2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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工藤勇一氏(以下、工藤):例えば、(学校では)平気で合唱コンクールをやっていて、日本はみんな合唱コンクールをやっているから、それが感動体験だと思っている。「音痴で、生まれながらにどうにもならない人もいる」ということも含めて考えられてない。
100人のうちのたった1人が音痴とか、障害があってうまくみんなとやれないとか、声が出ないとか、それでも「その子は特別だから、合唱コンクールをやろう」という話になるかもしれない。
なぜコンクールをやるんだろう。勝ち負けを競って技術を上げるため? みんなで団結して感動するため? 誰も「それって正しいの?」って疑問を持たないわけですよね。もしかしたら、1人でもそうじゃない人がいた時には「その人はおかしな人なの?」と、マイノリティを疑う。LGBT(の問題)と同じですね。
そうすると、それは自分の心の内、つまり内心としてはどんな感覚を持とうが人としては自由。でも、社会が持続可能になっていくためには、他の人の自由を奪っちゃいけないし、利益を損ねるようなことがあっちゃいけない。民主主義はこういうことを教えてきた。
でも、日本は「心の教育」で教えてきたんです。要は、「君は違うから」「君の心を変えろよ」みたいな教育をしてきたわけですね。そこが理解できるようになるには、日本の教育にはものすごくハードルが高い。
でも、このハードルを越えることができた時に、必ず別の世界が見えるようになっている。この過渡期の、本当に苦しいハードルをみんなで一度越えなきゃいけないんですよね。僕はそれが今だと思います。
苫野一徳氏(以下、苫野):本当にそうです。
苫野:例えば、この本(『子どもたちに民主主義を教えよう』)を読んでモヤモヤされる方もいるかもしれない。また今日もお話を聞いて、具体的なことで「こういう場合ってどうなんですか?」と質問をしたい方もいると思うんですね。
例えばですが、「工藤さんは心の教育を批判されているけど、本当に全否定しちゃっていいものなんですか?」とかね。そういう個々の現象に対して、いろんな疑問を持たれる方がいらっしゃると思うんですよ。
でも、見ていただきたいのは本質のところなんです。私たちは方法のところで「絶対にこうすべきだ」と言っているわけじゃないんです。
「民主主義をより成熟させていく」「『すべての子どもたちが自由に生きられるということ』と『自由の相互承認の社会』を実現していく」ということ。哲学の言葉だとこうなりますけど、こういう一番の目的があって、そのための方法がある。
そして、それぞれの現場や状況においてどんな方法が最も良いんだろうか? ということを、常に考えているんです。個々の方法論ばかりに目を向けて「その方法ってどうなの?」と突っ込むのではなく、この思考のモードを共有したいんですね。
苫野:さっき工藤さんが「木村泰子さんはトップダウンじゃなくて」と話をされましたが、この本の中で工藤さんが「この時だけはトップダウンをやった」と言っている箇所があるんですね。そのことについても、先ほどの『EdCafe』で議論になりました。
その時も、木村泰子さんは「トップダウンというのも方法にすぎない。目的に応じて妥当な時がある」と明快におっしゃいました。
すべての子どもの学びを保障するとか、誰一人取り残さないとか、そういった最上位の目的を達成するためには、場合によってはトップダウンが必要な時もあるわけです。心の教育も一緒ですよね。別に工藤さんは「心の教育は、何がなんでも絶対にダメだ!」「全否定だ。心とか絶対に言うな!」みたいな話をしているわけじゃなくて(笑)。
工藤:真逆ですよ、真逆(笑)。
苫野:心にフォーカスしすぎるがために、もっと大事なことが見失われているよねと。読者のみなさんも、今日聞いている方々も、そのことを意識していただきたいなと思います。
苫野:心の教育の部分は本の中でも大事なポイントだし、関心のある方も多いと思うので、せっかくだからちょっと工藤さんに語っていただきたいと思います。
工藤:そうね。心の教育については、いろんな角度から話ができると思います。まず、僕が心の教育を全否定しているわけではまったくないということ。本当は心の教育は嫌いでもない。「心というもの」を追求していくことが、本当の意味の心の教育を追求できればいいので。
でも日本の場合、といっても日本でしか暮らしていないからわからないけど、心と感情がなかなか切り分けられないような気がするんですよね。
苫野:なるほど。
工藤:我々はいろんなものをごっちゃに考えているんですよ。例えば「美しい心が必要か」と言われたら、美しい心を持っている人がいれば素敵だなと思いますよね。誰にも無償の愛情を与えることができる人と出会ったら、僕も「素敵だな」って思います。
でも、哲学的に「無償の愛情が僕にあるのだろうか?」「人間にはどれだけ無償の愛情があると言えるんだろうか?」と問いかけたら、「ある」とは言えないかもしれないですよね。でも、人にとって良い行動を取ることは誰でもできますよね。
工藤:日本は心に注目するがために、「いや、心が伴っていないでしょ」みたいなことを先生たちが平気で言ったりする。
苫野:なるほど。そうですね。
工藤:先生が「心を伴っていないでしょ」と言うのは、人間を哲学していないですよ。
苫野:なるほど(笑)。
工藤:これは言っちゃいけないでしょう。だって、自分も「心を伴っていないだろう」って言われたら、元も子もないわけですよね。「人間社会に平和を望みますか? 望みませんか?」と聞かれたら、平和を望みますよね。
「平和を望む行動って何ですか?」というと、社会に対してより優しい行動ですよね。「そこに心が伴っていますか? いませんか?」ということよりも、みんなで良い行動ができるほうが遥かに社会は平和になっていくわけですね。
もしかしたら心はそんなに優しいわけでもないかもしれないけど、少なくとも「世の中のためになる行動をしたいな」という人が山ほどいたら、必ず良い方向にいく。だから、心が伴っている・いないじゃなくて、良い行動をしている人たちに価値があるでしょうと。
「タイムマネジメント的に考えても、そのほうが遥かに価値がある」ということが教えられていなくて、「心が伴ってから」と言われてしまう。
「孔子でさえ『70歳になって、ようやく心のままに思うがままに生きても人の道に逸れなくなった』と言っているんだから、僕らには絶対に平和は来ないじゃないか」という話になったわけですよ。
苫野:確かに、「心が伴っている問題」はとっても厄介ですね。じゃあ、良い行い・正しい行いのほうにフォーカスするとはどういうことか。この本でもけっこう語ったと思いますが、(相手のことを)好きだろうが嫌いだろうが、他者を対等な存在としてちゃんと尊重するということですよね。
心の中で「この人のこと嫌いだな」と思っていたとしても、他者を対等な存在として尊重し、その人の意見をちゃんと聞き届ける。これはやはり良い行い・正しい行いで、市民社会における妥当な行動だと思います。
この時に「いやいや。ちゃんと心が伴わないと」「相手のことが嫌いじゃダメだ」みたいになっちゃうと、それは内心の自由を奪うとんでもない教育と言えるかもしれません。
「寛容論」という本を書いている、ヴォルテールという啓蒙主義の思想家がいます。これは実際はヴォルテールの言葉ではないらしいんですが、一応彼の言葉として語られている、「私はあなたの意見に反対だ。でも、あなたがその意見を主張する権利は命がけで尊重する」という言葉があるんです。
これはまさに、好き嫌いは別にして、他者を尊重する態度を説いているということですよね。
苫野:ちょうど今日、授業で工藤さんが書かれていたエピソードを学生たちに紹介したんですよ。工藤さんが息子さんから「嫌いな人がいるんだ」という話を聞いた時に、「お父さんだって嫌いな人はいるんだよ。でもちゃんと挨拶もするし、相手のことをちゃんとリスペクトして一緒に仕事する」と、おっしゃった。
素晴らしいエピソードだと思います。そんな時に「心にもない挨拶なんかしちゃいけない」とか言われると、それこそ心のやり場がなくなっちゃいますよね(笑)。
工藤:「やられたらやり返せ」という言葉もありますが、「嫌なやつなんだから無視していいんだよ」ということを教える大人たちだらけでも、殺伐とした世の中になりますよね。
僕も子どもの頃から「やられたらやり返す」タイプで生きてきたんですが、歳とともに「いや、やられてもやり返さない方法はないだろうか」と思うようになりました。今もチャットにいろいろ書き込まれているのを見ていますが、みなさんは今「対話がうまくいかなくて悩んでいる」と。
でもそれも含めて、「怒るな」とは言わないけど、そのまま受け入れるしかないんですよね。だから大げさに言えば、日本は大きなハードルを越えなきゃいけない。このハードルを越える役割は誰かというと、やはり教員なんですね。もっと言うと、本当は校長なんです。
上から順番にやれば、それがきちっとできるようになっていく。でも今、自分の学校にそういう校長がいなくて、専制主義的な校長がいるとします。その校長に逆らって反論して、対立構造が起きると、日本人は感情的になってしまうことが多い。この「感情的になる」というところが、日本は特に弱いですよね。
苫野:そうですね。
工藤:心の教育をやっているせいか、折り合いをつける訓練をしている。それで、折り合いがつかない状況になると、みんなイライラする習慣を持っていますよね。対話を通してイライラをコントロールしながら、上位で合意して我慢するべきです。
子どもの頃から「みんながOKなところで、1回握手しようよ」という発言をする訓練をしていない。そういう我々が大人になっているわけだから、大人のみなさんが苦しんでいるわけですよね。
でもそこをグッと、例えばわからずやの校長と……(視聴者の中に)校長先生がいたらごめんなさいね(笑)。そのわからずやの校長とはぜんぜん合わないんだけど、「校長も『OK』と合意できるものって何だろう?」と考える。つまり、全員がOKなもので1回握手するんです。みなさんも理論的にはわかりますよね?
対立が起きたとしても、全員がOKなところで1回合意しているんだから、そこまで遡ればいい。そうすれば、対立は起きないじゃないですか。だから、さっきの「合唱コンクールをやろう」というのは絶対に対立が起きるんですよ。これがわからないといけないんですね。
合唱コンクールをやろうとすれば、やりたくない子、明らかに苦しむ子がいるわけです。それが1人でも2人でもいたら「全員でOKと合意できないこと」だから、対立が起きるのは当たり前なんですよね。
だから、対立が起きないところまで遡る文化が必要なんです。でも、今までの学校教育にはなかったから、みんなで作らなきゃいけないんです。
苫野:2つお話ししたいと思います。まず1つ、「ミメーシス」という言葉があります。ここでの意味は「感染的模倣」ですね。私も、工藤さんと10時間ぐらい語り合ったことで、工藤スピリットに感染したところがあるんですよ(笑)。
この効果はいいですよね。多くの人にミメーシスが起こってほしい。工藤さんのスピリットに感染してほしいと思っています。そのスピリットの1つが、「対立が起こるのは当たり前だよ」という姿勢ですね。
私たちは、どうしても対立を避けよう避けようとして逆にこじらせたり、問題を根本から解決することができなかったりする。でも、まずは「対立が起こるのなんて当たり前のことじゃないか」と考える。そして、「だからここからなんだよ」と。対立から、いかにしてみんながOKと言える合意点を見つけ出せるかを考える。
言ってみれば、対立が起こった時こそ「よっしゃ! 腕の見せどころだ」ぐらいのスピリットになってみる。私が工藤さんから感染したのはそこですね。対立の現場に身を置くことはしんどいですけど、そういうスピリットを持てば「やってやるぞ」という気持ちになりますよね。
対立を避ける、リスクを避けるばかりじゃなくて、「まずそこが1丁目なんだよ」ということを共有したいと思いました。それが1つです。
苫野:もう1つが、この本でも言及した「ルールメイキングプロジェクト」(生徒による校則の対話的な見直しを通じて、生徒が主体的に関われる学校を作っていく取り組み)についてです。
工藤さんは「校則の見直しや改定はすごくレベルが高いことなので、これをいきなり生徒たちにボーンと丸投げするだけだとすごく大変なことが起こる」とおっしゃっていましたが、私も本当にそういう現場をたくさん見てきました。
先日、カタリバの「ルールメイキングサミット2022」が2日間行われたんですね。これまで校則の見直しや改定などの活動をしていましたが、ルールメイキングはそこが目的じゃないんですよ。あくまでも、校則は1つの要素です。
大事なのは、生徒たちが自分たちの学校を自分たちで作ること。そういう学校作りを、これから全国にもっともっと広げていこうという思いでやっています。
苫野:生徒たちがたくましく成長しつつ、またルールメイキングがうまくいっている学校には、確実に2つの共通項があるように感じています。1つ目は、やはり最上位目標の合意です。
つまり、「何のためのルールか」「何のための校則か」「この校則は誰かを傷つけたり、誰かの不利益になっていないか」という、この最上位を徹底的にみんなで対話し、合意する。そのプロセスがある学校はうまくいくんですね。
もう1つが、対話の場をどれだけ十分に確保するか。学校によってやり方はそれぞれですが、すごくラフに、みんなで気軽に話し合えるティーパーティを日常的に開いている学校もあります。
そこでは先生も生徒もみんなニックネームで呼び合うぐらい、ラフな感じで学校について語り合っています。そういう対話が日常的にできる場をプロデュースしているんですね。お互いのことを知り、対話する場をいろんなかたちで作っている。
こんなふうに、「最上位目標の合意」と「ふんだんな対話の場」を整えた学校は、とてもうまくいっている感じがあります。
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