2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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若新雄純氏(以下、若新):では次に今村さんにお伺いしようと思います。今村さんはこれまでいろんなところで、中学生や高校生、大学生との「対話の場」を経験されてきましたよね。
僕は思春期の時に、「○をいっぱい増やしなさい。集めなさい」と言われる中で、悶々としていました。やはり中高生ぐらいだと、誰もが「?」や「!」っていっぱい持つとは思うんですけど、「?」のことは言いづらかったんですよね。
「もう今お前、『○』を見つけようとしてる時間なんだから、『?』『?』言うなよ。面倒くさいな」と。僕は田舎の公教育を受けている中ですごくこれを感じていました。
実際に(今の)中学生や高校生と話をすると「!」「?」を持っているのか、それともやっぱり「○」を集めろっていう教育を受けているから簡単には出てこないのか。今の若い世代にとって「疑問を持つ力」、もしくは「疑問」がどうなってきてるか、実際に接してみてどうでしたか?
今村久美氏(以下、今村):最近、小学生の子どもたちと関わることがすごく多いんですけど、やはり幼い時、もっと言うと保育園や幼稚園(からの教育が関係していると思います)。
うちの子はまだ8歳なんですね。転んだ時に痛くて泣く感じと同じくらい、何かにぶつかったら「え、なんでこれが起きてるの?」のようなことを聞くんです。それを見てると、疑問を持たずに大きくなった人ってたぶんいないんだなと、あらためて感じます。保育園や幼少期に関わる先生たちは、その疑問を持った時に、一生懸命「一緒に考える」ことを教育の軸にしている人たちがすごく多いです。
もしかしたら中高生とか、学齢期が高い部分を担当する先生たちは、大人たち自身が「子どもたちから問いかけられたら正解を言わなきゃいけない」って思っている環境なので、子どもたちにも「何か正解を言わなきゃいけない」と感じさせる雰囲気になってるんじゃないかなと感じることがあります。
今村:誰も疑問を持たずに大人になれる人はいないんだけど、それをどんどん言っていい雰囲気がそこにあるのか。周りを取り囲んでる大人たちにも、「今ここで校則になっているものって、子どもたちにとって本当にいいのかな」とか「中高生たちって、このことを疑問に思わないのかな」と考える余白があるのか。
「自分にそれを問いかけてきてもいいよ」と受け入れる雰囲気を持ててるかっていうと、(子どもが)大きくなればなるほど、大人たちは、それをなかなか受け入れられない思考になっているのかもしれない。これは子育ても同じだなって思ってます。ちょっと問いかけと違ったかもしれないけど。
若新:ありがとうございます。つまり、疑問を持っていないとか、疑問を重視していないというよりは、疑問以上にとにかく正しくやらなきゃいけないとか、間違ってはいけないとか、「正解をちゃんと提示しなければいけない」という思考が強くて、疑問自体が霞みがちじゃないかということですよね。
若新:苫野先生。教育や学校のさまざまな場面でも、疑問と正解のバランスが僕はすごく難しいと思っていて。疑問は出発点としてすごく大事だったんだけども、疑問だけでは当然どこにもたどり着けないから、疑問が生まれて、「その時点での正解」が生まれたりすると思うんですけど。
その正解に縛られすぎると、新しい疑問が生まれない。僕たちはこの「正解と疑問のバランス」は、今後どう捉えていけばいいんでしょうか?
苫野一徳氏(以下、苫野):ジョン・デューイという、20世紀の教育を作ったと言っていいアメリカの教育哲学者がいるんですけれども、彼が「正解が全部決まってる社会は、全体主義の社会だ」って言うんですよ。でも目指したいのはそうではなく、「正解はみんなで作り合っていくものだ」と。
その観点から、「学校そもそもの本質とは何か」っていうお話をしたいと思います。
学校って端的に言うと、この市民社会の一番大事な土台ですよね。民主主義社会の一番の土台です。市民社会、民主主義社会とは何かというと、これも簡単に言うと、「自分たちの社会は自分たちで作る」という社会ですよね。誰か権力者が、あるいは全体主義の誰かが思いのままに社会を作るんじゃなくて、自分たちの社会を自分たちで作る。
苫野:ということは、その一番大事な土台である学校は、「自分たちの学校は自分たちで作る」という経験を生徒たちにたっぷり保障する必要があるわけですよね。デューイの原理原則から言っても、「絶対の正解を教える」のではなく、「みんなで学校を作り合っていく」場である必要があります。
だから、「自由な市民」を育てる。この社会の担い手・作り手である市民を育てるのが、学校の一番大事な本質なんだと踏まえれば、ルールメイキングはある意味、当たり前のことと言っていいんじゃないかなって思いますね。
若新:ありがとうございます。つまり、小学校・中学校・高校だからこそ、自由な社会の本質である「絶対の答えなんかない」ということと向き合うべきだということですよね。
例えば、どんなにすばらしいと思うような校則があっても、時代が変われば考え方が変われば変わるかもしれないし。先輩がどんなに新しい、すばらしいものを作っても、常に「本当にそれでよかったのか?」と更新し続けることが、「みんなで作る社会」の基本であるということですね。
若新:最後に、浅野さんにひと言お聞きしたいです。昔はやはり大きな会社、大きな組織に入れると安定するし、そこが決めた正解にいちいち疑問を持たないほうが、きっと生きやすかったわけじゃないですか。
おそらく浅野さんがお勤めの省庁でも、みんなが一人ひとり常に疑問をもとに環境を作り変えられる状態にあったかというと、少なくとも僕らが聞いてた限りでは、すでに決まっている大きな「正解」に疑問を投げかけることは簡単ではなかったはずです。
今後、小学校・中学校・高校・大学で、「答えは絶対ではない、疑問を持とう」という方針で(子どもたちが)学んで育ち、(彼ら彼女らが)社会に出た後、本当に産業界はちゃんと「誰かが決めた答え」を押し付けず、みんなで答えを更新し続けるような社会に変わるんでしょうか?「これから変えていこう」とされてるんでしょうか?
浅野大介氏(以下、浅野):はい、実際はまだ変わっていない部分も多いと思います。ただ、まだ変わっていないのを、「止めましょう」ということじゃなくて。それを切り開いて作ってくのが人生だし、それが社会だと思うんです。
だけど結局、今まで正しいと思われていたことに向かって走ったら、幸せが待っているのかと言われると、誰もそんなこと保障してくれない。「行儀よくしてようね」って言われて、「じゃあ行儀よくしてたら一生安泰って言ってくれるんですか?」と聞いても、誰も言ってくれないんですよ。今はそういう時代になっていると思います。
浅野:でもそれはつまり、「新しい秩序」を自分たちで作れるということでもあるんです。大きな企業に入ろうが小さな企業に入ろうが、自分で仕事をしていこうが、自分の生き場所やみんなの生き場所を、自分たちで作ろうよと。
決められたルールも都合が悪かったら変えればいいんだし、みんなで適切なプロセスで(作ればいい)。自由な社会が始まろうとしていると思います。
若新:ありがとうございます。最後に非常に心強いエールをありがとうございます。
僕自身はどちらかというと、社会が「自由にみんなで答えを作り合っていい」と変わるちょっと前に、こういう姿勢で社会に出てしまったと思っているんです。だからつらいこともあったし、さみしいこともあったんですけど、おもしろいこともあったんですよね。
そして今、「絶対」がない中でみんなで作り変え続ける社会に変わろうとしていて、「そういう教育をしよう」ではなくて、「そう変えていかなければいけない」になっている。だから今からそれを担える若者を応援していこうとしているわけですね。
今村:最後にひとことよろしいですか?
若新:どうぞ、どうぞ。
今村:今回のイベントに、かなりたくさんの方からお申し込みをいただいてるんですね。実数でいうと500名を超える方から問い合わせをいただいていて、その大半は学校の先生と聞いてます。
そういう意味で、たぶん多くの先生たちは今の話を聞いて、「そうなんだけど、わかっちゃいるんだけど、どっから始めたらいいの?」って思ってるかなと思うんです。
毎日忙しくて、朝8時ぐらいに出勤して、学校に来てない子がいたら家庭訪問をしなきゃいけないかもしれないし、テストの丸付けをしなきゃいけないかもしれないし、やらなきゃいけないことがたくさんあって。もしかしたら、自分のご家庭のお子さんたちとの時間を取れていない人もいるかもしれない。
そういう中で、どうしたらこの「学校のルールを変える」ができるのか。つまり、とても多くの時間と「みんなで考える余白」がないと取り組めないことに対して、どうやって管理職の方に理解をしてもらうのか、どういうふうに場を作るのか。「どうしたらいいの?」ってたくさんの方が思っていらっしゃるから、今回たくさんのお申し込みをいただいたのかなと思ってます。
私たちは「べき論」を押し付けるつもりはないです。
学校には、今お話ししたような未来にしていきたいけどできないと、苦しんでる方もたくさんいると思います。まずこういう場においでいただいた方々に、ちょっとでもヒントを持ち帰っていただきたいし、私たちは逆に、NPOという学校じゃない立場から、どんなお手伝いができればいいのかなと、こういう場で一緒に考えていきたいなと思ってるので、今日は楽しんでご参加いただきたいなと思います。
浅野:今日は、リスクをとって先に走っている学校の先生や生徒のみなさんにも来ていただいています。ぜひフラットにお話を聞いて、得るものを得ていただけたらなと思います。
浅野:校則は最高の題材ですからね。
若新:ありがとうございます。
苫野:関連して少しだけ…。
若新:どうぞ、どうぞ。
苫野:ルールメイキングの主役は、生徒だけではなく先生もですよね。先生にとっても働きやすい職場とか、働き方改革にもつながります。長い目で見たら「本当に自分たちが働きやすい学校ってどんな学校か」というのを一緒に作っていけるプロジェクトでもあると思います。(ルールメイキングの取り組みが)先生の働き方改革にも確実につながるって、いろんな経験をしながら思いますよね。
若新:ありがとうございます。そうなんですよね。僕は両親も、おじさんの妹も学校の先生なんですけど。世代を追っていく中で労働時間が伸びて、おじさんの妹は「ブラック環境」だって嘆いていたわけですよ。
よくよく話を聞くと、なんでそうなるかというと、「先生が『先生』というだけで許されるわけじゃなくて、絶対にミスをしちゃいけない(環境になっている)。常に100点を取らなきゃいけないという社会で、全員に平等に全部完璧にやらなきゃいけなくなり、結局時間も長くなるんだ」って言っていたんですね。
若新:先ほど今村さんが「丸付け」という言葉をお話の中で言っていましたけど、まさにみんな丸付けに追われてると思うんですよ。ただ、今日はこの後にいろんな発表をしていただくんですけど、「ルールメイキング」ってどちらかというと、丸をつけるのではなくて、「?」をどんどん作っていくことなんです。
今日のみなさんの話をお聞きして思ったのは、「丸付けに加えて『?』作りまで追加でやりましょう」ということではない。久美さんがおっしゃったように、それでは時間が足りないわけじゃないですか。
そうではなくて、「丸付け」という学びのあり方から、どんどん「?」作りにシフトしていこうと。そうすると、先生の働き方や学校のあり方も見直されていくし、新しい時代を作っていけるのではないのかなと感じました。
浅野:○×は、デジタルがやってくれますからね。
若新:そうですね、○と×をつけるだけだったらね。
みなさん、この後にいろんな発表があるんですが、どれが「○」なのかとか、この発表は「○」なのか「△」なのか「×」なのかではなくて、どんな「?」なんだろうか。どんな問いかけを生み出してるんだろうか。そして、僕たちがそれに対してどんな「!」な気持ちを持てるんだろうかという視点でお楽しみいただければと思います。
オープニングトークは以上とさせていただきます。今日は1日よろしくお願いします。
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