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【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン(全6記事)

「留守番電話」の導入で、学校の残業時間が18.5時間減少 教師の働き方改革を進めるカギは「管理職」のスタンス

働き方改革コンサルティング事業を行う株式会社ワーク・ライフバランス主催で行われたイベント「【緊急対談企画】定額働かせ放題から教師と子どもたちの未来を守る #教師のバトン」の模様をお届けします。民間企業は労基法により「月の残業時間の上限は45時間」と定められていますが、学校の先生には適用されていません。教員の過労死や教員不足の背景には、給与の4パーセントを払えば残業代全額を払ったものとみなす「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」という特殊な法律の存在があるといいます。

教師全員に適切な賃金を支払う場合、必要な額は9,000億円

乙武洋匡氏(以下、乙武):みなさんといろいろお話をしてきましたが、その間にも参加者のみなさんから続々と質問を寄せていただいております。思っていた以上に多くの質問が寄せられているので、想定よりも早いんですが、質疑応答に移らせていただきます。

ではまず、「教員全員に適正な賃金を支払うとしたら、いったいどれだけの予算が必要なのでしょうか。そもそもの残業時間を減らすことも必要ですが、現時点でどれだけの金額がいわゆる未払い状態なのかを知りたいです」というご質問をいただいております。この点、どなたか知見のある方いらっしゃいますでしょうか。

小室淑恵氏(以下、小室):今のところ試算されているのは9,000億円ですね。もちろんその9,000億円(払わないといけない残業時間を)分も残業している、その残業自体をいかに減らしていくかも同時にやっていかなくてはならないんですが。

9,000億円と聞くと、その財源はどこにあるかとか、それをこれから作るのは大変じゃないかという議論になっちゃうんです。でもこれって、何十年も「払ってこなかった」んですよ。新たな財源じゃないんですよね。

9,000億円は、これからの未来への投資

小室:今更「これからどうやって確保するのか」という話をするのであれば、逆に言ったら何十年か遡って払わなきゃいけないぐらい深刻なんですよという話なので。私たちが子どもたちの健やかな育ちのために必要なお金を、今まで合意できてなかっただけなんじゃないかなと。これは「新たに発生した予算として捉えない」ということが重要じゃないかなと思っています。

内田良氏(以下、内田):今、なるほどなと思いました。確かにそうですよね。過去に遡って払えって話じゃないんですよ。これからの未来への投資ですよね。

内田:実は(この問題に対して、)中央教育審議会からの答申が2019年に出ました。その時も「残業代が支払われていないというお金の問題じゃなくて、もしかしたら時間管理も含めて、ちゃんと民間並みの法律に則って教員の労働が管理されるようになるかもしれない」という期待があった。でも結局、やっぱり予算の問題でポシャった側面が非常に大きいんですよね。本当にこれは世論全体に関心を持っていただかないといけない問題だと思っています。

学校に「留守番電話」を入れる取り組み

小室:チャットで「どんな働き方改革をやったんですか」というのを聞いてくださっている方がいるので、過去にやった学校の事例もご紹介しようかなと思いますが 突然発表しちゃってもいいですか?

乙武:お願いします。

小室:すみません。実はすごく前の事例なので、今はもっとさらに進化しているんですが、この(静岡県富士市立)富士見台小学校さん。この間『クローズアップ現代』にも出てくださいましたが、実は5年前くらいから、すごく早くから取り組んでいます。

今もまだ入ってない学校がたくさんあるかもしれませんが「留守番電話を入れる」という議論で、その時は半年かかったんです。留守番電話って3,000円くらいなんですよね。その3,000円の留守番電話を入れられるかどうかで、ずっと教育委員会と「何かトラブルが起きているのに対応ができなかったらどうするんだ」とかいろんな議論があって、最初はできなさそうになったんです。

私たちはその時、同時に4つの学校をコンサルしてたんですけど、最初にこの富士見台小学校の校長先生が「うちの学校はやる」と決めてくださって、一緒に(藤枝市立)高洲中学校がやってくれたんです。この2校でやったところ、教員の満足度も保護者の満足度も100パーセントでした。

留守番電話導入で18.5時間残業時間が減少

小室:保護者にもアンケートを採ったところ、「いつ電話しても先生がいて、逆に心配になっちゃう」「いつも先生が声がガラガラで、疲れていることが心配だった。だからこの時間までって言ってもらうほうがいい」というのを、初めて(知ることができたんです)。

教員の方からも、とても印象的だったのは「電話の音が鳴らないだけですごい心苦しさから解放された」と。今まで、電話が鳴っていたら誰かが取るけれども、それだけで「クレームかな」と心臓がバクバク鳴ってしまっていたと。

採点してても(電話の音で集中できなくて)ほとんど採点にならないから、結局全部かばんに入れて、静かなおうちの環境で採点しようとなる。持ち帰り仕事をするのは、単に終わらないからだけじゃなくて、電話の対応にすごくドキドキしちゃうからというのもあると言っていたんです。

電話が鳴らない時間帯を作るだけで、実はすごく集中できて、採点も正確にミスなくできる。今までだと子どもたちから何個か「間違えてました」と言われちゃうようなミスもなくなったと。

この高洲中と富士見台小が2017年に、この留守電を入れるという先駆者をやってくれたことで、文科省に「留守電を全国で推奨するべき」というガイドラインを入れる事例になりました。この時だけでも18.5時間残業時間が減少したという結果がでました。

放課後の水泳指導の廃止で、大会参加人数が2.5倍に

小室:あと高梁小学校という岡山県の学校なんですけれども、やっぱりキーワードは「管理職」だなと、校長の決断がすごく大事だなと思った事例があって。

この学校は校長先生が女性だったんですけれども、「放課後水泳指導」を廃止すると決めたんです。でも放課後の水泳指導を辞めた結果、その(水泳大会に出られるタイムの)人数が2.5倍に増えたんです。

なぜかと言うと、放課後に指導するのではなく、水泳の授業を2時間連続にして、着替えと移動の時間を短縮したんです。

それから毎週、子どものタイム(水泳記録)を親に通信で知らせるんです。そうすると泳ぐのが遅い子の親は「やっぱりうちの子遅いかな」と思ったら、土日にプールに連れて行く意識が高まる。

いざ最後に急に「補習です」と言われるよりも、都度都度情報共有していれば、「なんでうちの子だけ大会に出られないんですか」というクレームも減る。すごく保護者の意識も高まったので、結局2.5倍の人数が参加できたんです。

みんなで課題を出し合い解決する「カエル会議」

小室:これらは教員の先生たちと、時には保護者も一緒に入って「カエル会議」という会議をやった結果です。付箋で課題を出し合って、みんなでこれをどうやって解決していこうかというところを1歩1歩進めていきました。

例えば先生たちからは「1人になれる時間がない」という課題があったので、「ほっとカフェ」という、子どもたちが入ってこない、先生たちだけのコーヒーが飲めるスペースを作りました。それによって「こんな幸せ、今までなかった」「精神的な余裕ができた」(という感想が出ました)。

一つひとつ、何が今までつらかったのか、ストレスだったのかということを、出しては解決し出しては解決し、そこに校長や教頭がコミットしてくれる。管理職が「自分たちはそれをやることに賛成している、必要なら予算も一緒に考える」というスタンスをしっかり示したことで1個1個進んだなぁというのがありました。

本当はもっといっぱい紹介したいけど、いったん以上にしておきます。ありがとうございます。

乙武:留守番電話は……。なんだろう。民間では当たり前なものなのに、それが画期的に映ってしまうということ自体が、学校現場のヤバさを表してますよね(笑)。

小室:そうなんですよ。そのテクノロジーがあたかも今発見されたかのようにね、みんなで議論をしたんですよ。

給特法が適用されているのは公立学校だけ

乙武:ありがとうございます。次に、これもお聞きしてみたいな。「教員の法律などをまったく知らないので、素人質問で申し訳ないのですが。義務教育と高等教育以上、あるいは公立と私立などで、適用される法律、または紹介いただいたアンケートの結果などは大きく変わってくるのでしょうか?」というご質問をいただいてます。

そもそも、この給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)は公立学校についての法律で、私立はまた別なんですよね?

西村:僕からいいですか?

乙武:お願いします。

西村:はい。1971年に給特法ができた時から、私立は適用外ですね。普通に労基法(労働基準法)で残業代を払うし、残業させすぎたら管理職が罰せられるような世界です。

公立と国立大附属学校は、給特法の適用(範囲内)だったんですけど、実は国立大附属学校のほうは、2004年に給特法から外れることになりました。ということで今、公立学校だけに適用されている特殊な法律が給特法です。

それは「先生方の働き方が特殊ですからね」って言われてるんですけど、「あれ、私立の先生は特殊じゃないんですか?」みたいな。ちょっとおかしな齟齬が生まれてるというところです。

40年ぶりの調査でわかった、長時間労働の実態

乙武:このアンケート結果は、公立と私立とで先生の回答はけっこう違ってくるものなんですかね?

内田:教員の勤務調査が、給特法が定められる前の1966年に1回行われたんですね。それ以降、国も教員の勤務調査を40年間やってないんですよ。

それが何を意味してるかというと、給特法が制定されたことによって、時間管理とかコスト意識がすっ飛んじゃったのが公立学校なんですよね。

これじゃまずいだろうということで、2006年に1度調査をして、そこで初めて長時間労働の実態がわかりました。そして、2016年にもう1度、10年ぶりに調査をした。それが2022年にも行われます。

2006年の40年ぶりの調査の時には、小中高でやりました。小中に比べれば、高校は勤務時間としてはやや少なかったんですけれども。それ以降の2016年の時には、高校はその調査の中に入ってなかったんですね。ということで、高校の実態、あるいは特別支援学校の枠での実態は、ほとんどまだわかっていない状況です。

長時間労働って意味では小中のほうが過酷かもしれませんけれども、相対的に、例えば、高校(での勤務時間)が短いからそれで良いという話には当然ながらまったくならない。そこでもタダ働きが起きているわけですので。

公立学校全体は、ぜひ文部科学省にがんばって広く調査していただけるとありがたいなと思っています。そんなところですね。

学校の働き方改革を外から働きかける効果

乙武:ありがとうございます。続いては、ヤマシタさんから「私も部活や授業外の業務に時間を費やされてしまい、将来に危機感を持ち、契約満了に伴い退職しました。現在は教育現場にいない身分ですが、私のような人間にもできることはありますでしょうか? 例えば、先生方の労働相談などはありだと思いますか?」というご質問をいただいてます。

内田:それ、小室さんの取り組みで何かあったら。

小室:ぜひぜひ。実はですね、私たちは民間の働き方改革をやるワーク・ライフバランスコンサルタントの養成講座を行っています。毎年たくさん養成していて、これまでに2,000人ぐらい卒業生がいるんですけれど。

けっこうな割合で元教員の方がいらっしゃるんです。「民間に対しての働き方改革の手法を習えば学校にも通用するんじゃないか」「そういうことをやりたいな」と習いにきてくださる方がけっこういて。

学校には、外部の力で変わる可能性は、けっこうあるなと思っているので。いったん学校を離れた方が、学校に興味・関心を持ち続けて、外から働きかけることはすごく大事だと思います。

もう何年も前からそのワーク・ライフバランスコンサルタントを、学校専門でやってらっしゃる方がいて、今やいろいろな学校からお呼びがかかって、アドバイスをしたり、私たちだとなかなか行けないような遠方の学校まで行ったり。学校専用の冊子でエッセイを書いて、やり方を解説したり、専門家としての地位を確立しているので。ぜひそういう活動、続けていただきたいなと思います。

戦時中のルールが残る「理不尽に耐えうる人材」の教育

小室:あと、チャットにあった意見にまた反応していいですか?

乙武:はい、お願いします。

小室:さっき「日本の学校って戦時中みたいですね」というチャットがあったんですが、これ、事実なんです。日本の学校は、子どもたちを軍隊に送り出すために作られたルールが相当残ってしまっている。

すごく代表的なのは朝礼ですよね。私、子どもと毎日一緒に学校に行ってたからびっくりしたんですけれど、こんな寒い日に「手をお袖の中に入れちゃいけません」「ピッて出して外に並びなさい」とか。

くらくらするような灼熱の夏の日でも、「朝礼で全員外に出てきなさい」とか、まったく論理的じゃない。そんなこと世界の中でたぶん日本ぐらいしかやってないんですけれども。

それに耐えると、最後は理不尽なことにも耐えうる人材を作り出すことができる。最終的には戦争や、理不尽なことに耐えなきゃいけない職場に送り出すための教育訓練機関という要素を、「それが教育なんだよ」「それが良い子どもを作ることなんだ」と、教員も「正しいんだ」と思わされてしまったのです。

それがずっと続いてて、「これは良いことなんだ」「教育とは(そういうものだ)」と、一緒になって信じ込まされてきてしまった部分が、随分あるなと思っています。

時間当たりの生産性に対する意識が高くなるオランダの教育

小室:その画一的な教育に疑問を持ってから、世界中のいろんな教育を見た時に、今や全員が机を並べて、前を向いてレクチャー形式の授業を受けている先進国はほぼない。朝から晩まで、時間割がすべて決まっている先進国はないんですよね。

特にオランダのイエナプラン( 子ども一人ひとりの個性を尊重しながら自律と共生を学んでいく教育)では、小学校の低学年から、自分で授業の時間割を決める。「自分の能力と行きたい方向性に何のギャップがあるのか」というフィードバックを受けて、「じゃあ、今日は算数、算数、算数、国語だな」と思ったら、朝から算数の(勉強)道具が置いてある部屋に取りに行って、算数の教室に自分で行って能動的に学ぶ。

まず自分が学びたい方向性があって、それとのギャップ(を埋めるの)に時間を有効に使うことも、小学生の時から常にトレーニングをしている。だから、社会人になっても時間当たりの生産性に対する意識が常に高い。

日本は「決められた時間割にちゃんと従うことが大事」というふうに育っていくから、社会人になった時にも長時間労働に疑問を持たないようになってしまう。これはもう全部つながっています。

教育の本質の問題点に蓋をしてきた

小室:このことが「おかしい」と、きっと一度は教員のみなさんも思ってきた。「この教育の方法で(学校を)出たら、今の日本社会が必要な人材にならないもんね」って、何度か思ったと思うんです。

でも、そういった教育の本質みたいなことが、もう根源から違うんじゃないかという大掛かりな思考に、蓋をしてきたんじゃないでしょうか。「そんなこと考えたら大変なことになっちゃうから、なるべく言っちゃいけない」「そのことより、目の前の採点やらないと」って。

私は、今の教育そのものを抜本的に変えなきゃいけないぐらい、給特法は、ほんの入口っていう感じがしています。

乙武:ありがとうございます。実は私も2017年にオランダに行って、イエナプランの学校を視察してきたんですけれども。本当に私もびっくりさせられたのが、小学生の子どもたちが自分で自分の時間割を組んでいる。

なんでそんなことが可能なのかというと、まだ幼稚園、つまりプレスクールの段階で、毎朝登園してきたら、自分が何をしたいのかが模造紙で壁に掲げられてる。

例えば、「今日は私は外で三輪車に乗りたい」と思ったら、自分の顔写真が付いているキーホルダーを三輪車のマークのところにかけるとか、「自分はお部屋の中で絵本を読んでいたい」と思ったら、絵本のマークのところにキーホルダーをかける。それが、自分の時間割を自分で決めることの原型になってるんですよね。

それを小学校に入る前から繰り返し積み重ねてきているので、そういう(自分で時間割を決める)ことが可能になってることにすごく驚かされました。

担任の先生も曜日によって替わる合理的理由

男寅家:もっと驚かされたのは、視察をした時にあいさつに行ったら、「今日の水曜日の担任の先生です」って言われたんですね。「水曜日の担任の先生ってどういうことですか?」とお聞きしたら、月火水と木金で担任が違うと。「そんなことってありえるんですか?」「オランダはワークシェアリングが進んでるとは聞いていたけれども、教員までワークシェアリングが進んでるの?」って。

日本の感覚だとちょっとありえないなと思って、びっくりしたんですけれども。「だって、あなたも考えてごらんなさい。子どもと教師の相性なんて、良ければ最高だけど、悪かったら1年間その人にしか担任してもらえなくて最悪なのよ」「だったら、2人ぐらいいたらどっちかとは相性が合うでしょう」っていう理由で、意外に合理的だなとも思ったんですよね。

だから、働き方改革にもつながるし、その上、実は子どもたちの居心地の良さにもつながってるんだな、なんていうことを感じさせられました。

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