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ビジネスリーダーが学ぶべき「歴史」(全4記事)

「敵を作らず、自分の意見を貫き通す」野心を抱えたリーダーの処世術

2015年4月29日に開催された「G1ベンチャー2015」に、ライフネット生命会長の出口治明氏が登壇。モデレーターの為末大氏の進行で、「歴史とリーダーシップ」をテーマに、ビジネスリーダーが歴史を学ぶ意味についてトークしました。本パートでは、歴史的なリーダーにとっての最大の課題に始まり、ムガル帝国の創始者であるバーブルの例を挙げながら、部下に慕われるリーダーとしての資質とは何かを語りました。

リーダーにとっての永遠の課題は後継者選び

為末大氏(以下、為末):プリンシプルというか、自分のベースになるものだと思うんですけど。もう1つ、「歴史の中でリーダーが失敗したのって、どういうところだろう?」と見てたんですけど。

僕が前にお話を聞いた方で、その人はすごいお金持ちの方なんですけど、その方が言ってたのは、一番最初若いときはお金が欲しくて、だんだんそれが名誉に変わってくる。

「一番最後は何が欲しいかわかるか?」と聞かれて、「なんですか?」と聞いたら、「血が欲しいんだ」とおっしゃって。「何か世の中で高貴とされているものとか、すごい家柄みたいなところと自分がつながりたいという欲求が出てくるんだ」と言うんですけど。

経済だけで止めておけば非常に合理的なんだけれども、自分はそこに向かうんだという欲によって頑張ってこれたことがだんだんと、ある一段階を超えると次のステージに入って、それから次のステージに入ったところぐらいで実は非合理な方向に向かっちゃう、崩れていっちゃう、みたいな例が結構多い気がするんですけど。

出口治明氏(以下、出口):何が欲かと言えば、これも歴史の話なんですけれども、国や会社は一緒ですよね。自分が大きくしたもの、自分が作ったいい国、日本でもいいですけど、残したいと思いますよね。そうすると、歴史上一番難しいのは、やっぱり後継者選びに尽きる気がします。

これはものすごくおもしろいんですけど、近くの中国で言えば、「一番優秀な皇帝は誰か?」と言えば、ほとんど全員が康煕帝と言うと思いますね。それから、文献に残っている中では唐の太宗、李世民だと思います。李世民は実像はちょっと違うかもしれないんですが。

少なくとも中国の歴史の中で、これ以上立派な皇帝はいないと6割7割が合意するのが、たぶん康煕帝と唐の太宗、李世民だと思うんですよね。

この2人が2人とも、後継者に失敗してるんですよね。皇太子を作って、自分の子どもたちの中から選んでいるので、本当に社会がどんどん変化していく中で次のリーダーを作るのは難しいという気がします。

やはり最後に望むのは、どんな人でも、自分が作ったり頑張ったものをバトンタッチしたいと思いますよね。血があってもなくても。

そういう面では、歴史を見ている限りでは、大権力者が最後に望むことは次の世代のリーダーを育てること。それにみんなが苦心して。これが永遠の課題で上手くいっていないというとことが人間らしいですよね。

優秀な部下が、優秀なリーダーとは限らない

為末:優秀な部下には任せるという目があっても、次のリーダー選びは難しいんですかね。

出口:部下とリーダーは全く違う資質ですからね。不幸なことは、次のリーダーを選ぶときに部下の中から選ぶじゃないですか。でも、部下として優秀な人がリーダーとして優秀とは限りませんよね。

野球で言えば名ピッチャーとかホームランバッターが名監督にならないのと、なる場合もありますけど、同じだと思います。なんで難しいかと言えば、やらせてみないとわからないんですよ。

為末:やってることは、部下のときにやってることとリーダーとしてやることは違う。

出口:ひと言で言えば、どんな優秀な部下でも困ったら相談できるんですよね。「親分、どうしたらいいですか?」と。ところが、リーダーは相談する人がいないんですよ。迷ったときは自分で決めなきゃいけない。これは全く違う資質ですよね。

90年代にジョン・リードという有名なアメリカの経営者がいて。彼の人材育成法はものすごいおもしろいんです。

シティグループを率いていたんですけど、優秀な部下に小さい子会社の社長をさせるんですよ。社長として優秀だったら、本体の幹部候補生に引き上げるんですよ。

日本の大銀行とか、子会社が山ほどありますよね。その子会社をどう使ってるかといえば、「この子会社は一番大きいから副頭取のポスト」というふうにやってるわけです。これ、めちゃくちゃもったいないですよね。

むしろ、部下として優秀な人を2期4年とか子会社のトップにしてみて、人を使う能力があり、自分で決める能力があるかを見てから、本体の役員に登用するとか(したほうがいい)。だから副頭取とか偉い人はお金と秘書と車を付けて遊んでもらっておいたほうがいいですよね。

結局、やらせてみなければ能力は身につかないので。だから、どんな小さいことでもいいので、自分で決めさせるという訓練をしないと無理だと思いますね。

周りに愛される人格を身につけること

為末:僕らがスポーツをやってるときに、「こいつは才能がある」と引き上げていくときに非常に矛盾を感じるなと思うのが、例えば僕はいろいろしゃべりすぎて陸連の中に入れてもらえないんですけど(笑)。僕が優秀だって話じゃなくて。野心を持ってリーダーになった人とどう折り合えばいいのか、というのがあって。

僕、初めて世界大会に出たときに、連れて行った代表の人とすごい喧嘩になって、僕がペットボトルをその人に投げるという事件が発生して(笑)。いろいろ中で問題になったんですけど。その人と一番仲良くなったんですね。その人が退任されたあとなんですけど。

つまり、リーダーとして優秀な人は非常に扱いづらいんじゃないか、と。僕がリーダーとして優秀かどうかという問題ではなくて。野心と言うんですかね、「あいつを蹴落としてやる」というリーダーとして大事な資質を持つ人間を、どう内側に抱えればいいのか。歴史を見てると、すごく危ういバランスでいつもやってるなという気がしていて。

出口:ポリティクスは大事ですよね。ただ、これもおもしろいんですけど、さっきバーブルの話をしたんですが、本当に長続きするリーダーというのは、どちらかというとかわいいいところがあるんですよね。

さっき言ったように、夢を持っていることは絶対に大事ですよ。「俺はこれをやりたい」ということがなかったらリーダーでもないので。

ただ、やりたいことがあったときに、大を成す人には「助けてやろう」という人が多いんですよ。これはある人が言ってましたけど、人間って本当は能力の格差がありますよね。能力差がないなんて嘘ですよね。僕、短距離をやってましたから。走るなんていうのは明らかに能力ですよね。

為末:かなりの格差社会ですね。

出口:ある人が言ったのは、能力のない人はたいしたことはできないんだけれど、それでも足を引っ張ることは誰でもできると。大を成そうと思えば、もちろんいろんなことがあるんですけど、足を引っ張ろうとする人を一番少なくすると。

つまり、みんなが「あの人がこんなことをやりたいんだったら、大賛成でもないんだけど、まあ許してやろうか。あえて足を引っ張らなくてもいいわな」と言う人がやっぱり大を成しますよね。

もちろん、本当にのし上がっていくためにはマキャベリ的な権謀術数も必要ですけど、最後は人格と言ったらあれなんですけど、「あいつはどんなことがあっても許さない」とか言う人が少ない人のほうが残っていく気がしますね。

必要なのは、ブレない意見と愛嬌

為末:すごいおもしろいなと思うのが、「自分の意見を貫き通せ」と。敵なんか作っても構わないというのが、リーダーシップ論で多くなると思うんですね。やっぱりはっきりして、ポジションを取ってというのが多い気がするんですけど。今おっしゃってるのって、それと少し反対するというか。

出口:共存はすると思うんですけどね。言ってることがブレたら、これは絶対みんなついていかないですよね。だって怖いでしょう。はしご外されてるわけですから。

だから、今おっしゃった、ブレないということは僕はマストだと思うんですよ。ブレなかったらみんな安心してついていけるんですよね。Aと言ったことは信じていれば絶対にBに変えないわけですから。

部下が一番ついていきにくいのは、トップが変えることですよね。それは不安で逃げたくなっちゃうんですけど。ただ、そのことと自分のやりたいことや自分の意見は愚直に変えないということを同時に……これすごく難しいんですけど、愛嬌と言ってもいいのかもしれません。

何か、ここまで熱心にやっているんだったら許してやってもいいという、そういう人っていますよね。同じような人でも、あの人は言ってることは立派だけど何かカチンと来るから足を引っ張ってやろうと思うタイプと、まあ足引っ張らんでもええわ、許したるわというタイプとありますよね。

ほんの僅かな差かもしれませんが、歴史上、大帝国を作ったりものすごい大きな集団を作るリーダーは愛嬌があるというか好かれるというか、(足を)引っ張る人が少ないですよね。どんないい人でも(足を)引っ張る人はいるんですけど、少ない人のほうがやっぱり楽な気がしますね。

為末:僕、インターネットでよく炎上するんですけどね。炎上がずいぶん治まってきたのは、テレビに出て、ワイプというテレビ画面の角っこに出ているときくらいニコニコしていようと思ってから、減ってきたんですよね(笑)。「そんなものかな」という気もしなくもないなと。

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