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大人が取り組むメタ認知 幸福度を上げるリフレクションとは(全3記事)

幸福度を左右するのは、お金や学歴よりも「自己決定力」 「自分で決める力」を伸ばすための、メタ認知への取り組み方

教育現場では非認知能力の大切さが謳われている一方で、すでに大人になってしまった私たちがメタ認知を行うためには、どうしたら良いのでしょうか。簡単に取り組めるメタ認知の方法や、不確実な時代を幸福度高く生き抜くためにできることをテーマに、岡山大学の中山芳一氏とアンガーマネジメントの第一人者である安藤俊介氏が対談を行いました。本記事では、メタ認知に取り組む手段として「日記」がおすすめな理由や、非認知能力と幸福度の関係性について解説しています。

人間性を伸ばすために必要な「メタ認知」の力

安藤俊介氏(以下、安藤):僕らがアンガーマネジメントをやっていても、結局「どう自己認識をするか」ということが課題にあって。自分のことがわかっていれば、とりあえず自分の課題は見つかるわけですよ。でも、自分のことがよくわかっていないと、そもそも何をしていいかもわからないですよね。

どういう問題を解決したらいいかもわからないし、どう課題を設定したらいいかもわからない。だからこそ、僕らは徹底してログをつけたりしながら自己認識を追求していくんです。

話を教育現場に戻しますが、「子どもたちにメタ認知をさせます」となった時に、一般的に子どもたちにはどんなことをしてもらっているんですかね?

中山芳一氏(以下、中山):それは学校教育の現場においてですよね?

安藤:学校教育の現場においてですね。

中山:自己認識やメタ認知に対して、具体的な働きかけをされているところもあるとは思うんですけれども、正直申し訳ないですが、学校教育の現場全体を見た時には「どこの学校でもこうしている」というものはないですね。

安藤:「非認知能力を高めていくことは大事だよね」「伸ばすためにはメタ認知が重要だよね」という総論はわかっているんだけれども、個別具体的に何かをしようとなった時には進まない、という感じですかね?

中山:僕のほうから働きかけをさせていただいているのは、まさに今安藤さんがおっしゃってくださったところです。

非認知能力、特に学校教育現場で「学びに向かう力」「人間性」と言われるものを伸ばしていこうといった時に、やはりどうしてもメタ認知が必要になってきます。特に小学生の中学年以降、中高生は言うまでもなく。

メタ認知におすすめなのは「日記」

中山:そうなった時に、僕は日記をすごく推奨します。振り返り習慣を身につけることが、ひいては自己認識やメタ認知を助けていく具体的な取り組みだと考えています。安藤さんや僕たちの時代は、小学生の高学年ぐらいの時に日記を書いていましたよね。

安藤:はい。

中山:あれが今、なくなっているんですよね。ドリルとかプリントは相変わらず残っているんですが、日記は本当に消えていますね。だから、むしろそれを復活させる動き方をしています。

安藤:なるほど。実は僕と先生の接点として、ラーンズ社が作っている「今未来手帳」というものがありまして。学校に配る手帳ですが、その監修を先生が行っているんですね。

中山:はい。

安藤:「今未来手帳」の一部にアンガーマネジメントを入れるということで、ラーンズ社が間に入って中山先生と僕で対談をしたのが始まりです。僕らも何かを書くことの重要性をすごく認識しているので、書くことに関してもうちょっと掘り下げたいです。先生がおすすめされている方法では、何をどう書くのでしょうか?

中山:ありがとうございます。今、安藤さんがご紹介くださったラーンズの「今未来手帳」では、書くことを4段階で掘り下げをしています。これはある意味トレーニングであり、毎日闇雲にやればいいわけではない。

日々の振り返りは「4段階」で行う

中山:質の高いトレーニングが必要になってくることを前提に、我々は中学校・高校の生徒さんたちに、日々の振り返りを掘り下げていく4段階を教えています。

1段階目が、あったことをそのまま書くこと。そして2段階目が、「今日は試験があった」と書いて終わるのではなくて、「試験で緊張した」「今日の試験はちょっときつかったな」とか、自分の内面的なものを書く。

じゃあ、「きつかった」とか「緊張した」のはなぜだろうか? という理由や原因を書くことが3段階目。「あそこ、あまり勉強してなかったんだよな」「もっとちゃんと時間をかけて万全な体制にすれば、ああはならなかったのにな」と、理由や原因を掘り下げる。

理由・原因がわかれば、その後の対策やその次の方針、今後何をやっていったらいいのか見通しを持てるので、見通しを立てるのが4段階目。毎日何か1つの出来事でいいからそれを繰り返していけば、まさに量×質の振り返りができますよね。これを提案させていただいております。

安藤:なるほど。宣伝ですが、うちも『アンガーマネジメントトレーニングブック』という手帳を作っていますので、ぜひこちらも見てください。この間先生との対談でもあったんですが、結局(日記は)記録できればいいわけですが、紙の重要性についても話したと思うんですね。

実は僕もログを紙に書いてそれをデジタル化するので、毎日紙に書いたログをGoogleフォームに転記する状態になってしまっているんですね。はじめからデジタルに(記録を)とるのではなく、やはり世代なのか、紙に書く癖が抜けないんですよね。

紙に書くことで、その時の感情が文字に表れる

安藤:先生は紙とデジタルについてどう考えていますか?

中山:僕は紙に書いています(笑)。

安藤:それはなんでですか?

中山:4段階の振り返りの話をしましたが、あとで振り返る時に、こっち(キーボードを指差して)だと、書いている時の自分の感情がどうであれ変わらないですよね。「くっそー、腹が立つ」と思っていても、書いていることは基本同じフォントで書かれているわけですが、紙に書くと自分のその時の感情が字にも表れますよね。

「面倒くさいな」と思っている時と、「おっ、今日はちゃんと書いてあるぞ」という時の思いや感情は、書く字に非常に反映されます。実際に、字を書くことで感情のセラピーをする「ライティングセラピー」なんていうのもあるぐらいですから。

先ほどの「今未来手帳」に関して言えば、最初から「今日はしっかり書こう」と思っている生徒さんは字をちっちゃく書くんですよね。紙なのでスペースが決まっていますから、「今日1日がすごく充実していたから、こうやってちっちゃく書くようにしたんだな」とか、そういうのも見えてきます。だから、書くことはやっぱり捨てられないですね。

安藤:そうですよね。デジタルに乗り替えたほうが便利なものっていろいろあるので、どうにかデジタルに乗せ替えたいなと思っているのですが、僕が一番感じるのは、さっき先生が言ったとおり書く字に自分の気持ちが表れることと、あとは余白ですね。

本文とは別に、ちょっと端に書くこととかが出てくるんですよね。デジタルだと全部が清書になってしまう感覚があって、余白がないんです。だから、自分が本文を書いた端に表れる余白の落書きが、あとで見た時にこそ意味があるかなと思います。

まだ紙がデジタルを凌駕できないな、という思いがあるんですよ。デジタルネイティブの人たちは、デジタルであっても余白とか感情がわかるのかもしれないんですけどね。

中山:でもね安藤さん。その点で言うと、ちょうどこのあいだの(FIFAワールドカップで)森保(一)監督もメモをバーッと書いていましたよね。森保さんが書いていたメモは、安藤さんおっしゃったような余白とすごくマッチするなと、今聞きながら思っていました。

大人になってからのほうが伸びやすくなる「力」とは?

安藤:今日のテーマとしては「大人が取り組む」なので、大人からメタ認知に取り組んでいっても大丈夫なのか? という感じですよね。

僕ももう50歳なので、「50歳から何に取り組んでいこう?」みたいなところもあるんです。だって、昔だったら天命を知っていないといけない歳ぐらいのはずですが、今の時代ならまだぜんぜんそんなことにはならないわけですよ。

なので、「大人になってから非認知能力を伸ばすためにメタ認知に取り組む」というテーマがあったとして、大人になった今からでもぜんぜん遅くないんでしょうか?

中山:非認知能力もそうですが、「小学校に上がる前ぐらいの幼児期の子どもたちのほうが非認知能力が伸びやすい」とよく言われるんですが、実はそんなことはなくて。アメリカの研究結果でも、大人になったほうが伸びやすくなる力もあることが明らかにされています。

例えば自制心、自分の気持ちを落ち着けるとか、他者との協調性については、実は大人になったほうがより意識ができます。その意識によって自分を調整できるのは、ある意味子どもよりも大人のほうがやりやすいわけですよね。

それを意識するための方法が、まさにメタ認知であったり振り返りの習慣です。大人になって振り返りを習慣づけるのは、むしろ推奨すべきことだと思います。

安藤:そうですよね。

成長と共に、自分のやりたいことや存在意義に疑問が生じる

安藤:僕らの世代は子どもの頃、「人の気持ちを察しなさい」「誰かのことを心配しなさい」「仲良くしなさい」とか、どうしても自分よりも他人を優先するかのような言われ方をずっとしてきたわけですね。

結果として思春期ぐらいになってくると、「あれ、自分は本当のところ何がしたかったんだっけ?」「自分っていったい何だっけ?」「どこに行きたいんだっけ?」という疑問にぶち当たる時が来るわけです。

何をしていいかがわからないので、だから僕らの頃は尾崎豊とかを聞いていたわけですよ。尾崎豊、懐かしいですよね。人生100年時代と言われる中で、僕らが50歳だとしてもまだ半分にしかならないわけです。

非認知能力の中にもいろんな能力があるんですが、今日は「幸福度を上げるリフレクション」もテーマに挙げています。人によりけりでしょうけど、大人になったからこそ、どこにフォーカスをするのが良いと先生は思いますか?

中山:幸福度を絡めてお話しさせていただくと、2018年に西村(和雄)先生、八木(匡)先生というお二人が出された、非常におもしろい研究結果があります。国内の2万人の大人に(「幸福感を感じるもの、幸福度を感じさせる要素は何か?」という)アンケートをとってみた結果について、やっぱり安藤さんはお金だと思いますか?

安藤:何でしょうね。お金は大きな要素の1つかなと思いますね。

中山:やはり経済的なゆとりが心のゆとりを生み出すので、お金は大きいですよね。確かに、お金はお金で非常に良いポジションについています。

自己決定力は、幸福度にも影響を与える

中山:1つ意外だった結果として「学歴」は低かったです。例えば東大に行ったとか、大卒だとか高卒だとかは、大人になって幸福度に影響を与えることでもないんだなと。

お金よりも、自分の人生の中でどれだけ自分で決められることがあるかという「自己決定指標」が、非常に高かったんですね。

僕もあと3年後には50歳になるので、自分は今どういう問題にぶつかっていて、その問題をどう解決していこうかとか、実は僕自身もすごくそれを考えているんです。

50歳という次のスタートをどういうスタートにしていくか。どれだけ自分と向き合って自分の中で決めていくことができるのかが、やはり幸福度をすごく高めるんだろうなと思います。だから正直、僕自身は非常に幸福度が高いです。

「自分で決める」とは、ただ単に浅はかに決めるのではなくて、自分と向き合う・振り返ることをベースにして、「じゃあこうしていこう」「こんなふうにしていきたい」などとセットになっているのが、幸福度にとっては非常に重要だろうなと思います。

安藤:確かに、自己決定はすごく大事だなと僕自身も思っています。

「良い学校に行ったら幸せな人生があるはず」という思い込み

安藤:僕は5年ごとに「何をしよう」と考えるタイプですけど、今ちょうど50歳で来週51歳になるので、今考えているのは「55歳まで何をしよう」です。

何かを言われるがままにやるとか、何かに流されつつやるのは、どうにも僕にとっては耐え難いですね。なので、とにかく自分が決めたこととか、自分が作る目標や自分の関心があることにどれだけ取り組めるかは、けっこう大きいんですよね。

結果として人が喜んでくれたり、お金が入ってきたりしたら、それはそれでもちろんうれしいんですが、まずは自分を優先しないと「なんだか楽しくないな」という気持ちがあるんですよね。組織の人間としてはみんなを優先しないといけないところもあるんですが、個人としてはそういう思いがありますね。

でも、皮肉なものですよね。「良い学校に行ったら幸せな人生があるはず」と思っているから、みんながんばるわけじゃないですか。

中山:そうですね。

安藤:でも、蓋を開けてみて最後に振り返る時、「ああ、学歴じゃなかったな」と思うんですよね。

中山:そうです(笑)。

安藤:この矛盾はどう考えたらいいんですかね?

中山:そういう意味では、以前は本当に単純だったんですよね。特に根拠があるわけではないけれども、「良い大学にいったら良い会社」とか、「良い官公庁の職員になれば、もう死ぬまで安泰よ」みたいに、束縛されていたというか。

「選ぶ力」が問われる時代こそ、振り返りが大事

中山:そんな中で世の中が変わっていって、多様な選択肢が生まれたことによって、選ぶ自由が出てきた。だけど選ぶ自由が生まれたからこそ、逆に今までのように“店長おすすめ”で、「じゃあここに行けばいいや」とはならないので、選ぶ力も問われるようになってきたんだと思うんですよね。

やはり、振り返りは本当に大事だと思っています。自分のことを観察したり、自分のことを整理するために必要なことだから、結局、振り返りって自己客観視じゃないですか。例えば、安藤さんの周りにこういう方がいらっしゃるかどうかわからないですが、やたら「忙しい、忙しい」と言う人っていませんか?

安藤:いっぱいいますね。

中山:やたら「忙しい、忙しい」と言っているんだけど、じゃあ実際にどんなことがあるのかを項目化していくと、意外とそんなにない、みたいな。だけど、漠然と今の自分の置かれている状況やイメージで、「忙しい、忙しい」というスイッチが入ってしまう。

こういう状況はぜんぜん整理もされていないし、自分をちゃんと捉えることもできていない。こういう人は、忙しさに流されていくだけで選べないんですよね。そうではなくて、いったん立ち止まって「今の忙しさは何だろうか?」と、項目化する。いわゆるToDoリストみたいなものですね。

「優先順位は何だろう」と考えていけば、「じゃあこれからやっていこう」と、ちゃんと選んで決めていくことができる。だけどそれができない人は、その人の能力がどうのこうのという話よりも、振り返って自分のことを整理したり、自分のことを捉え直す習慣ができていないですよね。

安藤:そうですね。

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