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社会をハックする!台湾デジタル大臣 オードリー タン スペシャルインタビュー(全3記事)

民主主義は技術であり、イノベーションである オードリー・タン氏が贈る、希望のメッセージ

2020年、オンラインにて開催されたIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)において、台湾デジタル大臣オードリー・タン氏へのスペシャルインタビューが実施されました。本パートでは「『民主主義はイノベーションだ』という発想」や「他の国にはない、総統杯ハッカソンの仕組み」などについて話しています。

台湾の人たちが持つ「民主主義はイノベーションだ」という発想

田中章雄氏(以下、田中):さてオードリーさん、質問に戻る前に、(スライドを指して)このスライドについて話したいと思います。これは、あなたが共有してくれたウィキペディアのダイアグラムです。そして、私はあなたがプレコール中に、私に言及した非常に興味深いものの1つは、民主主義はシステムにすぎないということです。

そしてこれは、現代民主主義のシステム構成図です。これをどのように見ているかお話しいただけますか? そしてこれがシステムなら、どうやって修正したり、動かしたり、ハッキングしたりするんでしょうか?

オードリー・タン氏(以下、オードリー):その表示しているシステムは現代のものではない気がします。これ、ギリシャのですよね?

田中:いにしえの…(笑)。

オードリー:ええ、これがオリジナルの核です。なんか、MINIXかなにかみたいな感じですね(笑)。

田中:(笑)。

オードリー:でも実際に「生まれた時にあるものは人間の本性であり、生まれた後に発明されたものは技術である」ということわざがありますよね。台湾では、民主主義は技術と言われていますが、私にとっては技術なんです。

1996年に初めての総統選挙がありましたが、私は15歳で中学を中退していて、すでにワールド・ウェブの一部でした。だから私たちにとって憲法そのものは、改変可能なテクノロジーコードの核にすぎず、実際にはすでに6回ほど変更しており、現在変更を検討しています。

したがって「民主主義とはイノベーションだ」という考えが、私たちには備わっているんだと思います。 民主主義はいつでも強められるものです。このスライドを見て「これは賢いギリシャ人が伝えた神聖なものだ」とは言わないでしょう(笑)。まあ、この人たちはとても賢い人たちだと思いますが(笑)。

でも、彼らは技術を持っていなかったんです。だからアクロポリスででしか動けなかったんですよ。わりといいところだとは思いますが、いろいろ聞けるソーシャルメディアには代えられません。もちろん、彼らは投票機や選別機を使っていましたが、それは4年ごとに5個ぽっちの情報がアップロードされるようなものです。

ですから私たちが分析しているのは、基本的にはスケールで、人の話を聞くことができるようになるような良いイノベーションがあればすぐに使いますよ、ということです。例えば、Ethereumのコミュニティがグレン・ワイル(Glen Weyl)とクアドラティックボーティング(QV)を思いついて、2年前から台湾で開催されている総統杯ハッカソン(總統盃黒客松)で即座に使用されたりですね。

人々はこの新しい投票メソッドを使って、どのSDGsを優先させるかを選択しています。また、Ethereumコミュニティの一部であるGitcoinのクアドラティックファンディングは、台湾の国家資金マッチングモデルに含めることが検討されています。

だから基本的には、私たちはもともとのオープンイノベーター、許可無用なイノベーターであるインターネットコミュニティと一緒に仕事をしており、テクノロジー分野だけでなく管理分野を改善するため、集合的な知性を利用しています。

他の国にはない、総統杯ハッカソンの仕組み

田中:台湾政府はEthereumから学んだことを、現在活用しようとしているんですね。

オードリー:そうです。

田中:政府レベルで?

オードリー:そうです。クアドラティックボーティングをね。そして今はクアドラティックファンディングを見ています。総統杯ハッカソンのウェブサイトに行くと、ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)とグレン・ワイルが、クアドラティックボーティングがどのように機能するかを説明しています。

少し下にスクロールすると、私たちの科学技術委員会の事務局長だけでなく、デジタル大臣の私たちはその下にいます。私たちのすぐ上には、グレン・ワイル、ヴィタリック・ブテリンと、ヴィタリック・ブテリンの無料動画があります。

田中:総統杯ハッカソンって何でしょう? 他の国にはないと思うんですが、台湾にとってそれはどんなものなんでしょうか?

オードリー:総統杯ハッカソンは、最終選考が総統のオフィスで行われるハッカソンです。決勝戦は総統ご自身が審査委員会の選考を監督するだけでなく、実際に座って上位24組のチーム、昨年は上位20組のチームに耳を傾けてくれます。

チームの選考方法は、市民の請願に応えたかどうかです。そして、参加型プラットフォーム上の全員が、それぞれ手持ちの99ポイントをクアドラティックボーティングによって好きなチームを選ぶのです。

99のプロジェクトに一票ずつ投票することもできますし、もし特定の1つのアイデアが気に入っていれば、例えば「沖合の島々での遠隔医療について」が気に入ったなら、1票で1ポイント、2票で4ポイント、3票で9ポイント、4票で16ポイント、9票で81ポイントのコストで投票できます。しかし、99票しかありませんので18票残っていても、10票目は投票できません。

そうしたら、他のものへと目を向ける。例えば「コンピュータビジョンを使って、海洋ごみを海岸ではなく海で集める」というものがあって、かなりいいアイデアだなと残り18ポイントのうち4票投票して16ポイントを消費する。まだ2ポイント残っているので他の2つを見ると、相乗効果を発見してSDGsをより学ぶことができます。もしかしたら、最初に使った9票を取り戻して、最後に見た2つへ7票ずつ投票しよう! となるかもしれません。

ですから、人々はそれぞれの正直な社会的志向にしたがって、平均4つ〜6つのプロジェクトに投票することになります。これはクアドラティックボーティングが、新規の投票ごとの限界コストと限界リターンが同じになるようデザインされているからですね。

その後、結果を集計して、今年のトップ20または24を出します。最終的に残った上位5位それぞれに、台湾の形をしたトロフィーが贈られます。それから3ヶ月以内に、分野横断トライアングルの申請書が、社会経済部門と公共部門それぞれからチームに送られてきます。

総統杯ハッカソンのトロフィーはマイクロプロジェクターになっていて、電源を入れると蔡英文(Tsai Ing-wen)総統がトロフィーを手渡してくれるんですね。これは授賞式の様子を映し出すメタ・トロフィーなんです。

過去3ヶ月間にあなたがしたことを総統が保証したとき、次の12ヶ月のあいだ、それは資金調達や法改正などを伴う国の方向性となるんです。それが総統杯ハッカソンにおける総統の権力なんですね。

田中:資金、プラス、法改正ができると。

オードリー:その通りです。私たちは国内チャンピオンたちを理由に法律を変えているんです。毎年5つのトロフィーは、ソーシャルイノベーターとしてアジェンダに取り入れられるんですね。それが総統杯ハッカソンです。

田中:なんだかあなたたちは未来に住んでいるみたいですね(笑)。

オードリー:いえいえ、あなたのほうが未来にいるんですよ。そっちは午後4時で、こっちは3時なんですから(笑)。

田中:確かに1時間先にはいますね(笑)。でもあなたたちは1世紀分くらい先にいるんじゃないかな(笑)。

オードリー:(笑)。

「リスクを減らす、時間を節約する、信頼関係を築く」という3つの軸

田中:ありがとうございます。たくさんの質問をいただいているんですが、もうあんまり時間がないみたいなので……、オードリーさん、質問をここから選んで答えてくれますか?

オードリー:いいですよ。では、非常に良い質問をKさんからいただいています。

「アイデアの変更システムを効果的に実行するには、おそらく強力なチームの構築と、従来の政治家や経済力との信頼を築く必要があります。そういった関係性やチームはどのようにして構築していくのでしょうか?」

本当にすばらしい質問です。まずはじめに、私が4年前に入閣した時の3つの条件をお話します。その3つの条件の1つ目は「根本的な透明性」です。私が議長を務めたことはすべて文字に起こされ、記録され、インターネットに公開されます。

田中:密会はない、ということですね?

オードリー:実際には、のちに編集を加えられるミーティングもあります。何が言いたいかというと、何を言ったかは変えられるということです。編集できるのですから、デフォルトで透明ですよね。でもこのミーティングがあった、という事実は秘密ではないんです。

極端な例では、ジャーナリストが質問した内容をすべて削除してしまうこともありますが、私の答えはすべて残しています(笑)。

田中:(笑)。

オードリー:人々は大抵、私のところに来てロビー活動をしますが、公共の利益に基づいたロビー活動しかできません。彼らは私の答えが公開されることを知っているので、もちろん自分の利益になるようにだけで、他の人の不利益になるような議論はしたくないでしょう。公記録上での印象が非常に悪くなりますからね。これが1つ目の根本的な透明性。

2つ目は「所在の独立性です」。どこで仕事をしていても、私は仕事しています。どこでも働くことができるので、地方や先住民族の土地や離島に行き、数日滞在しても、自分が「労働している」とみなせますし、テレワークを利用して12の異なる省庁の同僚たちを、どこにでも自分の元に連れてくることができます。

そして3つ目が「自由意志による提携」です。私の同僚になるために、どの省庁からでも、誰であっても志願することができます。私が彼らに求めることは、彼らが私と同じ条件で働くことだけです。

でも、私は彼らに命令はしません。私は彼らからの命令を受けません。革新的なのは「すべてのイノベーションを公務員がやっていること」です。

私は全リスクを負って、彼らのリスクを減らすようにしています。何かうまくいかない時は「いつもオードリーのせい」です。私は公務員としてのリスクを負い、私たちは重荷を減らすため、面倒な仕事を減らすためにイノベーションを起こしているんです。それは自動化はもちろん、デジタル化によって時間を節約できるのですから、信頼を築くための時間を持てるわけですね。

「リスクを減らす、時間を節約する、信頼関係を築く」、これらが私たちの仕事の3つの軸です。しかし、1つを他の2つのため引き換えにすることは決してありません。私たちの変革理論はパレート改善です。つまり、特定の箇所で小さな改善をしても、他の2つを犠牲にはしない。つまり、時間を節約してリスクを減らし、信頼を高めるということです。パレート改善の方法でこれを続けていれば、誰もが友人となっていきますし、今ではすべての政党がオープンガバメントを最高だと評価してくれています。

田中:この概念は政党の概念を超越したんですね?

オードリー:まさにその通りです。オープン議会ネットワークには、無所属を含む議会のほぼすべての政党から署名が集まっています。そして現在、彼らは「行政府のオープンガバメントはもっとペースをあげるべきだ!」と言っています。 なぜなら、彼らはすでに個々でマルチステークホルダーフォーラムを開催していたからです。オープンガバメントに関していえば彼らに後れを取らないように、現在私たちも1つ予定しています。

田中:最高ですね! 

オードリー氏からの希望のメッセージ

オードリー:では最後に、今回ご参加していただいた方々の多くが共鳴してくれるであろうことをお話させてください。希望のメッセージになると思います。

というのは、私たちが2014年に国会を占拠する前、もし道行く人々に「オープンガバメントを受け入れるかどうか」「大臣が台湾を巡ってまだ見ぬ人々に会いにいくかどうか」「根本的な透明性は実現可能か」といったことを質問すれば、変なやつだなという顔で「そんなの無理だ」と言われていました。当時は無力感を覚えることが大半で、10代の若者たちは政治に参加することをクールだとはどうやっても思えないような状況でした。

「国会を占拠するべきだ」と言いたいのではありません(笑)。「当たり前になっていることが変わっていくのは予測不可能なことだ」と伝えたいんです。希望を捨てずにいてください。すべての物事にはヒビが入っています。そこに光は差し込むのです。

これを結びの言葉とします。そして、長寿と繁栄を。

田中:はい、ではヴァルカン式の敬礼にてお開きとしましょう。オードリーさん、本当にありがとうございました。

オードリー:では!

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