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学習は戦略に勝る ー学び、進化する学習組織のつくりかたー(全4記事)

「手を挙げない」「スマホ持ち込み」で作る、新しい授業のかたち 藤原和博氏が考える、学校の「発言する文化」の作り方

さまざまなフィールドを越境しながら人間理解を深め、 変化に強い組織づくりの新潮流を学ぶイベント「Unipos Conference 2022」。その中から今回は「学習は戦略に勝る ー学び、進化する学習組織のつくりかたー」のセッションの模様をお届けします。学習していく組織・変化していく組織はどのようにして作れるのか。本記事では、学習する文化をつくるためにリーダーがすべきことは何か、学校と企業の共通点から語られました。

学習する文化をつくるためにリーダーがすべきことは何か

斉藤:続いて「学習する文化をつくるためにリーダーがすべきことは何か」という問いを立てました。でも今のお話を聞いている中で、「リーダー」というものの誤解もまた生まれそうだなと思っています。

今のお話だと、「これ、やばいんじゃない?」「これ、変えたほうがいいんじゃない?」という「これ」発言をした人がリーダーなんですよね。それは社員かもしれないし、社長かもしれないし、マネージャーかもしれない。

このリーダーが生まれる環境を作るのか、学習する組織になっていくために(何が必要なのか)。

例えばみなさんが「学習する文化を自分たちのコミュニティで作りたい」「自分たちのチームで作りたい」「自分たちの教え子の中で作りたい」と思った時にやっていらっしゃることとか、「こんな環境を作っているよ」「こんな文化を作っているよ」ということがあれば、ぜひうかがってみたいんですが、宝槻さんはいかがですか?

宝槻:僕は自分の会社という組織をどうするかと言われると、ちょっと「うーん」って悩んでいるのでわからないんですけど、子どもたちだったらすごくわかるんですよ。例えば「ダイアログ(対話)」というアプローチはすごく重要なんじゃないかなと思っています。

斉藤:ダイアログ。

宝槻:ディスカッションとダイアログって違いますよね。さっきの突出とかもそうなんだけど、子どもたちが自分の固定観念を打破していくようなプロセスを体験することでしょう? 

そうなった時に(必要なのは)、自分の意見がどう正しいかをディスカッションでたたきのめし合う体験ではなくて。それってどっちが正解かとか、どっちが優秀かっていう、競争だと思うんですよね。それよりも、学び合うとか気づかせ合うという現場あるいはコミュニケーションってすごくダイアログだなと思っていて。

自分の内面を引き出して誰かに語る、それを受け入れ合う体験

宝槻:例えば僕はどういうところで味わうかというと、中学生とか高校生をキャンプに連れていって、たき火の前に座らせると、必然的にダイアログになって(笑)。「俺はこういう価値観で生きているんだよね」「へえ、そんな価値観もあるのか」みたいな。

それって学習し合っている感じがするじゃないですか。中高生が自分の世界観を溶かし合う。そういうのは1つのアプローチなのかなと思うんですけど。お二人はいかがですか? 

石山:僕はアニメの『ゆるキャン△』が大好きで、自分はあまりキャンプしないんですけど、『ゆるキャン△』を見てキャンプしたつもりになっているんです。やっぱりたき火を見るとみんな思わず自分を見つめ合って、人と語り合いを始めますよね。そういうしつらえはすごくいいですよね。

斉藤:教育って基本的にインプットじゃないですか。我々が受けてきたこの100年来の教育は、インプットが多いなと思っているんですけれども。「たき火を見ていると」という話もありましたが、まず自分の内面から吐露したり、自分の内面を引き出して誰かに語る、それを受け入れ合うという体験学習があっていい。

理解されること・することって、心地いいものなんだよね、大事なものなんだよねと共有することが、子どもへの教育の現場だと重要になってくる。

藤原:それはものすごく大事です。最初に言いましたけど、日本の教育では、小学校1~2年生はまだ自分のことをしゃべらせるんだけど、3年生以降は「黙れ」という教育なんですよ。「自分の意見を言うな」と。

これを完全に改善しないと、ICTを入れても意味がない。先生が一方的にする一斉授業が、デジタル一斉授業に変わるだけ。先生が見せたいWebを見せて終わりなんですよ。

ほとんど今、GIGAスクール構想で学校にデジタル端末が配られていますけども、そこで終わっちゃった場合、生徒が発言することはほとんどない。そうすると思考力・判断力・表現力は衰えてしまう。間違ってもいいからどんどん発言させて、極端なことも言わせてっていうことをやらなきゃダメなんですよね。

デジタル端末は「アウトプットの道具」

藤原:なので僕が一条高校でやり、今、都教委に飛び火しようとしていること、あるいは山梨県知事特別顧問として山梨県の教育の改革を進めていますけども、生徒はスマホを持ち込んで授業を受けてもらうんです。

意見を言う時に手を挙げさせると、まあ小学校からずっと成績優秀児できた5人と、目立ちたがり屋の3人ぐらいしか手を挙げないんですよ。あとの32人は頭が止まっちゃう。

なので、手を挙げさせないでスマホから自分の意見や質問、それから授業に対する評価を取るんです。それを「C-Learning」というのを使うと、無記名でばっとスクリーンに映るようになるんですよね。

無記名だからバカなことを書いても大丈夫、逸脱しても大丈夫。そういうことをどんどんやらせて、発言をもっともっとさせる。

みんな端末を「インプットの道具」だと思っているんだけど、大人は「アウトプットの道具」として使っているじゃないですか。中高生でも、自分のスマホを学校のWi-Fiにつなげて、どんどんアウトプットをやらせるべき。

(例えば)今終わったばかりの英語の授業に対する「よくわかる」「わかる」「あまりよくわからない」「わからなかった」の4段階評価を、2秒で取れますから。そういうフィードバックをどんどんさせて、自分の意見を述べさせることをやらないと、会社に入っても自分の意見を言わないで黙って、わからないと上司に答えを聞く感じになっちゃいますよね。

“チャット民主主義”を活用した「発言する文化」形成

石山:いや、まったく同感です。うちの研究室で小・中・高・大にキャリア出前授業に行ったりすると、小学校4年生ぐらいはまだ「はい、はい、はい」って、みんなしゃべるんですけど、中学生、高校生、大学生になるに連れてだんだんシーン......と、だんだん大人しくなっていくんです。

それがZoomでいろんな授業をやっていると、“Zoom民主主義”のようなものがあって、チャットが勝手に流れるようになってくると、そこで発言できなかった人も発言できるようになるんです。

ただ、大学で60~70人いる大きい授業をやる時に、「全員宛てにチャットを出してください」って言うと、誰も出さないんです。意見に自分の名前が見えちゃうから。でも「僕一人だけに質問を出してください」って言うと、みんなばーっと出してくるんです。

そこらへんの“チャット民主主義”をうまく使って、みんながばんばん言えるようにしないとちょっとまずいんじゃないかなと思っています。

藤原:宝槻さんの授業で毎回やっていますよね。その(全員に意見を出させる)前に、本当は4〜5人でブレストさせる。あれが非常に大事で、そのことを「ダイアログ」という言い方をしているんだと思うんだけど。

とにかく極端な意見でいいから、全部出させる。そうすると子どもって、その間に自分のポジションをしっかり取るんですよね。小学校の高学年から絶対取るんですよ。

例えば自殺の是非を議論したとしても、小学校の5〜6年でも十分議論は可能なんですよ。そういうことでどんどん鍛えていけば、僕は「発言する文化」を学校でも作れると思います。

これから作るのは「児童・生徒から先生に情報が逆流する文化」

藤原:せっかくGIGAスクールで端末を撒いたわけですから、児童・生徒から先生に情報が逆流する文化を作ればいい。これは恐らく革命的なことで、ある種の宗教改革ですからね。「正解を教えるのでお前たちは何も言わなくていい」という宗教から、「自分は納得解を作るために自分は発信していくんだ」と。

だって海外のビジネススクールに行ったら、何か問いかけたら手なんて挙がりませんよ。勝手にばんばん意見が出てくるじゃないですか。よく聞いていると、最初はすげえバカな意見を言うんです。

石山:そうですね。

藤原:小学校の1~2年生なんて、そういうのでいいんですよ。

石山:国際会議でも、日本は英語力だけではなく、発言量でも圧倒的に負けることが多いように思います。

藤原:しゃべるけどさ、よく聞いていると最初はぜんぜん中身がなかったりするんだよ。ねえ、宝槻さん。

宝槻:いや、わからないですけど(笑)。でもお話を聞いていて思ったことは、C-Learning含めてツールを使うことは大事なんだけど、基本は「文化」がツールの前提のベースにあるんですよね。

その文化とは何かと考えた時に、「発信する文化」とか「語り合う文化」とか、「ダイアログする文化」とか、そういう体験なんだということが、今の共通解なんじゃないかなと思います。

斉藤:そうですね。そのハードルをどれだけ下げるのか、それをやることが自分にとっていいことなんだと思える「場」を作ることだと思います。

子どもたちの場作りと大人の組織作りの共通点

斉藤:今ここに集まっていただいているみなさんの多くは企業に属していらっしゃる方は、人事や組織作りに責任を持っていらっしゃる方です。そこであらためて、コミュニティでも大事だし、子どもたちにも大事なんですが、その文化を企業組織で作りたいんですよ。

自分たちが経営している、自分たちがなんとかしていきたいと思っている組織で作っていくに当たって(何かヒントをいただきたいです)。宝槻さんはさっき「自分の組織だと難しいと思ったんだけど」っておっしゃっていましたが、子どもたちにはできるけれども、組織ではやりづらいということになるんですか。

宝槻:どうだろうな。例えば、僕の教室だったら5〜6人を1つのテーブルのユニットとして扱って、5〜6人の中で語り合いつつ、そのテーブルが何個もあって、全体で語り合っているんです。教室だと、全体で語り合うのとテーブルで語り合うという、2つの語り合いが起こるんですよ。

そういうのをヒントにすると、組織を100人と捉えるんじゃなくて、6人のユニットが30個あるとか、ユニットとかプロジェクト単位で捉えるといいと思います。構成員が自主的に語り合ったり考え合ったりする時間とか、そういうシーンを大切にするといいのかなって、今、もやもや考えていました。

斉藤:固定観念にとらわれていたり、今までのインプット中心の学習を受けていて、そういう性格や人間形成がされていて、ハードルは高いかもしれないけれど、場作りとしては(学校であろうが職場であろうが)どこにいたとしても共通だということですか。

宝槻:子どもたちの場作りと大人の組織作りの共通点は、きっとあるんじゃないかなと思っています。僕は子どもの場作りをかなり熟知していると思っているので、今日はそこからの発言をしています。

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