2024.10.10
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三浦宗一郎氏(以下、三浦):教育という言葉から連想されるのは、やっぱり学校かなと思います。あらためて学校ってどんな場所なのかをみなさんと考え直せたらと思っております。
ゲストは糸井重里さんですね。「ほぼ日の學校」というサービスも3年前に始められていて、学校について一度ちょっと話した時に、めちゃくちゃ楽しくて、そんな話をみなさんにも共有できたらうれしいなと思っております。
超ダメ元で勇気を出して、みんなでパソコンを囲みながら「お願いします!」って(糸井さんに)メールを送ったら、出てくださることになりました。それではみなさん、拍手でお迎えください。糸井さん、よろしくお願いします。
(会場拍手)
三浦:よろしくお願いします。
糸井重里氏(以下、糸井):よろしくお願いします。
三浦:どうですか?
糸井:ええ!?(笑)。困ったんですよ。学校や教育という話じゃないですか。(会場には)先生やってる方が多い気もしたし。
三浦:そうですね。
糸井:何を着てくればいいんだろうと思って。
(会場笑)
三浦:服装! 確かに。
糸井:客席見たらそんな感じだったんで(笑)。
(会場笑)
糸井:今日は一応襟がついてるんですよ。
三浦:本当っすね。
糸井:最近はあんまり襟はついてないんだけど。
三浦:はいはい。確かに。
糸井:これが精一杯というか、いっそスーツにするというやり方もあるんでしょうけど。
三浦:僕はこれ(Tシャツ)で精一杯ですから。
糸井:あなたは考えない人だから。
(会場笑)
三浦:いえいえ(笑)。
糸井:その考えなさと一緒にやるのは助かるよね。「どうせあいつTシャツだから」って、もうわかってるんで。「糸井さんです」って呼ばれた時に、どういうふうに見られてるのかなって考えるんです。やっぱりスーツを着てた時のほうが、街で声をかけられたりすることは多いんですよ。
三浦:あ、そうなんですね。
糸井:Tシャツでいると、ラーメン屋の列に並んでても別に普通なんですよ。
三浦:へえ!
糸井:だから服って、その人に求める何かが表現されていると思うんだけど。
三浦:なるほど。
糸井:今日はそんな話をしに来たわけじゃないんですけどね。
三浦:そうですね。ずっとこのまま服の話をしようかなと。
糸井:「自己紹介を」って言うから、そういう人間ですということで。
三浦:ぜひ。
糸井:だから本当に今日もTシャツでいます。教育の話をするのも、Tシャツの人同士がしゃべるようなことなんでしょうけど。さっき控え室でちょっとしゃべったんですが、Tシャツ側の人たちは、よく「学校なんか」と言うんですよね。
「学校なんかろくなことを教えない」とか「俺は学校で何も良いことがなかった」とか「勉強のできる奴はこれだから困るよ」「先公がよ」とかさ、いろんなかたちで教育に対して斜に構えるじゃないですか。
三浦:はい。僕もそうでした。
糸井:そうですか。僕もそういう時期はあったんですよ。でも「あの先生がいたから自分は楽しかった」という大好きな先生が、小中高といつもいたんです。先生については今でも思い出すし、本当に感謝してるんですよ。
三浦:糸井さんに感謝される先生、すごいっすね。それはどんな感謝なんですか?
糸井:小学校5、6年の担任だったおばあちゃん先生なんだけど、自分のことをちゃんと思ってくれてる気がしたんですよね。教室を班に分けて机をかたまりにさせて、班のリーダーを1人決めて、授業もそのかたちで聞いてたんですよ。
なんかうちのクラスだけ変わってるなと思ったんだけど。「わかんない子がいたら(教えて)、みんながわかるようにしましょう」というやり方で、僕は当時はまだ勉強ができる子だったんで、それが楽しかったんですよね。
糸井:「できる子は偉くて、できない子は偉くない」と先生が思ってないのが伝わってきて、それがとても良かったんです。ポイントポイントで今でも思い出すようなエピソードがあって、例えばその先生はおばあちゃんだから、体育の授業は他の先生に変わってもらうことがよくあった。
だけど、たまにその先生がやらなきゃならない時だってあるじゃないですか。砂場のこっち側に鉄棒があって、跳び箱があって「跳び箱をやりなさい」なんて言ってピョンと跳ぶ。それで女の子たちが飛んでる時に、急に「女の子!」と怒鳴ったんですよ。「なんでそんなにヘラヘラしながら飛ぶんだ」と。
三浦:ほう。
糸井:男の子は怒られていないんだけど、怒られたような気になるじゃないですか。
三浦:しますね。
糸井:珍しく女の子が怒られているぞ、と。(それで先生が)「女の子はみんな跳び箱の前に並べ。男の子がこれから飛ぶから見てろ」と言ったんです。「男の子はすごく真剣に飛んでいる。女の子は『飛べなくてもいいや』みたいに飛んでる」と。
三浦:はいはい。
糸井:「そういうのが一番いけないんだ」と言って、男の子が飛ぶのを女の子みんなに見せるんですよ。
三浦:(笑)。ちょっと気合い入りそうですね。
糸井:そう。男だから女だからってこと以上に、「俺たちは真剣に飛んでたのか」と男は思うし、「そうじゃないものを先生は怒るんだ」というのもあるし、いろんなことをやってた人だけど、その急に怒った時のことを今でも思い出します。
僕自身がちょっと事情のある子だったんで、今思えばその先生が目をかけてくれてたんだなと思い出せるんですよね。すごく怖い先生だったんだけど、家が近所だったんで、卒業してから遊びに行くとすっごく優しいのよ。
三浦:へえ。
糸井:まず会いたいのが小学校の先生。中学は、僕は進路指導を受けてる時に、「糸井には向いていないと思うよ」と言われたんです。進学校を受けるつもりでいたんだけど。
三浦:はいはい。
糸井:「行ってもいいけどなあ。俺はお前にちょっと似てたんでわかるんだけど、あの学校はみんな勉強ばっかりしてるぞ」って先生が言うわけ。「あの高校に行きたければ行ってもいいかもしれないけど、よしてもいいかもな」と言ってくれて、なんて本当っぽいことを言うんだと思いました。
三浦:うーん、本当っぽい。
糸井:あるとき、生徒会室の引き出しにその先生が忘れた手帳があって、どのくらいパチンコで負けたか書いてあるのが見えてしまって。
三浦:(笑)。
(会場笑)
糸井:ほかにも「なんとかに振られた」とか、けっこう切実なことを一行ずつ書いてあって、「人間がやってるんだ」というのがわかるんです。
三浦:うわー、なるほど!
糸井:いいでしょう?
三浦:確かに、先生って人間っぽくないなと思っちゃう。(自分とは)別の人という感じがすごくする。
糸井:そう。
三浦:その先生の緩んだ瞬間を(見たんですね)。
糸井:そう。でも僕はその先生が好きだったし、先生がやっていた技術家庭科の授業も楽しかった。「すごく好きな先生がしょうがない面をもってる」というのを見た時に、軽蔑もしなければ嫌いにもならなくて、むしろ仲間になるんですよ。そんな先生がいたのが中学の時の思い出です。他にも高校になったら憧れの先生がいて、これは元文芸雑誌の編集者だった人でした。
三浦:へえー!
糸井:太宰治の担当だったんですよ。
三浦:ほう!
糸井:だから太宰治と会ってた人なんですよ。『太宰治全集』の中のいくつかに、「亀島君」という名前が出てきたりして、その先生の授業はとにかく、授業から外れた内容でも、もうずっと聞いていたいんです。
やっぱりみんな卒業してからも、先生のところに遊びに行くのがすごく楽しみで、先生もよく付き合ってくれたと思うんだけど。馬鹿たちが行って話を聞いてくれて、それは全部、「先生がいなかったら自分はこうならなかったな」ってことだらけですよね。
三浦:確かに。僕は中学校2年生の時の先生に、「なんで先生やってるんですか?」と聞いたら、「先生って職業ほど人の記憶に残る仕事はないんじゃないか」という話をされました。その先生はちょっと太っちょで、いっぱい汗をかいてて、ここ(胸ポケット)にいつもわかばの煙草を入れてた先生で。それが格好よく見えちゃったんですよ。
それで先生にちょっと憧れちゃって、まさに先生という仕事のすごさは、大人になった今、ようやくわかることもいっぱいあるなと、ひしひしと思います。
ちょっと学校の話もしたいんですけど、ぜひみなさん、「あなたにとって学校って何ですか」というのをコメントに書いていただけたらうれしいです。
(糸井さんは)「ほぼ日の學校」を始めたじゃないですか。
糸井:はい。
三浦:ほぼ日さんって、アースボールやカレーや本当にいろんなものを作っていて、糸井さんご自身もキャッチコピーや、いろんなものを作ってらっしゃって。その糸井さんが「ほぼ日の學校」を始めたのはどうしてなんですか?
糸井:やっぱりさっきの三浦くんの話じゃないけど、学校の勉強だけをカリカリしてた人たちの嫌さも知ってたんで、そういう人を迷惑に思ったこともあったし、自分としては「学校なんか」という側に、足突っ込んでたわけです。
基礎的な授業から学んだことよりも、興味を持ったことをもっと知りたいと手を出していったのが、今の自分につながってるという気持ちがあって。大人になってからの自分を考えると、「俺、ちっとも勉強が嫌いじゃないな」と、けっこう若い時に気がついたんですよ。
糸井:あんなに「嫌だ嫌だ」って言ってた勉強は、言ってみれば『ドラえもん』でのび太が「勉強しなさい」と言われている勉強ですよね。
そうじゃなくて、例えばコピーライターになったばっかりの時に、若いコピーライターが1人しかいない会社に勤めてたんで、仕事をする時に使う資料も全部自分で買いに行ったり揃えたりするわけです。それで20歳ぐらいの駆け出しの時に、女性の下着の広告があったんですよね。
三浦:ほう。
糸井:ブラジャーを買ってくるところから始まるわけです。
三浦:まずは。
糸井:それはもう「やれ」って(会社から)言われて。困るじゃないですか。
三浦:困りますね。
糸井:「仕事で使うんですけど」って言いながら買うんですよ。
(会場笑)
糸井:何に使うんですかね。
三浦:そうですね。ぜんぜん想像できないですね。
糸井:当時、事務所が表参道にあって、銀座線で銀座まで行ってデパートで買ったんです。それで、その時のことは恥ずかしい印象ばっかり残ってるんだけど、「そうか。おっぱいはカップで量るのか」っていう。
三浦:買ってわかるんですね。
糸井:そう。みんな高校生とかが「バストが何センチ」とか「Bいくつ」とかってキャーキャー言うじゃないですか。買うプロセスの中で、それよりも「カップっていう容積で測ってるんだ」と。
(会場笑)
三浦:はいはい。そうなんですね。
糸井:容積だと知った途端に、興味が出ておもしろくなってくるんですよ。ああ、俺らは容積に憧れてるのか、と気づく。
三浦:容積に対する憧れがね。
糸井:そうですね。だから昔は何カップというのは知らなかった。
三浦:確かに。
糸井:センチだったんですよ。
三浦:確かに。カップって言葉としてわからないですよね。
糸井:今言っていることは、これは勉強なんですよ。どういう世界かを知って、その中に行って泳ぐみたいなことが、書いたり考えたりする時に必要なんです。これができないと、「〜とは何か」みたいなのをいくら調べてもダメで。サッと「容積」というところに行った俺が、センスが良いんだけど(笑)。
三浦:なかなか行けないですよ。
糸井:勉強ってそういうことなんですよ。それはぜんぜん嫌じゃないわけ。もう何やったっておもしろいんですよ。
三浦:地続きな感じですか?
糸井:地続きな感じがする。だから自分の興味や心が動くとか、知ってることが増えた途端に知らないことも増えるとか。
三浦:うーん!
糸井:そういうことが仕事に、今すぐじゃないけど直接つながっていくわけですよ。そういうことが知りたいから本も読みたくなるし、人の話も聞きたくなる。例えば同じトマトを作るにしても、ある人は絶対に枯らさずに作れるとしたら、「なんで?」と思うじゃないですか。
理科で「トマトの肥料はリン、窒素、カリウム」なんて習ってもピンと来ないわけですよ。それで今度は(うまく作れる人から)「どうやってんの?」と聞かれますよね。うまくいってない側としては、そう聞かれた時に「あ、俺は聞かれても答えられないほど(何も)考えてなかったんだ」ってことがわかるわけ。
三浦:はいはい。
糸井:考えてなかったこととか、知らなかったこととか、知ってる人との距離とかを毎日のように知るわけですよね。それは難しい本に手を出す時もそう感じる。例えば僕はぜんそくだったんだけど、ぜんそくになると「免疫とは何か」という勉強をしたくなるんですよ。
免疫というのは、ホコリとかカビを他者だと思って排除するわけです。「これはオッケーだよ」と通らせたら健康なんですけど、アレルギーの人は「大変だ。来たぞ、他人だぞ」と、そのアレルギーの元になるものをバリバリに攻撃して焼け野原にしちゃって、それが鼻水になったりするわけです。
三浦:なるほど。
糸井:こんな話してもしょうがなかったですね。
三浦:いえいえ。
糸井:でも、そういうことを知りたくてやるのが勉強なんで。
三浦:確かに。
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