2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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田中浩也氏(以下、田中):日本人は批評性をどこから調達するか、というのは永遠の課題じゃないですか。
むしろ最近は、タクティカル・アーバニズムという動きがあって……知ってますか? 「都市を住民がつくる」みたいな動きがあるんです。単にゲリラでやるのではなく、自治体の人と一緒になって、市民がやることを自治体が長期の政策につなげていくみたいな。対立を生まないプロジェクトのほうが価値があるっていうモードがあるんです。
でも、やっぱり緊張感がないとおもしろいものはできないですよね。みんなで仲良し、楽しい、みたいなのはどこかで限界に達しますね。
若林恵氏(以下、若林):僕、この前ベルリンに行ってきて勉強になったのは、ベルリンはいくつかの傷を背負っているわけです。戦後ナチスの問題と、東ドイツの問題。それで統合された後に残った荒野としてのベルリンをどうするんだ? という問題意識。
そのなかから、僕が聞いた話で好きだった話は、西ベルリンって基本的には政治上の戦略性しか機能がなかった。産業も全部出て行ってしまっていて、基本、荒廃している。東は東で、めちゃくちゃな監視社会なので、相当厳しくて。「資本主義は悪だ」ということでずっとやってきた人たちが、壁がいきなり壊れたから「じゃあ一緒に暮らしてください」ってなるわけです。
かなりのストレスだっただろうなというのは、行ってみてはじめて思いました。それは例えば、朝鮮半島がいきなり統一したとなったら、最初は「わー!」ってなるかもしれないけど、経済格差がある、文化の違いがある……、それで「どうするんだ?」と。永遠に時間がかかる話だと思うんですよ。
そういうときに、クラブカルチャーが果たした役割が非常に大きかったという話を聞いたんです。しかもそれが「なぜテクノじゃなきゃいけなかったのか」というのは理由があると聞きました。つまり、お互いが、自分たちの歴史を背負わずにのっていける新しい文化だったから非常に意味があるんだということでした。
その1つにデジタルカルチャーがあって、ハッカーとかが入っていったんですね。そういう意味で、パソコンの黎明期に、世間的にはメインストリームじゃない人たちや外国人たちが希望を託すことができたのは、新しいカルチャーだったからです。
それで、いまだにベルリンでは、「資本主義化したクラブはなんの意味もない」って平気で言われているんです。要するにクラブカルチャーというのは、実験的で、常に新しいことをやっているところに価値があるんだと。そこには絶えず緊張があるというか、「なんだこれ?」というものを常に出してなんぼだと。
それって本当にクソもあるかもしれないけど、20年後には価値になるものがあるかもしれない。そこにひたすら賭けていくということ、それをすぐには換金しようとしないということは、なるほどなって腑に落ちたところがあって、おもしろいなと思ったんですよね。
(会場の照明がつく)
田中:照明がついたということは終われというサインでしょ? ちょっと待ってください。あと5分。
2年ぶりくらいのお話ですよね。今度、こういう話をどこで話しましょうか。東京の渋谷で話している限り、資本主義が無意識の前提としてある気がするんですね。京都とかはメトロとか知ってます? 次にどこで話をするかを決めて解散をしましょう……解散じゃないか(笑)。
若林:どこがいいですかね。
田中:エストニアとかいいですかね。
若林:どこがいいですかね。僕が今、興味あるのは、コーカサス地方です。アルメニア、アゼルバイジャン、グルジア(ジョージア)、ウクライナあたりでお会いしましょうか。
田中:じゃあ行きましょう(笑)。調整しましょう。
若林:なぜか、ウクライナとグルジアなどのあの辺りは、ものすごくブロックチェーンをやっているんです。アルメニアはかなり技術力が高いと言われています。地政学的には、EUとロシアの間に入って、すぐ下は中東だし、近くにはトルコがいるので、かなりややこしいんだけど。おそらくすごく未来っぽい話は、もしかしたらその辺りから出て来るのではないかという希望的観測。
田中:ですよねー!
若林:グルジアって、すごく頭おかしい人がいっぱい出てくるんです。スターリンってグルジア人なんです(笑)。
田中:うん。僕、札幌生まれなんだけど、「日本のなかで、そういう空気があるのはどこですか?」と聞いて「北海道」と答えてくれたらうれしいな。網走とかね(笑)。
(会場笑)
若林:網走とか、やばそうですよね(笑)。
田中:もちろん世界はこれだけ狭いから、「来週グルジアで会いましょう」でも全然いいけど。
若林:「熊谷やばい」という話があります。熊谷が、日本のマケドニア化してるというような話を聞きました。要するに、デジタルなものが理念なしに、「とにかく金になればなんでもよくない?」という感じで推移していると……(笑)。蔑みに聞こえたらごめんなさい。
田中:この前ロフトワークのの鈴木さんと、『WIRED』の特集「ものづくりの未来」について話していて、「(『WIRED』は)アメリカから来てるけど、アメリカ以外の国のマルチカルチャーをフューチャーして、イメージを米国一極主義から広げている」ことを話しました。
そこはすごく好きなんだけど、一方で、海外までいかなくたって、やっぱり日本の地方にもそういう片鱗はあるのではないかと思うんです。僕はけっこう日本のファブ施設を回っているんですが、そっちも見ておく必要があると思います。やばいところありますよ。
若林:僕も「米発のメディアで、シリコンバレーっぽい感じって、ちょっとなー……」と思うところが本当にあります。特に去年、今年は世界的には大きな断層だと認識されているんです。
田中:なんという断層ですか?
若林:ブレグジットとか、トランプという話があって。あと、僕らの業界はリーマンショック並みの落ち込み方をしているんです。
田中:雑誌が?
若林:雑誌とかメディア周りとか。金が本当に動かなくなっています。それは今年サウス・バイに行ってもすごく感じたけど、特にソーシャルなものが世界を変えるかもしれないという話で推移してきたのが、10年経って、完全に一回終焉したという認識です。ここから別のイメージをもって世の中をもう一回つくっていかなければいけないという感覚はかなり強くあります。
日本はまったく関係ないんだけど、基本的な考え方としては通底しているわけです。フェイクニュースの話や、DeNAの「WELQ」の問題は完全に同じ話なので。というか、ヤツらがマケドニアだという話なんです。……ヤツらじゃなくて、あの方たちが特に問題があった人たちだということではなくて、構造的な問題があるということです。それで、2017年って大きい年だという認識があるんです。
田中:だいたい100年前と似ていますね。どの世紀も最初の10年くらいは前の世紀の価値観のまま……。
若林:そうそう。僕も100年前とのアナロジーが好きなんだけど、100年前で言うと、今年ロシア革命が起こったんですよね。
田中:そうそう。100年前。
若林:ちょうどダダイズムが出てきて、シュルレアリスム宣言が出たのが1920年代なんです。なので、新しい表現がこれから本当にちゃんと出てこなければいけないタイミングではあります。20世紀初頭にアンドレ・ブルトンが必要だったように、1960年代にジミヘンが必要だったように。
若林:やっぱり僕は、新しいなにかを体現した人っていうのは、人じゃないのかもしれないですけど、見たこともないやつが出てくることを期待したいです。
田中:YouFubもCreative Hack Awardもどちらも、いわゆるファブ施設でみんなでにぎやかに楽しく何か作るっていうのとは、色の違うコンテストですね。
若林:そうだと思う、だからもう少し……。
田中:尖ったやつがほしい。
若林:そう、尖ったやつ。だから、ドストエフスキーみたいなやつが、気持ち悪いものをつくって「うわ、気持ち悪いな!」って言って賞をあげない、みたいな!
(会場笑)
若林:そういうのがいいなーみたいな。「あいつすごいんだけど、ちょっと気持ち悪いよな~!」みたいな人が来てほしい。そして実はそいつが……。
田中:そうですよね。まったくです。ファブは、ファブ自体がマクドナルド化してしまうリスクを常に背負っているので、それを打ち破るのは1人1台マシンをもって改造しまくることなんです。つまり、徹底して技術を個の側からハックすることです。そして集団でロックしてほしい。
若林:そうなんですよね。だからファブの問題ってフランチャイズっぽくなっていて。「そのモデル?」みたいなことが実際にはあるかもしれませんね。うまいとこまとまった……?
田中:時間! 時間によって切断。
岩岡孝太郎氏(以下、岩岡):まとまった感じがします!(笑)
(会場笑)
若林:まとめてください。
田中:モデレーターが最後、美しくまとめてくれます。
若林:期待したいね。
岩岡:若林さんのヒップホップとジミヘンのお話で、ROCKとHACKの違いがすごくスッと入ってきました。田中先生の伝書鳩とApple Iの話も、考えると「どっちがHACKでどっちがROCKだっけ?」というようになっていると思います。
最後、田中先生がファブのフランチャイズ化を止めるのは1人1台3Dプリンターやレーザーカッターを持って、改造しまくること、とおっしゃっていました。AppleI的な文脈でいうとROCKでもあるし、実際それはHACKでもある。メイカームーブメントという台風は過ぎ去ったので、僕らが次の5年といわずその先をROCKとHACKの態度でつくっていければなと思いました。よろしいでしょうか?
(会場笑)
納得いってなさそうですけど、これで終わりたいと思います。田中さん、若林さんありがとうございます。
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