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子育てのその先へ! ソーシャルインパクトを生み出す、「交差点人材」の育て方(全6記事)

「早い・安い」を追求し、管理職給料がフィリピンを下回った日本 予測不能な時代に、未来を描くための「わがままの復活」とは

「テクノロジー x デザイン x 起業家精神」を教育の土台としながら、社会を動かす人材「モノを作る力で、コトを起こす人」の 育成を目指し、徳島県神山町に2023年4月に開校予定の、 5年制の私立高等専門学校「神山まるごと高専」(仮称・認可申請中)。その神山まるごと高専によるイベント「未来の学校FES」に、「子育てのその先へ」をテーマに3児の父でもある山口周氏が登壇。本記事では、先行きが不透明な時代に求められる「問題を作る」ために必要なことや、35年前にAppleが描いた未来などを語りました。

「早い・安い」を追求した結果、低下した日本の給与水準

山口周氏(以下、山口):つまり弁護士だとか投資銀行のトレーダーだとか弁理士だとか、いわゆる20世紀的な優秀さを代表するようなイメージの仕事ほど、人工知能に食われやすい仕事だということなんですよね。これは結局、どの会社もこういう機械を持つようになりますから、じゃあどうするのという話ですね。

最高度の「正解を出す知性」が、コピー機と同じような値段でどこの会社にもある。要するにものすごいクイズに正解出すような機械が、ヤマダ電機の店頭で「Watson大特価! 年末大売り出し!」とかで売られるんですよ。

人事の人からしたら「今年は東大卒があんまり採れなかった。じゃあちょっとWatson買ってくるか」「このあいだの新入社員は使えなかった。Watsonくれよ」みたいな話になって(笑)。「じゃあどうぞ」みたいな時代がやってくる可能性があるわけです。

そうすると企業の競争優位は、どうやって変わるのか、どうやったら勝てるのか、ということですね。みんなが正解を出せるようになるわけですから。事実今、日本がそういう方向にいきつつあるんですけれども、一番悪い方向にいくと、「ほかと同じですよ」となるわけですよ。ほかの会社と変わりません。ただ「早いですよ、安いですよ」という話になるんですね(笑)。

「うまさ」は同じです。でも早い・安いという話になると、当然労働力の酷使という問題とか、給与の引き下げという問題になる。まさに今の日本の労働環境ですよね、どんどん派遣にしていくとかになるわけです。この20年、それをずっとやってきた結果、先進国の中で唯一給料が下がり続ける不思議な国になってしまったわけです。

(スライドのグラフの)ここが1997年ですね、一番端っこは2017年。ですから1997年から2017年までの20年間で……それぞれの国の1997年時点の平均給与を100としたら、20年間でどこまで上がったかという統計です。普通こういうグラフを作る時には、下は作らないんですね。なぜかというと、平均給与は必ず上がるので。

でも日本だけ下がっているので、ゼロから下がある(笑)。この下側にいってる唯一の国はどこだろう、これ日本なんですね。スウェーデンに至っては1.4倍になっていますから、どうしてこんなことになってしまったの、と。まぁこういうことをやっていればそうなるわな、ということです。

これは多くの人が認識していないんですけれども、今の日本の管理職の給料はタイとかフィリピンより下ですからね。僕は人事コンサルの仕事を長くやっていたので、タイに10年前に抜かれたのはもう知っていましたけれども。一昨年かな、フィリピンにも抜かれて、今アジアで一番管理職の給料が安い国になってます。

「問題を作る」ために必要なこと

ですから選択肢は2つで、もう日本で働かないのがもしかしたら一番良い方向なのかもわからないですけれども。仮にずっとこの国にいたいと思うのであれば、やっぱりこの戦い方から脱却しない限り……後進国とは言わないですけれども、中進国に今なりつつあるということです。

じゃあどうすればいいのかというと、もう問題を見つけるしかありません。問題が世の中にたくさんあって、解決策を出していれば利益が出た時代は良かったんですけれども。今はもうみんな満足している時代にあって、解決策がだぶついているんです。

正解を出す力はあるわけですよ。統計の知識もある、コンピューターもわかっている、マーケティングも知っている、経営学もわかっている。でも解決策はたくさんあるんだけれども、問題が見つけられていないわけですね。

じゃあ問題はどうやったら作れるのかという話になると、これは「ありたい姿と現状のギャップ」のことを問題と言うわけですから。ありたい姿を描ける力を持っている人じゃないと、問題を作れないんですね。

だから昔、世の中に問題がたくさんあった時には、価値の源泉は「解決策を作れる」「正解を出せる」ということだったんですけども。今は逆に「ありたい姿を描いて問題を作れるかどうか」が大きな価値の源泉になっていると思います。

問題を発見し、増収増益を達成したIKEAの取り組み

ちょっとまたビデオを見ていただこうと思います。

【映像再生】

『家具をより良いものに』『シンプルだがすごい』『3Dプリントで家具が変身』

男性6:脳性マヒですが、大抵のことはみなさんと同じようにできます。でも自宅の家具は「障害者」だらけ。普通のソファに座りたいのですが、立ち上がれなくなる恐れがあります。

字幕:10人に1人にとって、普通の家具が常時の問題となる。障害者用の家具の値段は2倍。だからIKEAは一番得意なことをした。デザインの民主化だ。「ThisAbles(これで使える)」。IKEAの既存製品が使えるようになる無料のアクセサリ。店頭でももらえるし、3Dプリンターにダウンロードも。

「カルルスタード・ソファ用リフト」「バックス・ワードローブ用ハンドル」「ラーナルプ・ランプ用メガスイッチ」

IKEAのカタログが新しい市場向けに。

男性7:多くの人の日常をより良くしたい、それがIKEAの信条です。ThisAblesで人口の10パーセントにシンプルで安い家具が手に入るようになります。

字幕:製品エンジニアとユーザーによるコラボ開発。イスラエルで始まった取り組みは3Dプリントで世界に広がった。既に127ヶ国でダウンロードされた。オープンソースで日々公的に改良が行われている。

女性2:すべての子ども、人々のニーズは違います。

男性8:障害がイノベーションを生みます。

男性9:3Dプリンターがある公立図書館もあります。

字幕:不足していた機能が追加される。良心的な価格で、そして美しく。

女性3:最近、医療による視点から多くの社会問題の解決が進む中、IKEAのアイデアほどすばらしいものはありません。

女性4:ThisAblesというIKEAの特別な取り組みをご紹介しましょう。

字幕:「IKEA、3Dプリンターの力を借り障害者により良い家具を」「IKEA、3Dプリントで家具をより利用しやすく」「すべての人がアクセスできる(イスラエル社会平等大臣)」

アクセサリで37パーセント売上増加(対2018年)、33パーセント収益増加。これでみんなが座れる、「ThisAbles」。

【映像終了】

市場を国内だけに閉じず、全世界で見る

山口:……というプロジェクトなんですが、このプロジェクト自体は解決策ですよね。3Dプリンターを使ってハンディキャップ、身体に障害のある人が、それまで障害者用の家具を使わざるを得なかったのが、自分が好きな家具を買ってきてそれを自分で好きなように改造できるようにしてあげた。

イノベーションは全て解決策なわけですけども、イノベーションがあるということは必ずその前に、問題の発見がありますよね。問題の発見があるということは、問題も必ず「ありたい姿と現状のギャップ」のことですから、このありたい姿を思い描いた人がいるわけですよね。

そのありたい姿をわかりやすく言うと、「誰もが自分が気に入っている家具に囲まれて暮らせているのが、やっぱり良い世の中だよね」「自分が気に入らない不本意な家具を置かなきゃいけないのって、ちょっと切ないだろうな」ということに対する共感力とか想像力がある人が、この問題に気がついた。で、それをなんとか解決してあげたら、売上高が1年で37パーセント増加した。ものすごい成長率ですよね。

これはなぜかと言うと、この問題がほったらかしにされてきたからです。人口の1割しかいないので、お客さんにならないと思っていたと思うんですけれども。その1割の人が全世界にいるなら、それはすごく大きな市場ですよね。

だからこのプロジェクトはいろんな示唆があると思います。まず「日本の国内だけに閉じて問題を見つけてもしょうがない」ということですね。日本の国内に閉じて1億人の中の1割というと、お客さんは1,000万人が上限になってしまいます。世界は80億人の人間がいるので、80億人の1割の人たちが本当に困っていて、それがほったらかしにされた問題なら、日本全国相手にするより大きな市場があるわけです。

問題は「ありたい姿と現状のギャップ」にある

ですからいろんな問題は解決されてしまっているんですけど、未だに残っている問題で、かつ切実な問題をちゃんと解いてあげることですね。この時にやっぱり会社のビジョンとか、本人のビジョンとかパーパスはすごく重要になってくると思います。

「こういうことをしてあげたい」、そういうことを考えた人がこのプロジェクトを始めたわけです。「こういうのが良い状態だよね」ということを考える人には、やっぱりそうなっていない状態の時に問題が生まれるわけですよね。そうすると解決策、イノベーションが起こって、それが利益になるわけです。

多くの組織はこれと逆のことをやろうとしています。売上利益が必要だからイノベーションを起こせと言うんですよ。でも必ずここで止まってしまいます。なぜかというと、問題は「ありたい姿と現状のギャップ」から出てくるので、解決策からは問題は出てこないということですね。

なので解決策を考えられる人はもちろん必要な能力ですけれども。それ以上にありたい姿とか、「自分としてはこういうふうにしたい」ということを「Will」として持てるのが重要だということですね。これが1つ目の話。

35年前にAppleが描いた未来

あと「予測やデータに頼る」と「妄想する」という話をしたいと思います。予測やデータに頼るとなぜダメかというと、もう予測が当たらないんですね。僕、経済予測は世界で一番ブルシットな仕事だと思っているんです(笑)。

2019年に出した『ニュータイプの時代』という本の中で、今作られている予測は「必ず3年後にはゴミになっているだろう」という予言をして、端的に言うといろんなところから罵詈雑言を浴びました(笑)。経済産業省とか財務省とかの賢い人たちが予測をやっているのでね。

でもそれはおやりになればいいけれど、今作られている経済予測は全てゴミになるし、その経済予測に基づいて作られている経営計画も全てゴミになりますよ、という予測をしたんです。なんと皮肉なことに「予測はすべて外れる」という私の予測が当たったという、自己言及のパラドックスになってしまいました(笑)。

コロナがきましたからね。全部外れました。今みんな経済予測を作り直しているし、その経済予測に基づいて作られている経営計画も、作り直しになっています。中期経営計画を毎年作り直すという状態になっているんですよ。もうギャグですよ。中期経営計画を毎年作っているんですよ(笑)。それおかしいと思わないんですか、という話です。

一方で、こういう話もあります。(スライドに映っているのは)1971年のイラスト。

明らかにタブレット端末ですよね。50年前になんでこんな予測ができたのか。あるいは1987年の映像を見ていただこうと思います。

【映像再生】

はい。懐かしい旧ロゴが出てきて、Appleの映像だということが最後にわかったと思います。これは35年前の映像ですね。まさに今、ここ1~2年のコンピューターの使い方ですよね。遠隔地にいる人と、いろんな資料を共有しながら、その場でデータを加工して、大学の授業に遠隔で出て、「ちょっと見てくれないか」ということを35年前にやっているわけです。

それで何の議論をやっているかというと、環境問題を議論してるんですよ。当時の日本のコンピューター業界のことを思い出すと、やっぱりかなわないなと思いますよね。ポイントは、両方とも技術的にできるかどうかという目処がまったく立ってない状態で「こういうものになったらいいな」という思いを描いているんです。ここがすごく重要なところです。

先に夢を描き、技術に方向性を与える

テクノロジーを議論する時に、今何ができるようになったとか、あるいは近いうちにこういうことができるようになる、というのをベースにボトムアップで考える傾向があるんですけれども、そうじゃないんですよ。

当時まったくできる、こんなものを作れる見込みがなかったのに、人間とコンピューターの関係というのは将来こうなるべきだ、こうなったらいいなという夢を抱いてるだけなんですね。その描いた夢に対して、技術に方向性が与えられている。この夢を思い描く力が、妄想する力が、これから先必要なんですけど、そこですごく負けてしまっているなと思います。

何で妄想する力がすごく重要かというと、僕はここから先の世の中のあり方は、コロナの影響でものすごく大きく変わると思うんですね。これは2020年の12月にマッキンゼーが出したレポートからの抜粋ですけれども。彼らは、予測は当たらないと言いながら予測を出しているんじゃないかと(笑)。ご愛敬なんですけれども。予測というより、彼らは先進国でどの仕事がどれくらいリモートワークになったかを調べたんですね。

上からファイナンス&インシュアランス、金融・保険。マネジメント、管理職の仕事。プロフェッショナル、知的専門職の仕事。IT、テレコミュニケーションと教育ときて、最後はアグリカルチャー。農業ですね。ITとかコミュニケーション以上のいわゆるホワイトカラーの仕事のだいたい6〜9割は、コロナ禍においてリモートワークになってしまった。

これがコロナが収まった後も継続すると何が起こるかというと、マッキンゼーのレポートは……これは英語ですけれども、インターネットに出ているので、「Remote work McKinsey」でこのレポートが読めます。

「あるべき姿」と「妄想」のために必要な「わがままの復活」

リモートワークがこの水準で定着すると、都市経済、交通運輸、消費、その他諸々の社会のあり方は、甚大な影響を受けることになるだろう。そりゃあそうですよね。コロナ前には、例えば東京だけでも1日800万人が通勤していたんですね。これが出社回数が週に1回になると、800万人がその5分の1ですから160万人になってしまうんですよ。

640万人分の移動によって作られていたいろいろな需要とか経済がなくなってしまうので。もうトランスポーテーションとか、駅ビルとか、商業施設のあり方とかレストランとか、そういったものが甚大な影響を受けるでしょうし。

その週に1回しかいかなくてよくなった人たちが、どこに移るか。その移った先の経済のあり方や社会のあり方も大きく変わることになりますよね。予測はたぶんできません。どんな予測でやっても全部外れると思います。ということは逆に、この変化をきっかけにどういう社会を作っていきたいかという妄想をする力がすごく重要だということになってくると思います。

そうすると、この(スライド内の『ニュータイプ』の列の)「わがままの復活」が非常に重要になってくると思います。

問題を作るためには、あるべき姿を描かないといけない。あるいはその予測やデータに頼れない社会になるともう妄想するしかない。じゃああるべき姿や妄想はどうやって描くんですかというと、「私がそうしたいと思うから」という答えしかないんですね。

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