2024.10.10
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Stanford Graduate School of Business HP CEO Meg Whitman on Integrity & Courage in Leadership(全4記事)
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司会:本日はお越し下さりありがとうございます。
メグ・ホイットマン氏(以下、メグ):お招きにあずかり光栄です。
司会:本日お話できることを楽しみにしていました。まずあなたのこれまでの経歴やリーダー哲学、そして私生活について幾つか質問させてください。その後、ツイッターやご来場の皆さまにいただいた質問に移りましょう。
ジム・ソラノ氏もおっしゃっているように、これまであなたはじつに多くの時間を“GSB”のために割いてくれました。あなたの"View from the top"セミナーへの参加は今回で実に4回目になります。
前回、2011年に当セミナー参加してくださった後、あなたはヒューレット・パッカード(以下、HP)のCEOに就任するという、とても大きな決断をされました。これは決して簡単な事ではないと思います。事実、フォーブス誌はあなたの就任を次のように紹介しています。
「メグはとんでもない混沌に足を踏み入れてしまった。HPの株価は過去1年で42%も下降。ライバルのデルは堅調な伸びをみせており、HPには最早それを止める力は残ってないようだ。HPは4人のCEOを立て続けに解任しており、ホイットマン女史の前任者に至っては僅か11ヶ月でその任を解かれている」
一体、何故あなたは今回のオファーを引き受けられたのですか?
メグ:はい、とても良い質問ですね。ご存知のように私はカリフォルニア州知事選で敗れました。選挙に負けるということはとても奇妙なのです。なぜなら選挙の次の日から何もすることがないのですから。打ち合わせもありませんし……本当に何もないのです。私に気を使ってか、友人も電話を掛けてきません。
ちょうど2月のことです。私は次に何をしようかと考えていました。そんなある日の午後のことです。私が自宅のリビングにいると、神経外科医である夫が部屋に入ってきました。時刻はちょうど4時頃でした。いつもより早く帰宅したようでした。そして夫は、エレン・デジェネレスの番組を観ている私を見て言いました「う〜ん、これは良くない」「非常に良くない」と。
メグ:そして翌日、まるでタイミングを計ったかのように、マーク・アンドリーセン氏がHPの取締役にならないかと電話を掛けてきました。私は素晴らしいと思いました。
全てがぴったりなのです。家からわずか12分の距離、文句の付けようがないくらい立派な会社、そしてその技術委員会のメンバーになれるのです。とても興味をそそられました。
もちろんそのわずか9ヶ月後、この会社には厳しい試練が訪れるわけなのですが……。ただ、そのときは一旦この話を断りました。しかし、結局はHPという会社の存在に魅了されてしまったのです。
HPはシリコンバレーにはなくてはならない存在です。いいえ、カリフォルニアにとってもかけがえのない存在と言ってもいいでしょう。いいえ、ひいてはアメリカに、さらには世界にとっても重要な存在です。私たちは世界規模で見ても、とても重要な位置を占める企業市民なのです。
言い換えれば、私たちはコスタリカでは2番目に大きな民間の企業です。そしてチェコにおいては3番目に大きな民間企業になります。ですから、この会社に何かが起こるというのはとても重要なことなのです。そして、私は微力ながらこの会社の再生に、そしてこの会社のシリコンバレーやテクノロジー業界での地位の回復に貢献できると思いました。それで、最終的にオファーを引き受けることにしたのです。
私の最大の強みは、これまで培ってきたCEOとしての経験だと思います。もし私にCEOとしての経験がなかったら、この会社に起こった問題に完全に押しつぶされてしまっていたでしょう。しかし、私にはCEOとしてやってきた10年の経験があります。物事がどう動くか大体予想がつきますし、ウォール街の仕組みも理解しています。もしHPでの問題が、私が直面した最初の試練であれば、こんなに効率的に問題に対処することはできなかったと思います。
司会:あなたは、HPに入られたとき、そこで何が起きているのか理解したとおっしゃっていましたが、実際何が起こっていたのですか? そして何を正す必要があったのですか?
メグ:これはあなた方全てにとって、とてもよい教訓になると思います。あなたが上に立つ者として新しい環境に身を置いたとき、当然、良くない部分を正そうとするでしょう。
そんなときは、まず正すべきことを記したリストを作成するのです。そしてそのリストに従ってください。これは私のアドバイスですが、組織に入ったらまずその会社が正しく行っている部分を把握するのです、そしてそれをもっと行うようにしてください。
最終的にあなたは、あなたがするべきことを記したリストと正すべきことを記したリストを手にすることになります。ただし、新しい組織に加わり、間違っている部分をいきなり指摘すると、社員からの支持を失ってしまいます。そこで、私はまず全ての事に先立って、HPの創業者が作り上げた核となる理念を把握するよう努めました。
ビル・ヒューレット氏とデイブ・パッカード氏によって作られた会社の核となる理念は色あせていませんでした。まず、HPは技術革新を目的とした会社だということです。そして次に、私たちHPは提携に前向きな会社です。この会社はとても協力的なのです。
私たちは15万のラインで販売を行ってきました。実際、私たちと関連がある諸企業との提携をより強固にすることが、事業を好転させることが出来たひとつの要因だと思います。
そして驚くべきことに、この会社は社会的責任にもとても注意を払っているのです。このことは創業者であるビルとデイブが、誰もそんなことに興味を持たなかった頃から、環境に気を配り利益を社会に還元することに注力してきた事実からも見て取れます。
社会的責任という言葉の明確な定義はありませんが、世界中にいるHPの社員の行動を見れば自ずとその意味が分かるでしょう。とにかく、私たちはこれら3つの原則に立ち戻ることにしました。
まずは“革新”、つまり研究開発に力を注ぎました。また、技術たちを自身の仕事に集中させました。そして関連諸企業との連携をさらに強固にしたのです。
司会:それで、実際には何を正されたのですか?
メグ:正すべきことは実にたくさんありました。まずは、HPの従業員の心を掴むことに専念しました。なぜなら、あなたもおっしゃったように、過去5年で4人ものCEOが辞任しているのですから……。もしくは6年間でしょうか? とにかく、従業員たちはもううんざりしています。
そこで、私は会議において、HPの社員たちが思っていることを徹底的に調査しました。もうそれこそアンケート調査会社大手の“Survey Monkey”の上得意と言ってもいいくらいに(笑)。
アンケートの最初の質問はこうでした。「新しいCEOについてあなたはどう思いますか?」そして一番多い回答は、「彼女は素晴らしいと思いますが……」というものでした。つまり「彼女はどのくらい続くのだろうか?」「彼女は何をするつもりなのだろうか?」ということです。
私たちは彼らの心を掴まねばなりませんでした。そして再び彼らにHPの輝かしい未来を信じさせる必要がありました。それが1つ目の仕事でした。
2つ目の仕事は会社の費用構造を十分利益が見込めるように変えることでした。利益は8パーセントから10パーセントほど落ち込んでいましたので、基本的な費用構造の大幅な改善が必要でした。
そして3つ目は技術的革新に力を入れることでした。先ず、開発研究部門に活を入れ、私たちを全く新しい境地に連れて行ってくれそうな才能を持った社員たちを抜擢しました。新しい境地……、それはクラウドコンピューティング、セキュリティー、ビッグデータ、次世代のインフラ、あるいは次世代のサービなのかもしれませんが、とにかく早急に開発事業を立て直す必要がありました。
またそれと並行して、いわゆる“フローズンミドル”と呼ばれる保守的な上級管理職の人々を解凍する必要がありました。あなたが弊社のような会社に入り何かを成し遂げようとするとき、あなたは必ず、既存の上級管理職の人々を追い出すかそれとも残すのかという問題にぶち当たります。
若い世代の社員は比較的あなたのやりたいことに賛同してくれる傾向にあります。しかしこの保守的な“フローズンミドル”をあなたが成し遂げようとしていることに協力させるためには、何らかの策を練る必要があります。
メグ:以上が正すべき主なことです。他にも懸念事項はいくつかありますが、それらはマイナーな問題ではないにしろ、この会社の本質をはっきりさせるという根本の戦略が決まればそれに基づき解決できるような戦術的な問題です。
なにしろ、あなた方もご記憶でしょうが、私がこの会社を引き継ぐ前のCEOは、こともあろうかHPがコンピュータビジネスから撤退する可能性を示唆していたのですから。
このことは当然、多くの人々にHPの今後の戦略がどうなってしまうのかという懸念を抱かせることになってしまいました。私は就任後の最初の数ヶ月を使いHPの戦略を明確にしました。
司会:なるほど、それであなたはどのようにそれらに取り組んだのですか?
メグ:それはとても大変でした。なぜならご存じの通り、私のテクノロジーに関するバックグランドは企業向けのテクノロジーではなく、消費者を対象としたテクノロジーでしたから。
そしてHPという会社は明らかに企業を対象とした会社でした。HPのプリンティング、PCビジネスにおいては、実にその3分の2が消費者ではなく企業向けでした。そのため、私は企業を対象としたテクノロジービジネスを学び直さなければなりませんでした。私はまた、HPがこれまでやってきたこと、そしてこの巨大な会社全体を把握する必要がありました。
私は多くのことに取り組みました。まず、私が戦力になりうると判断したメンバーから成るグループを組織しました。そして、スコット・マクナリー氏など、この業界を熟知している人材を外部から呼び寄せました。そう、ちょうど外部からの助言が必要だと感じましたので。
これらは我が社の強み、そしてこの会社が目的達成のためにどうするべきかを明確にするために必要なプロセスでした。そして究極の決断とも言えるのが、会社を2つに分割することでした。
もうご存知でしょうが、私たちはHPを2つの“フォーチュンランキングトップ50”の企業に分割する予定です。2つの“フォーチュンランキングトップ50”の会社がHPの中に存在するのですよ。そんなこと想像できますか?
1つは、プリンター部門とパーソナルアシスタントビジネス部門からなる年商570億ドルの“HP Ink”です。そしてもうひとつは、データセンタービジネス、サーバーストレージ、ネットワークコンバージ、インフラ、クラウドコンピューティング、セキュリティー、ソフトウェア、そして企業向けサービスを取扱う“HPエンタープライズ”です。こちらも同じく年商570億ドルの会社です。
これはより“HP Ink”と“HPエンタープライズ”が現在直面している市場機会に適した資本構造を持つため、そして両社のためのそれぞれ独立した戦略に繋がるのです。従ってこれは正しい判断なのです。
しかし実際にこの決断を下すにはかなりの勇気を必要としました。なぜなら、言うまでもありませんが、予期せぬことが起こるのがこの世の常だからです。しかし、私たちはこの判断に自信を持っております。そして来る11月1日、分割が行われます。どうか、うまく行きますように。
司会:そうですね。さて、話を少し戻させて下さい。前回あなたが当セミナーにお越しくださったとき、あなたはeBayの可能性を確信したときのお話をしてくださいました。具体的に、何があなたに成功を確信させたのでしょうか?
メグ:そうですね。多くの方が既にご存知だと思いますが、私はハスブロ勤務時に児童部門を統括していました。そこでは主に“バーニー&フレンズ”、“アーサー”、“テレタビーズ”そして私のお気に入りの“ミスターポテトヘッド”を手掛けていました。
私が自身のビジネスに没頭していた一方、夫はハーバード大学と提携しているマサチューセッツ総合病院で脳腫瘍の研究プロジェクトを手掛けていました。医学界では誰もが憧れるあの病院です。そう、MGHというその略語をもじってよく“人類史上最も優れた病院”(man’s greatest hospital)とさえ言われるあの病院です。
私は西海岸にも同じような病院があるかもと言ったのですが……(笑)。そんな折、私はあるヘッドハンターから電話を受けました。eBayと呼ばれる無名のインターネット会社で働いてみないかと言うのです。私はその誘いを断りました。
私は、夫や2人の子供を3,000マイルも離れた場所に引っ越しさせたくありませんでしたから。しかし、彼は3週間後にまた電話をかけてきました。そして私に、その会社の創業者に会うように言ってきました。私はそのヘッドハンターを怒らせたくはありませんでした。
そこで「今回のオファーは引き受ける気はないが、彼が持って来る次のオファーは好条件かも……」という思いもあり、飛行機に乗り、創業者であるピエール・オミダイア氏とジェフ・スコル氏に会いに行きました。そしてその日の夜、私はサンフランシスコ空港から夫に電話をかけました。そして私はこう言いました「あなた、私たちはこのオファーを引き受けるべき」と。
メグ:私が自身の長年に渡るビジネス経験からそう感じたのです。もしあなたがある会社の中に次の2つの要素を見出すことが出来たなら、その会社は発展していくでしょう。
その2つの要素とは、まず、その会社の提供する商品やサービスが、現実的でしっかりした方法で、あなたにこれまで味わったことがないような素晴らしい体験をさせてくれるかどうかです。
実際に私が“プロクター&ギャンブル”に勤めていた時は、常に今までより白くよりきれいな、そしてより爽やかな息を提供する商品の開発に努めていました。eBayの場合は、時間や距離にかかわらず人々を結びつけることを可能にするサービスがこれにあたります。
例えば、もしあなたが南北戦争のグッズを集めていたとします。当然、あなたは自分の住む街の中でしか収集活動を行えません。ところが突然、あなたは全国から、そして全世界から欲しいグッズを集めることができるようになるのです。それは非効率的な市場を効率的な市場に作り変えるということです。そして商品の価格はオークション形式で決定されます。
そこには人々が今までに体験したことのないような現実的で有意義なものが確かに存在するのです。
そして次に、私は人々がそこで個人的な繋がりを築いているのに気付きました。彼らはeBayに親近感を抱いていました。彼らはeBay上にとても親しい友人を持っていたのです。
彼らは趣味を共有することで繋がっています。ある意味、eBayは最初のソーシャルネットワークキング企業と言えるでしょう。共通の趣味を介しての繋がりはとても強いのです。eBayの最初の顧客は収集家たちでした。
彼らは、グラス、ティーポット、バービー人形等ある特定の品物の収集に情熱を注いでいます。そして大抵の場合、彼らは一般の人々からは理解されません。なぜなら、全ての人がカップ収集に注がれる彼らの溢れんばかりの情熱を理解できるわけではないからです。
しかし、ネット上で同じようにカップを愛する同好の士に出会ったとき、そこには素晴らしい繋がりが生まれます。つまり、eBayという会社は現実的で優れた機能性を持ちつつそこに人間的な繋がりをも成立させる、そんな会社なのです。私は夫に言いました「この会社は必ず大きく成長する!」と。
私も”eBay”があそこまで大きくなるとは思いませんでしたが、これこそが個人消費者向けの商品やサービスを手掛けるときに、あなたが気に掛けるべきことなのです。
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