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はたらく幸せフォーラム 2023 ー中原淳先生 x 前野隆司先生の対談ー(全4記事)

「幸せ」を学ぼうと呼びかけて集まるのは、すでに幸せな人… 本当に届けたい人に届けられないという「教育のジレンマ」 

幸せな働き方を研究し実践するコミュニティとして、2021年4月に発足した「はたらく幸せ研究会」。同会と慶應SDMヒューマンラボの共催で行われた「はたらく幸せフォーラム」に、立教大学で人材開発と組織開発を研究する中原淳教授と、ウェルビーイングを研究する慶應義塾大学の前野隆司教授が登壇。「幸福学」という言葉の受け止められ方の変化や、発信したメッセージを手に取ってもらうための工夫などが語られました。

人は「学んで貢献する」と幸せになる

前野隆司氏(以下、前野):僕も幸せの研究をしていますが、幸せの4つの因子があって、1つ目は「自己実現と成長」。これが幸せに効く4つの因子のうちの1つです。

中原淳氏(以下、中原):あ、じゃあ、わかっていたんだ(笑)?

前野:(笑)。学びが幸せに寄与するのはけっこうわかっていたんですが、この詳細についてはわかっていなかったですね。

僕もパーソル総研さんとやった研究でおもしろいのは、「あなたが幸せに働くうえで、何が一番大事ですか?」と聞くと、「リフレッシュをちゃんとしていること」とか、「ハラスメントがないこと」という答えがトップに来るんですよ。

ところが、いろいろ調べてわかったのは、「あなたは学んでいますか?」「あなたは人々に貢献してますか?」という質問と「幸せですか?」の質問との相関係数が高いんです。学びと貢献ですよ。

だから、みんなすごく間違っている。本当は学んで貢献すると幸せになるのに、「いやいや、リフレッシュしてハラスメントがないのが幸せですよ」と答えちゃう。

間違っていると言うか、先ほど中原先生がおっしゃった、ハラスメントやリフレッシュできない状態がなくなって、ポジティブになってくると、成長して学び貢献するという、幸せの世界がある。

中原先ほどのグラデーションの話ですね。

前野:そうそうそう。グラデーションの苦しいところにいる人は、学びと成長にいかないから、「もう俺なんか学びたくねえよ」になってしまう。

僕が幸せについて語る主な目的の1つは、それを伝えることだと言ってもいいぐらいですよ。一生懸命働いているのに「みんな間違っている」と言ったら失礼だけど、もっと幸せに、学びながら「人々のために貢献してるな」と思いながら働けばいいのに。

「いや、学びたくないです」「貢献とかしていないです」「僕はやらされているだけですから」みたいになっているんですよね。

届けたい人に届かないという「教育のジレンマ」

中原:そのグラデーションが、左から右への正規分布だったらいいんですけど。なんかこう左右両極に分かれていっている気がして。

前野:ですね。

中原:一方は、自己実現とか、学び直し。これ(スライド)で言えば「ソーシャルラーニング」。

共に学ぶことを大事にしたり、そこに対して投資する企業や組織。もう1個は「お前そんなのどうでもいいから働け」「言われたことだけやれ」みたいな、こっち(逆サイド)の世界。

2つの世界がすごく二極化しているように感じるのがもどかしいというか、そういう思いがありますね。

前野:僕も幸せの研究をしていて、「幸せに働こう」と呼びかけて集まってくる人がいるじゃないですか。測ったらだいたい幸せな層です。本当は不幸せな人を幸せにしないといけないのに、幸せな人ばっかり来て、もっと幸せになってしまう。本当にだんだんと二極化してしまうんですよね。

中原:先生がおっしゃるのは、教育のジレンマです。例えば、何か良い教材を作るとします。その教材を受け取ってもらいたい社会階層があるわけですよ。届けたいんだけど、その人たちは諦めてしまっていたりして、教材を届ける手段がない。

届ける手段があるのは、比較的ちゃんと今まで学んできた層。そうすると、ここがさらに分断してしまうという、超絶ジレンマですよね。

前野:これはどうやったら解決するんですか?

中原:どうすればいいんですかね。一緒に考えましょうか。

前野:あ、でも1つ気づいたのは、「幸せについて考えよう」と言うと、幸せな人が来てしまうんですけど。来てしまうというか……。

うちの学生が「あなたの思い込みを外すワークショップ」をやったんですね。変な題で大丈夫かな? と思っていたら、思い込みで困っている、どちらかというと幸福度の低い層の方にグワーッと来ていただくことに成功したんですよ。ということは、「幸せに働こう」ではなくて、「不幸せまみれの人おいで」みたいな。

中原:これもたぶんグラデーションですね。「不幸せな人おいで」というよりは、なんかモヤモヤを抱えているみたいな感じ。思い込みも、その類ですよね。

前野:なるほど。このへんの、ちょうどいい層と言ったら失礼だけど(笑)。本当に大変な人ではなくてモヤモヤ層の人。だから、はたらく幸せ研究会ではなくて、モヤモヤにはたらく研究会とか。

中原:それ、会員数増えるんじゃないですか?

(一同笑)

中原:やだよね、みんなね(笑)。

前野:やってみましょうか。で、はたらく幸せ研究会の人が、そのモヤモヤ研究会の人に教えに行くみたいな。

中原:「モヤモヤ分科会」とか作ればいいんですよ。

前野:モヤモヤ分科会やりますかね。

「幸福学」という言葉の受け止められ方の変化

中原:でも、たぶんニーズは高い気がします。

前野:本当ですね。

「私なんか幸せになっていいんだろうか」という層があるんですよ。何か幸せなことがあると、「このあとで不幸が起こるに違いない」と考える。独立事象なので、幸せなことがあったあとに不幸なことが起きるようにはなっていないのに、そう思い込んでいる人がけっこういるんですよね。

中原:そうですね。ちょっと今の話からずれますが、謙虚な方もいらっしゃって。「最近あったうれしいことを教えてください」や「最近仕事の中でよかったと思ったことやワクワクしたことを教えてください」とポジ風のことを聞くと、「いや、私なんか何もないです」みたいに言うんですよね。

でも、「プチ」という言葉をつけると、例えば、仕事の中で感じた「プチ幸せ」にすると、「それだったらあるかもしれません」みたいな。人の前で幸せなことやポジティブなところを語ることが、「良くないことなのではないか」「私なんか分に合わないんじゃないか」とかね。研修などをやっていると、そういう感じはすごくある気がしますね。

前野:15年前ぐらいに、僕が「幸福学」とか言い出した時は「うわー、宗教始めたんですかー」みたいな反応があった。確かに幸せという言葉は、結婚式の時以外は使わないぐらいの、しかも、女子だけが使うみたいな言葉だったんですね。

ところが、アメリカだと「I am happy to be (something)」とか、ハッピーという言葉を日常で何度も使う。よっぽど特別な時しか使わない国民との差がありますよね。

中原:確かに、「I’m happy」はもうめっちゃそこらへんで聞きます。

前野:聞きますよね。そうですよ。はたらく幸せ研究会という名前も、15年前だったら「気持ち悪い」とか言われたのが、ここ10年ぐらいで受け入れられ始めてきた。だから、日本人ももっと幸せについて語ったほうがいいし、語られ始めてきた実感はありますね。

中原:いいんじゃないですか。どんどん広まって。

前野:ねえ、おかげさまで。「はたらくプチ幸せ研究会」にしたらもうちょっと人数が増えそうですね。

中原:みなさんで話し合って決めてください(笑)。

他社の成功事例をコピペしたがる「事例くれくれ君」

前野:さて、中原先生というと、すごく好きな話があります。「事例くれくれ君」に対してディスるじゃないですか。おもしろがりながらバサっと言ったり。事例くれくれ君に限らず、キャッチーな言葉を使われるのがかっこいいなといつも思うんです。

中原:ちなみに、まず事例くれくれ君から説明しますね。人事や人材開発、組織開発の世界もそうだと思いますが、「何か事例はないですか?」「どっかでの企業事例はないですか?」と僕に聞いてこられるんです。私はある会社で成功した事例をコピペしても、絶対うまくいかないと思うんですよ。コピペ幻想だと思うんです。

だから「事例くれくれ君になってはいけないよ」とブログで書いた時があって、たぶんそれを前野先生がご覧になって、いいぞって言ってくれているんだと思うんですね。

人材開発って、究極を言うと、相手が受け取らなかったら、意味ありません。言ってる意味わかります? どんな良いことを教えたとしても、どんなに良いメッセージを吐いても、どんな高級な教材でも、ハーバードから人を連れてきても、相手が受け取らず、相手が変わらなかったら、人材開発としての価値はないんですよ。

私はそう思っている。例えば相手に受け取ってもらって、きっちりその人に「おもしろかった」と言ってもらえなかったら、たぶん意味がない。なのでブログを書く時とかは、「どうやってこれを受け取ってもらうかな」「どうやったら相手に手に取ってもらえるかな」しか考えていないんですよ。

発信したメッセージを手に取ってもらうための工夫

前野:それで鮮やかなコピーがいろいろ出てくるんですね。

中原:けっこう大変ですよ(笑)。

前野:時間をかけて考えているんですか。

中原:ブログ記事はだいたい2,000文字ぐらいですが、15年も20年もブログを書いていると、2,000文字は30分とかで書けちゃうんですよ。

だけどそこからが問題で、その1つの記事を社会の方々に伝えて、受け取ってもらわないと意味がないんです。同じぐらいとは言わないけど、15分間ぐらいウンウン考えるんですよ。

前野:タイトルを。

中原:タイトル。で、ポチっと投稿ボタンを押すじゃないですか。押して10分ぐらいすると、Twitterとかリアルタイムなのに出てくるけど、反応を見て「ダメだったか……」みたいな(笑)。「刺さんなかったなぁ」って、タイトルを変えるんですよ。

前野:ABテストみたいなこと?(笑)。

中原:密かにやっているんですよ。今、「暇人」と思ったでしょう(笑)。

前野:いやいや(笑)。すごい努力家だと思いました。

中原:話を戻すと、人材開発は相手本位です。そこがあるので僕も「ちゃんと相手本位のことをしないとな」と思っています。

前野:さっきの「事例くれくれ君」とか、鮮やかなんだけど炎上ギリギリみたいなところ攻めていませんか。炎上はしない?

中原:炎上はほとんどないんですよ。

前野:さすがですね。

中原:もうちょっと攻めると危ないですね。

前野:危ないですよね。

中原:とか言ってて、明日炎上してるかもしれないですよ。

前野:(笑)。

中原:ギリギリを狙って、ちゃんと手に取ってもらうことはすごく大事です。

前野:おっしゃるとおりだと思うんですよ。ちゃんと相手とのコミュニケーションをしないといけない。

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