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めがね型ウェアラブルの現況と展望(全4記事)

時間をかけて100点を目指すより、まずはベータ版を 日本の製造業が世界で勝つために必要なこと

2018年2月22日、SENQ霞ヶ関にて、「電脳メガネサミット2018 in Tokyo」が開催されました。メガネの生産量日本一の街、福井県鯖江市で行われていた電脳メガネサミット初の東京開催となる今回は、実際にスマートグラスを販売しているメーカーや鯖江市長をゲストに招き、熱いトークセッションを繰り広げました。第1部「めがね型ウェアラブルの現況と展望」では、EPSONの津田敦也氏、テレパシージャパンの鈴木健一氏、経済産業省の津脇慈子氏をゲストが登場。モデレータにjig.jpの福野泰介氏を迎え、めがね型端末の現状について語ります。

インドのとあるスタートアップから学ぶこと

津脇慈子氏(以下、津脇):以前鯖江のあたりに行かせていただいたときにやらせていただいたセッションでもインドの話をさせていただいたと思います。

どんな話かというと、インドにスタートアップがあって、となりのアイスクリーム屋さんがアイスクリームが2、3割を溶かしてしまうので収益が上がらないと。それを溶けないようにしたい。なんで溶けるかと言うと、常に(冷蔵庫の)扉を開けたままにしちゃうらしいんですよ。毎回閉めるということをやらない。

それはよくないということで、その若い青年がなにをしたかと言うとアイスクリームの入れ物の中に、中国で買ってきたセンサーを入れてスマホで見れるようにしました。

温度が上がってきたら、店主が気付いて閉められるようにするというすごくシンプルな解決策なんですけど、本当に欲しいものをちゃんと見つけて、本当に必要なものを彼らは開発した。

そうすると同じようなアイスクリーム屋さんがたくさんいるので、どんどんインド中に広がっていき、だんだん性能が上がっていって、今はアメリカで開発をしています。

どうしてアメリカに行ったかと言うと、アメリカでは同じように衛生の関係上冷凍庫のどういう温度なのか申告しなきゃいけないようになってるからです。今の日本でも同じように手書きで管理してますけれども。

それを彼が作った、安くてすごく性能が良くなった機械を使って自動的に把握できるようにしたことで、アメリカでも売れるようになったという事例がありました。

もちろん最先端の技術というのはすごく重要だと思いながらも、相手側が本当にほしいニーズと技術側がうまくマッチしたときにすごくおもしろいものが生まれるんだろうなと思います。

技術自体はどんどん上がってきているので、あとはファンをどう作るかというところがすごく大事なんだろうと思います。まさに先ほどスポーツの話をされましたが、おそらくそういうかたちでどんどん進んでいって、そこがうまくマッチすると、お金もマーケットも広がっていくんだろうなと。そうしたことをいかに多く作れるかだと思います。

せっかく日本でこれだけ技術と想いを持っている人がいるので、あとは同じ想いを持つ事業会社側のほうが見つかるといいなぁと。経産省としてもなにかできることがあればやりたいなと思っています。

「お客さんは困ってない」

福野泰介氏(以下、福野):ありがとうございます。意外とIT企業にいると基本的には今のIT技術は知っているのは前提で、最新技術が……と思いがちですけど。そうじゃない業界だとそもそもITを使っていいので、突然これだけ持って来られてもフィットしないという。そんなイメージなんですかね。

本当に必要なものがなにかというところを、1回そっち側に寄って必要なものを積み上げていく中で最新も含めてうまく提供できるといいのかなと。そういう意味ではなかなか、「小さくて安いものでなんとかなっちゃうじゃん」みたいなかたちになると、一見企業としてはあんまりおいしくない仕事だからやりたがらないこともありそうな気がします。

エプソンさん的にはそんなことありませんか? 「いや、これで間に合っちゃうな」みたいなことがあると、そういう案件はどうしますか?

津田敦也氏(以下、津田):困りごとを改善していくってすごく重要なんですね。それをマッチさせるというところを当然企業人としてはやっていくんですが、もう1つ忘れちゃいけないのは、人は困ってないという前提で考えなきゃいけないということです。

要するに何十年も前の企業が成長していた時代、僕らの先輩の時代はすべてがまだ不足している時代。でも今ってなんでもある時代。その中で新しいものを生み出すというのは、僕はストレートに物を言うので会社のメンバーには、「お客さんは困ってねぇよ」と。

その中で自分たちの価値をどう示して、さらにみんなの幸せになることって何なのかを考えていく。そうすると、意外と必要のないものってないんですよ。それをどれだけ、私たちも客さんも気付けるのかを考えていけば、意外と無駄なことってなくて、まだまだ伸びしろがあるんじゃないかと思っています。

ウェアラブルデバイスは「センス」を実現する

福野:鈴木さんいかがですか?

鈴木健一氏(以下、鈴木):ローテクでできることってずいぶんいっぱいあるんですね。

福野:スマホでいいじゃんっていう意見もありますね。

鈴木:実際に1年半動いている花やしきのやつはインターネット使っていません。端末の中にムービーが入っているだけで、あとはBluetoothのビーコンで近づいたら発火して流れる。以上、終わりみたいな。

でもそれで1年半事故なくバイトの子が運用してますので、ローテクを本当に使われる現場に持っていくのが重要だなという感じはしています。

もう1つ、今までのコンピュータはいわゆる情報とか知識など、インフォメーションのための道具だとすると、電脳メガネはセンスのための道具ですよ、という話をさせていただくことがあります。

例えばおもてなしです。なんで(観光客が)わざわざ京都に来るかと言うと、基本的にはおもてなしという塊をどこかに持って行くことがなかなか難しいからですね。ポータビリティが悪いわけです。おもてなしができる女将さんがいないと、そこに行かないとファシリティがないから行くわけです。

究極的には、おもてなしというのはセンスのことで。おもてなしを文章に書こうと思ったら書けますが、それが的確におもてなしを表しているかというとそうではないですよね。

もしかすると電脳メガネ、ウェアラブルコンピュータは、人間にくっついて人間を補助したり拡張したり動作をカバーしてくれるものだとすると、もしかしたらこれがインフォメーションテクノロジーではなくてセンスのためのテクノロジーになるんじゃないかとときどき思っています。

福野:「Alexa!」とか呼びかけて動くんじゃなくて、感じてくれよと。

鈴木:そうですね。

福野:ウトウトしてたら「ちょっといい曲でもかけるかい?」と言ってくれるようなデバイスがウェアラブルであれば実現可能?

鈴木:そう思います。

福野:実現に近いですね。

100点のものを作るより、まずはベータ版を出せ

津脇:その通りで、マーケットというのはそもそも存在しないですし、ないからこそニーズも最初にいくらアンケート調査しても出ないというのはおっしゃる通りです。

どちらかと言うと、まさに自分が欲しいというものなのか、本人たちが一緒に開発しているチーム自体が同じ想いで「これがあったらいいな!」と思えるかどうかが1番大事なんだろうなと。

そのうえで、それができあがったあとに「マーケットに出す」もしくは「それなりに広がるようにしましょう」となると、たぶんシリコンバレーでも同じことをやってるなと思ったんです。出したあとのアジャイルの調整をみなさん相当やっているような気がしていて。

実際に使う人がどれだけ使いやすくなるかというところで、開発をしている方々と使う側のニーズがずれていたり違うことが多いんじゃないかと個人的に思っています。

そこを相当、調査というか実際に使ってもらって変えていって。まさに先ほど「飛び込んで」とおっしゃっていましたが、実際に作ったあとにそういうしたやりとりをするのはすごく重要なんだろうなと思います。

福野:本当重要だと思います。納めておしまいというか、新しいものであればあるほどいきなり完璧にうまくいくことはないですよね。そこをコミットして完成するまで何回も何回もリビジョンアップして、というサイクルがかなり重要だと思います。

津脇:日本型の製造って、100点のものを最初に作って出すというのが今まで多かったような気がするんですけど。こうやってデータを使ったものを使うというのは、想いを持ってとにかくベータ版を出して。そのうえでそれをみんなで変えていくというところが新しい時代のおもしろいところです。

電脳メガネって、まさにその最先端なんだろうなと。誰が使うか、どう使うかってたぶん最初は想いからスタートして、先にハードができあがって、そこからバージョンアップするというのはおもしろいなと思います。

やってから考えるということ

福野:MOVERIOのバージョン1、2011年に出たときは、本当に素の状態のAndroidだったんですよ。なのでアプリ開発し放題、どう使うかは自由みたいな。あれは熱いですよね。

津田:でも使い方がわからなかった(笑)。

(会場笑)

とりあえずやって、みたいな話だった(笑)。

福野:あれは本当に最高な出し方だと思います。残念ながらオープンデータ界隈でも思うんですが、「それめっちゃおもしろいじゃん」と思って作る人が意外と少ないのと。

最近は変わってきていると思いますが、会社として「これ、本当に市場あるの?」みたいなところで、どんどんシミュレーションを重ねてある程度市場性がなかったらポシャるんですよね。やって考えるということをやらないとチャンスもわからない状態のまま終わってしまう。そういうところがもったいないと思います。

日本全体としてもいよいよお尻に火がついてきたところで、今は困らないかもしれませんが、近い将来困りそうなことは見えつつあると思うんですよね。そういうところがけっこうチャンスな気がしています。

私から国へのお願いですけど、たぶん近い将来あんまりバラ色じゃないじゃないですか(笑)。

津脇:そう言われると悲しいですね(笑)。

福野:いや、変えることはできると思いますけど、今のままだとまずいという危機感はいろんな人からひしひしと伝わってきます。そういう情報を早め早めに出してほしいんですよね。

このままだとこうなる、という状況がわかれば、それによって被害が出る業界もわかるので。そんな人たちに「近い将来こうなるらしいですよ」と。「今のうちから手を打っておきましょう」というかたちで新しいドアノックができていくというか。

その業界の人たちも「このままじゃダメなのか」と気がつくきっかけがあれば、前向きに「じゃあ展開してやっていこう」という人たちも生まれやすくなるんじゃないかと思っているんですが、どうでしょう?

国から伝えたいメッセージ

津脇:一応経済産業省としては毎年産業構造がどうなるかという情報は出させていただいてます。今思っている課題や、今後人口がどうなっていくかですとか、新しい技術、もしくは産業構造がどうなっていくかというところを示してきているつもりではあります。

一方で、日本が今後も課題を抱えているというのは確かなんですけれども、その課題ってどこの国も今後抱えるであろうというものが多いと思っています。その中で日本はいいもの持ってると私は思うんです。

今まで日本は間違っていたとか、仕事の仕方や開発の仕方も含めて、もうちょっとアメリカ型がよかったとか、何型がよかったと言ってますが、実は日本型のほうがよかったとなる可能性も私はあると思います。

それはいいところの出し方が新しい時代にうまく適応できてなかっただけであり、むしろチャンスなんじゃないかと思っています。どちらかと言うと日本の未来に悲しいことを言うよりは、むしろ新しい芽をいかに出していくかということのほうが大事だと思っています。

唯一大きく変えなきゃいけないと思っていることは、今までの戦後の高度成長期のように大きな単位でものを管理してボリュームで経済を戦っていくという時代はおそらく終焉を迎えていて。

いろんなところで小ロットのビジネスが重要になってきているように、これだけ変化が激しい中でいかに当事者意識を持つグループで新しいものを変化に合わせて作っていけるか。そんな産業を作っていく、そんな人材を作っていくことが、今後の経済にとって柱になる。まさにこの電脳メガネもその1つです。

どう次の新しい時代を築いていけるか。それを自分がやりたいと思っているチームをどう作っていくか、直線的な成長をするのではない人たちをどう作っていくかというのが、次の成長戦略だと思っています。

国としては生産性革命と人づくり革命と働き方改革と、みなさんいろいろ非難があると思いますが、セットだと言っているのはそこにありまして。これを我々としてはずっと推していきたいというのが今の想いです。

福野:ありがとうございます。一気に3つ革命やらなきゃいけないということですね(笑)。

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