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中西哲生|ビジネスデザイナーによる再解釈とは!「中西メソッド × 中西メソッドを知らぬ者」ー Park College #18(全5記事)

「意思決定があいまいな日本」の意外な長所? 世界的イノベーター・濱口秀司氏が語る、日米の違い

独自に構築したサッカー技術理論である「中西メソッド」で、日本を代表するサッカー選手のひとり久保建英氏らのパーソナルコーチを務める中西哲生氏が、さまざまな分野の専門家をゲストに迎え、その功績の秘密を言語化する講座「哲GAKU」。 今回はイノベーション・シンキング(変革的思考法)の第一人者であるビジネスデザイナーの濱口秀司氏をゲストに迎え、新しい発想の生み出し方やそのためのマインドの持ち方などを聞いています。

一流サッカー選手のコーチと世界的ビジネスデザイナーが登壇

中西哲生氏(以下、中西):こんばんは。第11回「哲GAKU」へようこそ。中西哲生です。「哲GAKU」は、Ginza Sony Parkのオンライン連続講座となっております。

現在、僕はスポーツジャーナリストとして活動していますが、それ以外の時間はパーソナルコーチとして、選手のコーチをしています。そこで用いている理論が「中西メソッド」というサッカーのメソッドですが、参考にしたのはサッカーだけでなく他のスポーツや科学、異業種、日本の文化に着想を得て、いろんなコメントを拾いながら自分自身のものにしています。

今回は、サブタイトルが「中西メソッド × 中西メソッドを知らぬ者」となっています。この題目を見て「えっ、どういうことだ?」と思われた方が多いと思いますが、あらためて今回のゲストをご紹介させていただきます。今回は濱口秀司さんです。よろしくお願いします!

濱口秀司氏(以下、濱口):よろしくお願いします。

中西:濱口さんは、世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをはじめ、ビジネスデザイナーとして多くの企業のイノベーションに携わってらっしゃいます。そして、事業戦略・立案をリードされている方でもいらっしゃいます。

YouTubeのコメント欄に詳しいプロフィールが出ていますが、最初は松下電工に入社されたんですよね。

濱口:はい、そうです。

中西:ここに入社された理由は、何かあったんですか?

濱口:しゃべると長くなるんですけど(笑)。そんなスタートでいいんですかね?

中西:であればまあ。先のことを話したいので、そこはみなさん理解していただいて。濱口さんは普通ではないことをたくさんやってらっしゃいますので、そのことを順次聞いていきたいと思います。

まず最初に濱口さん、プロフィールにも書いてありますが、基本的にはアメリカに住んでらっしゃるんですか?

濱口:そうですね、アメリカ在住です。クライアントもつい何年か前までは100パーセントアメリカ、もしくはヨーロッパでした。5、6年くらい前ですかね、「日本人だし日本のこともやってみようかな」って思って、のこのこ日本に戻ってきた感じですね。でもベースはアメリカです。

中西:割合をお話しするのは難しいかもしれませんが、今お仕事されてる企業は、海外よりも日本のほうが少ないんですか?

濱口:そうですね、まだ少ないですね。

中西:じゃあ全体的には、海外の企業のほうが多いと。

濱口:そうですね。コロナ前に少し調整して、それまではアメリカ、ヨーロッパが100パーセントだったんですけど、(アメリカ)3分の1、(ヨーロッパ)3分の1、(日本)3分の1ぐらいのバランスをコロナ前に作り上げて。今もそれに近いですね。

中西:今回のタイトルは「中西メソッド × 中西メソッドを知らぬ者」ですが。

濱口:まったく知らないです(笑)。

著名なイノベーターは「未知の仕事」にどう向き合うのか?

中西:そのあたりも含めて、濱口さんのことを知らない方もいらっしゃると思うので、いくつか質問したいと思います。まず、濱口さんはふだんどういう生活をされてるんですか?

例えば、今、日本にいらっしゃる時間がおそらくコロナで長いと思うんですが、日本の企業とオンラインだったり実際に会って話をしたり、海外の企業ともオンラインで仕事をしたりという感じなんですか?

濱口:そうですね。基本的に対面を好むので、対面で仕事はするんですが、コロナの関係でオンラインで仕事することが増え、という感じですかね。

中西:企業でいうと海外のほうが多いということですが、海外から依頼を受ける時は、まずどういうスタンスでその問題と向き合うんですか?

濱口:それはグッドクエスチョンです。受ける仕事の範囲にけっこうバラエティがあるので、新商品開発をしたいとか、事業戦略を変えたいとか、会社のシステムで問題があるとか、サービスを新しく作り変えたいとかいろいろあるんですが、基本はその道のプロじゃないので何も知らない。

中西:「何も知らない」とおっしゃったんですが、受ける仕事の範囲が多岐にわたるということは、自分が得意とか不得意とかっていうことではなくて、頼まれたことはやっていこうというスタンスですか?

濱口:そうです。先ほどお話があったように、松下電工というところで仕事をし始めて、大企業のことは知っていますし、中ぐらいの会社をリードしたこともあり、ベンチャーもやったことがあります。その後コンサルティング側に移って大企業、中企業、ベンチャーのコンサルティングをやっているので、一応、経験としては一通り全部やっていて。

商品企画や戦略だけじゃなく、実際ローンチしないといけないので、製造やサプライチェーンも見ており、経験上は全部わかっています。ただし、どの部分の仕事が来るかはわからず、かつ分野が違えばまったく新しいことです。

すばらしいビジネスコンサルティング会社はめちゃめちゃ頭がいいんですけれども、僕はそうは思っていません。やっぱりちゃんとがんばってるクライアントさん、苦しんでるクライアントさん、何年間も仕事をしてるクライアントさんのほうが、知識は明らかに僕よりも高くて。僕がこの低い検索能力でWebで調べて、「こんな感じだね」って言っても、ぜんぜん浅はかです。基本、僕の仕事のスタンスっていうのは、クライアントさんからお話を聞くところからスタートするという感じですね。だから、わりと聞くのが最初の仕事です。

クライアントにもらった事前資料は、あえて「読まない」

中西:そういう時に、とはいえ普通の人間だったら「準備をしていくのかな?」とも思うんですけども、それについてはいかがですか?

濱口:よくそういうプロの方っていうのは、事前にブリーフィングがあって、資料があって、ちゃんと仮説を立てて行かれるんですけど、僕はまったくそれはないですね。むしろ、ない状態で行きたい。よくプロジェクトで事前資料をいただくんですけども、クライアントさんには「読みました」って言いながら、実は読んでいません。

中西:(笑)。

濱口:何もない状態で。やっぱり最初の3分とか10分とか1時間というのは、すごい重要です。人間があるセッションに入った時に、本人が意識してるか意識してないかは別にして、かなり重要なことを言うわけですね。その温度感もあるので、僕のプロジェクトのスタートはそこからです。事前準備をすることは基本的にないです。まったくゼロからですね。

中西:その温度感の中で、最初にお話があったように海外の企業と日本の企業という大きく2つにカテゴライズされると思うんですが、今まで多く携わってきた海外の企業の場合は、最初の10分間はどういう感じですか?

濱口:海外と日本の違いはあまりないですね。一見、外から見ると日本のほうが「じゃあ、あなたから」みたいな感じで整然としている。アメリカはけっこう「あーだ、こーだ」ってスタートはするんですが、それは型式の話であって、問題がこれだとかここが気になってるとかってことに関しては、日本と海外の違いはないとは思っています。

中西:ただ、濱口さんが進めていく上でのアプローチは違うんですか?

濱口:同じですね、基本的には相手の話を聞きます。例えば「こんなアイデアあるんじゃない?」と思いつくじゃないですか。最初から、それがそのクライアントさんにとってすごい答えになってるなんてことがあるわけがなくて。

その道のプロの考え方の傾向を探る

中西:最初は自分からあまり意見をしない?

濱口:プロじゃないんで。むしろ見てるのは、クライアントさんがどういうふうに考えてるのかっていうのがやっぱり重要で。結局、ビジネスの戦いというのは、企画する人がいないといけないわけで。なにか企画してる人がいて、企画してるもの同士の戦いなわけですね。

そうすると、企画する人の考え方、傾向というものがあって。その傾向というのは、例えば業界で似通ったり、もしくはライバルがやったことに影響を受けたりとかして、なにかしら偏ったりするわけですね。

僕がいつもトラッキングしているのは、話を聞きながら「なぜこの人たちはこういう考え方をするのか」っていうパターニングをするだけなんです。それは、物事の切り口をパターン化することもあれば、例えば「じゃあこの問題を解決するのにどういうアイデアがあるんですか?」って聞き方をして、「こんなアイデアとか、こんなアイデアがあるんだよ」みたいな話を聞きながら、そのアイデアの傾向とかを探るんですね。

そこには必ずなにか非対称性があったり、ズレがあったり、傾向があって、その傾向を外すということを狙ってます。その傾向を外したものを言うと、プロの人たちがどう思うかというと「えっ、そんなのないよ」って言うわけです。なぜかというと、ふだんそう考えないから。

プロの思考パターンから外れたところに、新しい発想がある

中西:要するに、自分たちがふだんまったく考えないようなことを言ったってことですか?

濱口:そうですね。それをランダムに投げて当てることはできないので、やっぱり思考傾向を探るというのがあって。1人、2人、3人って聞いていくと、絶対になにかの傾向があるわけです。そのパターニングをして、違うものを投げて試していくという感じですね。

でも、その時点でもうすでに新しい発想で。それが実行可能かどうかはわからない、ただし、彼らが考えたことのないものを作っていくというアプローチになります。実際は、それをずーっと組み上げていくという、けっこう壮大なプロセス、大変な道のりではあるんですけれども。でもやってることは基本、それの組み合わせですね。

だから、先ほど申し上げたように、商品企画でもそうだし、例えば工場の生産性の改善をしようという時も、やはりプロが集まって「普通こうやって改善するのよね」というのをやって、改善できないから僕に話がきているわけで。その中でなにかアイデア投げても「それは知ってるよ」って話になるんで、彼らが考える傾向と違うものを見つけていくと。

これは仕事の種類にもよると思うんですけどね。「改善しなさい」って言われたらそれでいいと思うんですが、その方法じゃない方法を見つけたいっていう時には、プロが考える傾向を探るっていうのが一番重要になってくると。そういうアプローチですかね、仕事をまとめてみると。

中西:今お話をうかがって、実際、濱口さんにオファーされる方々が考えていることではないことを、彼らに対して投げかけることが1つ目の仕事かなっていうのを思うんですけど。それは日本の企業に対してもアメリカの企業に対しても変わらない?

濱口:まったく一緒ですね。

日米の意思決定構造の違い

中西:僕がなぜそういうことを聞くかというと、濱口さんが実際に仕事をしていく中で、日本企業から求められているものとアメリカ企業から求められているものはなにか違ったりするのかな? と思ったんです。

濱口:進み方がちょっと違ってたりはしますけどね。例えば、アメリカはご想像のとおり、けっこうヒエラルキーがしっかりしていて、意思決定の階層が決まっています。上の人になにか意思決定を持っていくと、「それ、俺の意思決定じゃねえから」と。意思決定することが仕事だとみんな思ってるので。

あることが決まると進んで行くというスピード感は、やっぱりアメリカのほうがあるとは思いますね。わりとシステマティックに進んで行きます。日本は意思決定構造がわりとぐにゃぐにゃしてたりするので、進みが遅いっていうのはありますね。

ただ、それが悪いわけじゃなくて。意思決定構造がしっかりしてないっていうのは、逆に言うと、若い人も中間管理職の人も、「社長はどう考えるのか」とかそういうところを慮らないといけないわけで。

そうすると、脳のトレーニングとしては、自分の与えられてる範囲以上のことを考えなきゃいけない。ものの見方によりますけど、経営者トレーニングだとかスコープを広げるトレーニングという点でいうと、そういうふうに決まってないほうが、ポジティブに言うといい感じです。

それがアメリカでいくと、「俺の範囲はここだから」っていうので、それ以上のことは絶対考えないという違いはありますね。

中西:役割分担が比較的しっかりしてるところと、ちょっとあいまいな部分があるけど、見方を変えるといい方向にも考えられると。

濱口:それは、やっぱりプロコン(長所と短所)があるんで。

アメリカ人は調子にのる、日本人は調子にのらない

中西:僕は日本人の特性を引き出すとか、日本独自の考え方や歴史的に日本がやってきた世界的に少し特異なものをよく探す傾向があります。それは僕自身のメソッドに「世界に対してどうやって戦っていくか」という前提があって、そういうことを考えていますが、それについはいかがですか?

濱口:いくつかポイントがあります。1つおもしろいポイントとしては、調子にのるかのらないかというのがあって。

中西:なんですかそれ(笑)。

濱口:アメリカ人は調子にのる、日本人は調子にのらないっていうのがありますね。どっかでもしゃべったことがありますが、アメリカの子どもたちって、けっこう甘やかされて育っていて。例えば、サッカーやっても算数やっても、ちょっとうまいこといくと親が「すげえ、ボブ! お前は天才だ!」というふうに、めちゃめちゃ褒め称えるんですね。そういうカルチャーで、「お前すごいぞ! 天才だ、そのキックは!」「なんだその筆使いは!」みたいな。

最近アメリカって、親が両方とも働いてるんですよね。家で家事だけをしてるお母さんって少なくて、基本的にダブルインカムで、2人とも働くというのが常識なので。

そうすると、子どもたちは月曜日から金曜日までは学校行って、デイケアかどっかに行くわけですね。すると親とあんまり会わないわけです。それで週末になると、親は溺愛するんですね。だから、たぶん50年前よりも今はもっと溺愛されていて。

週末には「ボブ、すげえ!」というのをステレオで言われて育ってるんで、「自分、天才だ」と勘違いしてる人間がいるわけですね。そうすると、ちょっとした成功で本人も「俺、天才かもしんない」みたいな感じで。アメリカには、ポジティブに考えていくっていう傾向がありますね。

日本は逆で、たぶん「お前はだめだ」とかいろいろ言われて育ちますよね。

中西:けっこうそういう傾向はありますね。

濱口:そうすると、ちょっとした成功をしても、「それはまだまだだな」とか「みんなもっとすごいからな」って言って、ちょっと下目に考えるっていうのがあって。なにかちょっとした成功からどんどんスパイラルアップして、「俺は天才じゃねえか!」みたいに思っていくっていう人たちとの差はけっこう大きいと思うんですよね。

神の視点でものを見ると、発想が変わる

中西:いい意味での勘違い。

濱口:日本人はとにかく抑えがきいていて、「そのへんだな」って思う人たち。これってメンタリティ的にかなり違うと思うんですよね。

スティーブ・ジョブズっているじゃないですか、会ったことないんですけど、半分あいつは天才だと僕は思うんですよね。みんな天才と思ってるんですけど、僕はあいつ……「あいつ」って死んじゃってるんですけど。半分天才だと思うんですけど、半分ただの調子にのったおっさんだと思うんですよ。

最初、Appleを起こした時に成功しましたよね。この時、彼はたぶん「自分は天才だ」と思ってるんですよね。で、Pixarやりましたよね。なにが起きてるかというと、どんどん自分は天才だと思っていて、iPodを作った時もiPhoneを作った時も、あれはたぶん音楽機器を作ってるわけじゃなくて、「自分が神だった時、天才だった時どうなのか」っていう視点でものを見てると思うんですね。

すごく高い視点で、ポジティブにものを見るっていうのは、やっぱりものの見え方も違ってくるし、発想も変わってきますよね。事業戦略を立てる時も、「自分が神だと思ったらどうすんのか」っていうのはけっこう重要で。それは視点が非常に高いわけで、課長さんよりも部長さんのほうが視点は高いし、部長さんよりも役員さんのほうが視点が高い。

でも、神の視点はすごく高いわけで。たぶん、スティーブ・ジョブズは最後の最後まで「自分は神だ」と思った、ただの調子にのったおっさんだと思うんです。あのパワーはすごいと思うんですよ。人間は調子にのるとあれぐらいのことが起きて、あれぐらいのすげー本社ビルが建つと僕は思ってるんで。

中西:(笑)。

濱口:僕は日本人とアメリカ人をあまりステレオタイプで語りたくはないんですが、違いはそこですかね。まあ日本の人にどう助言したらいいのかわかんないんですけど、「もっと調子にのれ」とかね。

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