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資金調達市場の今後(全5記事)

メルカリはベンチャー界の“野茂英雄”を目指す 海外展開する日本企業の課題とは?

2015年12月10日、「IVS 2015 Fall Kyoto」が開催されました。セッション「資金調達の市場の今後」では、モデレーターを務めるWiL・松本真尚氏の進行のもと、スマートニュース・鈴木健氏、メルカリ・小泉文明氏、freee・東後澄人氏が、アメリカと日本のスタートアップの環境の違いについて意見を交わしました。

日本のベンチャーは小粒で終わりがち?

松本真尚氏(以下、松本):先ほどのIPOの話のときに、小泉さんがおっしゃったように、今の日本だとアメリカライクなスタイルでやったときの出口のボリュームが小さすぎて。

例えばこのタイミングでうん十億円張ったところで、「リターンのバランスが……」みたいな話もけっこうあったりするじゃないですか?

そういう意味で言うと、日本のいわゆるベンチャーで上場時に(時価総額)1,000億円を超えてた会社って過去何社あります? サイバーダインで700、800億ですよね。

小泉文明氏(以下、小泉):ミクシィが1,100億でしたよ。

松本:上場のときそうでしたっけ?

小泉:はい、そうでしたね。

松本:GREEさんも1,000億超えてない?

小泉:いや、超えてないですね。

松本:おっしゃったように、ルールというかストラクチャーも含めてというところと、僕らはラストファイナンスを含めて、例えばメルカリさんに出資させていただいてるからあれですけど、あと2、3周勝負しようという気持ちがあっても、日本だと正直「このへんが上限かも」みたいのがあったりするじゃないですか? 時価総額という意味も含めてですよ。

我々自身、金融という目線で見ているので、投資に対するリターンというのは、責任も持っていることを考えると、いくつかのHOWを実現させるためにも、ゴールも変えていかないと。

良いも悪いも日本型が育成というか、ベンチャーキャピタルもそうなっちゃってるし、イグジットもそうなっちゃってるし、かつ、それをみんな理解しちゃってるから、良いも悪いも小粒なベンチャーが出やすいというのが今の日本の環境なのかなという気がするんですけど。東後さんどうですか?

ユニコーン企業を目指すための成功事例

東後澄人氏(以下、東後):うちも1,000億というか「ユニコーンを目指していくぞ」ということを考えていて。

とくにうちみたいなビジネスモデルだと、先行投資型なので、利益を出しにいこうとするとやっぱりマーケットを取りにいけないんですよね。

そこがけっこう相反する部分なんですけれど、そこに対して投資家から期待値と事業の実態というところが合致しているかどうかというのはすごく大事で。

やっぱり目指しているところを高く持って「ここまでいくんだぞ」というところをちゃんと意思として持ってやっていこうとすると、それに必要な資金調達計画というのが必然的に出てくるんですよね。

そこを、最初に持った意思をぶらさないでやっていけるかどうかが、本当に小粒で終わるのか、けっこう大きいところを目指していけるのかの大きな違いになるんじゃないのかなと思っています。

でも、途中でやっぱりいろんな環境変化があると、なかなか初志貫徹が難しいと思うんですけど、それをやりきれるかどうかというところなのかなと思います。そういう事例が出てくると、たぶん流れが変わると思うんですよね。

ベンチャー界の“野茂英雄待望論”

小泉:事例ですよね。正直そこの責任は重いなという気はしますよね。やっぱりそういう会社が1社でも2社でも出てくると変わってきますよね。

基本的には、見たことがないものって不安だったり信じないので、そういう投資はしてくれないと思うんですけれども。

ここにいる3社が頑張ってそういうものを実現していったら、たぶん投資家さんもリスクを取れる幅がぜんぜん変わってきますし。「あのときのメルカリのタイミングで、リスク取らなきゃダメだったよね」みたいな。投資できなかったVCの方もまたポジティブになっていったりすると思うので。けっこう事例が大事。

日本の企業がアメリカで成功することを考えると、“野茂英雄待望論”ってネット業界にあるじゃないですか?

野茂がチャレンジして成功する前はみんな無理だと思っていたけど、「投げてみたら野茂はやっぱりすごかった」みたいな。メルカリはそういう存在にはなりたいなというのは思ってますね。

鈴木健氏(以下、鈴木):まったくそのとおりですね。アメリカでこれだけいろんな方法が進んでいたり、大きなファンドができるというのも、結局のところ、圧倒的に大きな成功事例というのが過去にいくつも起きていて、「同じようなことは2度、3度起きるだろう」というところで、そういうファンドが組成されてるわけですよね。

現状、日本からそういうのはあんまり出てきていないわけなのですが、そういうなかで、LPの方を説得するのは大変です。

僕もファンドをやってたんでわかるんですけど、ファンドの立場からすると、投資するほうは半分で、実はLPの方からお金を集めたり、預かったり、報告したり、説明したりとかいろんな責任があるわけなので。

あとは最終的には回収して、お金をお返しするというようなことになるので、大変なわけですよね(笑)。僕も自分でファンドをやったときに、「大変なんだな」というのが初めてわかりました。

成功事例がないので、説明できないじゃないですか? ところが図抜けた存在というのができると、それが説明しやすくなるというのがあるので。そこはもう誰かがいくしかないから、頑張っていきましょうという。

松本:誰かじゃなくて?(笑)。

鈴木:僕らが(笑)。僕らがやっていくしかないかなという覚悟で取り組んでいます。

アメリカのセカンドマーケット・雇用の流動性

あとイグジットの方法というところで、当然日本はIPOがしやすいですが、一方で数年前からM&Aも増えてきていて、そういう意味ではすごくいい傾向にはあると思うんですけれども。

アメリカでもう1つ「5番目のイノベーション」と言ってるのは「セカンドマーケット」なんですよね。そこがすごく流動化してる。

逆に言うと、シリーズAとかBで投資したファンドとか個人の方も、セカンドマーケットで売ることができる。IPOが伸ばしても、既存の投資家が嫌がらないというスキームが逆にセカンドマーケットの存在でできてるわけですね。

もう1つ重要なことは、例えば2年とか3年働いた社員の方もストックオプションを株にして、セカンドマーケットに売るということもできるわけなので。そういうところも含めて、転職しやすくなると。

だから、ダメになったユニコーンとかにずっと長くいる必要はなくて、1年いればすぐべスティングされているわけなので。辞めてまた違う小さいベンチャーに移るみたいな。雇用の流動性みたいのがエコシステム全体として成立してるわけですよね。

ところが、日本だとストックオプションなどのストラクチャー上、まだ流動性が下がる方向でスキームになってるので。

そのへんってもっと変えていけると、個々のプレーヤーから見たときには、実は損になるんですけれども。エコシステム全体では、そのほうがみんながハッピーになるというところなので。それはある種、業界を通じてみんな取り組んでいったほうがいいかなと思います。

小泉:これも仮屋薗さんに(笑)。ストックオプションの設計は、ある程度税制優遇のSOを組み合わせるとけっこうガチガチになっちゃうので、変えたいなというのはいつも思いますね。

そこを含め、ファイナンスもすごい大事ですけど、どうお金を使っていくかみたいなことをいうと、人へ投資する部分とか、マーケットに投資する部分があると思うんですけれども。

日本は人の流動性が低いので、そこは一番課題かなと思っていて。お金を調達しても結局、「実は採用が回りません」みたいなケースが多いですね。

採用におけるストックオプションの重要性

松本:もしかしたらお二人とかそうかもしれないですけど、海外に展開しなきゃいけないときに、日本の会社でストックオプションを発行してて。「アメリカ人雇いましょう」といったときに、けっこう苦労されるんじゃないかなという気がするんですけど。そのへんはどうですか?

小泉:そこは一応SOをちゃんと設計してるんですよね。このノウハウも実はあんまり今までになくて。

僕らもすごいいろんなところと話して、セカンドオピニオンを取りながら、一生懸命制度設計をしていて。実はスマニューさんと今意見交換をして、同じような雛形でやり始めてるという感じです(笑)。

ただ、IPOの前のSOって採用にすごい効くので。ここをもう少しやっていきたいというのはやっぱりありますね。

でも、そのへんは、僕らが成功すると、この雛形は別にオープンにしてもいいと思うので、そうすると各社さんがグローバル展開するときのSOのベースはこれ。「日本の税制優遇を満たせて、海外だとこれがいい」みたいなのをどんどん作っていきたいとは思ってますね。

鈴木:結論から言うと、日本の会社のストックオプションに対する、アメリカ人の拒否感はほとんどないです。

ただ、制度設計上若干の制限というか守らなきゃいけないところがあるので、そこだけ注意して設計しないといけないというだけです。そういう意味では、アメリカのメンバーの採用には効きます。

松本:どうですか? 今、人の話の問題をやってますけど。

ストックオプションを全社員に発行する理由

東後:ストックオプションは本当にすごく重要だと思っていて、freeeでも当然発行しています

お二人にもお聞きしたいんですけど、ユニコーンを目指してやっていこうとすると、非上場の期間が長くなっていくなかで、ストックオプションを採用だったり、人事制度のなかでうまく活用していくときに、そういった点で工夫されてることとかありますか? 工夫も何ももないのかもしれないですけどね。

小泉:うちは全社員にSOを発行するというポリシーなんですよね。ある程度シリコンバレー風ですね。カスタマーサポートの女の子でさえ、ちょっとですけど、SO持ってたりするというところでいうと。

SOは採用にはすごい効きますし、やっぱりコミット感というか。そこはすごい大事かなと思っています。カスタマーサポートの女の子でさえ、すごい必死にプロダクトの改善提案とかのメールが来たりとか。

あと、アメリカの採用で言うと、よく言われるのはオーナーシップ感を持てる「比率が欲しい」みたいな話もあるので。けっこうそのへんはサラリーより踏み込んだというところで一緒にやっていくという意味では大事かなと思いますね。

鈴木:僕の印象だとストックオプションに価値を感じてくれる人もいるし、まったく興味ありませんという人もいます、という感じですね。

やっぱりそれって、自分の友達とかで「ストックオプションで財産を築いた」みたいな人が日本って少ないじゃないですか。

松本:さっきの事例の話ですね。

鈴木:記事で読んでもまったくリアリティがないわけですよね。「自分の友達が……」みたいなやつがやっぱり大事で。

よく「日本人がシリコンバレー行くと、みんな起業する」というのと同じ現象なのですけれども、周りでみんなそういう感じだと感化ことってやっぱりありますよね。そういう意味でいうと、うちも全正社員に発行するスタンスでいます。

SOによる成功事例が生まれると、次のジェネレーションや、その友達に好印象をもたらすようになると……たぶんエコシステム全体が、だんだんジェネレーションを重ねていくに連れて好転していくじゃないですか。

何倍にも何倍にもというふうに。そういう社会にしたいなと思っていて。「ストックオプションに価値を感じないのか。そうか、でも出すね」みたいな感じでやってます(笑)。

松本:今、資金調達の話というよりはやっぱり組織論とか人事のほうの話のほうがたぶんなれてらっしゃるから。CFOじゃないからたぶんそっちの話のほうが盛り上がっちゃうんですけど(笑)。

東後:そっちのほうが課題意識が高いから(笑)。

松本:そうなんですよね。たぶん会社としての課題はたぶん一番大きな課題かもしれないですもんね。

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