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日本のコンテンツビジネスとその未来(全3記事)

日本のアニメを世界に広げるには「クールジャパンをやめる」 2大ゲーム会社の戦略でわかる、上手なコンテンツの「売り方」

日本とシリコンバレーを繋ぐコンサルティング会社TOMORROW ACCESSでは、シリコンバレー発の業界エキスパートが最新情報を解説する「01 Expert Pitch」を開催しています。今回は「世界に広がる日本のコンテンツビジネスとその未来」をテーマに、MajiConnection岩崎貴帆氏が登壇したピッチの模様を公開します。最終回の本記事では任天堂とソニーの戦略の違いや、日本のコンテンツビジネスを世界に広げていくために必要なことについて語られました。

『ポケモン』はなぜこんなに世界で人気なのか

小川:そもそも『ポケモン』ってなんでそんなに人気で、どううまくいっているんでしょうか。

岩崎:ありがとうございます、ナイスな質問です。ポケモンを次に持ってきたので、タイミングが良い(笑)。

小川:お願いします(笑)。

岩崎:説明させていただくと、『ポケモン』は日本だとゲームがきてアニメがきたんですけど、アメリカはアニメが先にあって、次にゲームがきたんですね。だからアニメでポケモンファンになった人たちは、次にゲームがくるので、また盛り上がるわけですよ。

そしてそのあとにカードゲーム、要するにトレーディングカードがきます。それでポケモン大好きな人たちは、次はトレーディングカードで遊ぶようになる。そういう感じで、同じコンテンツでアウトプットをいろいろ変えて攻めてきたというのがあります。

最終的に2016年に『ポケモン GO』が発表された。小さい頃にポケモンのアニメ、ゲーム、トレーディングカードで盛り上がった人たちがちょうど成人以上になって、スマホを持っているタイミングで、「うわ、これ超懐かしい」という形で広がるんです。

「ノスタルジア」の感情を引き出し、心くすぐる戦略設計

岩崎:実はハーバードのビジネスケーススタディという、成功したビジネスを紹介する教材があるんですけど、そこに『ポケモン GO』のケーススタディがいくつもあるんですよ。

傍島:計算してやったんですかね。

岩崎:1個ハネた理由としては、AR自体は当時新しい技術ではなかったんですけど、人間が時間を費やしたいものに「懐かしい」、ノスタルジアという気持ちがあるらしくて。そのノスタルジアとARをうまく組み合わせたことによって、すごく消費者意識を盛り上げたんだという分析がありました。

傍島:なるほど、おもしろい。私も昔ARのビジネスをやっていたので、「どうやって流行らせるか」ってよく議論してたんですよね。結局クーポンとか、カメラをかざしてなにか出てくるみたいな、お金で釣るみたいなことだったんですけど。ノスタルジアとか、こういうところまで計算されてたんですね。

岩崎:過去にめちゃくちゃ流行ったものを現実世界に持ってくる、そのコンセプトが、言葉を選ばずに言うと「アガる」感じで(笑)。「ピカチュウがいる、ここに!」みたいな。そういうのをくすぐるのが、すごく任天堂はうまかったっていうのが1個あります。すいません、時間がないのですごく飛ばしていきます。

小川:ありがとうございます(笑)。

岩崎:あとは何個か載せたんですけど、すごくポケモンは上手で。例えばトレーディングカードがものすごく最近流行っていて、スティーヴ・アオキという人(※グラミー賞2回受賞の世界的DJ)が3億円相当のポケモンカード(コレクション)を売ったりとか。もうすぐ『ポケモン GO』とポケモンカードのクロスオーバーのプロジェクトをやったりとか、ポケモンはすごくうまくやっている感がありますね。

日本の2大ゲーム企業、ソニーと任天堂の戦略の違い

岩崎:その逆をいくのがソニーです。ここに買収劇をいろいろ書いたんですけど、任天堂が自分たちで作り上げたコンテンツを上手に海外展開していくのに対して、ソニーはどっちかというとアメリカ的な、買収でどんどん広げていっています。

一番のハイライトを言うと2021年、去年の8月にCrunchyrollというアメリカ最大のアニメストリーミングサービスを買収してます。1.175billionドル、1175億円ですね。

ゲームで言うとEpic Games。日本でも有名な『Fortnite』に、出資として1.45billionドル入れています。こういうかたちでアニメ・ゲーム系の、特にアニメプラットフォームをガンガン買収をして、海外展開を固めているというのがソニーの印象です。

ただソニーとアニメに関して言うと、Crunchyroll買収が価格も大きかったので目立ったニュースにはなったんですが、実は1990年ぐらいからかなり本格的にやっています。「アニプレックス」というアニメのライツ(権利)関係をする事業を立ち上げたり、2005年にはアニメスタジオを開いたり。

この5年はストリーミングサービスを積極的に買っていて、フランスのアニメストリームサービスとか、オーストラリアのアニメ配信会社やストリームサービスも買収しています。

Crunchyrollの買収の前に、Funimationというアメリカの別のアニメ配信会社を買収しているんですね。だいぶ前からアニメコンテンツのバリューをよくわかっていて、かなりの額を投資してるという印象があります。

ソニーの買収劇によって変化した、海賊版の問題

小川:ここでご質問をいただいております。ありがとうございます。「以前『海賊版』が問題になっていましたが、最近聞かなくなりました。解決したのでしょうか」というご質問なんですが、岩崎さん、いかがでしょうか。

岩崎:ちょうどいい質問をありがとうございます。実はこのCrunchyroll、2006年に立ち上がったストリーミング会社で、もともとはアジア圏のコンテンツを配信する会社だったんです。2011年ぐらいにベンチャーキャピタルから投資された時、まだ海賊版をバリバリやってたんですよ。

それでバンダイとかから訴えられたり言われたりして、そういう意味で言うとCrunchyrollは海賊版をやってる会社のイメージでした。でも2011年とか2012年ぐらいに「もう海賊版はしません、ちゃんとライセンスやります」って(方針転換したん)ですね。

私もたまに海賊版の宣伝とかを見ますけど、ストリーミングが悪かったり、画角が変だったりするんですね。あと自分の思ったサブタイトルが出なかったり、スペイン語の翻訳版がないとか、そういうのがあるんですけど。

Crunchyrollのすごいところは、特にソニーに買収されてからなんですけど、日本で放送された次の日にアメリカで配信が出るんですよ。

小川:速いですね。

岩崎:しかもちゃんとライセンスとってやっているから、サブタイトルがちゃんとしていて、(翻訳言語も)いろんな種類があるし、テレビと同じきれいな絵でちゃんと見れるんですね。

Crunchyrollの月のサブスク利用料は確か11ドルかな。視聴者にしてみると、よくわからない海賊版を探して大変になるより、「こっち見たほうがよくない?」っていう意識がはたらきます。わりとリーガルなストリームサービスがちゃんとライセンスとってアニメを放送してきたので、海賊版が必要なくなった、というのが私の認識ですね。

注目のアニメスタートアップ

小川:ありがとうございます。あっという間にお時間が近づいてきてしまいましたけれども、続けてお願いいたします。

岩崎:ちょっと飛ばして、いろんなアニメのスタートアップビジネスを紹介させていただきます。まずはNFTですね。NFTってみなさんご存知なんですか?

傍島:大丈夫……かな?(笑)。

小川:すいません、ちょっと私はあまり存じ上げません。

岩崎:Non-Fungible Tokenと言って、簡単に言うといわゆるブロックチェーン上でデジタルアートを作って、それを仮想通貨でやり取りする仕組みです。ポケモンカードをデジタル上に乗せる感じですかね。

小川:なるほど。

岩崎:プロファイルピクチャーという、プロファイルのアイコンのようなアートがNFT上で流行っているんです。アニメにインスパイアされたものがものすごくあるんですね。代表的なもので言うと、Azuki。具体的に使ってるアニメはないんですけど、アニメっぽいプロファイルアイコンをNFTでして、かなり値段もいいところまで上がったりしています。

あとこのLives of Asunaは、『ソードアート・オンライン』というアニメのキャラクターのいろんなバージョンをNFTで紹介していたり。あとこのShonen Junk Officialというのは......ひとこと間違ったら著作権関係に引っかかりそうな名前なんですけど(笑)。少年漫画風のアイコンを作っています。NFTの価値としては大したことないんですけど、作った人がCrunchyrollのファウンダーなんですね。それでかなりNFT界で人気になったりしましたね。

日本のアニメを世界に広めるには、「クールジャパン」をやめる

岩崎:次がアバターなんですけど、セレブリティにアバターを作ってあげる代理店をしたり、会社がアバターを作るキットを提供したり。そういうことをしているスタートアップで、すごい速さでユニコーンになりました。さっきのアイコンを作るとか、自分のプロファイルとして使えるコンテンツにものすごく注目があるし、投資する側もものすごく注目しています。

小川:なるほど。岩崎さん、あっという間にお時間が近づいてまいりまして、もっともっとお話をお聞きしたいんですが、最後に「日本のコンテンツをもっと世界に広めるためにはどうすればいいのか」、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。

岩崎:すいません、時間配分を間違えましたね……。

(一同笑)

小川:いえいえ、とんでもない。引き込まれてしまいました。

岩崎:「クールジャパンをやめる」と書きました。さっきの世界分布にあったとおり、趣味の多様化が進んで、そこにできたファンコミュニティから熱が出てきているんですね。

なので「クールジャパン」みたいに、上から押しつけられるものに関しては……クールジャパンはアニメの他にもたくさん取り組みをしているので、クールジャパン自体をやめろという意味ではなくて、アニメ、コンテンツに関してはという意味で言っています。

一人ひとりのファンの熱に対して投資をしたり、リソースを割くのが大事で、上から「これを見ろ」っていうのは、ファン的には受け入れがたいというのがまず1つあるんじゃないかと思います。

どうやって売るか、誰に売るかという目線を国際化させる

岩崎:あとは「制作は内向き・売るのは外向き」「国内販売型から国際参加型へ」。作り方は今までどおりでいいと思うんですね。それはある意味クールジャパンというか、日本にしかできないこと。

ただどうやって売るかとか、誰に売るかっていうのは、もっと国際的な目線でかつファンがもっと参加できるかたちを作っていかなきゃいけないんじゃないかなと思います。

次は「IPはしっかり」。権利は持つんだけど、さっき言ったみたいにファンがいろいろ使ったり楽しんだりする部分には規制をせずゆるくして、ファンの熱をもっと……さっきのポケモンみたいに.......(笑)。

傍島:お金を儲けるためには大事ですよね。

岩崎:かつそこでデータをちゃんととって、どういうコンテンツがどこで売れてて、どういうマーケティングが大事なのか、感覚じゃなくて数字で考える。そしてさっきも言ったとおり、還元されたものをクリエイターにもっと渡すのが大事なんじゃないかなと思ってます。

今プラットフォームはアメリカが圧倒的です。例えばYouTubeもそうなんですけど、そうするとほとんどのインセンティブがアメリカの会社に入ってしまう。世界に通じるコンテンツのプラットフォームを日本から発信していくのが大事なんじゃないかと思います。

日本が作ったコンテンツで、日本のクリエイターが稼げるように

小川:なるほど、ありがとうございます。では岩崎さん、最後にひとことだけ、まとめでお願いしてもよろしいでしょうか。

岩崎:すいません、まずは長くなってごめんなさい。時間配分を間違えました。

(一同笑)

小川:とんでもないです、ありがとうございます。

岩崎:いちアニメファンとして言わせていただくと、私としては日本が作ったコンテンツでアメリカ人が儲けてるのが、ちょっと悔しいなっていう思いがあります(笑)。ぜひ外国のトレンドに目を向けてもらって、クリエイター、コンテンツを作った人たちにできるだけお金が入るように、みなさんに考えていただけたらなと思います。

傍島:ありがとうございました。岩崎さんは「必ず日本のコンテンツを世界に広めたい」っていう思いが強いですよね。特に海外に住んでる我々は、がんばってほしいなって思いが強いですよね。

岩崎:そうですね。外国の方が熱を持って、アニメの話しかしてこないっていうか(笑)。今度日本に、日系アメリカ人を10人ぐらい連れていく企画があるんですけど、日系アメリカ人の方に「日本の何が好き?」って言うと、全員1番に出てくるのが「アニメ」なんですね。2番目が食文化なんですけど。なのでこの熱をぜひ、日本人の方にもわかっていただきたいなと思います。ありがとうございました。

小川:ありがとうございます。それではお時間になりましたので、本日の01 Expert Pitchは終了となります。岩崎さん、傍島さん、どうもありがとうございました。

岩崎:ありがとうございました。

傍島:ありがとうございました。

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