2024.10.10
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三浦宗一郎氏(以下、三浦):さっそく第1セッションに移っていきたいと思います。第1セッションは、作家の水野敬也さんをお迎えして「『夢』を考えなおす」というテーマでいきたいと思います。
このテーマについては、特にキャリア教育とか学校や家で子どもたちとしゃべったりする時に「夢ないの?」とか、「将来の夢は何?」みたいなコミュニケーションがよくあって。
実際にいろんなところで「夢って何ですか」と聞かれるんですけど、僕的には夢ってすごくパワーがあってすばらしいなと思いつつ、「夢があることで苦しい」「夢がないことで苦しい」みたいな夢の影の部分もあると思っています。それで夢を考え直したいという思いで、一発目のテーマにしました。
『夢をかなえるゾウ』という本を知っている方ももちろん多いと思うんですけれども、この本を書かれている水野敬也さんにお越しいただいて、「夢、どうすか?」みたいな話を聞けたらと思っております。
三浦:それではさっそく、水野さんをお迎えして第1セッションを始めたいと思います。みなさま拍手でお迎えください。水野さん、よろしくお願いします。
(会場拍手)
よろしくお願いします。
水野敬也氏(以下、水野):よろしくお願いします。水野敬也です。
三浦:よろしくお願いします。
水野:じゃあ座らせていただいて。
三浦:思ったよりけっこうちゃんとしている……。
水野:そうですね、やっぱり先生方がいらっしゃるということで。教育者の方を集めて、さらになにか教育じみたことを上から(話すなんて)、なかなかないですよね。
三浦:ないじゃないですか。(教育者の方に)何かを教えることはできないので、それは諦めようということで、教える気も伝える気も正直サラサラないというか。
水野:じゃあ何をやるのという(笑)。
三浦:ぜひみなさんには文脈の中から学びを摘み取っていっていただけたらなと(笑)。
水野:(笑)。自分で学べみたいな。
三浦:はい。
水野:なるほど。今僕は4人目の子どもが生まれたんですけど、先生方にはすごくお世話になっています。一番上の子は小学2年生なんですけど、学校に授業を見に行ったりさせてもらっていると、もう本当に感謝しかないというか、大変だろうなと。
いろんな子がいろいろやる中で、今は多様性というものが押し寄せていると思うんですよ。昔だったら(授業中に)席を立つ子に対して「おいおい!」と言っていたけど、(今は)ちょっと泳がせるみたいな。
「でもやっぱり邪魔するから、どうしようかな。ちょっとこれ、(そのままにして)見てみようか。でもあまり時間もないし」みたいな。すごいプレッシャーの中で(やっている)。
三浦:もうパニックですよね。
水野:それをうまくやられているので、本当に尊敬をしております。ありがとうございます。
三浦:ありがとうございます。今回もご協力をいただいております。
水野:ぜんぜん関係ないですけど、最近あった話してもいいですか?
三浦:じゃあいったん、ぜひみなさんに「あなたにとって夢って何ですか」というのにコメントを入れていただいている間に、(水野さんの)関係のない話を聞きたいと思います。
水野:これは先月に起きた話なんですけど、小学2年生の娘の授業参観に行ったんです。(娘の)先生がまたすごく良い先生で、うちの娘は(テストで)100点を取るような子じゃないんですけど、「勉強って楽しいよね」と(いう気持ちで)、ちょっと青100点(にしてくれる)みたいな。
三浦:青100点?
水野:ちょっと直して100点に持っていくことなんですが、答案用紙を見ると、どんどん100点に寄せていく感じで、すごく優しいんですよ。そのすばらしい先生の授業を見ながら、もう本当に最高だなと思っていたんですけど、ちょっとある事件が起きました。
三浦:事件?
水野:「夏の風物詩を言おう」みたいな感じでみんなを当てていくんですけど、先生が1人当て忘れちゃったんですよ。それでその(忘れられた)子が泣いてしまって、その子のお母さんとおじいさんが来ていたんですけど、おじいさんがブチギレて。
三浦:「当ててないやろ!」みたいな?
水野:「うちの孫どうなってんねん!」みたいな。
三浦:その場で?
水野:その場で先生に向かって、「ちゃんとしてくださいよ!」みたいな。それで俺はすげぇ気になってきて。子どもたちの前で権威がある先生をさらに上からドーンッて言うって、一番やっちゃ駄目じゃないですか。
三浦:そうですね。
水野:部下と上司がいる場で、その上司に対して社長が言うみたいな状況がすごく気になってきて、どうしようかなと。でも、ここで揉め事を起こすのもなと思って、20分ぐらいもう授業なんて(頭に)入ってこないんですよ。
三浦:どうするかと(笑)。
水野:今俺は何をすべきかと考えた時に「いや、これは言おう」と思って。もう20分ぐらい経っているので忘れているかもしれないけど、その授業中に「ウワー」って言ったおじいさんに対して「ちょっとすみません」と呼び出して。
三浦:マジですか。
水野:「あの、先ほどのあれなんですけど。いや、気持ちはすごくわかるんですけど、やっぱり子どもたちの前でバーって言うと、先生もちょっとやりづらいというか。授業が終わったあとたぶん先生が謝りに来たりすると思うんですけど、それを踏まえて対応してもらえませんか」みたいな。わかります?
三浦:めっちゃ優しいですね。
水野:そのあとそのおじいさんが職員室に行って、先生を連れてきて「こんなことがあった」みたいなこともちょっとやっていたので。
三浦:なるほど。
水野:「ちょっといいですか。今あなたのやっていること、どうなんだろう」みたいに言ったわけですけど。そしたらおじいさんからめちゃめちゃ反論がきて。
三浦:ほう。それにどう反論するんですか。
水野:「今日は授業参観の日だ。この日に問題が起きるというのはどういうことか、わかりますか。これは氷山の一角かもしれない」と。
三浦:なるほど。
水野:「授業参観という絶対にミスしちゃいけない日にミスを起こしたということは、毎日ミスが起きているかもしれない。私はこれを防がなきゃいけないんだ。これはあなたの娘さんにも関わってくることなんだ」と、バーッて(言って)くるわけですよ。
僕も喧嘩腰じゃなくて、もうすごい丁重に対応して。「気持ちはわかります。ただね」と。先ほど言った、部下と上司がいるところにいきなり社長が来て、(上司に上から)言ったら上司がやりづらいと。
そうしたらその人は、「いや、その上司の能力が低いんじゃないですか」と言って、また議論になっていくんですよ。どこかでわかり合えるかなと思ったんですけど、その人はまったく意見を変えずに、最終的には「あなたの娘のためなんだ」と言ってくるので、「いや、ちょっと待て」と。
「あなたのやったことは先生のモチベーションを下げる。その結果、うちの娘に対する教育も低下する。あなたのやったことは、最終的に私の娘にとってマイナスです」と言った時に、もう完全にモンペ(モンスターペアレント)の2人になっているんですよ(笑)。
(会場笑)
最初は正義感から入ったのに、最後はモンペの2人が教室の片隅で議論しているんです。
三浦:(笑)。それは教室の片隅だったんですね、すごいな。
水野:(教室の)ちょっと離れたところで(議論しながら)、「なんだこれは」と(思いました)。ただ僕が本当に言いたかったのは、この先生はすばらしい先生なんだけど、あなたが足を引っ張っている。でも、その人の話を聞いたら(自分の)孫を守ろうとしていたとわかりました。彼はそれだけを考えていた。
僕はそれにはすごく共感できたので、最後は握手したという。意見はぐちゃぐちゃですけど、モンペ同士という共通項も見つかりましたし。
三浦:良い話なんですか?
水野:(笑)。これは誰にも言えなかった。そんな事件が起きているなんて先生にももちろん言えないじゃないですか。でも、教育者というのはもう板挟みで大変だなという話ですよ。
三浦:そうですよね。
水野:それをちょっとなんとかできないか。その(板挟みの)板の1個を取れないかと思ったら、ただモンペになっていたという。
三浦:なるほど。
水野:「あなたが大声で言ったことは、うちの娘にとってはマイナスなんだ!」というのをちょっと興奮して言っているみたいな。
三浦:ここでその議論をちょっと見たいですけどね。
水野:本当に隅っこのほうでそうしていました。(相手の方は)おじいちゃんなので、孫に対してだったんですけどね。
三浦:なるほど。でも言いたくなる気持ちもわからなくはないですよね。
水野:わかるし、先ほどおっしゃったけど、「答えがねぇな」って思いながらその日は帰りました。
三浦:今日は「答えねぇな」という空気でずっとやっていきますから。
水野:夢とはぜんぜん関係ないんですけど、最近あった、本当に誰かに聞いてほしい話だったので。
三浦:ありがとうございます。学校の先生って、親御さんもそうですけど、良くも悪くも本当に一言で子どもに大きな影響を与える力がある。
水野:本当にそうですよね。
三浦:だから「夢は何?」という何気ない1つの問いに(子どもが)答えられなかった時に、「夢がないのって駄目じゃね」とそれとなく言われているように捉えられてしまったりする。
水野:いやぁ、ありますね。娘の保育園の卒業式でも、前に出て「私の夢はこうです」みたいな、夢を発表する時間がやっぱりありました。でも、「それって言わなきゃいけないのかな。なくてもいいじゃん」と思いました。
卒業式の晴れ舞台で「私の夢は将来こうなることです」と言うことがすごく良いものである、という。でもやるほうの気持ちもわかるし、「いやムズイな」という感じで見ていましたけどね。
三浦:なるほど。実際にコメントにもありますね。
水野:すみません、僕が完全な余談をしている間にめちゃくちゃコメントが来ていますね。
三浦:いやいや。
水野:すごいコメントが。
三浦:でも「学校で善とされる夢は、呪縛のようで苦しいものでした」という声もありますし。
水野:いやでも一方でね、夢ってすばらしいものなんですよね。
三浦:そうですよね。だからまさに水野さんの『夢をかなえるゾウ』は、名刺のような本だったりもするのかなと。
水野:そうです。『夢をかなえるゾウ』は、今はシリーズで5冊出ているんですけど、本当に夢のすばらしさと負の部分を両方扱っています。やっぱり人間もそうですけど、出会って恋をする時って、マイクで言ったら(マイクの先だけを見ながら)もうここしか見ていない。
でも、付き合って一緒に生活すると、(マイク全体をいろいろな角度から見ながら)こう見るわけじゃないですか。
三浦:確かにそうですね。いろんな側面が見えてきますからね。
水野:「あっ、こういうところがあるんだ」という。サザエで言ったら下の苦い部分がないとうまい部分もないとか、苦い部分も食べ方によってはおいしいとか。やっぱり夢もそういうものなんですよね。
三浦:その1作目は何年ぐらい前なんですかね?
水野:2007年なので16年前ですね。ちょうど8月で、夏でしたね。
三浦:今の『夢をかなえるゾウ』は4まできていますかね?
水野:『夢をかなえるゾウ0』があるので、今は5冊目なんですね。
三浦:水野さんの中で夢の捉え方や扱い方は変化していますか?
水野:いやもうぜんぜん違っていますね。僕は大学を出たあとに就職しなかったので、『夢をかなえるゾウ』を出す前は、けっこうフリーターみたいなことをやっていたんですよ。
でもやっぱり本を出したくて、「今本を出している人やがんばっている人もいる中で、自分はバイトをしているわけだから、まずは本を書く時間を確保しよう」と。ということは、(1週間のうち)5日は本を書きたいなと思ったんですよ。
そうしたら、アルバイトでは2日しか働いちゃ駄目で、マックスで2日働いて、生きるための最低限の金額を稼ごうと思ったんですよ。その時は東京でルームシェアをして生きていくのに10万円と試算したんです。
でも出版社の人の電話が取れなかったら本が出ないので、その10万円の中でも一番大事なのって、通信費だったりするんです。
最初は大事な通信費を確保して、食費とかはバイト先のまかないを残した人のぶんまで全部持って帰ってきて、冷凍庫にぶち込んで。だから、ほぼ鶏肉しか食べていなかったんですけど、意外といけるんですよね。そういう感じで10万円の中で生活していた時に、夢がめちゃくちゃ俺を支えてくれたんですよ。
三浦:なるほど。
水野:一食50円ぐらいの冷凍したまかないの鶏肉を週6日食べている時も、ちょっと『情熱大陸』の音楽を流したりして、「そんな時あったな」って未来の俺が振り返っているみたいな。
三浦:なるほど、当時からそれをやっていたんですね。
水野:そうですね。
三浦:ちなみに当時の水野さんの夢は何ですか?
水野:やっぱり本を出すことですね。それも経緯があるんですよ。将来どうしようかと悩んでいた時に、たまたまそのバイト先に川尻さんというチーフがいたんです。その人はめちゃくちゃ頑固親父で昔気質なので、新しいバイトが来るたびに、ちょっとイラッとするともう包丁バーンみたいな怖い人でした。
三浦:包丁バーン?
水野:もうすごいんですよ。
三浦:昔気質で包丁バーン……。
水野:いましたよね? いないですか?
三浦:たまにね。
水野:そう、怒るとすぐ包丁をこう向けるみたいな。
どんどん新人が辞めちゃうので「これはいかん」と。「ずっと俺が皿洗いさせられる」ということで、『川尻チーフ完全攻略マニュアル』というのを勝手に作って、その店の厨房に置いておいたんですよ。
三浦:天才や(笑)。
水野:川尻チーフはなんで包丁をバーンってやってくるかというと、イライラしているからですと。じゃあどういう時にイライラするかというと、オーダーが立て込む時ですと。
じゃあオーダーが立て込んでいない時にいかにコミュニケーションをとるか(が大事です)。だから立て込んでいない時は「巨匠、オーダー入っちゃいました、すみません」みたいな。でも一定以上のオーダーが入っている時は、こういうギャグは絶対やるな、包丁が飛んでくるぞと。
三浦:今じゃないと。
水野:今じゃない。今はもう、サッと「オーダー、ピラフです。失礼します」と言って、時間のある時にちょっとコミュニケーションをするようなマニュアル本を作ったんですよ。
三浦:すごいな。
水野:そこにちょっとギャグとかもあったり。僕は1回そのバイト先を辞めてまた戻ったりしているので、辞めた時に川尻さんが僕のためにでっかいステーキを焼いてくれたんですけど、ちょっと泣けるようなそのステーキのコラムを書いたりして。もうその時から『夢をかなえるゾウ』の原点みたいな笑いと泣きがあったんです。
それがめちゃくちゃお客さんに受けて、姉妹店もコピーしてお客さんがみんな読んでいました。自分が何者にもなれない時に「文章を書くことがこんなにおもしろいんだ」という経験があったので、本を出したいとすごく思って書いたのが、最初の『ウケる技術』という本なんですけど。
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