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『リスキリング』著者が徹底解説 スキルをアップデートし続ける ための実践ポイント(全4記事)

特技のお笑いを使ったリード獲得で、退職希望者のモチベ喚起 ヨソでの活躍を望む社員に「自社の舞台」を提供した米国の事例

日本能率協会マネジメントセンター主催の『リスキリング』出版記念セミナーの模様を公開します。著者の後藤宗明氏が、自分のスキルをアップデートし続けるための実践ポイントを語りました。本記事では、リスキリング後の市場評価の確認方法や、企業が評価制度や待遇を変えることの重要性などについて解説しました。

ヨソでの活躍を望む社員に「自社の舞台」を提供した米国の事例

岡本沙矢子氏(以下、岡本):それでは、質疑応答に入っていきたいと思います。みなさまからのご質問を順にご紹介していきます。

まず1つ目。「社員それぞれの強みや興味、内発的動機と会社が学んでほしい分野が一致しないケースもあると思いますが、その場合、社員・組織それぞれが努力すべきことは何でしょうか?」というご質問です。こちらは後藤さま、ご回答をお願いできますでしょうか。

後藤宗明氏(以下、後藤):承知しました。これは、やはり社員の方は会社の中で何ができるのかを探す努力をする必要があると思います。もしそこが一致しない場合は、自分がやりたいことを純粋に追い掛けるということで、個人の視点では社外に出るという選択肢もあると思います。

一方で組織は、働く社員の一人ひとりがこれから何をやりたいのかを最大限実現することに努力する義務があると考えています。今アメリカは空前の人手不足ですが、例えばある事例では、ある会社の営業社員が学生時代からの夢だったお笑い芸人になるために会社を辞めたいと言ってきたと。

その際、この会社はお笑いの要素を自分の営業に採り入れてはどうだと提案した。そこで、見込み顧客に自分のお笑いのビデオを送ったら、リードの獲得がどんどんできるようになって、会社の業績に結びつき、そのまま会社を辞めないで残ったという話があります。

他には、犬のトレーニングをするドッグトレーナーになるために会社を辞めたいというケースでは、富裕層で犬を飼っている写真をネットに載せている方を調べて、犬のトレーニングの仕方をするビデオを送ったそうです。これもすごくリードが返ってきて、この方の場合は会社に残って働きながら、副業でドッグトレーナーをやるかたちを選んだようです。

これからは、会社という舞台でいかに個人が多様な人生を実現できるかが非常に重要になってきます。

この話をすると、「いや、そんなのムリムリ」と日本の企業はおっしゃられるのですが、「個」に注目が当たる時代になっていく中で、会社という器を使いながら個人がやりたいことを話し合っていくことがこれからは必要になってくると思います。

リスキリング後の市場評価の確認方法

岡本:続きまして、2つ目の質問です。「リスキリング後の自分の市場評価を確かめる方法が知りたいです。転職エージェントなどに登録してオファーを見ていますが、自分に合うポジションが見つけられず、自分の価値が高まったかどうかがいまいちわかりません」ということなのですが、こちらはいかがでしょうか。

後藤:これは詳細な情報をお聞かせいただけたら、もうちょっと的確にお答えができると思いますが、私は43歳で初めて転職活動をして100社以上に落ちて、自分の市場評価がひどいことになっていると気づいたんですね。

転職活動を半年以上やって、1社も合格しないという惨憺たる状況だったんですが、ご質問いただいた方が転職活動をされて、その結果がどうなるのかによって、まさに市場評価が見られるのではないかと思います。

私の先輩で、会社に不満があるわけではないんですけれども、自分の市場評価を見るために、常に一定の期間、転職の面接を受けるということをやっていらっしゃる方がいました。その方は、自分の現在の給与・評価に対して、自分の持っているスキルが外でどう評価されるかを常に比較されていました。

自分がやりたい方向、やりたいキャリアのほうにリスキリングを行い、そこに対して面接で通っていくかどうかで、自分の価値が高まったかどうかの判断ができると思います。

もう1つ。例えば、LinkedInというビジネスSNSがありますが、こちらの経歴で自分がどんなスキルを身につけているかをアップロードする。リスキリングをして、例えばデジタルトランスフォーメーションの講座を学んだという情報をアップロードすると、ヘッドハンターの方から連絡が来たりします。

ここでも、リスキリングによって自分が市場でどう評価されているかを確かめることができると思います。LinkedInの登録はお勧めです。

評価制度や待遇を変えることの重要性

岡本:続いて、3つ目の質問です。「リスキリング人材の昇給の必要性を感じていますが、『ある一定以上の昇給=役職』という人事制度になっており、制度を変える必要があります。ただし、制度変更をしているうちにリスキリング人材が転職してしまわないかとハラハラしています。制度を変えずに納得感のある方法があれば知りたいです」ということです。こちらについてはいかがでしょうか。

後藤:非常に厳しいと思いますが、やはり制度を変えることが第一だと思います。特にこの2年間のリモートワークの中でデジタル講座などで学び、1.5倍の給与で転職してしまうということがかなり出ています。ある会社さんでは、チームごと丸々引き抜かれたというケースも出ています。

ですので、きちんと処遇を変えることが第一です。ただ、人間、必ずしも給与だけではないと思うんですよね。「働く人」「やりがい」「給与」。私はこの3つのバランスが崩れると「人は転職を考える」という、ちょっと勝手な自説を持っています。

もし給与を変えられないのであれば、働く仲間との絆とか、仕事のやりがいなどで新しいチャンスを従業員の方に与えるとか。こういったかたちで維持することもあると思いますが、リスキリングをして市場での評価が高くなると当然ギャップが生まれますので、やはり同時並行で制度を変えるところに着手をしていただきたいと思います。

自治体に求められる中小企業向けのリスキリング支援

岡本:続きまして4つ目の質問です。「西川コミュニケーションズさまの事例、興味深く拝見させていただきました。『学びをやめると収入が下がるぞ』というのは非常にわかりやすいメッセージだと感じました」。

「一方、『ついていけずに退職した』『給与を大きく下げられた』という社員との軋轢があったのではないかと推測しています。西川コミュニケーションズさんがどのような対応をしたか、ご存じでしたらお聞かせください」というものですが、こちらはいかがでしょうか。

後藤:「ついていけずに退職した」「給与を下げた」という話は一切なく、今は3代目の社長さんがやっていらっしゃるんですが、先代からずっと働いていらっしゃるベテラン社員さんもいます。

ですので、西川コミュニケーションズさんでは無理やりリスキリングをするということはせずに、例えば電話帳の仕事がなくなる中で、自分から手を挙げて「違う仕事をしたい」と言ってくるまで辛抱強く待ったそうです。

短い期間の話ではなく、何十年という時間の中で作ってきたそうですので、強制的にやらずに、自発的に徐々にやっていったところが、たぶんポイントではないかと思います。

岡本:続きまして、「『リスキリングの実施責任は企業にあるが故に、企業が費用を負担すべき。リスキリングのための時間捻出のために雇用施策も必要』という考えには大変共感します」。

「しかし、業績が芳しくない企業においては費用面での余裕がないため、『今はそれを行うタイミングではない。余裕を持ってそれができるようになってから』という企業戦略として、なかなか優先順位が上がりません。それ故に、経営陣を説得するのがとても大変だと感じています。どのように経営陣を説得すればよろしいでしょうか?」という質問をいただいています。こちらについてはいかがでしょうか。

後藤:これも非常に難しい質問ですが、私はリスキリングを伝えていくポジションにいるので、その立場からお話しします。おっしゃる通り、リスキリングは会社の財務状態がいい時でないとできません。

自治体から中小企業向けのリスキリングの支援を行う仕組みを作るということと、金融機関からリスキリングをしたい企業への支援ができるようにという提案を、今私もがんばってしています。

例えばデジタル分野の新規事業を行う場合に資金調達をして資本業務提携をするとか、金融機関から調達をするようなかたちで、リスキリングに取り組むことができるのではないかと思います。

一方で、費用面で余裕がない場合は、先ほど懸念していたような課題がどんどん出てきます。先送りをすると優秀な人材の流出を加速させますので、やはり新しい事業と同時にリスキリングを支援する仕組みを用意していただけたら良いのではないかと思います。

リーダーシップやマネジメント・スキルの評価法

岡本:続いて、最後の質問になります。こちらは後藤さまと、越前屋さんにもご回答いただきたいと思いますのでよろしくお願いします。

質問内容としましては、「リーダーシップ、マネジメントなどのスキルは研修プログラムの受講で身につくようなものというよりも、ある種アート的な側面があるように感じています。こういったスキルを体系的に身につけさせて、それを測り、評価するにはどのような手法があるのでしょうか?」ということです。ではまず、後藤さまからご回答をお願いいたします。

後藤:今のお話にありましたリーダーシップ、マネジメントのスキルというのは、従来型の研修です。ソフトスキルを中心とした研修でカバーをすることができると思いますが、その評価をどうするかというのは、今まで同様にリーダーの方や人事の方が評価をする方法が1つ。

最新事情では、例えばプレゼンの動画をAIが評価して、スキルをレベル分けするという仕組みが始まっています。またHRテックのサービスと組み合わせて360度サーベイを行い、その評価とスキルのデータを結びつけるかたちで、ソフトスキルの評価をする会社さんもありますね。

岡本:ありがとうございました。では越前屋さんからもお願いいたします。

越前屋公崇氏(以下、越前屋):ありがとうございます。マネジメント、リーダーシップについて、まずポイントになるのは学習ゴールをどこに置くかだと思います。知識として学ぶだけであれば、本を読んだり、例えば1日の研修を受けるということでも十分ゴールは達成できると思います。

ただ、ご質問者の方が書かれたようなアート的な要素。例えば暗黙知になっているようなマネジメントの勘所、リーダーシップの勘所などは、やはり経験から学ぶところが大きなウエイトを占めると思うんですね。

だからこそ、先ほど私がご紹介したようなハイブリッドラーニングのような考え方、つまり単なるインプットだけではなく、アウトプットもしながら学んでいくという、学習設計が非常に重要になると考えています。

あと、スキルの評価については後藤さんがおっしゃった通り、かなりいろいろなアセスメントツールが世の中に揃っています。弊社でも360度診断や専門のアセッサーがみなさんのマネジメントスキルを評価する「アセスメントセンター」というサービスもありますので、こういったものをご活用いただければと思います。

岡本:ありがとうございました。それではお時間となりましたので、質疑応答はこれにて終了とさせていただきます。ご回答いただきました後藤さま、越前屋さん、ありがとうございました。

後藤、越前屋:ありがとうございました。

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