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田畑栄一先生に「教育漫才」を学ぼう(全3記事)

日本特有の「いい子を目指す教育」が、子どもたちを苦しめる 自殺・不登校・いじめ問題から生まれた、「教育漫才」とは?

学校の授業の中で漫才を実践する、「教育漫才」の発案者である、埼玉県越谷市立新方小学校の校長・田畑栄一氏がイベントに登壇。その授業カリキュラムは、テレビや雑誌、新聞にも多数取り上げられています。本記事では、教育漫才を行う際の授業カリキュラムの詳細や、漫才が子どもたちにもたらした変化を明かしました。

日本の学校教育は「善い子」を育てようとする

田畑栄一氏:これは今、私が教育の中ですごく課題だと思っていることを、簡単に図表化したものなので、ぜひご理解いただけるとありがたいのですが、日本の教育は「善い子」を育てる方向にすごく力を入れていると思います。

悪から善に持っていく、これは理にかなっていて良いと思いますが、それが今、あまりにも強すぎて、子どもたちは息が詰まってる気がしています。何でも「あれもやりなさい、これもやりなさい」というかたちでてんこ盛りです。

生まれた時はそうじゃなくて、2歳や3歳の子どもは「勉強をやりなさい」なんて言わなくても、遊びたくて勉強したくてしょうがなかったと思います。それをもう1回、教育の中に入れる必要性があると思っています。みなさんはどうですか? この「快の教育」というか、子どもたちが笑顔で楽しめるような教育ってなさってます? 

これをさまざまな学校で入れ込むことが、自殺・不登校・いじめを減少させていくと思いますし、「より善き人間になっていきたい」と、自分自身の内なるエネルギーから湧き上がってくるものが出ると思っています。

教育の根幹は、根っこを育むことだと思います。私はそれが1つ、教育漫才の「温かい笑い」なのだと思っています。だから教育漫才も、1つのツールなんですよ。子どもがものすごく激変するのを体感しているので、それを多くの方にお知らせしたいと思っています。

(スライドを指しながら)善と快、ここを意識して教育活動をしていきたいと思っています。学校が緩やかで寛容である。規律に関しても、子どもたちを中心とした本当に必要なものにしていくとか、いい意味での緩やかさや寛容さが必要だと思いますし、そして何より、子どもが笑顔になっていくことが大事だと思っています。

「学校さえ笑顔でいれば、それを中心に社会が変わっていく」

私は前任、H小学校に5年、その後2年間がK小学校、そしてコロナ禍で昨年度に新方小学校に着任しました。

H小学校は600人、K小学校は800人。現在は200人の小規模の学校にいます。校長としては、コロナ禍で腹を据えて入ったところもあります。学校は希望、光を見せるところで、絶対にマイナス的なことは発言しない。子ども・先生には希望を見せることを意識して、学校に着任しました。

学校が変われば社会が変わっていく。今、社会が右往左往している中で、学校さえ笑顔でいれば、それを中心に社会が変わっていくだろうという思いで進めました。

昨年、着任した時、6年生の担任の先生が私の本を読んでいてくれて、9月に「校長先生。教育漫才を教えてもらえませんか?」ということで、本校における教育漫才がスタートしました。「お笑い係の子どもたち、8人なんですが」と言っていたのですが、昼休みに教室に行ってみたら、15人の子どもがいました。そこで教育漫才を教えました。

そしたら担任の先生もそこにいて、私の話を聞いて、子どもたちが教育漫才を通して変容していく話に非常に驚いて共感してくれたのです。「これ、クラスみんなでやりたいので、全員に教えてもらえませんか?」ということで、2学期の総合的な学習の時間などを使って、教育漫才に取り組みました。

授業参観では、プロの芸人を招いての分析会も

授業参観で、保護者にも12月4日に公開しました。プロの芸人を招いて12月16日に分析会をやったりもしました。中でも面白かったのは、次の取り組みです。

音楽は飛沫が飛ぶ関係で、(コロナ禍では)なかなかできなくて困っていました。それまでは校庭ではやっていたのですが、寒くなってきたこともあって、音楽主任から「6年生が教育漫才をやっているので、『教育漫才朝会』をやりませんか?」という提案がされました。

これを受けて6年生の7コンビ・トリオが立候補して、セレクションをやって、4コンビ・トリオが残り、「教育漫才朝会」を12月24日の朝にやりました。温かい空気が体育館に流れました。

ところが担任の先生から、セレクションに漏れた3コンビが「やっぱりどうしてもやりたい」と言っているという相談を受けました。そこで昼休み放送を入れて、「体育館で教育漫才昼会をやるので、集まってください」と言ったら、50人ぐらいの子どもたちや先生たちが集まってきました。この雰囲気がとても良くて、ほっこりしました。

こういう子どもたちが、これから大事なんじゃないかなと思っています。教育というのは、成果物の発表になりすぎていると思っています。うまくいかなくても、選ばれなくても、「やりたいからやらせてください」と言えることがとても重要なのです。

そこに自主的に見たい人たちが集まって、そこでネタを披露することによって、自己肯定感や達成感、「学校の主人公」としての生き方を味わうことができると思っています。

「記憶に残ることをやりたい」コロナ禍の子どもたちの思い

あともう1つ。11月頃ですが、音楽会や市内陸上競技大会がなくなったので、6年生の3人の男の子たちが「なにか記憶に残ることをやりたい」ということで、文化祭を提案してきました。そしたら、4〜6年生の先生たちが「協力してやらせてあげてもいいです」と言うことで、私も許可をしました。

「学習の取り組みについての発表というかたちで、1年間のまとめをやってごらん」と助言しました。理科の実験をやったグループ、社会の発表をしたグループ、家庭科の裁縫を発表したグループ、演劇をやったグループ、ダンスをやったグループ、教育漫才をやったグループ。さまざまなものがあったと思います。

3月の6年生を送る会では、まったく教育漫才を経験していない2年生・4年生・5年生が、教育漫才を入れ込んだ出し物をしてきました。6年生を教育漫才で送ってくれたのです。

6年生は6年生で「教育漫才リレー」で、全員の子どもが「一言笑い」を取って締めくくりました。とても和やかな温かい笑いが体育館に広がりました。その様子を参観した保護者の方たちも喜んでくれました。

修学旅行は3月15~16日、鎌倉と箱根に行きました。恐らく、日本で最も遅い泊を伴う修学旅行だと思います。普通だったら、鎌倉彫とか夜の体験学習をやったりするのですが、この子たちが選んだのは、教育漫才大会だったんですよ。

教育漫才を1時間ぐらい、みんなで宴会場に集まって爆笑だったんです。もちろん、換気をしてマスク着用しての実施です。すごく楽しい思い出の夜になったと思います。

「コロナ禍の1年間が一番楽しかった」と言う生徒も

そんな中で、41人中7人の子どもが卒業文集に教育漫才授業のことを書いたんです。そして、この子はこう書いてます。

そして中学校に向かって、この教育漫才のコミュニケーション能力を生かしてやっていきたい、ということを書いているんです。この子は12年間で、コロナ禍の1年間が一番楽しかったとも言うんですよ。すごくうれしかったです。

今年はこのコロナ禍を経て、学校教育目標を変えました。創造して生きる時代と判断したからです。「創造してたくましく生きる」。自律、相互承認、本校は表現力がちょっと弱いので、この3つを視点として、創造してたくましく生きる子を育てています。

その中で総合的な学習の時間も、ワクワク感や笑いとか、子どもたちが本当に楽しい時間にしたいと思います。なぜかというと、総合的な学習の時間は、子どもや地域の実態の応じて、各学校に任されたプログラムができるわけです。

ところが今の学習指導要領で、国際理解、健康、福祉などの例を挙げたがゆえに、さまざまな学校が、金太郎飴式に1年間同じようなテーマでやっているというのが、私のつかんでいる実態です。

それを原点に戻り、総合的な学習の根幹である、一人ひとりの興味関心のある探究、ワクワク感、協働、そして最後に表現する場を確保する流れに持っていきたいと考えています。本校ではSDGsをテーマにして、今、模索しながら取り組んでいる最中です。

同質性の高い集団の中では、心理的余裕がなくなることも

そして先ほどもお話ししたように、表現活動に課題がありますので、1学期は金曜日の3~4時間目に、プレゼンテーションの仕方を子どもたちに教えようということで、「アナウンス教室」「教育漫才」などを取り入れてきました。中でも「教育漫才」では、くじ引きでコンビ・トリオを決めて2回の教育漫才大会をやってきました。

1回目は同質集団ということで、同じクラスの子どもでくじを引きましたが、総合的な学習の時間は、3年生から6年生まで合同で、体育館を教室としてやっていました。

2回目は、異年齢でくじを引いて教育漫才をやってみようという提案があり、実施しました。6年生が3年生と組んだり、4年生・5年生・3年生がトリオで組んだりして、さまざまな異年齢コンビ・トリオが誕生しました。

日本の教育はほとんどが同質の集団です。1年間の生まれが一緒だったというだけで、その中にはライバル心があったりして、結果、互いになかなか心理的余裕がなかったりします。

ところが異年齢になると、6年生と3年生との差は非常に大きいわけです。ここでゆったりとした関わりができたりして、人間関係が穏やかに流れるので、いじめがなくなっていき、次第に安心して過ごせる温かい土壌ができていきます。

本校では、4月から7月まで大きなトラブルはほとんどないです。これは担当の先生が、教育漫才の狙いを踏まえて実施に当たり、「学校教育目標の『相互承認』なんだよ。互いを知り合うところから始めていこう。そしていじめをなくしたいんだよ。だからくじ引きをやるんだよ」ということを繰り返し話してくれたことが、非常に大きな効果に結びついていると思います。

笑いには「温かい笑い」と「冷たい笑い」がある

教育漫才はただ笑って楽しむだけじゃなくて、道徳教育の本質を突いてると思います。友達とのコミュニケーションという体験を通しながら、温かく笑えるのが、非常に大きなところだと思います。

笑いには2種類あります。1つは、私たちが目指す温かい「朗笑」です。もう1つは、「冷笑」など、人を小馬鹿にした冷たい笑いです。日本の社会は、この2種類を十把一絡げにしているため、学校教育で笑いが受け入れらない・嫌われる理由はここにあります。あくまでも、学校に取り入れたいのは「朗笑」の温かい笑いなんです。

それらは私の本の中に書いていますので、もしよろしければ読んでいただいて、「これからの学級経営を温かくしたい」「さらに良いクラス・学校を作りたいな」思っている方は、これを機に考えて取り組んでみていただけるとありがたいと思います。

先日は愛知県の小学校にお声掛けいただき、終日教育漫才研修をしてきました。時間さえ調整ができれば、日本全国どこでもお手伝いに向かいます。お声掛けください。

「笑いのコミュニケーション文化」が学校で活用されると、もっと日本の子どもたちが、日本社会が、明るく元気になっていくと、心底思っています。ぜひ一緒にやっていけるとありがたいと思います。どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。

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