば、それは効率を度外視して、ちゃんとそこに向き合っていきましょうね、というのが、すごく手前味噌で、まだまだなんですけど、すごく浸透してると思っていて。

うちのスタッフが自分で考えて、お客さんにどう対応したらいいかというのは、よくやってくれている。まだまだみなさんに満足いただけていない点はあると思うんですけど、ただ見ていて、マインドは伝わっているなと思います。

「お客さんが満足することを最優先に考えよう」

三浦:なるほど。たしかに、そこで1時間かけるのは面倒に思えるけれど、結局、営業レスになりましたもんね。絶大な効率化ですよね。営業が要らなくなってしまった。

井手:1人のお客様に1回でもそう説明すると、次にちょっとなにかあっても、「井手さんは基本わかってるから、別に言わない」と。だけど、ここを曖昧にしておくと、また同じことがあったら、またなんか言ってきたり、だんだん不満が募ってきて、クレームを言うよりお客さんとして離れていっちゃう。

黙って離れていかれるほどつらいことはないので、まだなにか言ってくれるほうが、僕らもカバーやフォローのしようがあるんですけど、一番嫌なのは、嫌な思いをしたまま、僕らのもとを離れていったお客さん。たぶんいっぱいいらっしゃると思うんですけど、そういうお客さんには本当に申し訳ないなと思います。

三浦:見えないですもんね。追えないですもんね。

井手:なにか言っていただければ、絶対にどんな手を使ってでもお客さんの満足することを最優先に考えようと。利益とかの問題ではなくて。

三浦:それも、やっぱり圧倒的なコンテンツとして、エールビールのよなよなエールというのがしっかりあるからできるんですよね。

井手:そうです。基本はビールの味でお客さんの満足を得て、これがもう大前提。

ただ、日本のサービスって難しくて。おいしいビールはいっぱいあるんですけど、人によってどれがおいしいというのは違うんですけど、当然サービスとか価格とか買いやすさとか、いろんなものを含めてお買い物じゃないですか。

日本の消費者の方というのは目が肥えているので、なにかで劣っていたら選ばれない。味を磨くのは最低限の必要条件。だけど、なかには、「味さえよかったら、あとはお客さんがついてくるだろう」と思っているクラフトビールメーカーもいっぱいいらっしゃるんです。

それはそれで、その方の方針でいいと僕は思うんですけど、実際に多くの人に支持してもらおうと思うと、ビールの味は最低限、絶対美味しくないといけないけれど、ほかのサービスもちゃんとできていないと満足はいただけないと思いますね。

縮小するビール業界のなかで孤軍奮闘、前年比40%で成長

三浦:地ビールブームが去ったという逆風があって。あと、もう1つ聞きたかったのが、いつから「クラフトビール」ってなったんですか?

井手:クラフトビールって言われ始めたのは、この3、4年くらいですかね。僕らはいち早く2004年から、ずーっと売り上げが上がってきたんですけど、2012、13年くらいから、僕らが伸びてきたのに遅れて、業界全体でクラフトビールという言葉が盛り上がってきた。 

三浦:まず井手さんの会社があって、そこからブームがもう1回来た。牽引していったんだ。

井手:牽引というところまでの影響力があったかどうかはわからないんですけども、ただ、ブームが来たことによって、僕らも通常の伸びよりもブームが来た分、かさ上げされて。

僕らの売り上げというのは、地ビールブームが1999年にピークになって、そこからものすごく下がって、今はこんな感じなんです(手振りで急上昇を示す)。

だから、業界ではすごくめずらしい。どん底のときから10年くらいで、今、売り上げが10数倍くらいに上がって。

三浦:え〜!

井手:ここ5年くらいは、前年比30パーセントから40パーセントプラスなんですよ。

ビール業界ってずっと縮小していっていて、そのなかで1社だけ断トツで伸びていっているので、いろいろ注目いただけるようになったんですけど。これは、ブームがあって余計伸び率が、他社よりも圧倒的にガーンと上がった。もともと自力で上がっていて、ブームがあって、こうなった(ガーンと上がった)と。

三浦:ということは、大きいところで市場を取っているということですか。結果的に。

「若者はビールを飲まない」を覆した

井手:取ってるのもあると思うんですけど、ただ、聞いてると、市場を開拓している感じが多いです。

例えば、会場にもいらっしゃると思うんですけど、女性があまりビールを飲まなかったのが、「水曜日のネコ」は飲むとか。

「若者はビール飲まないから」と言うけど、(「僕ビール、君ビール。」を差しながら)若者中心に買っていく。だけど、その若者はローソンさんのデータでは、過去ビールを買ったことがない顧客なんですよ。

山本:私もそうです。

井手:プラスオンになる。広げているという意味合いが、スーパーとかコンビニの販売店さんの目に留まっているんでしょうね。

大手の新商品を取っても、大手の新商品を入れると、なにかが落ちるんです。なにかを入れると、なにかが落ちるから、20年間ずっとビールのマーケットは縮小してるんです。

ところが、僕らのビールを入れると、その分減らないんです。それがすごいと言われてますね。

三浦:なるほど。勉強になった。時間オーバーした。

(会場笑)

井手:僕もしゃべりすぎてて、時間大丈夫なのかなと思って(笑)。

三浦:飲み会っぽくするって言ってたのに、真面目な話になっちゃった(笑)。

井手:余計な話を熱くしちゃって、すみません(笑)。

山本:ありがとうございます。

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