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経済性からヒューマニティへ 山口周が語る教育と地域活性(全8記事)

IKEAだけが気づけた、世の中の家具に足りないもの 着目すべきは「どう解決したのか」より「なぜ問題に気づけたか」

人々の主体性を引き出し、生きる力を育むキャリア教育に取り組む認定NPO法人『キーパーソン21』。誰の中にもある、わくわくして動き出さずにはいられない原動力を「わくわくエンジン」と名付け、全国各地のコミュニティと協力して、さまざまな取り組みを推進しています。今回はそんな『キーパーソン21』が主催する「わくわくエンジンEXPO」にて行われた、独立研究者/著作家/パブリックスピーカー・山口周氏による基調講演の模様をお届けします。本記事では、人間にしかできないとされる2つの仕事と、その仕事を生み出すための方法が明かされました。

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「人間に残された仕事」には、2つの要素がある

山口周氏(以下、山口):人間に残された仕事は、「問題を作る」と「意味を作る」の2つだと思います。「問題を作るってどういうこと?」と、難しいと思われるかもわからないですが、単純です。これから見るものを見れば、必ずわかる。問題が世の中にあって、解決すると価値が生まれます。「仕事って何か」と言ったら、世の中から問題を見つけてきて、それを解くことなんですね。

問題に価値があるということは、「どうやって問題を作れるの?」ということなんですが、今日は問題の定義を必ず覚えてください。「ありたい姿」から「現状」を引き算して、残ったものを問題と言うんですね。

だから、「こういうのがいいな」「こうあるべきじゃないか」ということを考える力がないと、問題も作れません。昔の人は、“いい暮らし”を自分でイメージできていたので、「冷蔵庫が欲しい」「洗濯機があるのがいい暮らし」とイメージできたわけですが、今の人たちってありたい姿を描けないんですよ。

なので、仕事をやる人は自分のありたい姿を描かないといけないんですが、「それってどうやったら描けるのか」という話ですね。またビデオを見ていただこうと思います。

(動画再生)

山口:これは、IKEAというスウェーデンの家具メーカーがやったプロジェクトです。障害者の人たちは、普通の家具がなかなか買えないと。

自分が気に入ってない、デザインもかっこ悪くて値段も高い家具を使わざるを得ない状況だったのを、3Dプリンタ用のデータを世界中にばらまいて、自分で改造できるようにしたんです。自分が気に入った家具を買ってきて、それを改造して使えると、結局IKEAの売り上げも上がるし、障害者の人たちも喜ぶということです。

他社が見落とした問題に、IKEAだけが気づけた理由

山口:みなさんもよく、「イノベーション」と聞いたことがあると思うんですけど、(IKEAの)この解決策が「すごいね」「いいアイデアだね」と。今、世の中でもDXと言われますが、DXって解決策のことなので、みんなこの解決案の議論ばっかりしています。

なんで彼らはこの問題に気付けたか、ということなんですね。障害者が自分が気に入っている家具が使えない状態なのは、別に日本でも同じ状況です。だからこのアイデアは、ニトリがやっても大塚家具がやってもおかしくない。あれだけ経営危機になっていたわけですからね。でも他の会社には思いつけずに、IKEAにしか思いつけなかった。

なぜかと言ったら、他の会社は問題を見つけられなくて、IKEAは問題を見つけたわけです。だから「これっておかしくない?」と、問題を作って提案できる。「障害者の人は、障害者用の家具で我慢しとけ」と、政治家も世の中の人たちもみんながそう言っていたわけです。

「そんな世の中おかしいよね」「みんな、自分が気に入ってる家具に囲まれて暮らしている。そういう社会がいい社会だと僕は思う」という、ありたい姿を描いた人たちがいて。だとすると、「なんとかして、障害者の人たちが使えるようなことをできないだろうか」と、すごくわくわくしたわけですよね。

「こういうことをやってみたらいいんじゃないか」と思いついちゃったら、もうやらずにいられないわけです。思いついて、やらずにいられない人たちが、ああいう全世界に広がる大きなプロジェクトを作っていったわけです。だからこれが、「問題を作るとすごく大きな価値が生み出される」と僕が言っている意味ですね。

「もうやらずにはいられない」が世の中を発展させた

山口:ちょっと難しい話ですが、ケインズという人が100年前にいました。彼は経済学者として、世の中がどんどん発展するさまを見ていたんですけれども。何によってそういうこと(大きなプロジェクト)が実現したのかという時に、「アニマル・スピリット」と言ったんです。これは衝動のことで、「もうやらずにはいられない」ということですよね。

この「やらずにはいられない」に基づいて、なにかをやる人がたくさん出てきた結果として、世の中はやっぱりどんどん前に進んでいった。

一方で、「数量化された利得に、数量化された確率を掛けた加重平均の結果として、行われるのではない」と書いてあります。「これをやったらどれくらい儲かりそうで、どれぐらいの利益が出そうか」という計算で、世の中は動いていない。

でも実は今、世の中ってそれがすごく問われているわけです。だから逆に言うと、停滞しちゃっていると思っていて。衝動をすごく大事にして欲しいと思います。

衝動とは何かと言ったら、4つあります。みなさんが一番喜ばしい・うれしいと思うこと。次に、絶対に許せない・納得できないと思う、怒ること。あとは「ものすごく哀しいな。なんでこんなことが起こっているんだろう」という、哀しいこと。最後は、楽しいこと。

「わくわく」というと、「うれしい」とか「楽しい」に紐づきがちですが、怒ることや悲しいこともすごく大事だと思うんですね。怒ることと悲しいことをなくすためのことができると、ものすごくうれしかったり楽しかったりしますから。

リーダーシップという言葉がありますが、リーダーシップって、言葉が巧みとか頭がいいとかじゃないんです。その人の喜怒哀楽がものすごく前に出てきていて、「自分も同じことを感じてた」という人のところに、やっぱりリーダーシップって生まれます。ぜひこの喜怒哀楽を大事にしていただければいいんじゃないかなと思います。

一旦、私の話はここで終わりとさせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

子どもの「わくわく」に、周りの大人が気付けるか

朝山あつこ氏(以下、朝山):ありがとうございました。山口さんのお話、すごく良かったです。喜怒哀楽の激しい朝山です(笑)。

山口:あぁ、どうも。

朝山:「あぁ、どうも」(笑)。素晴らしいお話をたくさん聞かせていただいて、今日はありがとうございます。「正解はもう価値がなくなっている」と。

山口:そうですね。正解のある領域もあるんですけれども。

朝山:そりゃあそうですよね。

山口:医療なんかの世界ではもちろんあるわけですが、相対的に言うと、正解の価値が出る領域が狭まっちゃっているということですね。

朝山:ですよね。本当にすごくいいお話を聞かせていただきました。私たちが描いているビジョンや、「こんな社会を描いている」「ここが問題だと思っているんです」というところを、お話させていただこうかなと思います。

今ね、「日本まるごと元気作戦」と言って、日本を元気にしたいんですよ。親も先生も地域の大人たちも、おじいちゃんおばあちゃんも、子どもはもちろん。みんなをわくわくさせちゃいたいんですよ。それがミッションだと思っていて。

先生も元気のない人が多いし、「これでいいのかな?」と思う人も多い。親も「『こうあるべき』と言っていていいのかな?」「この子の能力は本当はこっちなのに、子どもが麻布に行ったら、ちょっと鼻高々になっている自分がいる」みたいなね。

実は親も、自分のエゴとの戦いみたいなものがあったりするんですよ。「でもそれ、本当に子どもは幸せ?」と考えた時に、「ちょっと違うんじゃね?」と思っていて。

やっぱり、子どもが自分からわくわくするとか、動き出したいと思うような気持ちを、親や先生や周りの大人たちが、どれだけ気付いてあげられるか。それを応援できることが重要な社会課題というか、社会のありたい姿だなぁなんて思っているんですよ。

山口:思います。

朝山:本当? やった! よかった、共感していただけて。

山口周氏の「好きなもの」3選

朝山:私たち「わくわくエンジン」というものをすごく大事にしている団体で。この間、山口さんのわくわくエンジンを聞いちゃったんですよね。みなさんに見ていただこうかな。山口さんに好きなものを3つ聞いたんでしたよね、覚えていらっしゃいます?

山口:覚えてる。でも、また若干変わってきている気がするんですけどね(笑)。

朝山:変わってきている? いいの。わくわくエンジンって、変わってもいいの。山口さんの好きなもの1個目は「調べてわかる」とおっしゃったんですよ。でもこれって、「好き」?

山口:好き。不思議だなと思って、調べて考えて。「あぁ、そういうことか」というのは楽しいですね。

朝山:楽しいね。

山口:好き。

朝山:好きだよね。やっぱり楽しい。それでね、2個目がこうおっしゃったの。「世の中に紹介する」。

山口:わかったことや、おもしろいと思ったことを「ねぇ、聞いて聞いて」と言って、「わぁ、おもしろい!」と言ってもらうのが好き。

朝山:「わぁ、おもしろい!」と言ってもらうのが好き(笑)。いいですねぇ。それで、3つ目がこれ(書いたり話したりする)だった。

山口:そうですね。書いたり、「あぁ、そうか」「なるほど」と言ってもらうのが好きです。

朝山:言ったり、話したり、書いたり。

山口:でも、書くという行為そのものもたぶん好きなんだと思いますね。楽譜を書くのも好きなんですが、やっぱり表現したり、アウトプットしたりするのが好きなんでしょうね。

朝山:ですね。まさに今、肩書きが独立研究者……。

山口:著作家、パブリックスピーカー。

朝山:まさにです。

山口:そうですね。独立研究者は、調べて考える。著作家は、書く。パブリックスピーカーは、話す。一応やっていることを仕事として並べると、そういうふうになるなって(笑)。

朝山:そうですね、好きなことをやっていらっしゃいますね(笑)。

山口:「何なんですか、これ」と言われるんですけどもね。

朝山:いやいやいや(笑)。お好きなものがそのまま「わくわく」して。

山口周氏の「わくわくエンジン」の起点になるもの

朝山:じゃあ(山口氏の)わくわくエンジンはなんだろうと言ったら、この間は「謎を解いて、『おぉ、いいね。鮮やかだね』と言ってもらうこと」だと。これ、合っています?

山口:合ってる、合ってる。

朝山:これがわくわくエンジンだと。じゃあ今、毎日の生活にめっちゃわくわくしていますね。

山口:でも1回謎を解いちゃうと、解いた謎に飽きてきちゃうので。

朝山:飽きてきちゃう(笑)。

山口:新しい謎が欲しくなるんですよ(笑)。

朝山:新しい謎が欲しくなるんですね。そうですよね。新しい謎を、今朝ほどおっしゃっていた……。

山口:あれはいいですよ。たぶん、単純にあれはエゴなので(笑)。

朝山:エゴ(笑)。エゴじゃないでしょ? 「『大きなお家に住む夢』を見る」って。

山口:そうね、なぜかな。

朝山:しかも、古いお家。

山口:謎はいくつか種類があって、世の中の謎というものに向き合っていくものと、自分の謎もありますよね。

朝山:ですよね。今、本に書いてらっしゃるのは、世の中の時代と共の変化の構造とかをひもといていらっしゃると見えるんですが。

山口:そうですね、ここのところそれをやって来ましたけど、「また次は何をやろうかな」みたいな。

朝山:さっきおっしゃっていた、「なんで『古い大きなお家に住む夢』を見るんだろう?」というところは、ご自分の中で謎なんじゃないですか?

山口:でも、商売人として考えた時に、「謎を解いたんだけど、これ聞きたくない?」と言われた時に「聞きたい」と言われる謎じゃないと、やっぱり解いても食えないんですよね。

朝山:確かに(笑)。

山口:そこはやっぱり、なかなか世知辛くて。「僕はこういう夢を見るんだけど、その謎がわかったので聞きたくない?」と聞いても、「いや、いいや。今忙しいんだよ」と言われちゃうので。

朝山:別に君が謎を解いたのは……(笑)。

山口:言われちゃうので。たぶんROI(投資利益率)が低い気がしますね(笑)。

朝山:そうかそうか。そこもちゃんと考えていらっしゃるんですね。

山口:一応、考えていますね。

朝山:そうか。ちゃんと成功されていますから。

山口:いやいやいや。

朝山:ビジネスになっていますからね。

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