2024.10.10
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高橋恭介氏(以下、高橋):続きまして、マネジメントの役割というテーマに移りたいと思います。
組織体として成果を上げていくためには、有期雇用を含めて7000名という社員がいらっしゃいますので、40名、部門人事を合わせて150名という所帯を持っていたとしても、すべての社員に直接訴求するのは難しいと思います。
その中で、サイバーエージェントさんにおけるマネジメントの役割についてはどうお考えでしょうか。
武田丈宏氏(以下、武田):ほとんど研修をしない会社なのですが、新任マネジャーがマネジャーになったときに集まって、新任マネジャー研修をやっています。そこで、マネジメントの役割は「組織を率いて成果を出す」ということで意思統一をしています。
高橋:その組織成果を出すために必要な3つが「目標・役割・評価」ということで、評価制度の話にも通ずるものとして、これを大切にされているとお聞きしています。
武田:マネジャー研修で、「組織成果を出すためにどうしたらいいのですか」という質問があるので、マネジャーとしてやることはこの3つだと。本人がワクワクしてできるような目標を一緒になって考えてあげること。これができたら、もうほぼOKだというくらいこの目標はすごく大切だと思っています。
私たちは「マストワン」という呼び方をしていますが、営業的な組織であっても人事的な組織であっても、定性的な部署であっても、毎月、目標みたいなものを決めるようにしています。
目標を決めて、あとは誰に任せるのかという役割(組織図)、目標を決めたあとに実際にその目標がどうだったかというフィードバック、評価をしてあげるという3つができればいいということでやっています。
高橋:まさにこの正当な目標設定、そしてきちんとした納得のある評価をし続けてこれたというところだと思います。
高橋:通常、漢字で書く「月報」をアルファベットで書いてあります。まさに月度の報告書という意味の月報だと思うのですが、これは社内環境でシステム化を施していらっしゃるという話を聞いています。
GEPPOというのは社内ツールとして導入したということだと思うのですが、マンスリーで目標に対するフィードバックを行い、それをどのレベルまで運用されているのかを詳しくお聞かせくだい。
武田:もともとは先ほどちょっと説明した適材適所のところで、会社の中にヘッドハンティングの部署を作ったときに、事業部のニーズは各役員とか事業責任者に月1回、どういう人材がいればその事業はドライブしますかというヒアリングに行けばいいのですが、7000人全員に面談をして情報をストックするのは難しいので、まず最初にこのGEPPOというシステムを社内で作りました。
高橋:何年くらい前ですか。
武田:2年くらい前です。
すごくシンプルで、流行らなければ意味がないと思っているので、聞くのは月1問だけです。直近は変わっていますが、いままではずっと「あなたの先月の目標は何ですか。それの達成度合いはどうでしたか」とメールで聞くのが必須なので、人によっては「晴、晴、曇、雨」というふうに4択を15秒くらいで答えることができます。
もう1つ、任意の質問を1つ設け、答えても答えなくてもいいということで、月ごとにいろいろと手を変え品を変えてやっています。2月は、「あなたの得意分野、趣味を教えてください」というのと、「あなたの周りで推しメン(推薦したい人)を教えてください」という質問でした。これを毎月、グルグルと泥臭く運用しているということです。
高橋:これは、どなたがチェックするのですか。これを入力するのは全社員であり、御社はPDCAを究極に回し続ける会社だと思うので当然終わらないと思うのですが、どのような活用方法を考えていますか。
武田:導入した当初は、導入率も最初の1営業日で3割とか、3営業日で5割みたいな感じだったのですが、草の根戦略で「記入してください、記入してください」と言ったり、自動でアラートメールも出るので、いまはだいたい3営業日で9割くらい回収されています。
いまのPDCAの回し方で行くと、まさに昨日報告したのですが、1営業日目でプランについて8割くらい回答をくださいということをしています。実際には70数パーセントですが。
1営業日で一旦締めて、2営業日目に速報ベースで達成・滞留率が何パーセントだとか、部署ごとにこのような傾向が見えますというようなことを役員にレポートして、4営業日目くらいに追加の入力で「これは重要だ」みたいなことがあれば、コメントで報告しています。
あとは、8人の役員と毎月1時間の定例会議を持っているので、各役員ごとにぼくたちがレポートを持って行き、達成具合とか気になるコメントなど1つずつ見ているという形になっています。
高橋:目標の達成度の可視化を簡易的にマンスリーできちんと回せるというところで、昔、四半期で査定をしていたところを、現状は半期にやっているということですが、その半期の運用を支えていく1つのPDCAサイクルツールがGEPPOだということですね。
武田:そうです。
高橋:運用しないと意味がないと。社員検索などを駆使しながら先ほどのレポートを仕上げるということですか。
武田:そうです。社員検索でぼくの名前の武田を検索すると、それぞれの人が出てきて、「あなたにはどのような得意分野がありますか」のようなものを聞くと、タグ付けをしていたり、面談ログのようなものもここに全部残したり。
7000人全員に答えてもらうので、何か書いてくれたものをほったらかしにしておくと書いてくれなくなるので、この中ですべてのコメントをフェローする機能を持っています。
例えば、「オフィスの環境が暑くていやなんです」みたいなものもここで丁寧に返して、書いてくれたものはちゃんと返すということをやっています。
高橋:大変ですよね。人事データに対する科学的アプローチ手法についてということを従前の打ち合わせのときにお聞かせいただいているのですが、非常にユニークな名前だと思うのですが、「人材科学センター」というのを新設されたということです。
人事のビッグデータを回すというカッコいいことまでされているのかどうかわかりませんが、毎月の役員への提案なども含めて、人材科学センターの位置づけと、どのようなことをしているのかについてお話いただければと思います。
武田:1年くらい前にできたヘッドハンティングのキャリアエージェントという部署ですが、その横に併設しているような部署でして、キャリアエージェントが集めた原本のデータを人材科学センターで分析しています。
人事を、感覚ではなく、すべてデータで語れるようになりたいという方向のもと、試行錯誤して走りだしたという感じです。
とりあえずアウトプットをどんどん作って行こうということで、毎月、役員に提案をしているのですが、8人いるので週に2人くらい役員とミーティングをしています。
例えば、目標の達成率と実際の査定がどうなのか。自分はこの6か月「晴、晴、晴」と来ているのに査定が悪いとか、逆に、自分は「雨、雨、雨」と来ているのに査定がいいということが、部署ごとに何か傾向が取れるのか。
もしくは、自分に対して厳しくて、ずうっと「雨」という傾向値が出ていないかといったことを自分たちの中で分析してみたり。
あとは、新卒の採用管理ツールのようなものも、この1年くらいかけて作り、まさに今年の採用からそのツールを使ってやっています。その採用時の評価(ABCDみたいな評価)と、入社したあとの評価は実際どうなのかというものを繋ぎ合わせたりしています。
この前出したデータでは、入社前のSAで好評価が付いている学生が、入社後、どれくらい活躍しているのかと見ると、どれも2割くらいです。
この2割がどのような意味を持つのかについて、ぼくらもまだ答えを出していなくて、もっと人の開発ができるのではないかという見方もできますし、もしくはもう少し採用を厳しくしたほうがいいということを科学していきたい。
面接官も、何となくこの人がいいみたいな感じで選んでいるのですが、この面接官は優秀な社員をよく採っているということを数字データで語れるようになれればということで始めました。
高橋:タレントマネジメントシステムがここ1、2年、クラウドを使って人事のビッグデータを回して配置転換や異動、昇降格に繋げていくというところだと思うのですが、これから自社で回して行くようなデータベースの蓄積および活用に着手し始めたということでよろしいでしょうか。
武田:はい。もちろんシステムも検討して、クラウドにもいいところがあると思いますし、スピードを重要視するところと、あと社内にエンジニアがいるというところもあるので、いろいろ試行錯誤しながらですが、作るという方向も持っているということです。
高橋:それでは評価サイクルについてお話いただきたいと思います。サイバーエージェント社における評価サイクルは、昔は四半期だったと聞いていますが、ミスマッチ制度の導入も含めて評価サイクルの話をお願いします。
武田:いま査定は半期ごとにしています。私が入った2003年ころまでは四半期くらいでしたが、2004年くらいから半期ごとになっています。四半期から半期にしたのは、査定のスピードが追いつかないというなさけない話なのですが、半年ごとにしました。
直近の去年、査定を1年ごとにしようかという議論があってやりかけたのですが、現場とも対話したりして結論は半年となりました。
やはり1年は長すぎて、前半が見られないのではないかということだったり、評価するにも1年だと長すぎてクサビを打てないこともあるということと。
先ほどのGEPPOでも紹介しましたが、人事からは基本的に月1回フィードバック、評価をするサイクルを回すよう強く推奨しています。あと「ミスマッチ制度」といういわゆるマイナス査定を導入しています。
高橋:弊社は、マイナス査定は中小ベンチャーの成長において必須だと考えています。今日、みなさんのお手元にも弁護士の見解というデータもお渡ししていますが、サイバーエージェントさんのミスマッチ制度は、私はかなりドラスティックだという印象を受けましたが、ミスマッチ制度について、これはみなさんもお聞きになりたいことだと思うので、武田さんの言葉でお話いただきたいと思います。
武田:半期に1回査定をしているので、そのタイミングでミスマッチ制度をやっています。どういうものかというと、ポイントが3つあります。まず「下位5パーセントを必ず出してください」と。
部下が100人いれば5人、20人いれば1人、必ず下位を出してもらうようにしています。20人に満たない部署は、だいたい4パーセントくらい集めてくるので、3500人いると150人くらいが毎回上がってきます。
その後にぼくら人事で議論をし、役員会に持って行って、その時にもよりますが、15人から20人くらいのミスマッチ認定を役員会の決議を経てやっています。
パフォーマンスが低い社員もたくさん出てくるのですが、ミスマッチ認定をする価値基準は1つで、「会社と価値観が合わない人」。周りに迷惑をかけているというポイントだけで、15人から20人を選定します。
高橋:業務遂行能力ということではなく、チームワークとか勤怠で悪影響を及ぼすという視点で捉えているということですか。
武田:そうですね。勤怠も朝だしが遅くても、その人がいないから探すのに周りがすごく時間がかかっているとか、朝会の伝達事項を別にしなければならないみたいなことは、完全に迷惑がかかっているということです。
高橋:これはみなさんにもお伝えしたいと思うのですが、私は昨年、武田さんと打ち合わせをさせていただいたときに最も印象的だったのは、サイバーエージェントさんの人事の課題が「離職率の低さである」ということを自慢ぽく言われたことです。
私が言うと、サイバーエージェントさんの自慢をなんであなたがしているのですかという話になるのですが、少し前は離職率が低すぎるので、強制力がなかったミスマッチ制度に強制力を持たせたと聞いて、私はびっくりしました。
人材の獲得競争の二極化が進み、今、どの企業も有効求人倍率1.25という採用受難の時代にあって、ありとあらゆる手で人材の確保に奔走している中、サイバーエージェントさんは離職率の低さが経営課題であるというところについて、ぜひお聞かせいただきたいと思います。
武田:最初、ミスマッチ制度を3年くらい導入しているのですが、やっているうちに5パーセントも出なくなりました。これはミスマッチ制度を導入したときの藤田のブログですが、5パーセントが出なくなってミスマッチ制度もゆるく運用していたみたいなことがあったときに、離職率も少し低くなってきていまして。
われわれと同じようなベンチャー企業でやっているような会社の代表取締役社長の集まりでも、新陳代謝も含めて10パーセントくらいが目指すべき数字だという話もあって、直近では9とか10なのですが、そのタイミングでミスマッチ制度をちゃんとやろうとことで、必ず5パーセントを出すし、ミスマッチ認定も毎回するということをやっています。
認定したあとは、私と、あと2人の人事の責任者が本人を呼んで面談をします。そこで、「あなたはミスマッチなので変えてください」という話を、オブラートに包んでも仕方がないので率直にします。
もちろん一緒に仕事をしているわけでもないので、本人からすると「なんでお前に言われなければならんのや」みたいなところもあるでしょうから、基本的には月1面談とかGEPPOの仕組みを使って現場の上長があらかじめ厳しい対話をちゃんとやっていて、人事に上がってきたときに本人がびっくりすることがゼロであり、「それはいつも上司に注意されていて、私も認識しています」ということが望ましいので、それを目指してやっています。
しかし、必ずしもすべてがそうではなくて、現場のマネジャーが伝えきれていないとか、伝えているのだけれど率直に言えてないために、本人が自分のいいように取ってしまうケースもあったりします。
そういう場合は、周りに迷惑をかけているという事実を本人に話し、本人の話もちゃんと聞いた上で、「次の半年で、こういう形で直していこう」という目標というか約束をして、今回のミスマッチの査定で給料も下げないしイエローカードも出さないけれど、次回も同じようなことがあったら、給料も下げるしミスマッチだからねという話をします。
高橋:3年くらい前にミスマッチ制度を導入したときの藤田社長のブログの抜粋を読みます。
「下位5パーセントをD評価とする。これはすべてのマネジメント、上司が執り行うので、20名以上いる方は1名まず出しましょう。D評価1回でイエローカード、2回目でレッドカードとなり、2回目で部署異動または退職勧奨のいずれかを選択してもらう」。
このように極めて厳しい制度です。
そのD評価判定の基準は、仕事のパフォーマンスだけでなく、価値観、文化が合わない人が対象となるといった内容が書かれています。そしてさらに、評価においてもD評価をまったく付けない上司は、その上司自身がD評価対象になりうるという厳しいことも書かれています。
これに対する反発ないしは退職勧奨のロングリストになるのではないという問題を、どう乗り越えてこられたのでしょうか。
武田:もちろん法律的なところは丁寧にやらなければならないし、ここには退職勧奨と書いてありますが、よほどのことがない限り「退職してください」という話はしません。
基本的には会社の価値観と合わないので、このままだと会社も評価できないし、あなたも評価されないから互いにアンハッピーなので、あなたが変わるか、お互いにハッピーになる別の選択肢もあるのではないかという話をして、本人に選んでもらうという感じです。
実際の数字でいうと、100人くらいミスマッチ認定になり、だいたい50人くらいが退職しています。残り50人のうちの半分くらいが何らかの形で改善し、残り25人が引き続き対話をしているということです。
高橋:藤田社長のブログの後半を読ませていただきます。「ミスマッチ制度は厳しいようですが、この会社で成長や昇進の見込めないことを率直に伝えることのほうが、よほど誠実だと思います。
本人のためにも会社の文化と肌が合わずいつも不満を感じている人は、一度しかない人生の時間を無駄遣いすることなく、できるだけ若いうちに転職するべきだと私は思っています。
また、会社の価値観と合わない人に対して、どうして21世紀を代表する会社を創らなければならないのかということから経営陣が説明しなおすつもりはありません。
誰にでもみんなにやさしい会社は、いずれみんなを路頭に迷わせてしまうだけです。優秀な人に存分に報いるためにも、メリハリの効いた人事制度を心がけていくつもりです」。
まさに信賞必罰に訴える、私が常に唱えているポイントだと思っています。これをやり続けているからこその筋肉質な体制が維持できるということなのでしょうか。
武田:はい。
高橋:ミスマッチ制度はホームページにも載っていないですか? サイバーエージェントさんのホームページに「おもしろ人事」ということで、かなりいろいろな施策については出ているのですが、いまのポイントはおそらく出ていなかったのではないかと思います。貴重なお話をありがとうございます。
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