2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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坂本建一郎氏(以下、坂本):ここからの60分は、先ほどの問題認識を踏まえて、「どういうふうに組織を変えていくのか」「もし変えられないとすれば、なんで変えられないんだろう」ということについてフォーカスしていきたいと思います。
山田洋一氏(以下、山田):坂本さん、今話しても大丈夫?
坂本:大丈夫です。
山田:今のお話で進めていただいてまったく構わないんですけど、やっぱり僕らが普通の教員で公立の学校に務めていたら……。
坂本:もっと悩みが深いと(笑)。
山田:やっぱり「孤独になる」ことは、恐ろしいことなんだよね(笑)。変なことをやったり、突拍子もないことをやると、指導を受けたり孤独になるんだよね。そこを踏まえた上で、どうしたらいいかということなんだと思う。
おそらくお2人の話をうかがっていて、今日参加されている先生方は特に課題意識があると思うから、「そうだ、そうだ」「そのとおりだ」と思われていると思うんだけれど。でも、じゃあ現場に自分が立った時に、思い切って何かを変えられるかというと「そう簡単じゃないんだよね」ということだと思うんですよね。
坂本:簡単ではないですよね。
山田:だからそのへんを踏まえたお話が、ここからの1時間でうかがえるといいかなと思っていました。
坂本:わかりました。その山田先生のご認識には僕も大賛成です。僕は学校の先生としての経験もないんですけれども、比較的学校に近いところで学校を見てきて、先生方の苦悩もよくわかりますし、確かに周りと温度差のある先生はおられると思います。これは本人にとっても辛いでしょうけれども、やっぱり出口が見えないと苦労している甲斐がないですよね。
山田:まあ、僕みたいにただの変なやつならいいんだけど(笑)。やっぱり「本当は変じゃない」「自分は正しいことをやっている」と信じているのに、変なやつ扱いされてしまったり、孤独にさせられちゃったり、あるいはその仕事から外されちゃったりするのは、とてつもなく辛いことなんだよね。「なにかしよう」と思っているだけに。だから、ちょっとそのへんを踏まえてもらえると、うれしいなと思います。
坂本:このセッションで、その解決法は示されるものだと僕は信じています(笑)。
山田:(笑)。
坂本:その具体的なところに入っていきます。
山田:よろしくお願いします。
坂本:ありがとうございます。山田さんの懸念もよくわかりました。それを踏まえた実効性のある方法論はあると、僕は感じています。その対策とか進め方をここから60分、考えていければと思います。
チャット欄のコメントに「学習指導要領の上をいくって、具体的にどういうことでしょう?」とありますね。この質問はとても重要なことなんですけれども、工藤校長からお話しいただけるように思います。
それから、山田先生がおっしゃっていた、「職員室が思考停止になっちゃっているよ」とか「そういう固い文化で乗り越えられないんだ。じゃあ、私どうすればいいんですか? 戦略を教えてください」ということとかにも考える手掛かりをつかんでいきたいですね。あと「今、『働き方改革』と言われているんだけれども、それって本当の働き方改革ですか?」みたいなことってありますよね。それについても考えていきたいところです。
また、そもそも今の現状自体のまずさに気付いていないこともあるかもしれません。これは、かつて僕自身がそうでした。2018年の2月に最初に工藤校長にお会いして、書籍『学校の「当たり前」をやめた。』を工藤校長と共に制作していく段階で、僕も自分がおかしかったことにまったく気づいていなくて、お話を伺い続けて半年くらいでやっと気づいたんですね。もしかすると、今でもあまり気づいていないかもしれません。
工藤校長や植松社長がどういう目で、何を見ておられるのか。そして、今までどういうことをされてきたのか。今日は、それをトレースするというか、追体験できる場でもあると思っています。工藤校長からお話をうかがってもよろしいでしょうか? まずいくつかの質問に答えるようなかたちで、先生のお考えを聞かせていただくのがいいかなと思います。
「指導要領の上をいくというのは、どういうことなのか」。この質問については、全員が当事者になって考えるということだと思うんですけれども、そのあたりを入り口としてお願いいたします。それから「本当の働き方改革は?」、あるいは「職員室が固まっちゃっている時、どうすればいいのか」。このあたりにつきましてもお話しいただければと思います。よろしくお願いします。
工藤勇一氏(以下、工藤):「指導要領の上をいく」という話は、組織が変わっていくためには、「指導要領の上」というものを、つまり「教育の目指すものは何か?」ということを組織の全員できちんとみんなで合意できていないといけません。
組織が変わるための条件は、僕は以下の3つだと思っているんです。
1つ目は「最上位目標を合意すること」。例えばある先生にとって、うまく相互理解ができていない校長や同僚の教職員がいたとすれば、その校長も含めて、または保護者との教育観や価値観が違っていたとすれば、保護者、それから児童・生徒、すべての人間が「最優先にすることって何?」ということの合意が、実は日本の学校教育ではなされていないんです。「何があなたは一番大事ですか?」と質問すれば、みんながそれぞれ思い思いのことを言う状態です。
でもそれは自由でいいわけですよね。人それぞれが「何が一番大事か」をどのように思っていても構わない。でも「誰一人置き去りにすることのない教育を進めていくためには、何を最優先にするんですか?」と言うと、先ほどのスライドにあったラーニングフレームワークで挙げられていたことが残るわけです。
どんな子どもにとってもよりよく生きていけるようにしなきゃいけないし、「よりよく生きていくってどういうこと?」と聞かれれば、その子が人の力も上手に借りながら、自分の力で歩んでいくこともできるような、そういった主体的で自律した子どもを大人が育てなくてはいけないですよね。
じゃあ僕ら大人はどうやって手を貸して、どうやって独り立ちさせていけばよいのか。「これが教育だよね」ということが合意できていれば、いつもみんなそこに戻ることができるから「いや、それを実現するための手段として、今とっているこの手段はおかしくない?」と考えることができるんです。
工藤:2つ目は「目標を実現する手段を決定する」です。つまり「目標を実現する」ためには、最上位目標が合意できていれば、「その最上位を実現するための手段になっているか?」という吟味をみんなでしていけばいいわけですよね。
この作業が例えば管理職のトップダウンで行われるんじゃなくて、関係する全員でいつも対話をしながら、「手段って何だろう?」「最上位って?」「もう一回最上位に戻ろうよ」と。この繰り返しをすることがすごく重要なわけです。そして最後の3つ目が「全員を当事者に変える」です。この3つが組織を変えるマネジメントの条件であり方法です。
すでに気づいておられるかもしれませんが、山田さんにあえて厳しいことを言えば、同質性の国で生きてきている我々の、同質性の教育を作ってきた最たるものが学校の職員室です。自分を相当異質だと思っている教員ですら、おそらく世界のいろんな異質な人たちと比べたら、私たちはすごく同質だと思うんです。もっと大変な異質な世界の中で生きているということを外国の方々はもっと実感していると思います。
そのことを考えれば、職員室の中で起こっている対立ジレンマよりも、はるかに厳しい対立ジレンマを解決しなければいけないということが世界中で起きているわけです。例えば、「戦争をなくしたい」と思った時に、兵器を作っている産業に従事している人たちが相当数いる現実があります。これは大変なものですよね。
坂本:戦争はなくすべきですし、なくしていく方策を考えていきたいですが、その中で、実際に関連産業に従事している人は失業してしまいますもんね。
工藤:そうです。戦争をなくすために、同時にその人たちを失業させないようにしないといけないわけだけど、その対立ジレンマがある中で地球全体の危機があるわけです。これを理想に近付けていくためにはどうするかという、もっと大きな課題はたくさんあるわけですよね。そう考えると、まず次の社会をつくる私たち教員は対立を恐れず、「異質だ」と思わない訓練をする必要がある。
工藤:たかだか職員室で自分と意見が異なったり、感覚が合わない人がいたとしても、それをまず「ごく普通のことだ」と思う感覚が必要だと思うんです。それから「いくら言ってもだめな風土」を作っているのは、さっきも言ったけれども我々自身です。
その象徴的な言葉として「和が大事だよね」って、やたらと教員は使います。「団結」という言葉が大好きな教員も多いです。「心を1つに」って言葉や「絆」という言葉が大好きな教員がたくさんいます。
こうした言葉は、ものすごく同質性を求めている言葉なんですよね。これまでの学校の教員たちが同質性を求めているから、同質性から外れた人たちにとても違和感を持ってしまうようになっているという習慣が、子どもの頃から僕らには染み付いているんだと思うんです。まずその発想を変えていかなきゃいけないと思うんです。
学校や組織を変えていくマネジメントは、僕は先ほどの3つがあれば十分だと思っているんですけど、これを職員室で進めていこうとした時にどうすればいいのか。まず、この言葉を発したら、もしくはこの行動を取ったら、いったい誰がどんな反応をするだろう、そして、それはどういう理由だろうということを、予測を立てておくことが大事です。
予測を立てておいて、「こういう反応が考えられるな」と思ったら、「じゃあ違う方法って何かあるんだろうか」というような、小さいところから戦略を練っていくんです。
工藤:それでもなかなか厳しい世界ってありますよ。僕自身が40代はじめに教育委員会に入ったときがそうでした。
坂本:教育委員会は理不尽なことが多いですね。
工藤:もう大変でしたよ。今はそんなことはないと思いますが、僕が行った当時、「学校を指導するためには、都の教育委員会の指導書と文部科学省の資料、この2つしか使うな」と言う人がいました。原稿を書いても全部直されて、徹夜で書いた原稿に朝の一瞬でバツと付けられて、「こんなの使えねえよ」と言われる。そして朝の7時に「8時までに書き直せ」と言われるんです。
そういう世界が2年くらい続いた時に、僕はそこで学んだことは、教員の世界って、現実を否定している人たちが多いということと、日本の教室はある意味「人は誠実に付き合ったら、誠実に返してくれる」ということを教える場所だと思っていますが、必ずしも世の中はそういうところだけではないということです。
坂本:違いますね。世の中の多くの場所においては、対立があって当たり前ですよね。
工藤:そう。「聖人君子のような生き方をしたら、人は聖人君子で返してくれるよ」みたいなことを、若い頃は僕も思っていました。それが教育だと思っていたんです。でも、それだけではいけないんですよね。時には戦わなきゃいけないことがあって、人権的に問題なことがあれば、やっぱりそれは正していかないといけない。
工藤:僕は教員という世界で、世の中の現実とは異なる、少しオブラートに包まれたような世界で生きてきた。つまり、世界には対立があって当たり前だということを一つひとつきちんと覚えていかなきゃいけなかったんですけど、世の中の仕組みも何も学ぼうとせずに、教育委員会ではいやというほど直面する法律の意味も何も学ぼうとせずに、純粋に「心の教育をしていたら心で返してくれる」みたいに感じていたんですね。
坂本:それは現実そのものとは異なるフィクションであり、「予定調和」な世界ですよね。。
工藤:はい。それが「団結」「心を1つに」って言葉に象徴されるような、そんな幻想を子どもたちに教えていたというのかな。本当の思いやりとか、もっと深い思いやりとか、もっと深い優しさというものは、「現実を受け止める」というところから始まるんだなと。そうして1つ上の本物の心の教育というのを学んだと思うんです。
やっぱりそういった対立にありのままに向き合う訓練が学校の中には足りないと思うんです。だから、対話をして物事の考え方が違うと、すぐ感情の対立に直結する。だから職員室の中でも人と違う考え方を言うと、人間関係が崩れると勘違いしている方々がいる。そのことがすごく問題を大きくしていると思います。
工藤:子どもたちに「仲良くしなさい」と教えちゃいけないんですよ。「人は仲良くするのがすごく難しいものなんだ」と教えなきゃいけないんです。「イライラしちゃいけないよ」と教えちゃいけないんですよ。そうではなくて、「人間は考え方が違うとイライラするもんなんだよ」って教えないといけない。「イライラと上手に付き合う方法は何回も訓練しているうちに、きちんとできるようになっていくんだな」「でも、これって人それぞれでね。早くできる人もいれば、なかなかできなくて、おじいちゃんになってやっとできる人もいるんだよ」そうした中で「でも、そうやって変わることができるって素敵なことでしょう」と話すといいんです。
人をありのままを受け入れて、ありのままを「すてきだよ」と教える仕事でなければいけないのに、「こうあるべきだよ」と教えている。
坂本:それは、工藤校長がよく指摘されておられることで、「理想を設定して、そこと現状を比較して、自分で勝手に不幸になっている」という状態ですよね。
工藤:結果的にみんなが苦しんで、自分で自分を不幸にしている。そういう教育をしている。だから、もし職員室や自分の周りに、理解しあえない人がいたとしても、ありのままを受け入れる。それで「どういう戦略でいくか」「どんなふうに巻き込んでいったらいいのか」を淡々と考えることができるプロフェッショナルのあり方と方法を教師たちに広めていかなきゃいけないと僕は強く感じています。
坂本:対話と合意形成は本当に難しいことなんだということですよね。私たちが気づいていないことを指摘された、とても深いお話だったと思います。ありがとうございます。
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