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渡辺由佳里さんに聞く『アメリカはいつも夢見ている』(全5記事)

高校の国語に見られる文学軽視の流れは、「絶対まずい」 ノンフィクションも手掛ける作家・渡辺由佳里氏が語る、小説の価値

本に関するイベントを開催するオンラインコミュニティ「デジタル・ケイブ」に、新刊エッセイ『アメリカはいつも夢見ている』を出版した作家・渡辺由佳里氏が登壇。ミステリー作家の福田和代氏を相手に、小説から学べることや価値、そして、コロナ禍のロックダウンを「繭の季節」と捉える日本人の感覚などを語りました。

小説から学べることはたくさんある

福田和代氏(以下、福田):今までの話でも、言葉に置き換えて考えてみるとか、ちゃんと説明するとか、そういうエピソードがいくつかあったと思うんですけれど。やっぱり渡辺さんって、文章の方ですよね。

絵もお描きになるし踊りも踊られますけれども、文章の方だからやっぱり言葉で説明をしようとする。自分に対しても説明がつくようにしようというところが、論理的な解答を導き出すコツですかね。

渡辺由佳里氏(以下、渡辺):そうですね。私は出不精で引きこもりなので、いろんなことを教えてくれたのはやっぱり本ですよね。小説をバカにする人もいますけど、すごくいろんなことを教えてくれるんです。

いろんな場面での人々の行動を、すごく客観的に眺めさせてくれるというか。なんでこの人はこんなことをするんだろう、とかよく思いません? 

福田:思います。

渡辺:こういうことを言うとこの人に嫌な思いをさせることがわかっていて、なぜこんな酷いことをするんだろう、と自分の中で考えているわけですよね。

福田:はい。

渡辺:そこからの学びがすごくあるんですよね。

福田:そう思います。

渡辺:なぜここで説明しないんだとか、よくラブストーリーで、すれ違いとか誤解とかあるじゃないですか。誤解って、ちゃんと最初から説明していればいいと言う人がいるんですよ。最初から説明していたら本にならないと思うんですけど。でもそこからの学びは、やっぱり最初から説明しておけばよかったじゃないか、ということだった。

福田:いやぁ、そうですね。

渡辺:だから、学びがすごくあるんですよね。

福田:ありますね。

渡辺:よくロマンスをバカにする人がいるんですけれども。すごく優れたロマンス作家は、人間の感情を、ものすごくよくわかっているんだなと思います。行動分析がすごいですから。感心してしまうんですよね。

福田:なぜうまくいかないかとか、なぜすれ違うのかをちゃんと読めばわかる。

渡辺:うまいんですよね! 

福田:そう。

渡辺:どういうところに人が怒るのかとか、どういうところに人がムッとして、信頼しなくなるのかとか、だめになるカップルのタイプとか。人のプライドとか。「なるほど!」という学びがすごく多いです。

福田:そうですねぇ。

渡辺:だから小説を読まない、ノンフィクションとかハウツー本ばっかり読んでる人もいるんですけど。ハウツー本で学ぶこともあると思うんですけれども、ハウツー本以上にいろんなことを教えてくれるのが小説なので。

福田:そうですねぇ。

渡辺:私は本当に小説をオススメしたいです。

福田:ありがとうございます。

渡辺:人生指南になりますので。

高校の国語で見られる文学軽視の流れ

福田:お聞きになっていると思いますけれども、今、日本の高校で国語を「現代の国語」と「言語文化」の二教科に分けて、「現代の国語」の教科書からはフィクションを駆逐しようという話があるんです。

渡辺:そういうことを言う人は、本当に本を読んでこなかった人なんだなと思いません?

福田:そうですよね。本当になくなってしまって。ところが、教科書の中で1社だけ小説をいくつか載せていた教科書が、シェアがトップになったので今揉めているんです(笑)。

でもやっぱり国語の先生になられるような方たちはいろんな本を読まれてきたと思うので。そうすると、それはまずいなと、きっと判断されたんじゃないかなと思うんですよ。

渡辺:いや、絶対まずいですよね。

福田:まずいと思いますよ。

渡辺:まずいですよね。だってシェイクスピアを知らないとか、それで世界に出掛けていくと、どこにいたんだという話になるし。

福田:本当ですよねぇ。

渡辺:シェイクスピアの何がいいって、本当にいろんなことをカバーしているんですよね。

福田:そうですね。

渡辺:喜劇から悲劇から、幅広くカバーしていて。それが今の現代小説にまでも、ずっと影響を与えていますでしょう。

福田:はい。

渡辺:人間心理は、ノンフィクションでは表せないところがいっぱいあるじゃないですか。

福田:そうですよね。ノンフィクションも嫌いじゃないしおもしろいんですけど、やっぱりちょっと違うところがあるんですよね。

渡辺:そうですよね。だから違う読み方……。私もノンフィクションは好きですし、特に歴史とか社会問題とかはすごく好きです。

福田:そうですよね。

渡辺:でも、それから得るものと、小説から得るものって、またぜんぜん違うんですよね。

福田:そうですよね。だからやっぱり両方いると思うんです。

渡辺:はい。私、本に関しては雑食なので。

福田:わかります。

「分厚い小説」の価値

渡辺:ホラーだけはちょっと苦手ですけれど。

福田:あー、そうですか。サイコロジカルスリラーは大丈夫でも、ホラーは……(笑)。

渡辺:そう。私はスプラッターが嫌いなんです。

福田:ああ、スプラッターねぇ。そうですね。

渡辺:だから無意味に人の首が飛んだりとかすると嫌なんですよね。そういうのがすごくだめです。

福田:私もそれはちょっと苦手ですね。そうですよね。

渡辺:でも、幽霊とかが出てくるゴシックものは好きです。怖いけど、怖くて眠れなくても。

福田:あー、それこそ人間の怨念とかが(笑)。

渡辺:そう、そう。ゴシックスリラーは好きですから。

福田:そうですよねぇ。

渡辺:古いお城とかが出てくるのが、すごく好きです。

福田:いいですね。私も大好きです。

渡辺:SFでも、SFの中のサブジャンルがいっぱいあるじゃないですか。

福田:えぇ、えぇ。

渡辺:それぞれに違うものがあって。それもすごく好きですね。

福田:そうですね。

渡辺:Sword and Sorcery(剣と魔法のファンタジージャンル)とか。この間も私、娘と冗談を言っていたんです。「英語圏のファンタジーは、600ページ以上ないとファンタジーとして認めてもらえないよね、だから読むの大変」という話。

それでも本当に微妙な心理とか友情とか、弟子とか師匠との尊敬とか細かいところまであって。そういうところを読むと、すごく学びになるところがあったりするんですよね。

福田:600ページあるとかなりいろんなことが書けますよね。

渡辺:そうなんです。日本でも村上春樹さんだけではなくて、もっと分厚い小説を出してくださいとお願いしたいです。

福田:今なかなかねぇ。分厚い本を出させてくれないんですよねぇ。

渡辺:ですから、『アメリカはいつも夢見ている』で、こんなにページを多くしていただいて、申し訳なくて、「いいんですか? よろしいんですか」と言ったくらいです。

福田:本文550ページぐらいありますよ。

渡辺:そうなんです。日本の本で、こんなにたくさんページを作っていただいたというだけで贅沢で、もう感謝の気持ちでいっぱいというか。本当にいいんですかという感じです。

福田:けどこれ本当にいい本ですよ。読んでほしいですね。

渡辺:ありがたいことです。感謝でいっぱいの本です。作っている途中もまったくストレスがなくて、最初から最後まですごくいい気持ちで作らせていただきました。自分でも本当に温かい気持ちになれた本です。

本の表紙を飾った、米国・ナンタケットの美しさ

渡辺:iPhoneで撮ったような写真もいっぱい使っていただいて、「いいんですか?」みたいな。

福田:これね、すごいなと思いました。表紙のカバーに使われているのは渡辺さんがiPhoneでご自身でお撮りになった写真なんですよね。

渡辺:そうです。

福田:信じられないぐらい綺麗ですよ。これ。

渡辺:表紙の上の写真は、ナンタケットの朝ジョギングに行く場所です。森に入る前の広原です。表紙の下の写真はナンタケットの港に入るところですね。

福田:ナンタケットってこんなにきれいなところなんですねぇ。

渡辺:すごくきれいなところですよ。朝日が昇るのがすごく好きなので、いつも走っている途中にこの風景いいなというところを、写真に撮っています。

福田:うわぁ、いいですねぇ。

渡辺:自分の記録用に撮っているんですが、そういう写真を使っていただきました。表紙を外したところの写真も。カナダガンがナンタケット島でお休みするんですよね。朝のすごい早い時間に、ビーチに行くと誰もいないビーチを2時間ぐらい歩けるんです。誰もいないビーチってすごいでしょ。

福田:贅沢~。

渡辺:贅沢ですよ。もう鳥とかアザラシが、平気でいるんですよ。だからそういうのもすごく贅沢な時間として、朝の時間がすごく好きですね。

福田:いいですねぇ。

渡辺:朝の時間は動物たちも普通にいて、人があまりいなくって。すごく自然と対話ができる、大好きな時間なんです。動物たちも、ここでは守られているので、人間が怖くないんです。私がいるのに平気で歩いているんでしょう?

福田:てくてく歩いてます。

渡辺:てくてく平気で歩いてる(笑)。こういう写真を使っていただいて本当にありがたかった。

福田:あぁ、本当に素敵ですね。ナンタケット島を舞台にしたミステリーとかないんですか? 

渡辺:ナンタケット在住の方で有名な作家の方がいらして。女性小説を書いているんですけれども、1つ前の最新作が、ちょっとしたミステリーでした。毎年出してるのに、必ず全部全米でトップのベストセラーになるというすごい方です。

福田:そういう場所だと、そこを舞台にいろいろ書きたくもなりますよね。

渡辺:でも日本も舞台になりそうなところはけっこうありますよね。

福田:えぇ、たぶんもういろいろ出てると思います。

『アメリカはいつも夢見ている』のコスパの良さ

福田:実はあっという間に90分を過ぎてしまいまして。びっくりするようなスピードで、時間が経っています。

コメント欄を見てみますと、「サイコロジカルスリラー、小説の新作ですか? それとも翻訳でしょうか」とコメントでお書きになっていますが、これはサイコロジカルスリラーをお書きになるというわけではなくて、本の紹介ですよね? 

渡辺:そうです。本の紹介です。本の紹介の本を、今ラストスパートにかかっているところです。今年の9月あたりに出せるでしょうという見込みになっていますね。まだ内容とか、いろいろ発表していいかどうか許可を取っていないので言えないんですけれど。でも3年がかりでやっていますので、大作です。

福田:だってベスト500より多いということなので。いくつになるんだろう。

渡辺:中身が全部新しいんです。

福田:書き下ろし、楽しみにしております。ご質問はもうなさそうかな。「ポジティブに逃げる、すごくいい言葉だと思います。このお話を読んで本当に辛い時はポジティブに逃げてしまえばいいよ、と娘に伝えることができました。

ギリギリのところで学校に行っていて、進級がとても不安なようだったので、『逃げる』だけだとネガティブなイメージを持ってしまいやすいのですが、そこに『ポジティブに』と付け加えたことが、少し安心を与えられたような気がします」というコメントが来ていますね。

「私も感情を消化するにはなぜそう感じるんだろうと分析して自分を理解するということでしか消化できないと思っていました」と、たくさんコメントいただいているのですが、「550ページあって2000円いかないので、なんてコスパがいい」ということです。

渡辺:すごいでしょ? すごくコスパいいでしょ? 

福田:「言い方が悪くてすみません」とお書きになっていますけれどもね。

渡辺:だから私、KKベストセラーズの編集の方には、すごく感謝しています。こんなに紙をたくさん使っていて、本当によろしいんですか、と。在庫も大変だと思うしそこにも感動しています。

本当にお得ですので。全部一気に読まれる必要はないです。ちょぼちょぼ、このあたりおもしろそうかなみたいなところから始めていかれて、便宜的にカテゴリーとしてまとめていますけれども、最初から最後まで一気読みするような本でもないので。

福田:そうですね。

渡辺:ちょぼちょぼとお茶の時にでも読んでいただければと思います。

福田:目次を見ながら気になるところを読んでいただいたらと思います。

ロックダウンを「繭の季節」と捉える日本人の感覚

福田:「もう最初から最後まで、今日は笑いっぱなしでした」とお書きになっている方もいらっしゃいます。楽しんでいただけたようで本当に良かったです。渡辺さん、今日は早朝から長い時間にわたりまして、本当にご参加ありがとうございました。

渡辺:この時間は大丈夫です。もうすでにエクササイズもしてしまったし。シャワーも浴びたし。

福田:すごい。

渡辺:いえいえ、楽しかったです。みなさんどうもありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。

福田:本当ですね。みなさまどうぞ大きな拍手をお願いします。

渡辺:それから福田さんの本もみなさんよろしくお願いします。

福田:ありがとうございます。

渡辺:本当におもしろい、すごく日本の世界観だなと感じました。

福田:ありがとうございます。

渡辺:これアメリカの読者が読んだら、きっとすごく「あ、こういうのがあったのか」と思うでしょうね。

福田:ロックダウンという言葉が言われ始めた頃に、『繭の季節が始まる』というショートショートを書いたんです。それを読んでくれて、「ロックダウンと言われるとすごく嫌なものが来る感じだけれども、繭だったらいいかな」と言われていた方がいて、「あぁ、書いてよかった」と思ったんですよね。

渡辺:私としては、あ、そういう考え方があったのか、と思った。でも、これがたぶん日本人の感覚だなぁと思ったんですよ。日本人にすごく通じる。でもそれがかえって新鮮になるのが、たぶんSpark joy(ときめき)。『人生がときめく 片づけの魔法』が出版された時もそうだった。これまでアメリカ人たちが持っていなかった感覚だから、雷に打たれたように見方がすっかり変わってしまったんですよね。

福田:なるほど。

渡辺:アメリカは「マスクなんかするな」と言って、猛烈な運動をしている人たちがいるじゃないですか。それを『繭の季節』というふうに捉えたら、怒っている人たちを抑えるような感覚になれるんじゃないかと。だから私はすごくおもしろいと思ったんですよ。

福田:ありがとうございます。

渡辺:猫も、もちろんそうで。

福田:猫も出ます(笑)。

渡辺:どうも本当にありがとうございました。

福田:ありがとうございました。

本を作る人を講師に招く読書コミュニティ「デジタル・ケイブ」

福田:最後に「デジタル・ケイブ」についてご紹介をさせていただきたいと思います。

「デジタル・ケイブ」は有料会員制の読書コミュニティです。月額550円で、ちょっといいお茶を喫茶店で飲むぐらいの感覚で払っていただいています。非常に本好きな人たちが今集まっておりまして、そういう人たちとつながるコミュニティになっております。

今はすべて配信イベントのかたちで開催しているんですけれども、月1回、こうして作家さんや漫画家さん、書評家さん、イラストレーターさん、編集者さんなどなど、さまざまなかたちで本を作る側の方に講師として来ていただきまして、お話をうかがっております。

時には創作講座も開催しております。その他、現在はオンライン飲み会やオンラインでのビブリオバトルなども、会員さんと一緒に楽しんでおります。会員さんは、過去に開催したイベントは、本日のイベントも含めましておよそ1年分、アーカイブでご覧いただくことができます。

来月のイベントはまだ決まってないんですけれども、心の中で「お願いしたいなぁ」と思っている方がいらっしゃいますので、決まりましたらまたお知らせをさせていただきます。

よろしければ「デジタル・ケイブ」のほうにもご参加くださいませ。それではみなさま、楽しい時間を90分、私も、ずっとくすくす笑っていましたね。これにて本日は配信を終了させていただきます。

渡辺さん、あらためて本日はご参加ありがとうございました。

渡辺:楽しかったです。どうもありがとうございました。

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