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「学習する組織」のコンセプトをベースに、新しい学校モデルの確立を目指す札幌新陽高校の軌跡(全4記事)

「連絡報告だけ」の職員会議は廃止 教職員の「対話」の時間でつくる、新しい学校の在り方

学校の先生たちが社会とつながる場を提供し、新しい視点を届ける「先生の学校」が主催の、札幌新陽高校校長・赤司展子氏が登壇したイベントの模様を公開します。ピーター・センゲ氏が提唱する「学習する組織」のコンセプトをベースに、教育内容・組織・業務の3つの改革を同時に行う新陽高校の取り組みが語られた本イベント。今回は、新陽高校が取り組む「中つ火を囲む会」について語られました。

月1の職員会議で起こる、もったいない問題点

赤司展子氏(以下、赤司):ここからいよいよ、具体的に新陽高校が何をやっているのかという話をしていこうと思います。今の3つのShare(Shared Vision、Shared Leadership、Shared Experience)を実践する、すごく象徴的な場として「中つ火を囲む会」という会をやっています。これは、「『たった1つの正解』の無い、対話の場」です。

さっき菜央さんから3月のイベントのお話もありまして、私もすごく興味深いなと思っていましたが、新陽高校も「対話」を大事にしたいと思ってやっています。

月に1回、第3水曜日はだいたい授業も短縮にしていて、水曜日はもともとノー残業デーで部活動もありません。なので、短縮授業にして終わりにしてしまえば、基本的に14時半以降は大人だけの時間になるはずです。ということで、そこから休憩も入れるので実質2時間ぐらいを、この「対話」のためだけに使うという時間に設定しています。

多くの学校でもあると思うのですが、実はもともと新陽高校では月に1回、職員会議をしていました。これ自体は学校としてもかなりレベルが高かったなと思うのですが、だいたい1時間の中にギュッと凝縮して、ものすごく効率的にアジェンダが処理できるような職員会議が実施されていました。

ただ、そこまでできるなら逆にわざわざみんなが同じタイミングで集まって、同期・非同期でいうと同期の時間を連絡・報告に使うのは、すごくもったいないなと思ったんです。同時に、月に1回しか連絡報告できないのは現状と合っていないとも思いました。

そうすると、実際には終わっているけど、なぜか1ヶ月後に報告するものが出てきたり、相談している時間もないので「これはやると決まっているんでしょ?」とみんなが思いながら聞かないといけないアジェンダが出てきます。

連絡・報告の会議の時間を「対話」の時間に

赤司:そうではなくて、日常の中でちゃんと相談をする。また、朝の打ち合わせやチャットなんかも使っているので、わざわざ声に出さなくてもいいものはそういったもので共有をすると決めました。

当然、話し合う必要がある会議もありますので、そういう場合は臨時職員会議を開催することもあります。ですが、もう少し目的と場の使い方を分けようということで、整理しました。その代わりに、校長になった時にわがままを3つ言わせてもらったうちの1つなのですが、「とにかく月に1回は対話をしたいからスケジュールを入れてください」と教務部長にお願いしました。

中つ火って、みなさんは聞いたことがありますか? 私は知らなかったのですが、焚き火のことです。焚き火を囲むように、フィンランドや北欧では小さい頃からみんなやっているような、(私もそんなふうに)みんながフラットに対話する場を作りたかったんです。

でも「焚き火の会」はちょっとなぁと思って、新陽高校の国語の高橋励起先生に「焚き火の良い言い方ってない?」と相談したら、「ネイティブアメリカンの中では焚き火のことを中つ火と言うらしいですよ」と言われたんです。それいいね! となって、「中つ火を囲む会」という名前を付けました。今ではみんなで「今日は中つ火だね」などと言うほど浸透した名称です。

コロナ禍で実施した「ただ雑談する時間」の効果

赤司:この1年間のスケジュールは、熊平さんと福田さんと私のほうで、年度が始まる前にもうざっと大まかに決めてあります。さっき言った「『学習する組織』の5つのディシプリン」をベースに、こういったテーマの型を使っていこうということですね。

同時に、その中で対話するトピックはその時々によって違って、新陽高校の中で課題になっているものとか、「やっぱりあらためて深めたいよね」というようなテーマがシーズンごとにあります。

それを2週間くらい前に3人でミーティングをして、私から「今こういうテーマが先生たちの中で気になってそうだ」とか「組織としてこれが課題だと思う」と投げて、問いの設定をしています。

実はちょうど今週初めて、予定通りじゃない「中つ火」をやりました。本校の中で今、教職員に熱が出たりとか検査でコロナの陽性になった先生たちが立て続けに出て、かなりばたばたしていました。

当然先生たちに体調が悪い人も多いので、みんながフォローし合って教科内の他の先生が埋め合ってくれているんですけど、忙しさもあって、私も含めて心のほうの余裕がなくなってきたなって思っていました。

「無理に『中つ火』で学習をするのはどうなんだろう?」と相談したら、やっぱり熊平さんに「いや、赤司さん。そういう時は無理に学習するものじゃないわよ」って言われて、「ゆっくり対話しようよ、今日は」って言ってくれたんですね。

なので参加も任意にして、「今日はただの対話をするので、もしそれでも参加したいと思う先生だけ残ってください」と言って、1時間ぐらいオンラインでやりました。zoomのブレイクアウトルームで5、6人に分かれて、ただただ雑談する、対話する時間にしました。

でも、これがすごく良かったなと思って。みんな心が緩んだし、その緩んだみんなを見て、私が何より安心させてもらったところがすごく良かったなと思っています。来月3月が今年度の最後なので、総括と、システム思考をリベンジしたいなと思っています。

「中つ火を囲む会」のやり方

赤司:どんなふうにやっているかと言うと、今はコロナ禍なのでオンラインをベースにしていますが、対面とオンラインのハイブリッドのこともありますし、オンラインだけのこともあります。一回だけ完全対面のみでやってみたこともあります。こんな雰囲気で、わりとゆるゆるとやっています。

とはいえ「じゃあどうやっているの?」とご興味のある方はいるかなと思うので、11月の回をピックアップしてご紹介したいと思います。この時は「経験から学ぶリフレクション」というテーマでやりました。トピックは学校のルール策定ですね。

これは熊平美香さんの資料なんですけど、経験学習サイクルというところから、人は経験をしっかり振り返って、そこから法則を見つけて、次のプランに活かしていくような学びをするという。

よくリフレクションや振り返りと言うと、「事実」を振り返ることを必ずやると思います。他者や環境、自分だったらどういう行動を取ったかまでは必ず振り返ると思うんですけど、すごく大事なのはリフレクションの「自己の内面」の部分です。

自分が取った行動にどういう価値観が紐付いていて、もっと言うとその価値観を生んだのは恐らく自分の経験と、経験に紐付く感情があったはずなので、そこまで深掘って自分の経験をリフレクションすることがすごく大事です。

「中つ火」では、毎回これをいろんな手を変え品を変えやっているんですけど、この時も「経験」についてリフレクションするということをやりました。

「経験から学ぶリフレクション」をテーマに実施

赤司:これはそのフレームワークなんですけど、想定していた結果が何で、実際がこうでしたと。このギャップはなぜ起こったかという仮説を振り返って、経験と感情を深掘りしていくかたちです。

これはちょうど「NHK for School」で熊平美香さんがチョコプラのお二人とやった「振り返りのしかた」です。ぜひみなさんも、他の方とワークをする時に参考にされたらいいなと思います。

まさに経験から学ぶリフレクションを、10分くらいですごくわかりやすく解説している動画です。これを事前学習として先生たちに見てもらいました。自分の過去にあった経験は仕事に関するものでもプライベートでも構わないので、「これを参考に振り返ってみてください」と。

「中つ火を囲む会」には、事前課題がある場合とない場合とがあります。これはケース・バイ・ケースで中身にもよりますし、正直、先生たちというか学校現場の繁忙さにも合わせて、私が「事前課題までできるかな」とか「ちょっと今月は事前課題とかみんな無理だから、取りあえずその日だけでやろう」とかで分けています。

この時は事前課題を出して、やってきたものをペアになって共有して、半分アイスブレイク、半分は演習的なものをやりました。その後、後半で「ルールについて」というテーマでこの「経験から学ぶリフレクション」をやってみました。

「失敗」を共有し、目指したい理想の姿を対話しながら考える

赤司:今日も参加してくれている、うちの教務副部長の田渕先生は、教務規定の改定を来年度に向けて取り組んでいる中心人物です。

それを改定するに当たって、本人が想定していたのと最初は違ってけっこう苦労して、そこから立て直して、みんなで教務規定を作るという動きを作ってくれたんですけど。その自分の「失敗」の部分を赤裸々にみんなに出してくれて、そのリフレクションを共有してくれました。

共有された後に、そこから「新陽高校のルール策定における理想の姿とは?」というテーマで、またグループに分かれて対話する。対話したものを全体で戻ってきて共有する。こんな一連の流れを2時間ちょっとでやったのが11月です。

田渕さんが、熊平さんにダイアログの相手として付き合ってもらいながら、内面をかなりカミングアウトしている時、みんながこれを聞いていました。それを基にグループに分かれて、「新陽におけるルールの理想の姿について」をGoogleのJamboardを使ってみんなで意見を出し合ったり、それをまとめ直したり。

幾つかのグループの事例なんですけれども、こんなようなかたちでそれぞれが意見を出しました。「1個の意見にまとめてください」とは一切言っていないので、「みんなでこんな意見が出ましたよ」というグループもあれば、わりとみんなの共通点から合意形成みたいなものを図るチームもありますし。これはもう各メンバー・グループにお任せしています。

それで戻ってきて、「そのグループでどんな話が出ました?」というのをシェアしてもらっているのがこんな状態です。この2時間は、基本的には熊平さんがリモートで全部ファシリテーターをやってくれています。

私はファシリテーターはしないようにしています。校長なのかファシリテーターなのかわからなくなっちゃうので、そこはやっぱり第三者の方が入ってくださることで成り立っている場かなと思っています。

目指したい「新しい学校モデル」の在り方

赤司:かなり早口で話してきましたが、あらためて「『学習する組織』のコンセプトをベースとした新陽高校が作る新しい学校モデルとは」というのを私なりにまとめてみると、こういうことかなと思っています。

やはり2030のビジョン。この「学習する組織」でもすごくビジョンは大事にされてますけど、「どこのビジョンをベースにしているか」は大切にしたいと思っていて。人物多様性を掲げているから「学習する組織」という考え方を採り入れるのがちょうどマッチしていたなとも、逆の意味で言えると思っています。

お互い違うことを前提とした上で、相互理解を図る。ここがスタートかなと思っています。相互理解を図って、お互いがそれを学習し合う。自分自身の経験からも学ぶし、他者の経験からも学ぶし、チームとしても学ぶ。

学習することが「学習する組織」の目的ではなく、協創できるようになること、創造ができるようになることが大事かなと。協創することでまた相互理解が深まり、学習するというプロセスが回っていくことが、新陽が目指したい新しい学校モデルの在り方かなと思っています。

というわけで、現在進行形で教育・組織・業務の変革に挑戦中です。まだまだですし、まだできてないと言うよりは、この未完成さを楽しみながらやっていきたいなと思っています。

私はけっこうカオスな状態が好きなんですけど、熊平さんと福田さんに「赤司さんね、みんなはカオスが好きじゃないことをちゃんと自覚したほうがいいよ。多くの一般的な人はあんまりカオスは好きでない。あなたみたいにカオスを楽しむ人は、ちょっと変わっているから、その自覚を持って他のメンバーとちゃんと付き合いなさい」といつもアドバイスをもらいます。

それでも新陽高校は、わりとカオスを受け入れたり楽しんだりしてくれる先生の割合が、普通の組織よりは多いかなと思っています。

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